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はじめに

本連載は、リーガルテック導入やリーガルオペレーションの進化における課題について、法務部長(佐々木)と弁護士(久保さん)が、往復書簡の形式をとって意見交換します。連載第6回は私、佐々木毅尚が担当します。

問いかけへの検討
―契約業務以外で今後、テクノロジー導入が期待される有望な法律業務は何か?

さて、前回の久保さんからの問いかけは以下のとおりでした。

  • 日本企業では、“リーガルテック導入=契約に関するシステム導入”といったイメージがあるように思うが、契約業務以外で今後、テクノロジー導入が期待される有望な法律業務は何か。

この問いかけについて、私の考えをお話したいと思います。

日本におけるリーガルテックの変遷

私が社会人になった1990年代前半の法務部門では、契約書はワードプロセッサーを使って作成していました。また、Eメールも存在しなかったため、法務担当者が契約書のチェックを上司に依頼する際にはドラフトをプリントアウトして紙の状態で上司に渡し、上司はその紙に赤ペンで修正箇所を記載して担当者に戻していましたし、依頼者との契約書ドラフトのやり取りもファックスか郵送で行っていました。こうした事務作業は、“OA機器を活用した事務処理”と呼ばれていました。
1995年にWindows 95が発売されてからは、契約書の作成は“パソコン+MS Word”が中心となり、上司や依頼者とのコミュニケーションもEメールで行うことが主流となりました。こうして、法務部門での事務作業は、ワードプロセッサーと紙を使う時代から、パソコン、ソフトウエアとEメールを使う時代へと大きな進化を遂げたのです。
現在は“SaaS(Software as a Service)”と呼ばれるインターネットを通じて提供されるサービスが主流となり、契約書に関する事務作業もSaaS型サービスを活用することが一般的となりました。現在のリーガルテックサービスの多くも、SaaS型サービスとして提供されています。

現在のリーガルテック

“リーガルテック”とは、“法律(リーガル)”と“技術(テクノロジー)”を組み合わせた言葉で、日本では2018年頃から多くのベンダーがサービスを提供しており、マーケットは大いに盛り上がっています。図表1に示すような現在の製品動向を見てみると、大要、以下の(1)(6)のようなものが主なサービスとして提供されています。

図表1 主なリーガルテック

契約・文書管理支援 クラウドサイン
DocuSign
電子印鑑GMOサイン
Signing
NINJA SIGN
MNTSQ for Enterprise
LegalForce
LeCHECK
LAWGUE
AI-CON Pro
Hubble
ホームズクラウド
BUNTAN
RICOH Contract Workflow Service
リサーチプラットフォーム Legalscape
LEGAL LIBRARY
ASONE
Practical Law
D1-Law
企業法務弁護士へのアクセスプラットフォーム byLegal
AI自動翻訳 T-4OO
eディスカバリ支援 FRONTEO
Consilio
ケーエル・ディスカバリ
コンプライアンス支援 インサイダーリスクマネジメント
DQヘルプライン
こんぷろカスタム
かんたんeラーニング

※掲示した製品は一例です。また、各製品のサービス内容の詳細については、当該製品のHPをご確認ください。

(1) 契約審査

契約審査サービスは、①AIを使って契約審査を行うサービスと、②“エディタ機能”と呼ばれる条文の差分比較、契約条項検索、Proof Reading等の機能を提供するサービスに大別されます。ベンダーによって、①を提供するベンダー、②を提供するベンダー、①と②を組み合わせて提供するベンダーに分かれます。ユーザーとしては、どの機能を必要としているかを考えてベンダーを選定する必要があります。

(2) 電子契約

コロナ禍による在宅勤務増加の影響を受けて注目され、現在、最もユーザーとベンダー数が多いサービスとなっています。社内へ導入する際のハードルが低く、コスト削減効果の大きいサービスですが、仕組みの法的安定性と運用方法について不安を抱える企業が相当数あり、まだまだ印鑑が電子署名に置き換わったとはいえない状況です。また、運用にあたっては、電子帳簿保存法の要件に気をつける必要があります。

(3) 契約管理

契約審査依頼から契約書保存までのフローを管理するサービスで、私自身は法務部門が契約業務を管理していくうえで必須のサービスであると考えています。日本でも最近CLM(Contract Lifecycle Management)が注目されつつあることから、ベンダー数が増加しています。

(4) リサーチ

①法律書籍や雑誌を閲覧できるサービスと、②法令や判例情報を提供するサービスに大別されます。こちらも、コロナ禍による在宅勤務増加の影響で注目され、このところユーザー数が増加しています。法律書籍を閲覧できるサービスを利用する場合、ベンダーによって閲覧可能な出版物や印刷等の機能の範囲が異なるため、注意が必要です。

(5) 翻訳

ここ1~2年ほど、AIを使った自動翻訳サービスを提供するベンダーが大きく増加しています。英文翻訳を外部業者に依頼する場合、コストの相場は1文字15円程度でしたが、このサービスを活用すると翻訳コストを1文字1円以下に引き下げることが可能です。100言語以上に対応できるベンダーもあり、利用価値の高いサービスとなっています。
ただし、現状、人間の60%~70%程度という翻訳精度が課題となっており、あくまでも翻訳の補助ツールという位置づけで利用する必要があります。

(6) コンプライアンス

企業では、コロナ禍によって集合研修を開催することができず、社員教育に頭を悩ませています。この課題に対処するため、Eラーニングサービスを導入する会社が増加しています。ベンダーは、主に①Eラーニングのプラットフォームを提供する会社と、②Eラーニングのコンテンツを提供する会社に分かれており、①と②の両方のサービスを提供する会社もあります。また、近年、企業のモニタリングシステムとして内部通報が注目されていることから、内部通報の運用を支援するサービスも注目を集めています。

リーガルテック業界の動向

ここ2~3年の動向をみると、数多くの機能を持つ製品が出現し、ベンダーの数も激増しており、まさに日本のリーガルテック業界は、創成期の頂点にあるといえます。
今後創成期から発展期へステージを変えていく中で、各ベンダーの提供するサービスは、ハイエンドサービス、ローエンドサービス、ニッチサービスに収斂されていき、その一方で、機能やサービスの統合化が進むことも予想されます。
また、日本から海外へ進出するベンダーや日本に進出する海外のベンダーが現れ、激しい競争が繰り広げられるでしょう。競争はサービスの向上と価格低下を生むため、ユーザーにとっては好ましい環境が生まれるといえます。

現在の製品ラインナップは、久保さんが指摘されているように、やはり法務部門にとって業務量が多い契約に関連するサービスが充実しています。今後の展開としては、OneNDAに代表される契約のプラットフォーム化の動きが加速していくことが考えられますが、近い将来、契約プラットフォームとテクノロジーがうまく連結されると、面白い展開になるのではないでしょうか。
一方で、契約以外の分野では、コンプライアンス、コーポレートガバナンスに関連する製品がまだまだ少ないと感じます。これから、社内規程整備、教育、内部通報や意識調査を含むモニタリングシステム、取締役会事務局支援、子会社管理といった分野で、現場の悩みを解決する製品が出現することを期待しています。

法務部長から弁護士への問いかけ

コンプライアンスの到達点とは?

今回は、主にリーガルテックについて話をさせていただきました。
現在、日本企業の法務部門が担当している機能を見てみると、①法務機能、②コンプライアンス推進機能、③コーポレートガバナンス機能の3つに大別されます。
この中で、②コンプライアンス推進活動については、近年、位置づけが大きく変化し、企業にとって特別な活動ではなく、ごく一般的な日常活動になっています。要するに、コストをかけて活動することが加点要素になる活動ではなく、コストをかけること自体が当たり前で、仮に問題が発生すると大きな減点要素になることを意味します。このようなコンプライアンス推進活動について、企業はどのようなスタンスで、何を到達点として目指せばよいのでしょうか。久保さんのご意見を伺いたいと思います。

→この連載を「まとめて読む」

佐々木 毅尚 氏

「リーガルオペレーション革命」著者

1991年明治安田生命相互会社入社。アジア航測株式会社、YKK株式会社を経て、2016年9月より太陽誘電株式会社。法務、コンプライアンス、コーポレートガバナンス、リスクマネジメント業務を幅広く経験。2009年より部門長として法務部門のマネジメントに携わり、リーガルテックの活用をはじめとした法務部門のオペレーション改革に積極的に取り組む。著作『企業法務入門テキスト―ありのままの法務』(共著)(商事法務、2016)『新型コロナ危機下の企業法務部門』(共著)(商事法務、2020)『電子契約導入ガイドブック[海外契約編]』(久保弁護士との共著)(商事法務、2020)『今日から法務パーソン』(共著)(商事法務、2021)『リーガルオペレーション革命─リーガルテック導入ガイドライン』(商事法務、2021)

『リーガルオペレーション革命─リーガルテック導入ガイドライン』

著 者:佐々木 毅尚[著]
出版社:商事法務
発売日:2021年3月
価 格:2,640円(税込)

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