景品表示法に関する2021年・2022年の動向概観[後編] - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに

前回は、2021年・2022年度の景品表示法をめぐるの動向の一つとして、新型コロナウイルス感染症の流行拡大期からウィズコロナの浸透期にかけての消費者庁による措置命令の傾向を概観した。
今回は、同じく2021年・2022年度の景品表示法をめぐる動向の大きな柱として挙げられる

・ アフィリエイト広告(下記を参照)

・ ステルスマーケティング(下記を参照)

に関する動向、および、景品表示法検討会における議論に見る景品表示法の今後の方向性(下記を参照)について取り上げる。
特に、ステルスマーケティング(広告主が自らの広告であることを隠したまま広告を出稿するなどを指す。以下「ステマ」という)について、不当表示として指定する告示注1が2023年3月28日に制定され、同年10月1日から施行される。インフルエンサーを含む第三者に表示作成を依頼する事業者だけでなく、第三者の意見を自社サイトに掲載している事業者なども、同告示に沿った対応を検討する必要がある。

2021年・2022年の景品表示法に関する主な動向②
―アフィリエイト広告に関する動向(管理措置指針改正を含む)

消費者庁は、2021年にアフィリエイト広告に関し消費者庁として初めて措置命令を行った後に「アフィリエイト広告等に関する検討会」(以下「アフィリエイト広告検討会」という)を開催し、2022年2月15日に報告書(以下「アフィリエイト広告検討会報告書」という)注2を公表した。当該報告書を受け、同年6月29日に管理措置指針注3が改正された。
以下では、このアフィリエイト広告をめぐる動向について紹介する。

アフィリエイト広告検討会の開催

(1) アフィリエイト広告の定義等

アフィリエイト広告とは、「アフィリエイトプログラムを利用した成果報酬型の広告」アフィリエイト広告検討会報告書1頁・Ⅰ)を指す。
また、アフィリエイトプログラムとは、「インターネットを用いた広告手法の一つ」であり、そのビジネスモデルは、「比較サイト、ポイントサイト、ブログその他のウェブサイトの運営者等が当該サイト等に当該運営者等以外の者が供給する商品・サービスのバナー広告…、商品画像リンク及びテキストリンク等を掲載し、当該サイトを閲覧した者がバナー広告、商品画像リンク及びテキストリンク等をクリックしたり、バナー広告、商品画像リンク及びテキストリンク等を通じて広告主のサイトにアクセスして広告主の商品・サービスを購入したり、購入の申し込みを行ったりした場合など、あらかじめ定められた条件に従って、アフィリエイターに対して、広告主から成功報酬が支払われるもの」をいう(インターネット表示留意事項注4第2の4(1))。そのイメージは、「景品表示法に関する2020年度の動向概観」Ⅲ・図1のとおりである。

(2) アフィリエイト広告検討会等のその後の動向

上記のとおり、アフィリエイト広告検討会は議論を取りまとめた報告書(アフィリエイト広告検討会報告書)を2022年2月15日に公表した。当該報告書を受けて、消費者庁は、アフィリエイト広告に関連するものとして、インターネット表示留意事項および管理措置指針について改正案を作成し、パブリックコメント手続を経て、同年6月29日にそれぞれ改定・改正されている。

アフィリエイト広告と景品表示法

ここからは、アフィリエイト広告について、

・ 景品表示法5条(不当な表示の禁止)との関係

・ 同法26条(事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置)との関係

とに分けて(両者は密接に関連するが)整理する。

(1) 景品表示法5条との関係

(a) 景品表示法5条の定め

景品表示法5条は、

(ⅰ) 「自己の供給する」商品・役務の取引について、

(ⅱ) 同法5条1号から3号の定める表示を「してはならない」

と定めている(同法5条)。そのため、

❶ 供給主体性(供給要件)

❷ 表示行為主体性(表示行為要件)

という二つの要件を満たす場合に、景品表示法が適用されうる(ここで、初めて具体的な表示が5条1号~3号により禁止されたものであるかが問題となる)。

一般的に、商品の流通過程に入っている者は商品・役務を「供給」していると認められることから、通常、メーカーや小売業者など、アフィリエイト広告の広告主は、「供給」主体性(❶供給要件)を満たすことになる。そのため、当該アフィリエイト広告について広告主に景品表示法が適用されるかは、表示行為主体性(❷表示行為要件)を満たすかどうかにより決まる
なお、アフィリエイターやアフィリエイトサービスプロバイダー(ASP)は、アフィリエイト広告の対象となる商品を自ら「供給」する者ではない(❶供給要件を満たさない)ため、景品表示法の適用を受けない。

(b) 表示行為主体性(表示行為要件)

本要件については「景品表示法に関する2020年度の動向概観」Ⅲ⒉にて整理を行ったが、重要な点であり、後述するステルスマーケティング(後記)にも関連するので、重複する部分もあるが少し記載する。

基本的に、表示行為主体性(表示行為をしたか否か)は、「表示の内容の決定に関与した」か否かにより判断される
「誰が表示行為をしたのか」については、輸入卸売業者の説明を受けた小売業者が当該説明に基づき商品の表示をさせたという事案(ベイクルーズ事件判決(東京高判平成20年5月23日・平成19年(行ケ)第5号))において示された考え方があり、場面は異なるものの、アフィリエイト広告検討会報告書(46頁)やステマ検討会報告書注5(23頁)でも、基本的にはその考え方をもとに検討されていると思われる(後述のステマ告示に関するパブリックコメント回答注6において、以下①~③は「表示内容の決定に関与した」場合に表示行為性を満たすという規範のもとで具体的な態様を表したものであり、いずれにせよ「表示内容の決定に関与」したか否かで判断すると示されている(同回答No.17およびNo.52~54)。検討に際し、①~③の類型は参考にはなりうるだろう)。
概要は以下のとおりである(上記判決では「事業者」か否かという点の検討が行われているが、自然でなく注7、わかりやすさの観点から整理し直している)。

「表示の内容の決定に関与した」事業者が「(不当)表示を行った者」にあたる。

次の①~③のいずれかに該当する場合は、表示内容の決定に関与したこととなる。

① 自らまたは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した。

② 他の者が決定したあるいは決定する表示内容についてその者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了承した。

③ 自ら表示内容を決定することができるにもかかわらず、他の事業者に表示内容の決定を任せた

アフィリエイト広告検討会報告書公表後に改正されたインターネット表示留意事項では、上記ベイクルーズ事件判決を紹介したうえで、「広告主がその表示内容の決定に関与…している場合(アフィリエイターに表示内容の決定を委ねている場合を含む。)」には表示行為をしたと認められる、と明記された(インターネット表示留意事項第2の4(2))。
その際、あわせて、次の点が示されている(インターネット表示留意事項第2の4(2)における注7。管理措置指針第4の3(2)における注5でも同様の内容が示された)。

・ 「アフィリエイターが自らのアフィリエイトサイトに単にアフィリエイトプログラムを利用した広告を行う事業者のウェブサイトのURLを添付するだけなど、当該事業者の商品・サービスの内容や取引条件についての詳細な表示を行わないようなアフィリエイトプログラムを利用した広告については、通常、不当表示等が発生することはない」こと

・ 「アフィリエイターの表示であっても、広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるものについては、通常、広告主が表示内容の決定に関与したとされることはない」こと

ただし、どのような場面が「アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるもの」に該当するかについては、管理措置指針改正に関するパブリックコメント手続で質問が多く行われたものの、消費者庁の考えは明らかでない(ステルスマーケティング検討会報告書に関するパブリックコメント手続においても質問が行われたが、「個別事例に応じて判断する」との回答が続き、その内容はなお明らかでなかった。ステマ告示・運用基準に関するパブリックコメントを経ても同様の状況である)。一般論として、上記類型③がどの程度の範囲をカバーするのかについては議論の余地がありうるものの、アフィリエイト広告を利用する場合に、

・ 「広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていない」場面

・ 「アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態」

がありうるかについては、判然としない。
広告主としては、基本的に、アフィリエイト広告を利用する際には表示行為主体性が肯定される可能性があることを念頭に、管理措置指針に沿って対応を検討する必要があろう
また、大雑把に整理すると、アフィリエイト広告は、誰が広告表示を作成するかにつき、広告主でなくアフィリエイターが作成する点に特徴がある。これに対し、後述のステルスマーケティングは、広告主が広告表示を行っているといえる場合に広告主の広告であると示すか否かという問題であり、アフィリエイト広告とステルスマーケティングは重なり合うこともある。アフィリエイト広告を行う際、表示内容によってはステルスマーケティングに当たることもあり、後記Ⅳについても今後注意が必要となる。

図表1 アフィリエイト広告とステルスマーケティングの関係性

出典:消費者庁「景品表示法検討会」第4回(2022年6月23日)資料1「今後の検討の方向性(案)」参考2

(c) アフィリエイト広告に関する措置命令

消費者庁は、同庁として初めて2021年3月3日にアフィリエイトサイト広告の広告主に対して措置命令注8を行い、その後2023年1月までに、アフィリエイト広告について措置命令を2件注9行っており、アフィリエイト広告についても、着実に執行が行われている状況である。
なお、上記3件の措置命令では、いずれもアフィリエイトサイトの「表示内容を自ら決定している」事情が認定されており、「表示の内容の決定に関与した」といえる類型①の該当性が認定されたものであった。これに対し、2023年3月28日、東京都は、類型③に該当するものについて措置命令を行った注10

(2) 景品表示法26条との関係

景品表示法は、違反行為を防ぐため、一般消費者向け表示や景品類提供を行う企業に、必要な体制の整備その他の「必要な措置」を講じることを義務づけている(景品表示法26条1項)。その措置の適切かつ有効な実施を図るため、管理措置指針が定められている。既にで述べたように、アフィリエイト検討会報告書公表後、2022年6月29日、主にアフィリエイト広告に焦点を当てて、管理措置指針およびインターネット表示留意事項が改正された。
上記の「必要な措置」は、事業者の規模・業態、取り扱う商品等の内容などに応じ、管理措置指針の第4で定められた以下の七つの事項に沿うよう具体的に講じる必要がある。

❶ 景品表示法の考え方の周知・啓発

❷ 法令遵守の方針等の明確化

❸ 表示等に関する情報の確認

❹ 表示等に関する情報の共有

❺ 表示等を管理するための担当者等を定めること

❻ 表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置をとること

❼ 不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応

たとえば、上記七つの事項の一つとして、商品の内容等について積極的に表示を行う場合には、その表示の根拠情報を「確認」する(上記❸)必要がある(管理措置指針本文第4の3)。この「確認」については、上記改正により、アフィリエイト広告を行う場合には、「当該広告を利用する事業者がアフィリエイター等の作成する表示等を確認することが必要となる場合がある」と追記された。これに対応して、同指針別添の事例に、概要以下が追加された。

・ 自社の表示の作成をアフィリエイター等に委ねる場合、不当表示等を未然に防止する観点から、アフィリエイター等が作成する表示内容を事前に確認する。

・ すべての当該表示内容を事前に確認することが困難である場合には、以下の対応を行う。

− 表示後可能な限り早い段階で、すべての当該表示内容を確認する。

− 成果報酬の支払額または支払頻度が高いアフィリエイター等の表示内容を重点的に確認する。

− ASP等の他の事業者に表示内容の確認を委託する。

なお、この別添に記載された対応は、あくまで「参考」としての位置付けとされている。しかし、アフィリエイターやASPに表示内容を委ねていたとしても、上記(1)(b)で示した類型③に該当し、「広告主が表示内容の決定に関与した表示をしている」と判断される可能性がある。企業としては、アフィリエイト広告の内容にも責任を持つことが必要であり、そのためには、改正後の管理措置指針の別添を参考に、対応を図る必要がある

2021年・2022年の景品表示法に関する主な動向③
―ステルスマーケティング検討会の開催

ステルスマーケティングをめぐる従前の状況

景品表示法は、

① 優良誤認表示(5条1号)

② 有利誤認表示(5条2号)

③ 告示で指定される不当表示(5条3号)

を禁止しており、2023年3月27日まで、上記③の告示として、以下の六つが定められていた。

(ⅰ) 「無果汁の清涼飲料水等についての表示」(昭和48年3月20日公正取引委員会告示第4号)

(ⅱ) 「商品の原産国に関する不当な表示」(昭和48年10月16日公正取引委員会告示第34号)(原産国告示)

(ⅲ) 「消費者信用の融資費用に関する不当な表示」(昭和55年4月12日公正取引委員会告示第13号)

(ⅳ) 「不動産のおとり広告に関する表示」(昭和55年4月12日公正取引委員会告示第14号)

(ⅴ) 「おとり広告に関する表示」(平成5年4月28日公正取引委員会告示第17号)(おとり広告告示)

(ⅵ) 「有料老人ホームに関する不当な表示」(平成16年4月2日公正取引委員会告示第3号)

このため、従前、景品表示法上、いわゆるステマ自体を直接禁止する定めは存在しなかった。優良誤認表示や有利誤認表示に該当する場合にのみ違反行為となっていた。

なお、消費者庁は2021年11月9日、ステルスマーケティングによるインスタグラムの表示に対し、措置命令を行った注11
本件では、「ジュエルアップ」については、「#ジュエルアップ」「#バストアップ」「#育乳」「#バストアップ効果」といったハッシュタグを付したインスタグラムの表示とアフィリエイトサイトの表示が問題となり、「モテアンジュ」については、アフィリエイトサイトの表示が問題になった。報道等によると、対象企業は「ジュエルアップ」について、

・ 写真投稿時に商品のパッケージを写すこと

・ 顔や胸部近くに持つこと

・ CMだとわからないようにすること

・ 必須の「♯(ハッシュタグ)」を表示すること

を指示した模様である。その結果、対象2社はインスタグラムの表示を指示したとして、「表示内容に責任を負うべき」であると判断された。

もっとも、当該事例は、ステマ自体が直接違法と判断されたものではなく、対象2社が共同して供給するサプリ2種類(「ジュエルアップ」と「モテアンジュ」)について、摂取すると豊胸効果が得られるかのように表示を行っていたと認定され、消費者庁が当該表示について合理的根拠資料の提出を求めたものの、当該資料は提出されず、結果として「優良誤認表示である」と判断された事案である。

ステルスマーケティング検討会

ステルスマーケティングを取りまく状況は上記のようなものであったが、消費者庁により2022年に開催された「ステルスマーケティングに関する検討会」(以下「ステマ検討会」という)において、

・ 日本国内でステマが行われているといえること

・ 経済学や経営学からの分析においてもステマを規制すべきこと

・ EUや米国においては既にステマに関する法規制が存在し、その法規制に基づいて執行も行われていること

などについて確認され、景品表示法5条3号に基づき告示を新設し、直接的にステマを不当表示と指定することが妥当とされた(ステマ検討会報告書35頁)。

ステマ告示・運用基準の公表(2023年3月)

上記を受け、2023年1月25日、告示案運用基準案が公表され、パブリックコメント手続が行われた。同手続は2月23日に終了し、3月28日、ステマを不当表示と指定する告示注12(以下「ステマ告示」という)および消費者庁の考え方を示す運用基準注13(以下「ステマ運用基準」という)が公表された。
ステマ運用基準において、ステマの規制趣旨として次のように示されている(パブリックコメントを経て追加された)。

・ 一般消費者は、事業者の表示であると認識すれば、表示内容に、ある程度の誇張・誇大が含まれることはありうると考え、商品選択の上でそのことを考慮に入れる

・ 一方、実際には事業者の表示であるにもかかわらず、第三者の表示であると誤認する場合、その表示内容にある程度の誇張・誇大が含まれることはありうると考えないことになり、この点において、一般消費者の商品選択における自主的かつ合理的な選択が阻害されるおそれがある。

ステマ告示は、2023年10月1日から施行される。施行日後に行う表示がステマ告示に抵触しないよう、施行日前の段階から、表示作成を委託する第三者との契約関係・表示に関するルールを見直すことの要否の検討を進めていく必要がある。施行日前に第三者に行わせた表示であっても、施行日後も事業者の表示であると判断される実態にある場合には、施行日後の表示がステマ告示の対象となる可能性があり(ステマパブコメ回答No.194)、ウェブ上で継続している表示などについても併せて注意したい。パブリックコメントを経て一定の明確化は図られたものの、なお明確でない箇所があり、今後作成予定とされるQ&A(ステマパブコメ回答No.185)なども参考にしたいところである。

なお、ステマを担う、商品・役務を供給する事業者以外の第三者(インフルエンサーなど)は、通常、表示の対象商品・役務を供給していないため、告示制定後も同法は適用されず、もっぱら広告主が規制対象となる

ステマ告示では、告示にて禁止するステマ行為(違反行為)として、次の内容が示されている(「①」「②」はわかりやすさの観点から便宜上付したものである)。

① 事業者が自己の供給する商品または役務の取引について行う表示であって、

② 一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

上記①および②を両方満たすものが不当表示とされ、いずれか満たすだけでステマ告示の禁止する不当表示とはならない。そのため、①に当たる場合は②に当たらないように対応する必要があり、逆に①に当たらない場合は②の対応の検討は不要である。
なお、①に関し、ギフティングと呼ばれる場面に関する記述も行われている。「事業者が第三者に対してSNSを通じた表示を行うことを依頼しつつ、自らの商品又は役務について表示してもらうことを目的に、当該商品又は役務を無償で提供し、その提供を受けた当該第三者が当該事業者の方針や内容に沿った表示を行うなど、客観的な状況に基づき、当該表示内容が当該第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合」は、①に当たり、②に関する対応(PR等の表示)が必要となる注14ステマ運用基準第2の1(2)イ(ア))。
また、②に関し、事業者自身のウェブサイトは、通常、「一般消費者が当該表示(上記①の表示)であることを判別することが困難であると認められるもの」には当たらないが、たとえば、専門家等の第三者の意見として表示をしているように見えるものの、実際には、事業者が当該第三者に依頼・指示をして特定の内容を表示させた場合には、それは事業者の表示であることを明瞭に表示すべき、とされており(ステマ運用基準第2の2(2)オ(ア)。具体的な表示方法は同(イ))、この点にも注意が必要である。

(1) ①事業者が自己の供給する商品または役務の取引について行う表示

外形上第三者の表示のように見えるものについて、事業者が表示内容の決定に関与した場合(客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合)には、要件①を満たすと判断される(ステマ運用基準第2柱書)。
事業者が表示内容の決定に関与した場合として、大きく次の二つが想定されている(ステマ運用基準第2の1(1)(2))。

(a) 事業者が自ら表示を行う場合(事業者と一体と認められる従業員による場合などを含む)

(b) 事業者が第三者に表示を行わせる場合

このうち上記(a)について、運用基準案は、従業員の表示が事業者の表示と同視されるかどうかの考慮要素を例示した内容であったが、パブリックコメントを経て、事例において各考慮要素でどのように検討考慮するか具体的に記載された。
また、上記(b)について、次の二つに言及されている。(イ)の場合にあたるか否かは、具体的な実態を踏まえて「総合的に考慮し判断」されるが、考慮要素および具体例はいくつか示されている。(境界線が明確とまでは言いにくいものの)以下(i)とともに、自社の事例がいずれかに当てはまらないか、異なる事情はあるかなどを検討することが必要となろう。

(ア) 事業者が第三者に対し依頼・指示している場合

(イ) 事業者が第三者に対し明示的に依頼・指示していない場合であっても、事業者が表示内容の決定に関与した表示とされる場合

これらに対し、運用基準では、事業者が表示内容の決定に関与したとされない場合に関し、大きく次の二つが言及されている(ステマ運用基準第2の2(1)(2))。特に(i)に関して具体例が10個示されており、どれかに当たらないのかは確認しておきたい(なお、パブリックコメントを経て、「事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合」が追加された(ステマ運用基準第2の2(1)イ))。

(ⅰ) 「客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合」か否かを判断する際の考慮要素、「第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合」の具体例)

(ⅱ) 新聞・雑誌発行、放送等を業とする媒体事業者(ネット上で行う者を含む)が自主的な意思で企画・編集・制作した表示については、通常事業者が表示内容の決定に関与したことにはならないこと

(2) ②一般消費者が当該表示(上記①の表示)であることを判別することが困難であると認められるもの

「一般消費者が当該表示(注:上記①の表示)であることを判別することが困難である」かに関しては、「一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているかどうか、逆にいえば、第三者の表示であると一般消費者に誤認されないかどうかを表示内容全体から判断する」とされている(ステマ運用基準第3柱書)。
個々の表示を見た一般消費者の認識を基に判断されるため、一律な基準は定められないものの、次の各場面の具体例が挙げられており、確認しておきたい(ステマ運用基準第3の1および2)。

(A) 一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていない場合

(B) 一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっている場合

2021年・2022年の景品表示法に関する主な動向④
―景品表示法検討会の開催

景品表示法26条を新設する平成26年6月改正法の附則や、景品表示法に課徴金制度を新設する同年11月改正法の附則では、それぞれ、施行から5年を経過した際に見直しを行う旨が定められていた。それに加えて、デジタル化の進展など、近年社会生活が大きく変化している。これらを踏まえ、消費者庁は、2022年3月16日から「景品表示法検討会」を開催し、関係団体からのヒアリングなどを経て、制度の見直しなど幅広く議論が行われた。
その結果、2022年1月13日に報告書が公表され、当該報告書を受け、2023年2月28日に景品表示法改正法案が国会に提出された。概要は以下のとおりである(法案概要資料注15を基にしている。なお、筆者は景品表示法検討会に委員として参加したが、委員会や委員としての見解を記載するものではない)。なお、施行日は、基本的に改正法公布日から1年半を超えない範囲にて政令で定める日とされている(改正法案附則1条)。

1 事業者の自主的な取組みの促進

(1) 確約手続注16の導入

優良誤認表示等の疑いのある表示等をした事業者が「是正措置計画」(改正後27条1項)や「影響是正措置計画(同31条)を申請し、内閣総理大臣から認定を受けたときは、当該行為について、措置命令及び課徴金納付命令の適用を受けないこととすることで、迅速に問題を改善する制度を創設する。
改正法成立後、独占禁止法下のガイドライン(公正取引委員会「確約手続に関する対応方針」(平成30年9月26日策定、最近改正令和3年5月19日))を参考に、景品表示法の観点からのガイドラインも制定される予定である。同ガイドラインにおいて、対象事案、具体的な手続、事業者名等の公表の有無、認定に際し返金が必要か否か等について明確化される見込みである。

(2) 課徴金制度における返金措置の促進の弾力化

特定の消費者へ一定の返金を行った場合に課徴金額から当該金額が減額される返金措置に関して、返金方法として金銭による返金に加えて第三者型前払式支払手段(いわゆる電子マネー等)も許容する。

2 厳正・円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備

(1) 課徴金制度の見直し

・ 課徴金の計算の基礎となるべき事実を把握することができない期間における売上額を推計することができる規定の整備

・ 違反行為から遡り10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者に対し、課徴金の額を加算(1.5倍)する規定の新設

(2) 罰則規定の拡充
優良誤認表示・有利誤認表示に対し、直罰(100万円以下の罰金)の新設

※ 前述のように、供給要件を満たさない者(アフィリエイター等の「自己の供給する商品又は役務」を表示する事業者の要件を満たさない者)については、直接表示規制は適用されない。ただし、広告主が直罰対象行為を行う際に、それを幇助するなど“共犯”の関係が成立すると、供給要件を満たさない者についても刑罰の適用が検討されうるとも考えられる。この点は景品表示法検討会で議論されていないと思われ、改正法成立後に検討対象となりえるのではないか。

(3) 国際化の進展への対応

措置命令等における送達制度の整備・拡充、外国執行当局に対する情報提供制度の創設

3 その他(適格消費者団体による開示要請規定の導入)

適格消費者団体が、一定の場合に、事業者に対し、当該事業者による表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の開示を要請することができるとともに、事業者は当該要請に応ずる努力義務を負う旨の規定を新設する(改正後35条)。
「一定の場合」について、「事業者が現にする表示」が改正後34条1項1号(現30条1項1号に相当し、優良誤認表示と基本的に同じ)に「該当すると疑うに足りる相当な理由があるとき」と定めることが想定されている(改正後35条1項)。

なお、上記改正法案の内容とはならなかったが、検討会報告書で言及があったものとしては、以下のようなものがある。

【早期に対応すべき課題】

▶ 買取りサービスに係る考え方の整理
買取サービス注17が「自己の供給する…役務の取引」(景品表示法2条4項、5条)に該当し、景品表示法の規制対象となりうることが確認され、関連する運用基準を改定すべきであるとされた。

▶ 消費者被害回復のための適格消費者団体との連携注18

▶ 法執行における他の制度との連携(景品表示法では対応できない悪質事業者や個人に対する特定商取引法との連携の必要性等)

▶ 都道府県との連携(都道府県における法執行促進のための情報提供の強化等)

【中長期的に検討すべき課題】

▶ 課徴金の対象の拡大

▶ デジタルの表示の保存義務(変更や削除が容易で、不当表示の事後的な検証が難しいデジタル広告を事業者に保存させる義務)の創設について

▶ 供給要件を満たさない者(アフィリエイター等の「自己の供給する商品又は役務」を表示する事業者の要件を満たさない者)への規制対象の拡大について

▶ ダークパターン(消費者が気付かない間に不利な判断・意思決定をしてしまうよう誘導する仕組みとなっているウェブデザイン)への対応について

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[注]
  1. 「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(令和5年3月28日内閣府告示第19号)[]
  2. 消費者庁開催アフィリエイト広告等に関する検討会「アフィリエイト広告等に関する検討会 報告書」(令和4年2月15日)を指す。以下同じ。[]
  3. 消費者庁「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(平成26年11月14日内閣府告示第276号(最近改正:令和4年6月29日内閣府告示第74号))を指す。以下同じ。[]
  4. 消費者庁「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(制定:平成23年10月28日、最終改定:令和4年6月29日)を指す。前掲注2・アフィリエイト広告検討会報告書の公表後に改正された。[]
  5. ステルスマーケティングに関する検討会「ステルスマーケティングに関する検討会 報告書」(令和4年12月28日)を指す。以下同じ。[]
  6. 消費者庁「「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」告示案及び「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」運用基準案に関する御意見の概要及び当該御意見に対する考え方」(令和5年3月28日)[]
  7. 白石忠志「景品表示法の構造と要点(第9回)」NBL1059号60~61頁にて既に指摘されている。[]
  8. 消費者庁「株式会社T.Sコーポレーションに対する景品表示法に基づく措置命令について」(2021年3月3日)[]
  9. 消費者庁「株式会社アクガレージ及びアシスト株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(2021年11月9日)消費者庁ウェブサイト「株式会社DYMに対する景品表示法に基づく措置命令について」(2022年4月27日)[]
  10. 東京都ウェブサイト「アフィリエイト広告等により不当な広告を行っていた通信販売事業者2社に対する景品表示法に基づく措置命令を行いました」(2023年3月28日)。同資料では、「広告代理店やアフィリエイターに作成させた広告表示の内容を十分に把握しておらず、自らの表示責任を否定していましたが、広告代理店等に広告内容の決定を委ねていた場合であっても、基本的に景品表示法上の責任は広告主にあります」とされている。類型①を立証できる場面でなくても、類型③該当を理由に措置命令が行われる可能性があることを示すといえる。[]
  11. 消費者庁「株式会社アクガレージ及びアシスト株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(2021年11月9日)[]
  12. 前掲注1告示[]
  13. 「「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準」(令和5年3月28日消費者庁長官決定)[]
  14. これに対し、「事業者が表示内容を決定できる程度の関係性にない第三者に対し、表示を行わせることを目的としていない商品又は役務の提供(例えば、単なるプレゼント)をした結果、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う」場合には、表示内容の決定に関与したとはいえず、①には当たらない(ステマ運用基準第2の2(1)ア(コ))。[]
  15. 消費者庁第211回国会(常会)提出法案「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律案」概要資料「景品表示法の改正法案(概要)」(令和5年2月28日)消費者庁ウェブサイト「国会提出法案」より)。[]
  16. 「確約手続」とは、行政機関の調査開始後、調査対象事業者に違反の疑いのある行為(調査対象の行為)の概要等について通知し、この通知を受けた調査対象事業者が自主的に当該行為を排除するための措置の計画を作成・申請し、行政機関が当該計画を「是正のために十分・確実なもの」として認定すれば、当該行為に対する行政処分を行わないこととなる手続をいう(景品表示法検討会事務局「関係者等ヒアリングにおいて出された御意見及び今後の検討の方向性(案)」(第8回景品表示法検討会(2022年11月9日開催)資料)1頁。[]
  17. 「買取サービス」とは、事業者が一般消費者から商品を買い取るサービスであるが、事業者が同サービスの広告上で表示した金額と実際の買取金額に乖離があるとして消費者トラブルの事例が複数報告されており、景品表示法の適用について消団連から検討の要請がなされている。[]
  18. 消費者裁判手続特例法(消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(平成25年12月11日法律第96号))91条は、特定適格消費者団体の求めに応じ、必要な限度において、特定商取引法または預託法(預託等取引に関する法律(昭和61年5月23日法律第62号))に基づく処分に関する消費者庁作成資料を提供することができると定めている。景品表示法は、この対象に含められていないところ、対象に含めるか否かが議論されたが、上記消費者裁判手続特例法が2022年6月1日改正(令和4年6月1日法律第59号による改正)により新設されたものであることから、今後の運用状況等を少なくとも1年程度みたうえで、近い将来に検討すべきこととされた。[]

古川 昌平

弁護士法人大江橋法律事務所 パートナー弁護士

2003年立命館大学法学部卒業。2006年同志社大学法科大学院修了。2007年弁護士登録。大江橋法律事務所(大阪事務所)。2014年4月~2016年3月任期付職員として消費者庁にて勤務し、景品表示法改正法の立案や同法施行準備業務等を担当。同年4月~大江橋法律事務所(東京事務所)。景品表示法に精通し、表示規制や景品規制に対応したコンサルティングや消費者庁の調査対応で多くの企業をサポートするだけでなく、数多くのセミナー、著作を手がける(主な著作『エッセンス景品表示法』(商事法務、2018年))。

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