はじめに
景品表示法に関する2023年および2024年(9月まで)における主要な動向としては、以下が挙げられる。
① ステルスマーケティング規制の導入と措置命令
② 多様な事例に関する措置命令(特にNo.1表示に関する多数の措置命令)
(「No.1表示」とは、事業者が自ら供給する商品等について、競争事業者との比較において優良性・有利性を示すために「No.1」、「第1位」、「トップ」、「日本一」などと表示するものを指す)注1
③ 定義告示運用基準の改正(買取サービスの取扱い)
④ 景品表示法改正法成立と改正法施行に向けた下位法令や運用基準の公表
上記②に関し、2023年度(2023年4月~2024年3月)の措置命令は合計44件であり、そのうち13件は、第三者の主観的評価を指標とする、「顧客満足度」等のNo.1表示に関するもの、8件は糖質カット炊飯器の表示に関するものであった。特に、上記のNo.1表示に関しては活発に執行されており、消費者庁において「顧客満足度」等を示すNo.1表示に関する実態調査が行われ、2024年9月26日に報告書(以下「消費者庁No.1表示報告書」という)が公表された。②に関しては、No.1表示に関する措置命令の動向と、消費者庁No.1実態調査報告書の概要を確認する。
上記①~④のほかにも、過去最高額の課徴金納付命令注2(16億5594万円)が発出されたこと、日弁連が消費者庁に対し「機能性表示食品の表示規制や制度の在り方についての意見書」(2024年1月18日)を提出したこと注3、各適格消費者団体がさまざまな表示について差止請求・差止訴訟を行っていることなど、景品表示法に関しては多様な動きがみられるが、本稿では、さしあたり、2023年・2024年(9月まで)における主な動きとして、上記4点について、概観する(後記Ⅱ~Ⅵ)。
ステルスマーケティング規制の導入と措置命令
ステルスマーケティング規制の導入
(1) ステルスマーケティングを不当表示として指定する告示の制定
2023年3月28日に、ステルスマーケティング(広告であるにもかかわらず、広告であることを隠す行為)に関する告示注4(以下「ステマ告示」という)および運用基準注5(以下「ステマ運用基準」という)が制定され、同年10月1日から施行されている。
景表法は、優良誤認表示および有利誤認表示のほか、「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定する表示」を、不当表示と定めている(法5条3号)。これを受けて、ステマ告示は、不当表示となるステマを指定している。
また、ステマ運用基準は、告示の解釈等に関する消費者庁の考え方を整理したものである。禁止されたステマに当たらないかを検討する際には、ステマ告示およびステマ運用基準をいずれも確認する必要がある。
従前の記事(「景品表示法に関する2021年・2022年の動向概観[後編]」)にて、ステマ告示およびステマ運用基準の概要に少し触れたが、後記⒉でステマ告示の指定する不当表示に関する措置命令を確認するのに先立ち、改めて少し確認する(後記(2))。執筆時点(2024年9月30日)においてQ&Aは公表されていないが、後日公表された際には改めて整理を行いたい。
(2) ステマ告示および運用基準の概要
ステマ告示では、以下の要件1および2を満たす表示が不当表示と指定されている。
・ 事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であること(要件1)
・ 一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの(要件2)
まず、事業者が「表示内容の決定に関与」した場合には、「事業者が…行う表示」に当たり、要件1を満たす(ステマ運用基準第2 柱書)。要件1は、(供給要件を満たすことを前提に)表示行為要件(「景品表示法に関する2021年・2022年の動向概観[後編]」Ⅱ2.(1)(b))を満たすかというものであり、ベイクルーズ事件高裁判決(東京高判平成20年5月23日・平成19年(行ケ)第5号)を踏まえたものである(ステマパブコメ回答注6No.17)。
要件1を満たす場合は、供給要件および表示行為要件を満たすため、対象表示についてステマ告示の要件2を満たすか否かだけでなく、優良誤認表示や有利誤認表示等の不当表示とならないようにする必要がある。
次に、要件2に関し、一般消費者にとって、
① 事業者が行う表示であることが明瞭である場合
② 社会通念上明らかである場合
には、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」であることを判別することが困難とはいえず、要件2を満たさない。
上記場合に当たるかは、一般消費者を基準として、「表示内容全体から判断」される(ステマ運用基準第3柱書)。
(3) 行政指導事例
消費者庁は、後記⒉の措置命令を行うまでの間に、いくつかステマ告示の指定する不当表示事例に関し、調査や行政指導を行っていた模様である。消費者庁の2023年度(2023年4月~2024年3月)の景品表示法の運用状況をまとめた資料注7上で、ステマ告示に関する指導事例が2件紹介されていた。
いずれも、以下のように、表示内容を指示しており、要件1該当性は特に議論の余地がない事例のようであった(45頁)。
L社は、空間除菌を標ぼうする商品(以下「本件商品」という。)を販売するに当たり、SNSのアカウントを保有する第三者に対し、本件商品について投稿するよう依頼し、その内容についても指示することなどにより、室内のウイルス・菌を除去する等と表示させていたことから、当該表示はL社が供給する商品の取引について行う表示(以下「事業者の表示」という。)と認められた。また、前記の表示には、事業者の表示であることが不明瞭な方法で記載されており、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているとは必ずしも認められなかった。
ステマ告示の指定する不当表示に関する措置命令
(1) Googleマップ上での口コミ投稿関与事例
ステマ告示施行後初の措置命令注8は、ステマ告示施行から8か月間ほど経過後の2024年6月6日に行われた。医療法人社団が、Googleマップ上の第三者による口コミ投稿の内容を指示し、その内容に対し対価を提供した事例に関するものである。
対象の医療法人社団は、クリニックにて提供する診療サービスに関し、第三者に対し、「Googleマップ」内の「プロフィール」表示における口コミ投稿欄のクリニックの評価として、「★★★★★」(星5)または「★★★★」(星4)の投稿をすることを条件に、当該第三者がクリニックに対して支払うインフルエンザワクチン接種費用から割り引くことを伝え、これに応じて当該割引を受けた第三者は、星5の投稿をしているまたは投稿していた。そのため、医療法人社団は上記投稿に関する表示内容の決定に関与しており、当該投稿による表示について要件1を満たすと判断された。
また、当該表示について、表示内容全体から一般消費者にとって事業者が行う表示であることが明瞭になっているとは認められず、要件2を満たすと判断された。
ステマ告示制定時には、専らいわゆるインフルエンサーマーケティングへの影響が話題に挙がるとともに、要件1を満たすかの判断が容易でない事例が多く検討されていたように思われるが、本件は、医療法人社団が、表示内容を指示しつつ、表示内容に対する対価を提供したという事例であり、要件1該当性について異論はないだろう。
ただし、Googleマップ上の投稿についても(当然ながら)景品表示法の表示規制が適用されることが示された点には改めて注意が必要である。
(2) 関与したSNS投稿の自社ウェブサイト上での引用事例
ステマ告示施行後2件目の措置命令注9は、いわゆるコンビニジムサービスに関し、運営企業が第三者に対して対価を提供して依頼したSNS投稿を、自社ウェブサイトに引用したという事例に関するものである。
問題となったのは、インフルエンサー等のInstagram投稿自体ではなく、その投稿を掲載した自社ウェブサイトの表示である。
当該企業は、自社が運営するコンビニジムサービス全般について、第三者に対して、対価提供を条件に、Instagram投稿を依頼していた。また、その依頼を受けた第三者によるInstagram投稿を、自社ウェブサイトの「お客様の声」との表示箇所に掲載する際、自らが依頼した投稿であることを明らかにせず抜粋して表示していた。
この事例について、消費者庁は、当該企業が行った表示であり(要件1を満たす)、一般消費者にとって事業者が行う表示であることが判別困難であるため(要件2を満たす)、ステマ告示の指定する不当表示に当たると判断した。
対象企業の関係企業のリリース注10によると、SNS投稿自体では、事業者が行う表示であることが示されていた(要件2を満たさない)ようである。
もっとも、ステマ運用基準第3の2(2)オ(ア)では、「事業者自身のウェブサイトであっても、ウェブサイトを構成する特定のページにおいて当該事業者の表示ではないと一般消費者に誤認されるおそれがあるような場合」には、当該第三者の表示は事業者の表示であることを明瞭に表示しなければならないとされている。本件では、この点の対応が不十分であると判断された可能性がある。
近時のNo.1表示に関する措置命令および消費者庁No.1表示報告書
公正取引委員会が景品表示法を所管していた2008年6月、「No.1表示に関する実態調査報告書注11」が公表された注12。同報告書では、No.1表示が優良誤認表示や有利誤認表示に該当しないようにするには、次の2つの要件を満たす必要があるとされている(第4の3)。
1 No.1表示の内容が以下(A)(B)いずれかを満たす客観的な調査に基づいていること
(A)当該調査が関連する学術界・産業界において一般的に認められた方法か、関連分野の専門家多数が認める方法によって実施されていること
(B)社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施されていること
2 調査結果を正確かつ適正に引用していること
(主に、(a)商品等の範囲、(b)地理的範囲、(c)調査期間・時点にズレがないこと。(d)調査の出典の記載も重要)
上記1及び2は、「表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料」(景表法7条2項、8条3項)と言えるためには、(ⅰ)客観的に実証された内容の資料であり(資料の客観性)、かつ、(ⅱ)表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応している資料(表示と資料の整合性)である必要がある、とする不実証広告規制ガイドライン注13第3の1と同様の発想である。No.1表示を行うには、合理的な根拠資料が必要となる注14。
2023年度(2023年4月~2024年3月)に行われたNo.1表示に関する措置命令事例は、以下のとおり計13件であった(消費者庁資料注154頁から抜粋)。
ペット用サプリメントに関するNo.1表示事例注16 |
1件 |
健康食品(機能性表示食品)に関するNo.1表示事例注17 |
1件 |
太陽光発電システム機器、蓄電池等に関するNo.1表示事例注18 |
5件 |
モバイルルーターのレンタルサービスに関するNo.1表示事例注19 |
1件 |
注文住宅の建築請負役務に関するNo.1表示事例注20 |
5件 |
上記各事例は、対象会社や対象商品・役務はそれぞれ異なるが、いずれも、基本的に「満足度」またはそれに近いものの第1位を示し、あたかも、実際に利用したことがある者に対する調査の結果において第1位であるかのように表示がされていた点で共通している。
しかし、各社が委託した調査会社による調査は、実際に利用したことがある者であるかを確認せず、対象商品・役務と同種商品・役務を提供する特定事業者の商品・役務のみを任意に選択して対比し、それらのウェブサイトの印象を問ういわゆる「イメージ調査」であり、客観的な調査に基づかない、と判断された。また、調査結果を正確かつ適正に引用していなかった、ということも指摘されている。
消費者庁は、上記のように、第三者の主観的評価を指標とするNo.1表示(「主観的評価にょるNo.1表示」について数多くのNo.1表示について措置命令を行うとともに、その実態を調査し注21、2024年9月26日に、消費者庁No.1表示報告書を公表した。
同報告書では、主観的評価によるNo.1表示を行う場合に実施する主観的評価の調査が合理的な根拠と認められるためには、少なくとも以下①~④の要件を満たす必要があると指摘されている注22(第3の1)。このうち要件①~③は、上記「No.1表示に関する実態調査報告書」の指摘する要件1(合理的根拠資料と言えるかに関する要件(ⅰ))に対応するものである。
① 比較する商品等が適切に選定されていること
(No.1を訴求する以上、原則として、主要な競合商品・役務を比較対象とする必要がある)
② 調査対象者が適切に選定されていること
(表示内容から認識される調査対象者を選定する必要がある→「顧客満足度」を示す場合は実際に商品・役務の利用者を対象に調査する必要がある)
③ 調査が公平な方法で実施されていること
(恣意的な調査とならないようにする必要がある)
④ 表示内容と調査結果が適切に対応していること
なお、No.1表示に関しては、そのもととなるリサーチを行うリサーチ会社が存在するが、当該リサーチ会社については、景品表示法5条が規制しているのは「自己の供給する商品又は役務」に関する不当表示であるため、5条違反として措置命令や課徴金納付命令の対象とはされない。後記の景品表示法改正により直罰規定が新設され(48条)、供給要件を満たさない者にも刑法65条を介して共犯が成立するという理論的な余地はあるものの注23、景品表示法違反の刑事事件がどの程度取り上げられるかは不明であり、実効性は不透明である。
そのような中、今後、改めて、「自己の供給する商品又は役務」という要件の是非自体が検討される必要があると考えられる(「景品表示法検討会」では、「中長期的に検討すべき課題」として整理された注24)。
(参考)No.1表示に関する特商法に基づく業務停止命令および指示
消費者庁は、2024年3月15日に、通信販売事業者に対し、特商法の誇大広告と最終確認画面での表示義務違反を理由に、3か月間の業務停止命令および指示を行った注25。
対象事業者は、商品販売サイト上の対象商品に関するランディングページ(検索結果や広告等を経由して消費者が最初にアクセスするページ)に、「満足度が高いダイエットドリンクNo.1」等と記載し、対象商品と類似商品の実際の体験者を対象に対象商品と類似商品に関する評価項目をそれぞれ公平・公正な方法で調査した結果、10項目の順位がそれぞれ第1位であるかのように示す表示を行っていた。しかし、委託業者による調査は、対象商品と類似商品4商品を選定し、それぞれの特徴を文章で示し、当該10項目についてその特徴の印象を問うというものであり、また委託事業者の登録会員を対象に行われたものであり、対象商品や類似商品の実際の体験者に限り公平・公正な方法で行われたものではなかったと認定された。そのため、誇大広告であると判断された。
表示内容やそれに関し行われたとされる調査自体は、前述の景品表示法に基づく措置命令事案と変わらないように思われるが、本件では、特商法による執行が行われた。景品表示法の措置命令も、対象表示や同様の表示を禁止するもので事業への影響は大きいが、特商法の業務停止命令は、関連事業の停止を命じるものであり、新規の販売活動も行えなくなり、事業への影響は甚大である。適正なNo.1表示を行うよう留意する必要性が高い。
定義告示運用基準の改正(買取サービスの取扱い)
景品表示法の表示規制は、事業者が、「自己の供給する商品又は役務の取引」について、優良誤認表示、有利誤認表示、指定告示に基づく不当表示のいずれかに当たる表示をしてはならない、というものである(法5条)。
また、景品表示法の景品規制は、事業者が「景品類」を「提供」する場合に関し、景品類の提供に関する事項の制限や禁止を内容とする(法4条、懸賞制限告示注262~4および総付制限告示注271)。「景品類」とは、「顧客を誘引するための手段として、方法のいかんを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に附随して相手方に提供する……経済上の利益」をいい、「正常な商慣習に照らして値引又はアフターサービスと認められる経済上の利益及び正常な商慣習に照らして当該取引に係る商品又は附属すると認められる経済上の利益」は含まれない(定義告示注281)。
これらのように、表示規制および景品規制のいずれも、「自己の供給する商品又は役務の取引」に関するものであることが要件とされている(供給要件)。
従前、定義告示運用基準3(4)では、「自己が商品等の供給を受ける取引(例えば、古本の買入れ)は、「取引」に含まれない」と明示されていた。「取引」に含まれないという文言ではあるが、供給要件を満たさないという趣旨であると考えられる。
もっとも、事業者が表示した金額と実際の買取金額に乖離がある広告についての消費者トラブルなど、買取サービスに関する消費者トラブル事例が生じている。
そのような事情も踏まえ、景品表示法検討会では運用基準改正の必要性が指摘され、2024年4月18日に定義告示運用基準注29が改正された。
具体的には、「自己が一般消費者から物品等を買い取る取引も、当該取引が、当該物品等を査定する等して当該物品等を金銭と引き換えるという役務を提供していると認められる場合には、「自己の供給する役務の取引」に当たる」とされた(3(4))。
「自己の供給する役務」の範囲に関して、定義告示運用基準改正に際してのパブコメ回答注30では以下のように示されている(No.52)。運用基準およびパブコメ回答では、「査定」を行うか否かが、「自己の供給する役務」に該当するかに関する重要な指標とされていると考えられる。
「役務」に該当するか否かは、個別具体的な事案に応じて判断されますが、一般論として、金券ショップが、特段の査定を行うことなく、10,000円分の商品券を常時9,500円で一般消費者から買い取る旨を表示して取引をしている場合、そのほかに一般消費者に対して労務・便益を提供していると認められる事情がなければ、自己の供給する「役務」の取引には当たらないと考えられます。
たとえば次のような事例について、買取サービスという「役務」を「供給」していると評価しうるとされており(景品表示法検討会報告書注31第2の1(6) イ参考資料6〔26頁〕)、当該役務に関する表示を行う場合には、表示規制が適用される(不当表示を行わないよう特に注意が必要である)。
1 折込広告に買取実績として着物が50万円などと記載してあったので、不要な着物を買い取ってもらおうと来てもらった。一枚一枚査定をしていたので一枚当たり1万円くらいにはなるのかと思っていたら、100円から高くても1,000円ほどで、数十点あったのに全部で9,000円ほどにしかならなかった。
2 ヒーターの処分をするため、インターネットで買取業者の広告を見て電話をかけ、家に来てもらった。広告には「家にあるものなんでも、壊れていても負担ゼロ」と書いてあったが、「古いので買取できない、逆に処分費が必要だ」と言われた。その後「何か貴金属を買取に出してくれたら処分費は無料で良い」と言われた。
また、当該供給役務の取引に付随して利益を提供する場合は、景品規制を遵守する必要がある(取引の価額に関する考え方について、景品に関するQ&Aの景品類Q7で整理されている)。
景品表示法改正法成立と改正法施行に向けた下位法令や運用基準の公表
2023年景品表示法改正の概要および施行準備
2023年に景品表示法改正法が成立し、2024年10月1日から施行されている。その施行に必要な対応として、主に、内閣府令の改正・新設やガイドラインの改正・新設が行われた。
① 「不当景品類及び不当表示防止法施行規則」の改正
② 「不当景品類及び不当表示防止法の規定に基づく確約手続に関する内閣府令」(確約府令)の新設
③ 「確約手続に関する運用基準」(確約手続運用基準)の新設
改正法の概要は従前の記事(「景品表示法に関する2021年・2022年の動向概観[後編]」Ⅳ)でも触れたが、当該概要および上記①~③について、消費者庁ウェブサイトに解説動画およびその資料が掲載されている注32。
上記①は、課徴金額の売上額の推計(景品表示法8条4項)、課徴金制度における返金措置の弾力化(同10条1項)、適格消費者団体による資料開示要請等(同35条1項)に関し、手続きや詳細を整備するものである。②は、いわゆる確約手続注33に関する手続や書式を整備するものである。また、③は、確約手続の運用に関する消費者庁の考え方を整理したものである。
上記①~③いずれも、企業がマーケティング活動を行う平常時には関わるものではなく、景品表示法に抵触する行為をしたまたはそのおそれのある行為をした場合に関わるものではあるが、特に③については、景品表示法違反のリスクに関わるものであり、実際の確約手続運用基準を、上記資料とともに一読しておくことが有用である。確約手続に関して、実際に認定が行われた事例がまだ登場しておらず具体的な運用は見えないところもあるが、確約手続運用基準とともに、少し概要を整理する。
確約手続に関する概観
(1) 手続の概要
確約手続の概要は、以下のようなものである(消費者庁ウェブサイトに掲載された解説動画の資料4頁に、確約手続の流れを示す図が掲載されている)。
(ⅰ)消費者庁は、調査開始後、景品表示法の違反行為と疑うに足りる事実がある(またはあった)場合に、一般消費者の自主的かつ合理的な商品・役務の選択を確保するうえで必要があると認めるときには、疑いの理由となった行為をした者に対し、一定事項を「書面により通知」する(景品表示法26条、30条)。
(ⅱ)上記(ⅰ)の通知を受けた者は、(対象行為を継続している場合は対象行為および)その影響を是正するために必要な措置に関する計画(対象行為終了前の場合は「是正措置計画」、対象行為終了後の場合は「影響是正措置計画」)を、当該通知から60日以内に提出し、認定の「申請」を行うことができる(同27条1項、31条1項)。
(ⅲ)消費者庁は、上記(ⅱ)の申請を受けた場合、是正措置計画または影響是正計画について、(あ)(対象行為および)影響の是正に十分であり(措置内容の十分性)、(い)確実に実施されると見込まれる(措置内容の確実性)という認定基準に適合するときは、「認定」する。適合しないときは、「却下」する(同27条3項、31条3項)。
(ⅳ)上記(ⅲ)の認定がされた場合、対象行為について、措置命令および課徴金納付命令は行われない(同28条、32条)。
(ⅴ)認定を受けた計画に従って措置を実施しない場合等には、認定は取り消され、調査が再開される(同29条、33条)。その場合、措置命令や課徴金納付命令を受けることがある。
(2) 確約手続の開始・相談
法律上は、上記(ⅰ)(ⅱ)のように、消費者庁からの「通知」を受けて認定申請を行うとされているが、確約通知の内容を確認してから60日以内に方針および計画の内容を検討し、消費者庁が認定する内容の計画をもって申請を行う、ということは困難である。
現実的には、調査開始の連絡を受けた事業者が、確約手続の申請を行いたい場合には、消費者庁からの「通知」を待たずに、「調査を受けている行為について、確約手続の対象となるかどうかを確認したり」、「確約手続きに付すことを希望する旨を申し出たり」するなど(確約手続運用基準3)、消費者庁に事前に相談し、協議を経て、消費者庁が「一般消費者の自主的かつ合理的な商品・役務の選択を確保するうえで必要があると認めるとき」に通知を受けるという流れが想定される。
(3) 確約手続の対象
確約手続運用基準では、消費者庁が、個別具体的な事案ごとに、確約手続により問題を解決することが一般消費者による自主的かつ合理的な商品および役務の選択を確保するうえで必要があるか否かを判断する、とされている(確約手続運用基準5柱書)。
確約手続運用基準には、次の2つの場合は確約手続の対象外となる旨が記載されている(確約手続運用基準5(3))。
① 調査開始の通知を受けた日等基準日から10年以内に「法的措置」を受けたことがある場合
② 「表示について根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っているなど、悪質かつ重大な違反被疑行為と考えられる場合」
上記①の「法的措置」は「措置命令又は課徴金納付命令」を指す(確約手続運用基準1)。その「法的措置」は確定していることが必要だが、当該法的措置の対象となった違反行為と、調査対象となる違反被疑行為との同一性や類似性は要件とされていない。そのため、仮に、ステマ告示の指定する不当表示を行い措置命令を受け、それから10年以内に優良誤認表示に関する調査を受ける場合、確約手続の対象外となる(上記定義告示運用基準改正に際してのパブコメ回答No.19~22、24・25でも確認されている注34)。
(4) 措置内容の十分性および確実性
確約手続運用基準では、措置内容の十分性や確実性を満たすために「必要な」措置と「有益な」措置(さらにそのうち「重要な事情」)に分けて、措置が例示されている。
いずれも個別具体的な事案ごとに判断され、「事案によっては、単独の確約措置で認定要件に適合する場合もあるが、複数の確約措置を組み合わせなければ認定要件に適合しない場合もある」とされており、事案ごとに消費者庁と協議していく必要がある(確約手続運用基準6(3)イ)。
ただし、措置内容の十分性に関して、「過去に法的措置で違反行為が認定された事案等のうち、行為の概要、適用条項等について、確約手続通知の書面に記載した内容と一定程度合致すると考えられる事案の措置の内容を参考にする」とされており(確約手続運用基準6(3)ア(ア))、同種事例に関する措置命令の内容を参考にする必要はある。
① 「必要な」措置(確約手続運用基準6(3)イ(ア)~(エ)
ⅰ 措置内容の十分性との関係
違反被疑行為を取りやめること、一般消費者への周知徹底
ⅱ 措置内容の確実性との関係
違反被疑行為および同種の行為が再び行われることを防止するための措置(再発防止策)、履行状況の報告
② 「有益な」措置(確約手続運用基準6(3)イ(オ)~(キ):措置内容の十分性との関係
一般消費者への被害回復(「重要な事情として考慮」)、契約変更(ASPや調査会社との契約内容の見直し等)、取引条件の変更
(5) 確約措置認定の効果・公表
前述のように、確約措置の認定がされた場合、対象行為について、措置命令および課徴金納付命令は行われない(景品表示法28条、32条)。
法的措置を行わず行政指導を行う場合は公表されないのに対し、確約措置認定が行われた場合、その認定自体は公表される。ただし、「景品表示法の規定に違反することを認定したものではないことを付記する」とされる(確約措置運用基準9)。確約手続の申請を行うか否かについて検討する際には、この点も含めて総合的に検討する必要がある。
- 公正取引委員会事務総局「No.1表示に関する実態調査報告書」1頁[↩]
- 消費者庁「中国電力株式会社に対する景品表示法に基づく課徴金納付命令について」(2023年8月30日)。それに次ぐ課徴金額は、12億3097万円である(消費者庁「メルセデス・ベンツ日本株式会社に対する景品表示法に基づく課徴金納付命令について」(2023年3月12日)[↩]
- 日弁連は、かつて、ステマ告示が制定される前に「ステルスマーケティングの規制に関する意見書」(2017年2月16日)を提出し、告示に基づき不当表示として指定すべきとの意見を述べていた。[↩]
- 「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」告示(令和5年3月28日内閣府告示第19号)[↩]
- 「 「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準」(令和5年3月28日消費者庁長官決定)[↩]
- 「「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」告示案及び「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」運用基準案に関する御意見の概要及び当該御意見に対する考え方」[↩]
- 消費者庁「令和5年度における景品表示法等の運用状況及び表示等の適正化への取組」(2024年6月3日)[↩]
- 消費者庁「医療法人社団祐真会に対する景品表示法に基づく措置命令について」(2024年6月7日)[↩]
- 消費者庁「RIZAP株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(2024年8月9日)[↩]
- https://rizap-group.g.kuroco-img.app/v=1723688121/files/topics/1026_ext_05_0.pdf[↩]
- 公正取引委員会事務総局「No.1表示に関する実態調査報告書」[↩]
- 公正取引委員会「(平成20年6月13日)No.1表示に関する実態調査について(概要)」(2008年6月13日)[↩]
- 「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針―不実証広告規制に関する指針―」を指す。[↩]
- No.1表示について、景表法7条2項に基づき合理的根拠資料の提出が求められた事例として、消費者庁「プラスワン・マーケティング株式会社に対する措置命令について」(2017年4月21日)、同「株式会社ARS及び株式会社リュウセンに対する措置命令について」(同年11月2日)がある。[↩]
- 消費者庁「令和5年度における景品表示法等の運用状況及び表示等の適正化への取組」(2024年6月3日)[↩]
- 消費者庁「株式会社バウムクーヘンに対する景品表示法に基づく措置命令について」(2023年6月14日)[↩]
- 消費者庁「株式会社ハハハラボに対する景品表示法に基づく措置命令について」(2023年12月19日)[↩]
- 消費者庁「太陽光発電システム機器等の販売施工業者2社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(2024年2月27日)、「フロンティアジャパン株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(2024年2月29日)、「株式会社エスイーライフに対する景品表示法に基づく措置命令について」(2024年3月5日)、「株式会社SCエージェントに対する景品表示法に基づく措置命令について」(2024年3月7日)[↩]
- 消費者庁「エクスコムグローバル株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(2024年3月1日)[↩]
- 消費者庁「飯田グループホールディングス株式会社ほか4社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(2024年3月1日)[↩]
- 広告等のサンプリング調査、消費者に対するアンケート調査、広告主に対するヒアリング調査が行われた(消費者庁No.1表示報告書第2の1)。[↩]
- 消費者庁No.1表示報告書では、主観的評価によるNo.1表示に加えて、それに近いものとして、「医師の〇%が推奨しています」等と記載された表示(「高評価%表示」)についても言及があり、本文記載の要件②~④を満たす必要があると指摘されている(第4の1)。その際、特に、「調査対象者である医師の専門分野(専門の診療科など)が、対象商品等を評価するに当たって必要な専門的知見と対応していない場合」には問題がある等具体的な指摘も行われている(第4の2)[↩]
- 「最近の景品表示法違反事件をめぐって」公正取引877号14頁〔真渕博消費者庁審議官(当時)の発言〕(2023)[↩]
- 景品表示法検討会「報告書」(2023年1月22日)34頁。真渕博消費者庁審議官(当時)も、将来的な検討対象として発言していた(「最近の景品表示法違反事件をめぐって」公正取引887号8頁(2024))。[↩]
- 消費者庁「特定商取引法違反の通信販売業者に対する業務停止命令(3か月)及び指示並びに当該業者の代表取締役に対する業務禁止命令(3か月)について」(2024年3月15日)[↩]
- 「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年3月 1日公正取引委員会告示第3号)[↩]
- 「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年 3月 1日公正取引委員会告示第5号)[↩]
- 「不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件」(昭和37年6月30日公正取引委員会告示第3号)[↩]
- 「景品類等の指定の告示の運用基準について」(昭和52年4月1日事務局長通達第7号)[↩]
- 「不当景品類及び不当表示防止法施行規則の一部を改正する内閣府令(案)等に関する御意見の概要及び当該御意見に対する考え方」[↩]
- 景品表示法検討会「報告書」(令和5年1月13日)[↩]
- 消費者庁「令和5年改正景品表示法に関する解説動画」[↩]
- 優良誤認表示等の疑いのある表示等をした事業者が「是正措置計画」(法27条1項)や「影響是正措置計画(法31条1項)を申請し、内閣総理大臣から認定を受けたときは、当該行為について、措置命令および課徴金納付命令の適用を受けないこととすることで、迅速に問題を改善する制度。[↩]
- その理由として、定義告示運用基準改正に際してのパブコメ回答No.19では以下のように示されている。
「過去10年以内に法的措置を受けた事業者は、過去の措置命令により再発防止を命じられていると考えられるところ、同命令に基づく体制整備等の取組は、同一の条項(号)に違反する行為に限定されるべきものではありません。加えて、事業者は、景品表示法に違反する行為を未然に防止するために管理上の措置を講ずべき義務を負っているところ(景品表示法第22条第1項)、過去10年以内に法的措置を受けた事業者は、その際に管理上の措置を見直し、徹底すべきであったといえます。それにもかかわらず、当該事業者が、再度違反被疑行為を行ったということは、措置命令に基づく取組が不十分であった可能性が高いものと考えられます。
このような事業者については、自主的な対応による違反被疑行為等の迅速な是正を期待することができず、違反行為を認定して法的措置をとることにより厳正に対処する必要があることから、一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する上で必要があると認めることができないため、確約手続の対象としないこととしております。」
[↩]
古川 昌平
弁護士法人大江橋法律事務所 パートナー弁護士
2003年立命館大学法学部卒業。2006年同志社大学法科大学院修了。2007年弁護士登録。大江橋法律事務所(大阪事務所)。2014年4月~2016年3月任期付職員として消費者庁にて勤務し、景品表示法改正法の立案や同法施行準備業務等を担当。同年4月~大江橋法律事務所(東京事務所)。景品表示法に精通し、表示規制や景品規制に対応したコンサルティングや消費者庁の調査対応で多くの企業をサポートするだけでなく、数多くのセミナー、著作を手がける(主な著書:『実務担当者のための景表法ガイドマップ』(商事法務、2024年)、『エッセンス景品表示法』(商事法務、2018年))。
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