特定商取引法・預託法改正法の解説[2] - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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※ 本稿は、2021年6月に公開したものに最新の情報をアップデートしたものです。特に大きな更新部分については、下線にて明示しています。

はじめに(再掲)

「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」(以下「改正法」という)が、2021年6月9日、参議院本会議において可決成立し、6月16日に公布された注1
消費者庁の「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」の令和2年8月19日付報告書(以下、「検討委員会報告書」という)においては、

① 近年トラブルが急増している定期購入商法に対する対策として特定商取引法(「特定商取引に関する法律」。以下、「特商法」ともいう)の通信販売の規制強化

② 注文も受けていないのに商品を送り付けて代金を請求する送り付け商法(特商法59条)の規制強化

③ 現物まがい商法のジャパンライフ事件等への対策として預託法(「特定商品等の預託等取引契約に関する法律」。改正法によって、改正施行後は「預託等取引に関する法律」に改称)について販売を伴う預託取引の原則禁止

④ 行政処分を消費者被害の回復に活用できるようするため消費者裁判特例法(「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」)の一部改正

などが提言された。本改正法はこれらを盛り込んだものである。
これに加えて、「デジタル社会の推進」という政府の方針に基づき、

⑤ 電子メール等によるクーリング・オフ通知を認める規定

⑥ 訪問販売等の契約書面交付義務について電磁的方法による提供を認める規定

が突然盛り込まれた。このうち書面交付義務の電子化については、消費者被害を拡大するおそれがあるとして消費者団体等から反対意見が続出した。
改正法は、今後、政省令の改正により内容を具体化する段階に移るが、本稿では、主な法律改正事項の要点と国会審議を通じて示された政省令改正の方向性を紹介することにより、事業者として対応すべき課題を2回に分けて整理する。
なお、改正法の施行時期は、本体部分は公布後1年以内で政令で定める日(2022年6月1日)とされ(改正法附則1条柱書)、送り付け商法(特商法59条)に関する改正事項は公布日から20日を経過した日(7月6日)とされ(改正法附則1条2号)、書面の電子化に関する規定(特商法4条等)は公布後2年以内で政令で定める日(附則1条3号)とされている。

前回は、上記①~⑥の改正項目のうち①~③について紹介した。今回は、残る④~⑥、すなわち「集団的被害回復のための行政処分の資料提供」「クーリング・オフの通知の電子化」「書面交付義務の電子化」について述べる。

改正法の本体部分(2022年6月1日施行)に関する改正政省令が2022年1月4日に公布され、改正通達(別添ガイドラインを含む)が同年2月9日に公布された(いずれも6月1日施行)。これらの要点を補充する。なお、書面の電子化に関する政省令は、現在、消費者庁「特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会」において審議されている。

集団的被害回復のための行政処分の資料提供

行政庁による業務停止命令等の行政処分は違法な営業活動を中止させる命令であり、違法な営業活動による収益を被害者に返還させる権限はない。現行の消費者裁判特例法により、国の認定を受けた特定適格消費者団体は、集団的な被害回復のための訴訟提起と被害回復手続を行う権限が認められている(同法3条、56条)が、民間関係者による団体に過ぎないため、対象事業者の事業活動の違法性を立証する情報を独自に収集する手段はほとんどないに等しい。そのため、大規模消費者被害を引き起こす事業者に対し国が行政処分を行っても、被害者への被害回復につながらないケースがしばしば発生してきた。
改正法は、特定適格消費者団体が集団的被害回復の裁判手続を適切に追行するために必要であるとして請求した場合、国は、特商法または預託法による行政処分に関して作成した書類を提供することができるものと定めた(改正消費者裁判特例法91条)。
現在、特定適格消費者団体は3団体注2のみであり、集団的被害回復の裁判手続に適する対象事案の要件が限られているため、ただちに利用が広がるとは考えにくいが、違法な事業活動によって得た収益を被害者に返還する手続が円滑に進められるよう、連携が期待される。

クーリング・オフの通知の電子化

クーリング・オフ制度は、訪問販売法等の特商法の取引類型(通信販売を除く)および預託法の預託等取引について、所定の期間内(8日・20日・14日)に、「書面により」解除の通知を発送することと定められている。この点について、今回の改正において、書面のほかに電磁的方法による通知でもよいことが追加された(改正特商法9条1項ほか各取引類型、改正預託法8条1項)。これは、消費者にとってはクーリング・オフの通知がしやすくなるメリットがあり、事業者としては電子メール等によるクーリング・オフ通知を適切に確認し対応することが求められる。
もっとも、この点は、デジタル社会の推進による新たなルールというよりも、以前から判例・学説注3では口頭の通知でも解除の意思表示が証拠上明らかであれば有効と認めると解釈されてきたところであり、これを法文上に電磁的方法を利用できることを明確化したという意味で理解すべきである。
なお、当初の国会提出法案は、電磁的方法による通知については発信日に解除の効力が発生するという規定から除外されていた(国会提出法案による特商法9条2項等)。その場合、特商法・預託法に特則がなければ民法97条の原則に戻って到達主義となるため、たとえば、行使期間内に電子メールを発信したが、プロバイダー側の原因により事業者のサーバーに到達する日付が遅れた場合、クーリング・オフの効力が発生しないことになってしまうという問題点が国会審議の中で指摘された。こうした批判を踏まえ、衆議院において修正案が可決されたことにより、書面の場合も電磁的方法の場合も発信日に解除の効力が発生する旨明記された(改正特商法9条2項等)。
電磁的方法によるクーリング・オフの通知方法は、電子メール、SNS、FAXなどが想定されるところ、販売業者が合理的な範囲内でその方法を特定し契約書面に記載することは許されるが、たとえば勧誘段階では電子メールを利用しているのにそれを認めないものと定めるようなことは、消費者に不利な特約として無効になると解される(政省令のパブリックコメントに関する消費者庁の見解・施行規則6条関係参照)。

書面交付義務の電子化

デジタル社会の推進と改正法案

2020年11月9日開催の規制改革推進会議成長戦略ワーキンググループ会議において、オンラインによる英会話指導契約を例示して、書面交付義務のためにオンラインで契約が完結しないことについて電子化を検討されたいという問題提起があった注4。ところが、消費者庁から提案された改正法案は、デジタル化による消費者の利便性の向上という説明により、特商法・預託法の書面交付義務のすべてを電子化する規定であった。
改正特商法4条等に定められている電子化の要件は、書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、申込者の承諾を得て、電磁的方法により提供することができる、というものである。

消費者保護機能の低下のおそれと国会審議

特商法や預託法は、不意打ち勧誘や利益誘引勧誘によりトラブルが多発する取引類型について、書面交付義務により契約内容やクーリング・オフの存在を告知し、頭を冷やして考え直す機会(クーリング・オフ)を与える法制度である。これに対し、詳細な契約条項が手のひらサイズのスマートフォンに届いても、クーリング・オフの存在に気付かないまま行使期間を経過してしまうおそれが強いこと、高齢者の訪問販売トラブルについて見守り関係者が契約書面を発見して被害救済に結びつける「高齢者見守りネットワーク」の取り組みを消費者庁自身が推進していることと矛盾する結果を招くことなど、批判が相次いだ。何よりも、事前に何ら議論する場を設けることなく、デジタル社会の推進とは直接関係しない対面販売類型まで一律に導入することに対し、厳しい反発を招いた注5
国会審議の場でも書面の電子化によって消費者被害を拡大するおそれが強いことが繰り返し批判され、書面の電子化の規定の適用範囲をオンライン契約類型に限定すべきことや、電子化を認める要件である消費者の「承諾」について被害拡大を防止できるよう慎重に定めることが指摘された。これに対し、政府・与党は、適用範囲の限定には一切応じなかったが、施行時期を1年先送りして公布後2年以内とする修正に応じた(改正法附則1条3号)。
また、電子化の「承諾」の要件について、「口頭や電話による承諾は認めないこと」や、「オンラインで完結する分野は電子メールで、それ以外のものは当面紙で承諾を得た上で手交することも考えられる」「一定年齢以上の方の場合には家族などの第三者のメールアドレスにも送付することを行わせること」「ウェブページでチェックを入れるだけで承諾を取ることは認めない」「承諾を取る際に、電磁的方法で提供されるものが契約内容を記した重要なものであること、それを受け取った時点がクーリング・オフの起算点となることを明示的に示すこと」などが考えられる旨答弁した注6
参議院附帯決議の1項は、「消費者が承諾の意義・効果を理解した上で真意に基づく明示的な意思表明を行う場合に限定されることなど、書面交付義務が持つ消費者保護機能が確保されるよう慎重な要件設定を行うこと」を要請している。また、同2項は、承諾要件を検討する場について、「悪質業者の手口や消費者被害の実態を十分に踏まえた上で、学識経験者、消費者団体、消費生活相談員等の関係者による十分な意見交換を尽くすこと」を要請した。
これを受けて、消費者庁は、「特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会」を設置し、2021年7月30日から19関係団体・個人のヒアリングを行うなどして検討を進めているところであり、2022年夏頃に検討会報告書を取りまとたうえで政省令が作成される見込みである。
検討会における主な論点は、第1に、電子化の承諾について真意に基づく明示的な意思表明を確保するため、どのような要件を定めるかである。消費者団体等は、不意打ち勧誘や利益誘引取引において不本意な承諾とならないよう、

① 原則として書面による承諾取得と承諾書控えを交付するものとし、トラブルが比較的少ないオンライン完結型の特定継続的役務提供に限って電磁的方法による承諾取得を認めること

② 承諾の取得に際し、提供する電子データが書面に変わる重要なものであり、その受領日がクーリング・オフの起算日となることを説明・記載すること

③ 消費者が電子メールの受信・添付ファイルの閲覧・保存等の知識・経験があることの適合性を確認すること

などを求めている。これに対し、事業者団体側は、デジタル社会の推進の政府の政策の中で過重な要件としないことを求めている。
第2に、電子データの提供方法とクーリング・オフの起算点の取扱いである。消費者側は、電子メールが電子機器のサーバーに記録された時点では、消費者自身によるダウンロードも開封もしないままクーリング・オフが進行することとなり適切でないとし、消費者が実際に電子データを閲覧した時または返信メールを送信した時とするか、事業者が消費者に対し電子データの閲覧を確認した時とすべきであると求めている。これに対し事業者団体側は、電子データの提供に関する他の法令と比べて過大な要件としないことを求めている。
第3に、高齢者の場合、電子データの提供に当たり家族その他の第三者に電子データの同時送信を認めるか否かである。消費者団体側は、高齢者が希望した場合には家族等への同時提供を認めるべきであると求めている。事業者団体側は、高齢者の自己決定権を害さないことが必要であると指摘している。

*    *

以上、2回にわたって、今回の特定商取引法・預託法の改正について紹介した。
今回の法改正対象である販売預託商法、定期購入商法、送り付け商法について、冒頭で触れた消費者庁の検討委員会報告書は、「消費者利益の擁護及び消費者取引の公正確保の推進のため、消費者被害を発生させる悪質事業者(「共通の敵」)にターゲットを絞った実効的な規制等を新たに措置する抜本的な制度改革を実行すべきである」と捉えている。他方で、「明確な規範(「共通の基盤」)を予め定立することによって、予見可能性を高め、創意工夫に満ちた健全な市場の創設及び発展を図ることができる」と述べている。施行後のトラブル防止の動向が注目される。他方で、書面の電子化に関する政省令の検討は、デジタル社会の推進という政策目標と書面交付義務およびクーリング・オフ制度の消費者保護機能の確保との関係をどう見るのかという判断が問われている。


注1  国会提出時法案:「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律案」。修正案:「閣法 第204回国会 54 消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律案に対する修正案」

注2  特定非営利活動法人消費者機構日本、特定非営利活動法人消費者支援機構関西、特定非営利活動法人埼玉消費者被害をなくす会の3団体。

注3  福岡高判平成6年8月31日判時1530号64頁、森島昭夫・伊藤進編『消費者取引判例百選』別冊ジュリスト135号4頁(有斐閣、1995年)〔松本恒雄〕など。

注4  規制改革推進会議成長戦略ワーキング・グループ第3回資料1-1 株式会社Langoo「特定商取引法における書面規制の問題について~オンライン英会話コーチを例にして~」(令和2年11月9日)

注5  全国消費者団体連絡会の集計によると、消費者団体・弁護士会・司法書士会・消費生活相談員団体・労働団体・地方議会等から164の反対意見が寄せられた。

注6  令和3年5月28日参議院・地方創生及び消費者問題に関する特別委員会における高田潔政府参考人の発言(同委員会議事録より)。

池本 誠司

池本誠司法律事務所 弁護士

1978年明治大学法学部卒業。1982年弁護士登録。消費者問題に精通し、埼玉弁護士会会長や、日本弁護士連合会消費者問題対策委員会委員長、東京都消費生活対策審議会会長代理、消費者庁参与、経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会委員、内閣府消費者委員会委員、明治大学法学部非常勤講師、明治大学大学院法務研究科非常勤講師、国民生活センター客員講師、特定適格消費者団体埼玉消費者被害をなくす会理事長等を歴任。

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