2022年度の展望:リーガルオペレーション&リーガルテック - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに

本連載は、リーガルテック導入やリーガルオペレーションの進化における課題について、法務部長(佐々木)と弁護士(久保さん)が、往復書簡の形式をとって意見交換します。連載第12回は私、佐々木毅尚が担当します。

問いかけへの検討
―2022年度の展望:リーガルオペレーション&リーガルテック

さて、前回の久保さんからの問いかけは以下のとおりでした。

  • 2022年はリーガルオペレーションの観点から法務担当者にとってどのような年になるか?
  • 日々新しい動きが見られるリーガルテックの領域において、どのような動きが期待されるのか?

これらの問いかけについて、私の考えをお話したいと思います。

リーガルオペレーションの最新動向

日本では、2019年頃からリーガルテックが普及しはじめ、現在マーケットは大いに盛り上がっています。この流れの中で、2020年頃から企業法務の世界で「リーガルオペレーション」という言葉が認知度を高め、リーガルテックの導入と並行して法務部門の業務オペレーションを見直していこうという機運が高まりました。
リーガルオペレーション研究で先行する米国では、The Corporate Legal Operations Consortium(CLOC)が「The CLOC Core 12」を公表し、リーガルオペレーションを12の分野に区分し、オペレーションを行う上での考え方を紹介しています注1。また、Association of Corporate Counsel(ACC)は、「MATURITY MODEL FOR THE OPERATIONS OF A LEGAL DEPARTMENT」(法務部門運営のための成熟度モデル)として、リーガルオペレーションを14の分野に区分し、それぞれの成熟度を比較評価する手法を紹介しています注2

法務部門の業務オペレーションは、国によって、法令、文化、組織マネジメントの考え方が異なるため、これらのモデルの考え方は世界共通のものではなく、日系企業の法務部門にとっては、オペレーションになじむもの、なじまないものがあります。米国団体が公表しているモデルを参照しながら、「日系企業の法務部門のオペレ―ションが劣っているのではないか」という議論が行われることがありますが、法令や文化に違いによってオペレーションモデルが異なるということを無視した議論であり、誤った議論であるといえます。特に米国系企業と日系企業はマネジメントスタイルがまったく異なっており、日系企業から見れば米国系企業のモデルは常に斬新に見えますが、それが自社、ひいては日本企業にとって最適な姿というわけではない、ということに注意が必要です。日系企業の法務関係者としては、海外で公表されているモデルのモノマネではなく、日本の法令や文化、日系企業の組織マネジメント体系に根ざした、リーガルオペレーションモデルを考えていく必要があります。

このような課題を背景として、2021年、「日本版リーガルオペレーションズ研究会」が発足しました。メンバーは日本企業の法務部門で活躍する11名で、私もメンバーの一員としてこの活動に参加しています。日本版リーガルオペレーションズ研究会では、日系企業の法務業務オペレーションを

① 戦略

② 予算

③ マネジメント

④ 人材

⑤ 業務フロー

⑥ ナレッジマネジメント

⑦ 外部リソース活用

⑧ テクノロジー活用

の八つの「コア」に区分しています注3。さらに、それぞれのコアごとに3段階のレベルを設定し(レベル1、レベル2、レベル3)、それぞれの到達レベルを解説するとともに、到達の目安となる事例を設定しています。また、2021年12月13日に開催されたオンラインイベント(日本版Legal Operations Core 8 Event)では、これらの詳細を研究成果として紹介しました。
2022年の活動としては、イベントの開催、雑記記事への投稿等の情報発信を通じて、八つのコアを紹介していく予定です。日本版リーガルオペレーションズ研究会は、これからもリーガルオペレーションの研究成果を積極的に公表し、これらが広く浸透することによって、法務業務の品質と生産性が更に改善されることを期待しています。

リーガルテックの動き

リーガルテック業界は、2021年までに主要なサービスが出揃い、現在、激しい競争が繰り広げられています。このような環境の中で、契約審査サービスの「AI-CON」がGVA assistへ、「Lisse」が「LeCHECK」へ、CLMサービスの「Holmes」が「Contracts」へ、サービスの名称を変更しました。各社のサービス名称変更は、ブランドイメージの刷新を意図しており、業界自体が創成期から発展期へ移り、サービス間の競争が激化していることを示しています。また、それぞれのサービス間のAPI連携を中心とした機能連携という動きも加速しています。特に電子契約サービスを中心として、AI契約審査サービス、CLMサービスとの連携が加速しています。

契約書については、電子化とデータ化の流れが一気に加速していくと考えられます。その中で、2022年1月の電子帳簿保存法の改正を契機として、契約書管理サービスが注目されています。この法改正により、契約書原本をPDF化して保存する要件が緩和され、電子契約で締結された契約書の保存要件も変更されました。特に電子契約で締結された契約書については、他社で契約しているベンダーで締結した電子契約データの保存が盲点となり、知らず知らずのうちに法令違反となっているケース注4が散見されるため、注意が必要です。
また、「契約リスク管理」という側面も注目を集めつつあります。従来の契約締結フローでは、締結前にドラフトチェックを細かく行いますが、締結後は契約に対する関心が薄れ、捺印後の契約書はそのまま書庫で眠るケースが一般的でした。そうしたこれまでの運用によって、「契約書の更新を忘れてしまう」「不要な契約を更新してしまう」というミスが多発し、企業活動の中で無駄なコストとリスクが発生しています。今回の電子帳簿保存法改正を契機として、契約書をシステムで管理し、コストとリスクを低減する動きが加速すると予想されます。

最新動向としては、ESGの流れの中で、株主総会、取締役会といったコーポレートガバナンスを支援するサービスが増加しています。特に、株主総会については、昨年から「バーチャルオンリー株主総会」が解禁されたことにより、株主総会を配信するサービスが注目されています。バーチャルオンリー株主総会では、通信の方法等について、経済産業大臣と法務大臣の確認を受ける必要があるため、配信サービスを提供するベンダーとの連携が必須となっています。ベンダー数の増加に伴い、利用企業側はサービスの質を見極めていく必要があるでしょう。

企業法務とリーガルテック

現在、日系企業の法務部門にとって、リーガルテックは特別なツールではなく、一般的に活用されるツールとなりつつあります。特に電子契約は、リーガルテックの中で最も広く浸透しており、導入を拒む企業は少数派となりつつあります。
これまでは「導入検討段階」であった多くの企業も、予算確保にめどをつけ、続々とリーガルテックを導入しています。まさに、法務部門におけるリーガルテックは、「導入」から「運用」へステージ自体が変化しているといえます。これからは、「リーガルテックの運用を考える時代」といってよいでしょう。

これからの運用ステージで大切なものが、冒頭でご紹介した「リーガルオペレーション」です。リーガルテックの導入・運用とリーガルオペレーションの改善は不可分一体の関係にあり、リーガルテックをベースとしたリーガルオペレーションを考える時代が到来しているといえます。

法務部長から弁護士への問いかけ

VUCA時代の法務

最近、ひしひしと、世の中が「VUCA時代」と言われる、不確実で先の読めない時代に突入していると感じます。米中貿易戦争、コロナウイルス問題、タリバン政権の発足、ミャンマーでの軍事クーデター、そしてウクライナ紛争。ここ数年を見ただけでも、大きな事件が多発しています。
これらの出来事は、必然的に経済制裁や行動制限が伴うため、企業活動に大きな影響を与えます。しかし、そのような中でも、企業は事業を継続させるため、限られた情報の中で臨機応変に対処していかなければなりません。
日系企業の法務責任者は、これらの突発的な出来事に対処するため、日常的にどのような対処をしておくべきでしょうか。久保さんのご意見を伺いたいと思います。

→この連載を「まとめて読む」

[注]
  1. CLOCウェブサイト「WHAT IS LEGAL OPERATIONS?」[]
  2. ACCウェブサイト「Legal Operations Maturity Model―Maturity Model 2.0 for the Operations of a Legal Department」[]
  3. 詳しくは、日本版リーガルオペレーションズ研究会「日本版リーガルオペレーションズの八つのコア」NBL No.1191(2021.4.1)4頁以下をご参照ください。[]
  4. 自社をA社、取引相手をB社、B社が採用しているベンダをC社とし、A社とB社での取引関係に関連してB社に発生した業務をC社に委託し、電子契約を交わした場合、B社・C社間の電子契約データをB社・C社のいずれかが保存していなかった場合に、A社が影響を受けることになります。[]

佐々木 毅尚

「リーガルオペレーション革命」著者

1991年明治安田生命相互会社入社。アジア航測株式会社、YKK株式会社を経て、2016年9月より太陽誘電株式会社。法務、コンプライアンス、コーポレートガバナンス、リスクマネジメント業務を幅広く経験。2009年より部門長として法務部門のマネジメントに携わり、リーガルテックの活用をはじめとした法務部門のオペレーション改革に積極的に取り組む。著作『企業法務入門テキスト―ありのままの法務』(共著)(商事法務、2016)『新型コロナ危機下の企業法務部門』(共著)(商事法務、2020)『電子契約導入ガイドブック[海外契約編]』(久保弁護士との共著)(商事法務、2020)『今日から法務パーソン』(共著)(商事法務、2021)『リーガルオペレーション革命─リーガルテック導入ガイドライン』(商事法務、2021)

『リーガルオペレーション革命─リーガルテック導入ガイドライン』

著 者:佐々木 毅尚[著]
出版社:商事法務
発売日:2021年3月
価 格:2,640円(税込)