いま見直しておきたい 米国経済制裁(OFAC規制)コンプライアンス - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに

近年、米国は、海外諸国に対する経済制裁や輸出規制を厳格化しており、米中経済摩擦や、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を契機とする一部の規制等について、日本でもクローズアップされているところである。米国企業との取引や、米国が関与する取引を避けては通れない日本企業にとっては、こうした米国の経済安全保障に関する規制のコンプライアンスの体制等について、改めて見直しを図る機運が高まっている。

そこで、本稿では、これらの規制のうち、筆者が特に質問を受けることが多く、海外企業に対する執行事例も積み重なってきた、米国財務省外国資産管理室(OFAC:Office of Foreign Assets Control)が執行を担う“経済制裁”について(日本では、総称して「OFAC規制」と呼ばれることも多く、本稿でもそのように呼称することがある)、その概要に触れたうえ、日本企業として「いま見直しておきたい」コンプライアンスのあり方について述べる。

規制の内容

OFAC規制とは

OFAC規制の代表的なものとしては、原法が1977年に制定された国際緊急事態経済権限法(International Emergency Economic Power Act)等を根拠として、大統領がテロ行為等の「特別かつ異常な脅威」があると判断する場合に、その権限で取引の禁止、資産凍結等を命じるものが挙げられる。直近では、2023年2月、ロシアによるウクライナ軍事進攻に対する経済的支援ルートの断絶等を目的として、バイデン大統領がロシアの金融機関等を制裁リストに加えた例などがある注1
米国は、その他にも、法令や大統領令を組み合わせて、随時、さまざまな理由から制裁対象を追加しており、たとえば、2021年3月、新疆ウイグル自治区における少数民族に対する人権侵害に関連して、グローバル・マグニツキー人権説明責任法(Global Magnitsky Human Rights Accountability Act)に基づき、現職の中国政府関係者を深刻な人権侵害と汚職の「加害者」であるとして制裁対象者に指定したというものがある注2

OFAC規制といえば、海外企業との取引の場面で日本の金融機関から送金をする際に、当該取引の“当事者”や“関係地”に制裁国の関係者が含まれていないことの確認を求められることでも馴染みがあるルールであるが、日本企業の米国子会社はもちろん、日本企業自体にも直接適用(域外適用)がありうるものであり、特に、下記⒉(2)で述べる一次制裁に関しては、違反した場合に民事または刑事の多額の賠償・罰金の対象となるため、企業としては、規制の内容を正確に把握したうえ、コンプライアンス体制を構築しておく必要がある。

OFAC規制の概要

(1) Sanctionリスト

OFAC規制は、特定の国を相手とするほぼすべての取引行為を禁じる規制のほか、特定のテロリスト等として米国政府が指定する事業体、自然人等との取引等を禁じる規制があり、規制対象となる行為や遵守要件は、対象国や、それぞれの経済制裁の根拠法令によって内容が異なる。
個別に指定された事業体等は、「SDNリスト(Specially Designated Nationals and Blocked Persons List)」と呼ばれる一覧表を中心に、その他にも、「部門別制裁者リスト(Sectorial Sanctions Identifications List)」等のリストに掲載される。
OFACは、これらのリスト掲載者を一括して検索できるデータベースを公表している注3
また、米国商務省国際貿易局(International Trade Administration)は、事業体等に加えて、特定の国家・政府機関等も検索可能なデータベースであるConsolidated Screening List(CSL)を公表している。

(2) 一次制裁と二次制裁

(a) 一次制裁と二次制裁の区分

OFAC規制は、一般に、“一次制裁”と“二次制裁”とに区分されることが多い。
その文脈はさまざまであるものの、“一次制裁”とは、通常、「米国の管轄権が及ぶ(Nexus to US jurisdiction)」取引に対する規制をいい、その範囲は以下のとおり解される。

「米国の管轄権が及ぶ(Nexus to US. Jurisdiction)」取引
米国人(=US. Person)や、米国産品が関与し、または、米国内で行われる取引

米国人(=US. Person):米国市民、永住権を有する外国人、米国法または米国内の司法権(外国支店を含む)

そして、ここでの“米国人”の関与は、非常に広く捉えられており、“非米国人”が“米国人”に関与させる場合も含む。たとえば、日本企業が制裁対象国の所在企業と取引をする際に、米ドル建てで決裁を行う場合、米ドル建て決済は、米国金融機関が介在するのが通常であることから、米国人が関与するものとして規制対象となる注4
他方、“二次制裁”は、典型的には、「米国の管轄権」が及ばない、非米国人と制裁対象者(上記リスト掲載者)との取引を規制するものをいう。

(b) 一次制裁と二次制裁の区分がもたらす意味

一次制裁と二次制裁の区分は上記のとおりであるが、企業にとっては、この区分がもたらす意味を正しく理解することが重要である。
すなわち、ある国に関連する制裁が一次制裁に限られるのであれば、日本企業にとっては、対象取引について、米国法人であるグループ会社が当事者となっていたり、米国ドル建ての決済としている場合等、「米国の管轄権が及ぶ」場合を除いて、原則として無関係ということになる。
他方で、ある国に関連する制裁が二次制裁を含む場合、つまり、「米国の管轄権」が及ばなくともリスト掲載者との取引を一切禁止するような内容であれば、日本企業は、この場合も、都度、取引相手等の上記リスト該当性を確認することが必要となる。
なお、一次制裁に違反すれば民事罰・刑事罰の対象となるが、二次制裁の違反は民事罰・刑事罰の対象にはならず、制裁リストへの追加、米国企業との取引禁止等のいわば間接的な制裁を受けることになる。

日本企業がとりうる対応(デュー・ディリジェンス)

OFAC規制が適用される可能性の把握

企業がOFAC規制のコンプライアンスを検討するにあたっては、まず、制裁に関連する国がどこなのかを把握することが出発点となる。
OFACは、“制裁対象国”のリストというものは公表していない注5。そのような中で、自社で行っている取引がOFAC規制の対象になりうるか否かや制裁関連国を洗い出すには、OFACがアクティブな制裁リストを一覧化しているウェブページ「Sanctions Programs and Country Information」が参考となる注6。企業としては、少なくとも当該ページから特定できる国やそこに属する者と取引を行う場合は、OFAC規制の対象となる可能性があることを理解する必要がある。

法令調査

もっとも、上記⒉(1)で述べた各データベースに取引相手等の情報を入力し、検出されなかったからといって、常に「問題なし」と結論づけられるわけではない。なぜなら、程度に差はあるものの、一部の国は包括制裁の対象とされており、OFACが特定の事業体や個人をリストに掲載していなくとも、取引自体が包括的に規制されている場合がありうるからである注7
このような国については、取引相手等の上記リストの該当性を確認するだけでは不十分であり、「制裁の内容に照らして、当該取引が規制対象となっていないか」という分析が必要となる。

かかる分析にあたって、OFACはFAQを公表しており(ただし、FAQの数は非常に膨大であり、本稿執筆時点で1,120番まである。国によっては、当該国に関するFAQが一つのページにまとめて掲載されている場合もある注8)、このほか、対象国ごとに規制の概要がまとめられたガイドラインが定められている場合もあり注9、まずはこれらを参照することになる。これに次いで、法令は非常に多岐にわたり内容も複雑であるため、必要な範囲で米国現地専門家等の助言を得たうえで、調査を進めるということになる。
なお、こうした制裁は、国際情勢や米国の政策に伴って、あるいは大統領が代わる都度、頻繁に追加・変更されるため、一度調査しただけでは不十分である。このため、企業担当者としては、定期的に情報をアップデートする必要があることにも留意しなければならない。

リスクベースアプローチ

上述のとおり、国ごとのOFAC規制の適用可能性、法令調査(一次制裁のみか、二次制裁を含むか等)、当該取引に「米国の管轄権」が及ぶか否かを確認し、その結果、OFAC規制の適用がありうることはわかったものの、取引が一律に禁止されるわけではないことが把握できれば、次のステップとして、取引相手等の情報を上記データベースに入力し、各リストの該当性の調査を進めていくこととなる。

ここで企業の頭を悩ませるのが、“50%ルール”の存在である。“50%ルール”とは、1人または複数のリスト掲載者が直接または間接に合計で50%以上所有する事業体は、それ自体が制裁対象とみなされるというルールである注10。たとえば、取引先に50%を保有する株主がいる場合、当該株主のリスト該当性を調査する必要があるほか、当該株主が法人株主である場合は、当該株主の株主まで調査しなければならないということになる。
また、OFAC規制は、制裁対象者との間接的な取引に対する規制を含んでおり、たとえば、取引の直接の相手方は制裁対象者に載っていなかったとしても、当該取引先を通じて製品を入手したエンドユーザーがリスト掲載者に該当するのであれば、規制の適用を受ける場合がある。
こうした制裁対象者の調査の手段については、

・ ホームページ等で公開された情報の調査

・ 調査会社による企業情報の入手

・ 取引先にヒアリングを行い、株主・役員・エンドユーザー等に関する情報の提供を要請

・ 当該国の現地の専門家による調査

・ 現地の言語での情報収集

などが考えられる。

いずれの取引についても網羅的な調査を行うことが本来的な対応ではあるが、いかなる場合もこれらをすべて実施することは現実的ではない。まずは社内で取引ごとにリスクアセスメントを行い、リスクに比例した対応(いわゆる「リスクベースアプローチ」)を検討せざるをえないであろう。
かかるリスクアセスメントにあたっては、専門家の助言を得ながら規制内容の厳格性・広範性を理解し、取引の内容・性質(対象製品)や商流を分析するとともに、OFACが公表している過去の執行事例等も適宜参考にすることが求められる。また、輸出管理規則(EAR;The Export Administration Regulations)に関して米国商務省産業安全保障局(Bureau of Industry and Security)が公表している制裁違反の“Red flag”は、OFAC規制におけるリスクアセスメントにおいても参考となる。これら”Red Flag”に該当する事象が見られる場合は、網羅的な調査を行う必然性は高くなり、調査の結果、取引の中止・見直しの検討まで必要となる場合もある。

Red Flag(参考訳)

・ 顧客またはその住所が、米国商務省の拒否者リストに記載されている関係者の一つと類似している。

・ 顧客または購買担当者が、その商品の最終用途に関する情報を提供することに消極的である。

・ 小さなパン屋のために高性能のコンピュータを注文するなど、製品の能力が買手の業務内容に合っていない。

・ たとえば、電子産業のない国に半導体製造装置を出荷する場合など、出荷先の国の技術水準に適合しない。

・ 通常融資が必要となるような高額商品を、顧客が現金で支払うことを希望している。

・ 顧客は、ビジネスの経験がほとんどないか、まったくない。

・ 顧客は、製品の性能についてよく知らないが、その製品を欲しがっている。

・ 顧客から、定期的なインストール、トレーニング、またはメンテナンスサービスを拒否された。

・ 納期が曖昧であったり、遠方への配送が計画されている。

・ 製品の最終目的地として、貨物輸送会社が記載されている。

・ 輸送ルートが、商品と目的地に鑑みて異常である。

・ 梱包が、述べられた発送方法または発送先と一致していない。

・ 国内、輸出、再輸出等いずれの目的で使用するのかを質問されたとき、顧客が言い逃れをしている。

また、これらの情報収集に加えて、取引相手に対して、リスト掲載者の関与がない(株主にもエンドユーザーにも存在しない)旨の誓約書を提出させたり、契約書においてその旨の表明保証させることによって、補完的なリスクヘッジを行うことが望ましい。

さらに、こうしたリスクアセスメントを定期的に実施するための社内体制の構築も必要となる。この点、OFACは、規制違反のリスクを最小化し、違反が生じた場合の潜在的な罰金の軽減を受けるためのガイドラインとして、「OFACコンプライアンスコミットメントのためのフレームワーク」(A Framework for OFAC Compliance Commitments)を策定し、以下の五つの措置を講じることを推奨しており、これらに則した対応が望ましいといえる。

推奨された措置

① 経営陣のコミットメント(担当取締役の任命、当該取締役によるコンプライアンスプログラムの承認等)

② リスクアセスメント(対象物品、顧客、地域ごとの制裁リスクの評価等)

③ 内部統制(リスクアセスメントの結果を反映したポリシーの策定等)

④ 監査(プログラム実施の検証等)

⑤ 定期的な従業員の教育(知識、規制遵守責任の説明等)

おわりに

冒頭でも述べたとおり、米国では、本稿の対象であるOFAC規制のほか、一定の品目の米国からの輸出を規制する輸出管理規則(EAR;Export Administration Regulations)の適用範囲も急拡張されており、本稿では詳細は取り扱っていないが、特に米国産品を取り扱う企業は、OFAC規制とあわせて、それと同等のコンプライアンス対応を強いられることとなる。
見方によっては、「米国がまったく関与しない取引についても制裁を課す」という法令のあり方については、国際社会では「過剰である」との批判も大きいところであるが、米国と関係のある日本企業にとっては避けて通ることはできないため、いま一度、規制の内容やポイントを正しく理解し、過度に取引に消極的になることなく、コンプライアンス体制を整えていく必要がある。
本稿がその一助となれば幸いである。

→この連載を「まとめて読む」

[注]
  1. 米国商務省プレスリリース「Targeting Key Sectors, Evasion Efforts, and Military Supplies, Treasury Expands and Intensifies Sanctions Against Russia」(2023年2月24日)[]
  2. 米国商務省プレスリリース「Treasury Sanctions Chinese Government Officials in Connection with Serious Human Rights Abuse in Xinjiang」(2021年3月22日)[]
  3. OFACウェブサイト「Sanctions List Search」[]
  4. 規制の中には、米国企業が「所有または支配」する外国子会社も遵守しなければならないとされていることがある。このような規制にあっては、日本企業のグループ会社である米国法人が取引の当事者となる場合のみならず、その米国企業が「所有または支配」する外国子会社(典型的には、当該米国企業が過半数以上を出資している日本企業の孫会社がこれに該当する)が関与する場合も、一次制裁の対象となる。[]
  5. OFACは、その理由として、キューバやイラン等、地域的に包括的な制裁対象となっている国と、特定の法人または個人のみをターゲットとして規制対象としている国とで、規制の内容が異なることを挙げている(米国商務省OFACウェブサイト「Where is OFAC’s Country List? What countries do I need to worry about in terms of U.S. sanctions?」)。[]
  6. 本稿執筆時点でアクティブな制裁のうち、国・地域名がプログラムの対象となっているものは、アフガニスタン、バルカン半島、ベラルーシ、ミャンマー、中央アフリカ共和国、中国、キューバ、コンゴ民主共和国、エチオピア、香港、イラン、イラク、レバノン、リビア、マリ、ニカラグア、北朝鮮、ロシア、ソマリア、スーダン、ダルフール、南スーダン、シリア、ウクライナ/ロシア関係、ベネズエラ、イエメン、ジンバブエ等である。[]
  7. たとえば、キューバに関する制裁は、一次制裁であるが包括的な制裁であり、米国管轄下にある者は、一部の例外を除き、実質的にキューバもしくはキューバ政府とあらゆるビジネスもしくは関連する取引を行うことを禁止されている。[]
  8. たとえば、イランに関連する制裁についてのFAQはこちらにまとめられている。[]
  9. たとえば、シリアに関する制裁の概要はこちらにまとめられている。[]
  10. さらに、OFACは、一人以上のブロック対象者が50%未満であったとしても、「重要な割合」を占めており、また、所有権以外の手段で支配する可能性のある、ブロック対象者ではない事業体(非ブロック対象者)との取引を検討する際にも注意喚起しており、このような事業体は、「将来、OFACによる指定または執行措置の対象となる可能性がある」との考えを示している(米国商務省「REVISED GUIDANCE ON ENTITIES OWNED BY PERSONS WHOSE PROPERTY AND INTERESTS IN PROPERTY ARE BLOCKED」(2014年8月13日)第4パラグラフ)。[]

松田 祐人

弁護士法人御堂筋法律事務所 パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士

2010年大阪大学法学部卒業。2012年京都大学法科大学院修了。2013年弁護士登録。2018年Northwestern University School of Law 卒業(LL.M.)、Baker & Hostetler LLP(米国ワシントンDC)勤務。2019年ニューヨーク州弁護士登録。主な取扱分野はM&A/企業再編、コーポレート、国際取引、国際紛争、GDPR等の個人情報保護法制・競争法を含む外国法コンプライアンス、海外進出支援など。

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