米国輸出管理規則(EAR)の基礎知識 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに

米国は、近年、米中の貿易摩擦、ロシアのウクライナへの軍事侵攻等に端を発して、経済安全保障に関連する規制を急速かつ大幅に拡大・強化しており、米国関連企業との取引が多い日本企業においても、改めて、こうした米国の規制を理解する必要性が非常に高まっている。

本稿では、その中でも、米国財務省・外国資産管理規局(OFAC:Office of Foreign Assets Control)が執行を担う“経済制裁”と並んで、日本企業を含む米国外企業が域外適用を受ける場面が多く、その関心も高い、商務省産業安全保障局(BIS:Bureau of Industry and Security, Department of Commerce)が所管する輸出管理規則(EAR:Export Administration Regulations)について、法務パーソンとして押さえておくべき基本的な内容を取り扱う。

EARの概要

EARの適用範囲

EARは、トランプ政権下の2018年、国防権限法に盛り込む形で立法化された輸出管理改革法(ECRA:Export Control Reform Act)の下位規範であり、その規制対象製品は、図表1のとおりである(EAR 734.3)。

図表1 EARの規制対象製品

(1) 米国内にあるすべての品目(米国外国貿易地域内を含む)、または米国を通過して外国から別の国へ移動する品目

(2) すべての米国原産品目

(3) 米国原産の規制対象商品を組み込んだ外国製商品
米国原産の規制対象ソフトウェアを”バンドル”した外国製商品
米国原産の規制対象ソフトウェアと混在する外国製ソフトウェア
米国原産の規制対象技術と混在する外国製技術

※ 一部の商品等については、数量を問わず、一部の商品等については、一定の基準比率を超える量(デミニス・ルール)

(4) 特定の米国原産の「技術」または「ソフトウェア」の「直接製品(Direct Product)」である外国品目

(5) 特定の米国原産の「技術」または「ソフトウェア」の「直接製品(Direct Product)」である外国所在のプラントまたはその主要製造装置によって製造された外国品目

米国原産品目等を輸出する場合のみならず、これらを米国以外の国から別の国に再輸出すること(同じ国内で外国人に技術等を伝達する場合を含む)を規制していること等をもって、EARは「域外適用」される、といわれる。
しかも、図表1(3)~(5)にあるように、米国で製造された商品、開発された技術ではなくとも、米国原産品を組み込んだ製品や、米国技術を利用して開発された技術等は、外国で製造・開発された場合であってもEARの適用対象となる可能性があるため、非常に広範な規制といえる。
EARに違反した場合、20年以下の懲役および/または違反1件あたり100万ドル以下の罰金や、違反1件あたり30万ドル以下または対象取引価格の2倍のいずれか高い方の課徴金が科される可能性があるほか、EARの規制対象となる一切の取引が禁止され、事実上、米国が関連する取引できなくなるという、極めて重いペナルティが設定されている注1

許可要否判定のフロー

(1) フローチャート

BISが公表している、EARの許可要否に関するフローチャート注2図表2のとおりであり、このフローチャートを理解することが、EARの枠組みを把握するための第一歩となる。

図表2 輸出管理フローチャート

まず、「規制品目リスト(CCL:Commerce Control List)」に掲載された品目については、原則として米国の輸出許可が必要となる(EAR774)。
日本の外国為替および外国貿易法では、軍事目的等に利用されるおそれのある品目についてはリスト規制品として規制し、リスト規制品目以外の食料や木材等を除くすべての貨物・技術については、用途や需要者に応じて許可が必要な「キャッチオール規制」にかけている。
これに対しEARは、すべての米国原産品等を対象としつつも、CCL掲載品目ではない品目(”EAR99”と呼ばれる)については、原則として輸出許可は不要であり、後記(2)で記載する一般禁止事項4~10に該当する場合に限り、輸出許可が必要となる、という構造である。

(2) 一般禁止事項4~10

EARでは、以下の10項目にわたる一般禁止事項が定められている(図表3)。図表2のフローチャートにもあるように、CCL掲載品目であれ、そうではないEAR99品目であれ、一般禁止事項4~10に該当すれば、輸出許可が必要となる。

図表3 一般禁止事項

一般禁止事項 1

規制品目のリストされた国への輸出および再輸出

一般禁止事項 2

規制される米国成分をデミニミス・ルールによる基準より多く組み込んだ外国製品目の国外からの再輸出および輸出

一般禁止事項 3

外国製の「直接製品」に関するルール

一般禁止事項 4

輸出権限をはく奪された個人および企業リスト(Denied Persons List:DPL)掲載者とのEAR対象品目の取引禁止

一般禁止事項 5

禁止された最終用途または最終需要者への輸出、再輸出、または移転

一般禁止事項 6

禁輸仕向地への輸出、再輸出、および移転(禁輸。たとえば、ウクライナのクリミア半島地域およびウクライナの対象地域)

一般禁止事項 7

拡散行為ならびに特定の軍事諜報の最終用途および最終需要者の支援禁止(米国企業・米国人の支援禁止が対象)

一般禁止事項 8

特定懸念国を経由する輸出・再輸出規制

一般禁止事項 9

命令、許可例外の条件等への違反禁止

一般禁止事項 10

違反関与行為、共犯行為等の禁止

図表3のとおり、一般禁止事項として、輸出先に関する規制、最終用途・最終需要者に関する規制、特定の仕向地への禁輸、特定懸念国経由での輸出の禁止等に関するルールが存在し、日本企業としては、米国からの輸入品、米国原産品を再輸出するケース、あるいは、それらを自社製品に組み込んで輸出するケース、米国原産のソフトを用いてソフト開発を行って輸出するケース等について、すべて規制対象となる可能性があることをまずは認識しなければならない。
そして、国ごとに禁輸となっている場合がある以上、米国原産品等を再輸出等する場合は、仕向地および経由地について、米国が懸念国として指定している国に該当しないことをまず確認しなければならない。
具体的な仕向先・最終需要者(企業または個人)については、米国商務省国際貿易局(International Trade Administration)が公表しているデータベースである「統合スクリーニングリスト(Consolidated Screening List)」(BIS、財務省、およびOFAC規制の対象すべてが統合されているので、OFAC規制の対象者の確認としても有用である)を利用して、都度、該当性を確認することが必要不可欠である。

(3) カントリーチャート・許可例外の確認

特定の仕向先・最終需要者について、上記データベースで特定のリスト掲載者に該当すれば許可が必要ということになるが、該当しない場合であっても、仕向地(国)によっては許可が必要な場合等があるので、次のステップに進んでいく必要がある。

BISは、規制品目(各規制品⽬には、5桁の「規制品門分類番号(ECCN: Export Control Classification Number)」が割り振られているので、当該米国原産品等に割り当てられたECCNを確認する必要がある)と最終仕向地の組合せによって許可の要否を記載した「カントリーチャート」を公表している(EAR738。最新版の更新は2023年8月)。たとえば、中国やイランについては、チャートに掲載されたほぼすべての品目について、「×」マークが付いている(「許可が必要」とされている)のに対して、日本は、許可が必要な品目は限定的である。

「カントリーチャート」で許可が必要であることが確認されれば、次に、許可例外(EAR740)を適用できるかどうかを確認することになる。
許可例外事由は、規制品目によって多種多様であるが、輸入時等にECCNを特定することができれば、EAR774を参照し、適用される許可例外を把握することができる。たとえば、”LVS”という例外項目は多くの品目で定められており、特定の仕向地への輸出に関して品目ごとに1回当たりの数量基準が定められ、数量基準を上回らない限りは許可を不要とするものである。

(4) 組込み品について

日本企業にとっては、組込み品を再輸出する場面でEARの適用が問題となることも多いと思われるため、組込み品の場合に適用される「デミニミス・ルール(De minimis Rules)」についても、概要を理解しておく必要がある。
デミニミス・ルールは、EAR734.4に定められた、組込み品の該当性判定にあたっての基準であり、BISより、そのガイドラインが公表されている。
まず、米国原産品目の組込みの比率が0%である場合、純粋な日本製品と同じであるため、EARの規制対象外ということになる。

次に、BISが指定する国別グループE1(イラン、北朝鮮、およびシリア)またはグループE2(キューバ)に再輸出される外国生産品について、米国原産品等の割合が総価値の10%を超えるときは、CCL品目のすべてまたは大部分と、キューバ、北朝鮮、シリアへのEAR99品目の再輸出について許可が必要とされる。
他方、国別グループE1またはE2に再輸出されない外国生産品は、多くのCCL品目と、ウクライナのクリミア地域への特定のソフトウェアを除くEAR99品目について、米国原産品等の割合が外国生産品の総価値の25%を超える場合に限り、許可が必要とされる。
なお、これらの算定においてデミニミス・ルールで分子として考慮する米国原産品目は、仕向地によって異なっている。

(5) FDPルール

図表1(4)、(5)のとおり、特定の米国原産の「技術」または「ソフトウェア」から直接製造された品目、もしくは、それらから直接製造されたプラントまたは主要製造装置によって製造された製品については、「直接製品」としてEARの規制対象となる。
つまり、米国で製造されていなくとも、米国の技術・ソフトウェアを用いて開発された技術・ソフトウェア等については、「直接製品」としてEARの規制対象となる場合がある。
このようなルールは、「FDP (Foreign Direct Product)ルール」と呼ばれ、EARの規制範囲、域外適用の範囲を非常に広範ならしめているルールの一つである
従来からのFDPルールは、「当該外国産品の規制品目番号(ECCN)」が国家安全保障理由で管理されている品目の「直接製品」については、特定の懸念国(上記(4)E1・E2グループおよび中国等)に対する再輸出には許可が必要とされるものである。その後、対象品目は追加され、近年では、エンティティ・リスト(Entity List)注3掲載の中国ファーウェイ社・同子会社向けの場合の直接製品規制、ロシア、ベラルーシのEntity List掲載者の軍事エンドユーザー向けの規制等、情勢に応じて規制品目を特に限定せず、あるいは品目の範囲を広げて、これらの者に対する再輸出は常に許可が必要とされるルールが追加されている。本年4月、シーゲイト・テクノロジー社が、米国製の技術・ソフトウェアを用いて米国外で製造したハードディスクドライブ(HDD)を中国のファーウェイに納品したこと等を理由として、過去最高額である3億ドルの罰金を科されたことは記憶に新しい注4

おわりに

BISは、2023年10月17日、「先端コンピューティング半導体規制、半導体製造装置に関する輸出規制等の規則案のパッケージ」を公表し、同規則はパブリックコメント期間を経て、同年11月17日までにその効力が生じた。かかる規則は、2022年10月7日に公表された、中国を念頭に半導体関連製品について制定された規制を強化するものであり、たとえば、「迂回防止」、つまり中国やマカオに本店所在地を有する企業の海外子会社・支店を通して迂回して輸出されることを規制するための世界的な許可要件等が新設されている。

このように、EARのルールは非常に複雑多岐にわたり、しかも、急速に追加・更新されていくので、米国原産品等を取り扱う中で、許可の要否に悩む場合は、都度、米国現地専門家の意見を求めなければならない場面も多いであろうが、上述の基本的な構造を理解することは、日本の法務担当者にとっても有用である。

米国の経済安全保障関連の規制としては、本稿で取り扱ったEAR、筆者が本連載の第20回で概説したOFAC規制のほか、2018年に成立した対米子外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)に基づき、外国企業による投資案件の審査対象が拡大され(対内投資規制)、本年8月9日には、半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術、人工知能(AI)の3分野において、国家安全保障にとって重要な機微技術・製品に関わる対外投資規制策定の大統領令が発令されるなど(対外投資規制。現在、規則案を策定中である)、主として対中国を念頭に置いた新たな政策・立法が相次いで打ち出されている。
日本企業の担当者としては、こうした各規制について、その全体像や仕組みを把握し、日々情報をアップデートするとともに、取扱製品・技術等について、万が一にもコンプアイアンス違反となるおそれがないか、再度洗出しを行うことの重要性が高まっている。

→この連載を「まとめて読む」

[注]
  1. 米国商務省産業安全保障局ウェブサイト「Penalties」[]
  2. EAR732付則2のフローチャートを抄訳したうえで作図したもの。[]
  3. BISが米国の安全保障上の利益に反する等の理由で公表している企業・機関のリスト。[]
  4. 米国商務省産業安全保障局(BIS)プレスリリース[]

松田 祐人

弁護士法人御堂筋法律事務所 パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士

2010年大阪大学法学部卒業。2012年京都大学法科大学院修了。2013年弁護士登録。2018年Northwestern University School of Law 卒業(LL.M.)、Baker & Hostetler LLP(米国ワシントンDC)勤務。2019年ニューヨーク州弁護士登録。主な取扱分野はM&A/企業再編、コーポレート、国際取引、国際紛争、GDPR等の個人情報保護法制・競争法を含む外国法コンプライアンス、海外進出支援など。

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