景品表示法に関する2021年・2022年の動向概観[前編] - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに

2020年以降、新型コロナウイルス感染症拡大により社会生活が急変したことによって、消費者庁による景品表示法の執行動向にも影響を及ぼし、2020年・2021年においては、消毒・除菌等に関する措置命令が増加した(2020年度における景品表示法をめぐる動向は「景品表示法に関する2020年度の動向概観」を参照されたい)。他方、2022年についてみると、なお同種事案の措置命令があるものの、ウィズコロナの浸透とともに、その件数自体は減少傾向にある。その中で、従前措置命令件数としては多くなかった「おとり広告」に関する措置命令事例が注目を集めたほか、時世の流れを受け環境訴求表示に関する措置命令などが行われた(下記を参照)。
また、消費者庁は、2021年にアフィリエイト広告に関し消費者庁として初めて措置命令を行った後に「アフィリエイト広告検討会」を開催し、2022年2月15日に報告書を公表した。当該報告書を受け、同年6月29日に管理措置指針注1が改正された(後編にて紹介)。加えて、2022年には、デジタル化などの社会生活の変化も踏まえ、「ステルスマーケティング検討会」が開催されてステルスマーケティングを直接不当表示として定める告示を定めるべきとの方向性が示されるとともに(後編にて紹介)、「景品表示法検討会」が開催されて確約手続の導入など法改正の方向性が示された(後編にて紹介)。

上記のほかにも、認知機能を標ぼうする機能性表示食品に関する行政指導注2や、上記管理措置指針の改正などを受けた健康食品留意事項注3の改正など、消費者庁においてさまざまな取り組みが行われているが、本稿では、2021年・2022年における主な動きとして、上記4点について前・後編に分けて概観する。前編となる今回は、まず2021年・2022年の主要な動向の第一項目目として、新型コロナウイルス感染症の蔓延に起因する消毒・除菌効果を示す表示やおとり広告、環境訴求表示をめぐる措置命令等の動向について紹介する。

なお、消費者庁は、毎年、前年度(前年4月~当年3月)における「景品表示法の運用状況及び表示等の適正化への取組」を公表(令和2年度版は2021年7月21日に公表し、令和3年度版は2022年5月26日に公表し、同年8月25日に差替え)しており、動向を把握する際こちらも参考になる。

2021年・2022年の景品表示法に関する主な動向①
―消毒、除菌等効果を示す表示に対する対応を含む措置命令の動向概観

新型コロナウイルス関連事例の動向

2020年以降、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、同ウイルスに対する予防効果を標ぼうする健康食品、マイナスイオン発生器、除菌スプレー等に関する表示に対し、迅速・厳正な運用が行われた。その結果、2020年度(2020年4月~2021年3月)に行われた措置命令計33件のうち21件注4および2021年度(2021年4月~2022年3月)に行われた計措置命令41件のうち11件注5は、消毒、除菌等効果を示す表示に関するものであった。商品の効果表示については、メーカーによる表示が問題視されることが多いが、小売業者が行う表示についても措置命令が行われており注6、小売業者においても、合理的根拠資料を確認することが重要である。
他方、2022年度に入ると、ウィズコロナが浸透し、同年4月~2023年1月末の措置命令は計28件、そのうち新型コロナウイルスに関連する表示事例は3件注7に落ち着いている。

消費者庁は、優良誤認表示の疑いがある場合、その表示をした事業者に対し、15日以内にその表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を提出するよう求めることができ、資料の提出を求められた事業者が当該期間内に資料を提出しない場合や、提出したものの合理的な根拠とは認められない場合には、その表示はただちに優良誤認表示と認定される(景品表示法7条2項および8条3項、同法施行規則7条2項。「不実証広告規制」と呼ばれる)。そのため、特定商品の表示について景品表示法の優良誤認表示であると認定されないためには、「合理的な根拠を示す資料」、すなわち、

① 客観的に実証された内容の資料(資料の客観性)

② 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応している資料(表示と資料の整合性)

の双方を満たす資料を提出できる必要がある(不実証広告規制ガイドライン注8第3の1)。消毒や除菌等に関する表示を行おうとする際には、消費者庁ウェブサイトの「表示に関するQ&A」Q57~Q59に対する回答も参考になる。

なお、2022年には、不実証広告規制に関する最高裁判決が登場したので併せて紹介する。本件は新型コロナウイルス関連の表示ではなく、健康食品に関する表示が問題になった事例であり、不実証広告規制を定める景品表示法7条2項は憲法21条1項および22条1項に違反するかについて争われたものであるが、最高裁において「いずれにも違反しない」と判断された(最判令和4年3月8日・判時2537号5頁)。今後も、商品の優良性を表示しようとする際には、表示に先立ち資料を確認し、表示しうる範囲を検証する必要がある

その他の措置命令の動向

2021年・2022年には、新型コロナウイルス関連のもの以外にも、さまざまな商品・サービスに関して措置命令が行われた。すべてを挙げることはできないが、話題になったものを概観する。

(1) おとり広告事例

2022年中に行われた多くの消費者庁による措置命令のうち、耳目を集めたものを一つ挙げるとすれば、おとり広告に関する事例であろう注9。「おとり広告」とは、下記の囲みで示すように、おとり広告告示注10に定められた表示をいう。

「おとり広告に関する表示」(平成5年4月28日公正取引委員会告示第17号)

一般消費者に商品を販売し、又は役務を提供することを業とする者が、自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を除く。)に顧客を誘引する手段として行う次の各号の一に掲げる表示

1 取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は役務についての表示

2 取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示

3 取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示

4 取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその商品又は役務についての表示

本事例における対象商品は、

① 「新物!濃厚うに包み」(以下「料理①」という)

② 「とやま鮨し人考案 新物うに 鮨し人流3種盛り」(以下「料理②」という)

③ 「冬の味覚!豪華かにづくし」(以下「料理③」という)

であったが、このうち料理①および料理②の表示について、下記おとり広告告示4号、料理③の表示について同1号に該当すると判断された。以下、措置命令の内容を紹介する。

(a) 料理①および料理②について

料理①については2021年9月8日~同月20日に料理①を提供することを示す自社ウェブサイトおよびテレビCM(ウェブサイトでの表示期間は9月14日~20日、テレビCMでの表示期間は9月8日~20日)が、料理②については9月8日~10月3日に店舗内で料理②を提供するとの自社ウェブサイト表示(表示期間は9月8日~17日)がそれぞれ問題となった。
命令対象社は、材料である「うに」の在庫が足りなくなる可能性があると判断して、料理①については9月13日(月)に9月14日(火)~17日(金)(4日間)の提供停止を決定し、各店の店長等に周知したうえで、当該期間は終日提供しなかった。また、同じ「うに」を材料とする料理②について、9月13日(月)に9月18日(土)~20日(月)(3日間)の提供停止を決定し、各店の店長等に周知したうえで、当該期間は終日提供しなかった。具体的に、終日提供しなかった日が1日以上ある店舗は、料理①については583店舗(全店舗のうち9割強)、料理②については540店舗であった。
上記事情を、消費者庁は「合理的理由がないのに」「実際には取引する意思がない場合」の表示にあたる(おとり広告告示4号)と判断した。特に料理①については、9月13日に販売の一時停止を決定したにもかかわらず、自社ウェブサイトでは9月14日~20日、テレビCMでは(9月8日から続いて)9月14日~20日の販売停止期間中も継続して表示を行った点を重視したと考えられる。

(b) 料理③について

料理③については、2021年11月26日~12月12日、店舗内で料理③を提供するとの自社ウェブサイトおよびテレビCM(いずれも表示期間は11月26日~12月12日)が問題となった。
実際には、583店舗において、上記表示期間中に終日提供できない日が1日以上あった。そのうち、1店舗はキャンペーン開始日である11月26日から提供できておらず、その他の582店舗はキャンペーン途中に提供していない日があるというものであった
当該事情を、(キャンペーン途中で提供できない日があるという場合を含めて)消費者庁は「取引を行うための準備がなされていない場合」の表示にあたる(おとり広告告示1号)と判断した。このように、「キャンペーン開始日は提供したもののその後提供できなくなかった」という場面についても問題視されている点に注意が必要である

上記(a)(b)から得られる教訓として、企業としては、キャンペーンなどを企画・実施する場合、当該キャンペーン表示どおりに販売し続けられるのか、改めて検証する必要がある。

(2) 環境訴求表示

昨今、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)の目標12「つくる責任、つかう責任」にも関連して、「環境にやさしい」商品が改めて注目を集めている。そのような中、2021年・2022年には、環境によいことを示す表示について、いくつか措置命令が行われた。

まず、「メリヤスウエス」と称する清掃や研磨等に用いる生地1㎏入りの商品について、「環境にやさしい リサイクル綿100% メリヤスウエス」および「品質:綿100%(Tシャツ・肌着と同等生地)」と表示することにより、当該商品を構成するすべてのウエス生地の組成が綿100%であるかのように示す表示をしていたという事例について、消費者庁は、2021年3月23日に措置命令を行った注11
また、消費者庁は、2022年12月23日、対象商品が「“生分解性”を有する」と示すとの複数の表示について、複数社に対して措置命令を行っている注12
 これらの事例は、消費者庁が各社に各表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出が求め、各社は資料を提出したものの、それぞれ合理的根拠資料とは認められなかった、というものである。ここで「生分解性」とは「物質が微生物によって分解される性質」を指し、昨今の潮流から、一般消費者に対する訴求力も相応にある表示といえる。企業としては、自社商品等について当該表示を行う場合には、合理的な根拠資料があるといえるのか(特殊な環境下での実験結果だけでなく、使用環境下における効果を示す資料があるといえるのか)の検証が必要である。

*    *

 以上、前編である今回は、措置命令の2021年・2022年の動向について紹介した。次回・後編では、アフィリエイト広告やステルスマーケティング規制、確約手続の導入をめぐる動向について紹介する。

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[注]
  1. 消費者庁「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(平成26年11月14日内閣府告示第276号)を指す。[]
  2. 消費者庁「認知機能に係る機能性を標ぼうする機能性表示食品の表示に関する改善指導及び一般消費者等への注意喚起について」を指す。[]
  3. 消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(平成25年12月24日制定、最近改正令和4年12月5日)を指す。[]
  4. 消費者庁「令和2年度における景品表示法の運用状況及び表示等の適正化への取組」(令和3年7月21日)4・5頁。[]
  5. 消費者庁「令和3年度における景品表示法の運用状況及び表示等の適正化への取組」(令和4年8月25日差替版)4・5頁。[]
  6. 消費者庁「大作商事株式会社及び株式会社イトーヨーカ堂に対する景品表示法に基づく措置命令について」(令和4年2月3日)[]
  7. 消費者庁「大幸薬品株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(令和4年4月15日)同「株式会社山田養蜂場に対する景品表示法に基づく措置命令について」(令和4年9月9日)同「一般社団法人免研アソシエイツ協会に対する景品表示法に基づく措置命令について」(令和4年11月18日)[]
  8. 公正取引委員会「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針―不実証広告規制に関する指針―」(平成15年10月28日公表、最近改正平成28年4月1日(消費者庁))を指す。[]
  9. 消費者庁・公正取引委員会「株式会社あきんどスシローに対する景品表示法に基づく措置命令について」(令和4年6月9日)。本件は、消費者庁と公正取引委員会(公正取引委員会事務総局近畿中国四国事務所)により調査が行われた。[]
  10. 「おとり広告に関する表示」(平成5年4月28日公正取引委員会告示第17号)を指す。[]
  11. 消費者庁「古田商事株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について 」(令和4年3月23日)[]
  12. 消費者庁「カトラリー、ストロー、カップ等の販売事業者2社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(令和4年12月23日)同「釣り用品の販売事業者に対する景品表示法に基づく措置命令について」(令和4年12月23日)同「ゴミ袋及びレジ袋の販売事業者2社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(令和4年12月23日)同「エアガン用BB弾の販売事業者5社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(令和4年12月23日)[]

古川 昌平

弁護士法人大江橋法律事務所 パートナー弁護士

2003年立命館大学法学部卒業。2006年同志社大学法科大学院修了。2007年弁護士登録。大江橋法律事務所(大阪事務所)。2014年4月~2016年3月任期付職員として消費者庁にて勤務し、景品表示法改正法の立案や同法施行準備業務等を担当。同年4月~大江橋法律事務所(東京事務所)。景品表示法に精通し、表示規制や景品規制に対応したコンサルティングや消費者庁の調査対応で多くの企業をサポートするだけでなく、数多くのセミナー、著作を手がける(主な著作『エッセンス景品表示法』(商事法務、2018年))。

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