はじめに
本連載は、他の法分野と比較しても理解しなければならない規制の内容(許認可・登録・届出、定期報告義務等)が極めて広範でありかつ複雑な環境規制・廃棄物規制について、事業会社が致命的リスクを回避し、ミスのない規制対応・行政対応を行ううえで留意が必要な“盲点”について、数回にわたり解説するものです。
前回(第1回)は、事業者が留意すべき環境・廃棄物規制に関して、「法令と異なる各自治体ごとの環境条例規制と法的リスク」について、事業会社の盲点となるポイントを中心に解説しました。今回は、「事業上生じる副生物・廃棄物を他のビジネスに転用・再利用する場合の留意点」について解説します。
新規ビジネスの可能性を拡げる行政対応
一般事業会社における製造過程で生じる副生物の転用・再利用
廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年12月25日法律第137号))その他の環境・廃棄物に関する法規制は、一般の事業会社が、グループ会社や他社の製品の製造工程で生じる副生物・副産物を他の事業の材料として転用・再利用する場面や、発電燃料資源として利用する場面など、事業上生じた廃棄物の再生・再利用処理においても足かせとなることは少なくありません。特に、再生・再利用のための処理も廃掃法の規制対象となる「処理」に含まれることから、同法に従い適正に処理を行おうとする場合、相当な運搬・処理費用等のコストがかかります。これは、事業会社にとって大きな負担となるばかりか、その金額によっては当該施策・ビジネスが成立しない事態ともなり得ます。
そのため、事業会社としてはできる限り法規制の対象とはならないようなビジネススキームの検討が重要となりますが、仮に法規制の対象となる場合であってもさまざまな制度が存在することから、当該制度や規制を考慮して最適なスキームを検討することができれば、むしろ新たなビジネス参入・拡大の可能性が大きく広がるのです。
もっとも、新規ビジネスの検討(特に環境・廃棄物行政が問題となるケース)においては、悩ましい問題があることから、これらを十分に踏まえた検討が必要となります注1。
廃掃法における「廃棄物」として扱う必要があるかの判断基準
実務上では、たとえば、工場から排出される汚染廃棄物をリサイクル製品・再生製品(例:再生砂・改良土)として取り扱おうと考えた場合に、当該製品が「不要物」(廃掃法2条1項)にあたるかどうか(廃棄物として扱う必要があるかどうか)が問題となり、争われるケースがあります。
廃掃法において、「廃棄物」とは、「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの」をいい(廃掃法2条1項)、事業活動に伴って生じた「廃棄物」のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物等を「産業廃棄物」といいます(廃掃法2条4項)が、実務上、「廃棄物(不要物)」にあたるか否かの基準については、以下のように説明されています。
廃棄物とは、占有者が自ら利用し、又は他人に有償で譲渡することができないために不要となったものをいい、これらに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱形態、取引価値の有無および占有者の意思等を総合的に勘案して判断すべきものである。
ア 物の性状
利用用途に要求される品質を満足し、かつ飛散、流出、悪臭の発生等の生活環境の保全上の支障が発生するおそれのないものであること。
イ 排出の状況
排出が需要に沿った計画的なものであり、排出前や排出時に適切な保管や品質管理がなされていること。
ウ 通常の取扱形態
製品としての市場が形成されており、廃棄物として処理されている事例が通常は認められないこと。
エ 取引価値の有無
占有者と取引の相手方の間で有償譲渡がなされており、なおかつ客観的に見て当該取引に経済的合理性があること。
なお、実際の判断にあたっては、
・ 名目を問わず処理料金に相当する金品の受領がないこと
・ 当該譲渡価格が競合する製品や運送費等の諸経費を勘案しても双方にとって営利活動として合理的な額であること
・ 当該有償譲渡の相手方以外の者に対する有償譲渡の実績があること
等の確認が必要である。
オ 占有者の意思
客観的要素から社会通念上合理的に認定しうる占有者の意思として、適切に利用し若しくは他人に有償譲渡する意思が認められること、または放置若しくは処分の意思が認められないこと。
なお、占有者と取引の相手方の間における有償譲渡の実績や有償譲渡契約の有無は、廃棄物に該当するか否かを判断する上での一つの簡便な基準に過ぎない。
この点(廃棄物として扱う必要があるかどうか)に関連し、対象物(産業廃棄物であるかどうかが問題となっている物)を第三者に有償で譲渡していても、当該第三者に対して支払う輸送料や引取料の方が高額な場合は、廃棄物とみるとする「逆有償」という考え方があります。これは、リサイクル製品・再生製品(例:再生砂・改良土)を10万円で販売していたとしても、その輸送料や引取料として販売者が購入者に支払う金額が20万円だった場合、「当該製品の販売者は購入者に対してその差額の10万円で当該製品を引き取ってもらっている(不要なものとして処理してもらっている)のと変わりない」という発想に基づくものです。
実際の例でも、廃棄物のリサイクル製品(埋戻し材)を販売・不法投棄したケースで、当該リサイクル製品の販売金額をはるかに上回る金額の「運搬費、用途開発費、改質加工費」を販売先の業者らに支払っていたことから、同製品が「廃棄物」である(逆有償)と判断された例があります注2。
【事例】逆有償の例(有償で売却しても輸送料の方が高額だと不要物とみる)
・ 再生製品として販売したが、売買金額をはるかに上回る金額の「運搬費、用途開発費、改質加工費」を販売先の業者らに支払っていた(例:売買代金100円、運搬費等800円)ことから、同製品が「廃棄物」と判断された。
リサイクル製品・再生品やその原材料が「廃棄物(不要物)」にあたるか否かの判断、特に「逆有償」となる場合の判断については、ケースバイケースで評価の難しい法的な解釈でもあります。そのうえ、行政解釈と裁判例で結論を異にすることもあり、有償取引でなかったとしても廃棄物(不要物)ではないと判断されることもあることから、弁護士などの専門家に相談することが必要です。また、必要に応じて自治体や官庁に相談、確認すべきでしょう。
致命傷となりうる行政対応のミスと企業・役員の責任
事業者が環境・廃棄物に関する法令や条例に違反した場合には、
① 自治体や官庁から行政処分がなされるリスク(行政処分リスク)
② 刑事責任を問われるリスク(刑事責任リスク)
③ 企業の信用が低下するリスク(レピュテーションリスク)
④ 民事賠償リスク(企業のみならず役員が賠償責任を負うリスク)
があります。
この点については、第1回Ⅳを参照してください。
広範な行政裁量とビジネス上のリスク
京都の事業者の実例
廃棄物(および環境有害物質)の処理・再利用などの手続に関して、
・ 法規制の対象となる廃棄物にあたるかどうか(許認可の要否)
・ さまざまな制度を利用する要件を満たすかどうか(制度利用の可否)
については判断が難しいことも多くあります。
行政においては、第1回でも紹介したとおり、法令・条例のほか、指針・ガイドライン・指導要綱その他が存在するものの、必ずしも明確な基準・解釈が設定されているわけではありません。特に、環境行政においては、自治体の裁量に委ねられている面があり、ある官庁(や自治体)から問題ない旨の見解が提示されたにもかかわらず、他の官庁等から当該見解に従った処理が違法であると判断されるといったケースもあります。
ここで、京都市内で起こった実例(報道内容、公開内容を整理したもの)注3をご紹介します。
【事案の概要】
京都市内に本店を置く産廃処理会社が京都市から許可を得たとする品目以外のがれき、木くずなどと土砂の混合物を汚泥とともに固化処理した再生製品を、滋賀県内の宅地造成地に使用していたところ、当該製品は産業廃棄物であるとして、同者社長が廃棄物処理法違反容疑で京都府警に逮捕された事案(なお、京都地方検察庁は不起訴とした)。
【事業者の見解】
・ 汚泥とともに処理したのは、適法に処理され洗浄された「再生砂」であり、産業廃棄物ではない。
・ 土砂に対する異物の重量比が5%以下にとどまるかどうかを目安にしており、同社を抜き打ち検査した際も異物の重量比は3%で、鉛や水銀など有害物質も基準値内だった。
・ リサイクルする際に異物を100%取り除くことは不可能。基準を厳しくしすぎると、産廃処理事業自体が滞る。
・ なお、環境省廃棄物規制課は「厳密な基準があるわけではないが、リサイクル製品の中に異物が1%でも含まれてはいけないのかと問われれば、必ずしもそこまで求めるものではない」としている。
【京都府警の見解の概要】
・ 造成に使われた土砂の中にがれきや木くずなどの異物が微量でも含まれていれば、産業廃棄物にあたる。
・ 混合物を掘り起こして構成物質を確認したうえで、環境省のガイドラインや他の自治体の判断基準などをもとに産業廃棄物であると判断した。
このように、廃棄物(環境有害物質)の処理に関して、事前に自治体や官庁等から何らかの見解が示された場合であっても、必ずしも「お墨付きが与えられた」とはいえない場合もあります。
大阪の事業者の実例
もう一つ、土壌汚染が検出された事実を告知せずに地上マンションを分譲したことが問題となった大阪の事業者のケースを紹介しましょう。
本件は、平成15(2003)年1月の不動産鑑定評価基準の改正(同年に土壌汚染対策法が施行)前は土壌汚染の存在については宅地建物取引法上の告知義務として明示されていなかったため、土壌汚染が検出された事実を告知せずに地上マンションを分譲した事業者が、告知義務違反を理由に検察官送致までなされてしまったというものです。
本件では、当時、既に環境庁(現環境省)から公害対策基本法(環境基本法)における土壌汚染の環境基準(「土壌環境基準」(平成3年8月23日環境庁告示第46号))が公表されており、土壌汚染の事実を告知すべきことについて業界団体の指針が出されていたことなどを理由に、法令上は明確に告知義務があるとはされていなかったにもかかわらず、このような判断がなされたのです注4。
このように、告知義務の有無など法的解釈や法令適合性の判断は容易ではありません。そのため、「自社のビジネスが環境有害物質や産業廃棄物の処理の規制の対象となるのか」「どのような規制がかかるのか」等、法的な判断が難しいものについては、最新のガイドラインや通知、規制動向や裁判例も踏まえて慎重に検討し、必要に応じて弁護士その他の専門家の意見を踏まえたうえで適切に対応することが重要です。
なお、新規ビジネスにおいて、行政による許認可・登録の要否が問題となるケースは、環境行政にとどまらず、以下に示すように、金融商品取引法に基づく金融商品取引業者(二種業や投資助言業等)の登録や、資金決済法上の資金移動業や暗号資産交換業(仮想通貨交換業)の登録の場面においても同様です。
① 金融商品取引法上の登録なしでの資金調達・事業受託・収益還元
法令上の定義が広く、典型的な集団投資スキーム(いわゆるファンド)ではなくても同法の適用を受ける場合がある(例:金員を拠出する者が委託した事業に関与しないケースなど。1対1のケースも含まれる)。
② 資金移動業の登録なしでの送金類似サービス(投げ銭等)
資金決済法上の送金(為替取引)サービスにあたっては貸金移動業の登録と資金要件等が必要となるため、投げ銭、割り勘アプリなどで問題となる(決済代行であれば規制の対象外となる場合もある)。
③ 景品表示法上の規制違反となる内容の懸賞・ポイントサービス
規制対象となる懸賞やポイントサービスに該当するかなどが問題となる(上限規制もそれぞれ異なるため、注意が必要)。
違反発覚後における行政対応
上記Ⅲ(および第1回Ⅳ)でも指摘したとおり、行政の管轄下において事故等が生じ、事業者に法令違反が疑われる場合には、指導助言、勧告、企業名の公表、措置命令等の行政処分を受けるリスクがあります。
特に、環境有害物質や産業廃棄物の処理に問題があり、事業者が適切な手続を経ていなかった場合には、所管官庁の大臣、都道府県知事、市町村長から、図表1に示すようなさまざまな行政処分がなされる可能性があります。
図表1 主な行政処分
行政処分 |
概要 |
報告徴求 |
廃棄物の保管、収集、運搬、処分等について報告を求める。 |
立入検査 |
施設等に立ち入り、帳簿書類等を検査させ、試験の用に供するのに必要な限度で廃棄物等を無償で収去させる。 |
改善命令 |
廃棄物の保管、収集、運搬、処分の方法変更その他必要な措置を講じることを命じる。 |
措置命令 |
生活環境の保全上支障が生じるおそれがあると認められるときは、期限を定めて支障の除去または発生の防止のために必要な措置を講じることを命じ、自ら支障の除去等の措置を講じ、その費用を徴収する。 |
たとえば、廃棄物の不法投棄を指摘され、県や市により、本社および不正の現場となった工場への立入検査が実施された例があります(事案の詳細については、第1回Ⅳ(岐阜事案)をご参照ください)。当該事例では、不正が行われた企業において自主的に廃棄物を回収する旨の決定を行いましたが、その後に、廃棄物処理法に基づき撤去を求める措置命令(廃掃法19条の5第1項)がなされています注5。このように、行政処分を免れるために企業が自浄努力の姿勢を示して自主的に対策・改善措置を表明したとしても、その内容や対応が適切でない場合には、当該自主的な対応(またはその表明)にかかわらず行政から措置命令を受けることもありえるのです。
事故発生時等においては、行政対応を含めた経験・実績が豊富な専門家にサポートを依頼したうえで、慎重かつ速やかに行政への報告や自主的な対応の検討・実施等を進めることが必要となります。
おわりに
以上、今回は、「事業上生じる副生物・廃棄物を他のビジネスに転用・再利用する場合の留意点」について解説しました。
次回は、「事業会社の盲点となる環境有害物質・廃棄物・温室ガス等の法規制」について紹介します。
→この連載を「まとめて読む」
- 猿倉健司「新規ビジネスの可能性を拡げる行政・自治体対応 ~事業上生じる廃棄物の他ビジネス転用・再利用を例に~」(牛島総合法律事務所 特集記事・2023年1月25日)、「廃棄物のリサイクルを目的とする処理(廃棄物処理)の実務的な留意点」(牛島総合法律事務所 ニューズレター・2020年6月5日)、「バイオマス発電燃料等に関する廃棄物該当性の判断(令和3年度環境省事例集)」(牛島総合法律事務所 Client Alert 2022年12月16日号)。[↩]
- 猿倉健司『不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務』(清文社、2021年)394~396頁。[↩]
- 朝日新聞2019年3月19日付け「土砂か産廃か、京都市・府警で割れた判断 地検は不起訴」、猿倉・前掲注2)399~400頁。[↩]
- 猿倉・前掲注2)484頁。[↩]
- 猿倉・前掲注2)391頁。[↩]
猿倉 健司
牛島総合法律事務所 パートナー弁護士
早稲田大学法学部卒業。2007年弁護士登録。環境法政策学会、第二東京弁護士会環境法研究会のほか、世界最大規模の法律事務所ネットワークであるMULTILAWに所属。環境・エネルギー・製造・不動産分野では、国内外において、企業間・株主間の紛争、行政自治体対応、危機管理対応、新規ビジネスの立上げ、M&A等を中心に扱う。『不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務』(清文社、2021年) のほか、数多くの寄稿・執筆、講演・研修講師を行う。「新規ビジネスの可能性を拡げる行政・自治体対応」、「環境・廃棄物規制とビジネス上の盲点」(いずれも牛島総合法律事務所HP特集記事)、「環境有害物質・廃棄物の処理について自治体・官庁等に対する照会の注意点」(BUSINESS LAWYERS・2020年5月22日)等も。
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