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新型コロナの蔓延によるデジタル化が社会全体にパラダイムシフトをもたらし、日本のM&A市場はますます活況となる中、各社がM&Aを成功(シナジー拡大)に導くために越えるべき波はむしろ高まっている。現役最前線のM&Aを多数扱う弁護士と総合商社法務担当役員が最新情報と各々の体験を交え、2021年のМ&A市場のポイントを的確にとらえる。

2021年М&A市場概況
―Out-InやIn-Inを中心に、全体的に増加傾向が続く

守田氏 最初に、2021年の日本のM&A市場における件数や形態、主体等の特徴について教えていただけますか。

龍野弁護士 当初の“新型コロナ拡大“状況下との対比でいえば、渡航制限の影響もあってIn-Out(国内→海外)案件が(大規模案件の影響もあって案件規模ベースでは大幅な伸びを示しているものの)件数ベースでは約10%減少する一方、Out-In(海外→国内)案件の増加が顕著です。国内完結(In-In)の案件も堅調で、全体では引き続き増加傾向です。
新型コロナの感染拡大の影響で事業再生・倒産案件が激増するのではないかとも予想されましたが、現在に至るまでそのような事象にはなっておらず、リストラクチャリングやポートフォリオの入れ替えによる事業強化のためにM&Aを選択する事業者も多数のようです。買収主体としては外資系ファンドの動きも注目されていますが、大手事務所の中でも特にクロスボーダー案件に強みを有する当事務所は、各種案件で売主・買主両サイドから数多くのご相談・ご依頼をいただいています。

守田氏 時勢を背景に、カーブアウト(事業切出し)等の売却案件は増加しているように見受けられます。売り手も市場動向を見ながら売り時を探っており、資金流動性も依然高いですから、今年はこれから規模の大小問わずM&Aの機会が多数訪れそうです。

龍野弁護士 専門的な知識が求められる事業承継M&Aも依然としてニーズが高い状況が続いています。

龍野 滋幹 弁護士

増加の一途をたどる業務負担
―知的財産・データに関わるМ&Aの着眼点

龍野弁護士 統計や個人的な感覚からしても、M&Aにかかる業務負荷は大きくなっています。デュー・デリジェンス(DD)を含めて、クライアントもM&Aに徐々に慣れてきている中で、クライアントのニーズにきめ細かく寄り添ったリスクの堀り下げ方やディール・契約のカスタマイズの仕方で付加価値を提供することがより重要になってきています。

守田氏 DDの項目なども多様性に富んできていると感じています。コーポレートや労務等の伝統的な項目に加え、独禁法対応や技術移転に絡む米国CFIUS(the Committee on Foreign Investment in the United States:対米外国投資委員会)への申請など新たなメニューも次々に生まれ、DDの対応項目を抜け漏れがないように更新するだけでも、現場には大きな負担になっています。

龍野弁護士 私も同感です。クライアントのM&Aの経験値を問わず、弁護士として、クライアントの最終的判断に資する合理的で明解な説明を通じて、当該案件を十分に消化・理解いただくことに尽力しないといけないと思っています。

守田氏 比較的M&Aの案件が多い我々商社と比べ、それほど多くのM&Aを行わない企業だと知見の蓄積・維持はさらに容易ではありませんし、効率性の観点からもそこにリソースを割くのは必ずしも得策とは思いません。外部法律事務所の総合的なサポートが必要と思います。

龍野弁護士 M&Aは“生きもの”ですから、フェーズごとに注目すべき視点を実務経験から培う必要があり、一般的知識を座学で身につけるだけでは太刀打ちできません。その意味では、弁護士が教科書的な指摘のみならず、相手方への金額提示・交渉の手順等、戦略的な側面も含めた助言を通じて、程度感・温度感を顧客に伝えながら、望ましいと考える方向に導く姿勢も大切だと思います。

守田氏 先端分野や知的財産の取得に関わるM&Aを課題とする会社は多いと思います。当社でも買収検討先の知財・ノウハウの取扱い、知財ポリシーとの向き合い方は悩みどころですし、B to C企業に投資する過程で、当社は個人情報(データ)の管理・活用についての知見が乏しく、買収先の管理体制を分析・評価する際に課題を感じています。
また、最近は、データの価値が飛躍的に高まっており、そのデータの守秘性を守るだけではなく、新たなビジネスに積極的に利活用する術も求められています。

龍野弁護士 知財に関しては、帰属方法(特許化の要否やライセンス・持分等)の検討が大きな論点でしょう。特にスタートアップにありがちな研究開発部門のキーマンの確保によるノウハウの流出防止も重要です。この点については、ノウハウが属人的にならずに会社に帰属するフローが問題なく行われているかどうかに着目するとよいでしょう。
データの管理・利用も大きなテーマであり、まずはセキュリティ体制の整備が肝要です。M&Aの視点では、DDにおいて法令に則った取得を含む管理・利用は厳密にチェックされます。当事務所では、PMIにおけるPP(プライバシーポリシー)レビューなどの初期対応をはじめ、法的観点に加えて戦略的観点からも積極的に、個人データの処理や部署統一的な管理方針・フローの策定等の構築・改善に至るまでのサポートを提供しています。
また、データは、基本的に法的権利の対象でなく、取扱いは当事者間の契約による部分が大きいことがポイントです。そして、保有するデータの利活用という側面で買収(投資)先をみる際は、「買収による先行者利益を獲得できそうか」という点もそうですし、想定するビジネスが適法であっても「世間(コモンセンス)に受容されるか」もカギになってくるように思われます。スタートアップの将来性を見出すのは難しいのですが、将来的な事業展開が法的も相当程度にフィージブルであるか否かも、DDの対象となる場合があります。

ファンド流M&Aが事業会社に有効? 発想・テクニックから学ぶこと

龍野弁護士 M&Aを成功させる上で、事業会社にはなじみの薄いファンドの行動原理や手法も一考に値すると考えています。昨今、活動旺盛な彼らはM&Aを本業とする手練であり、物事を平たく見ずにメリハリをつけて判断します。事業会社がリスクを全般的に拾い上げるのに対し、彼らはリスクの高低を現実に即して素早く取捨選択する。買収後数年間でバリュー・アップを果たした後Exit(売却)することが、投資家への利益還元と自らの成功報酬に直結するからです。対して、事業会社は買収後の将来的なさまざまな意味合いでの“シナジー”を優先するので評価が曖昧になりがちですが、ファンドはキャピタルゲインで成果が表れるシビアな世界です。

守田氏 確かに、ファンドは企業と対照的に、execution(実行手続)に比して、ソーシング(買収先・買収条件の評価・決定)とPMIに多くのリソースを投入していると感じます。成功モデルが明確で作戦も立てやすく、メリハリもつけやすいこともあると思います。ただ、龍野弁護士の話をお聞きすると、買収後のグループ・シナジーを強調する我々のような会社も、実質的には目指すところはファンドと変わらず、(最終的にExitをgoalとするかどうかは別として)参考になるのは頷けます。

守田 達也 氏

新型コロナによる価値観・社会のパラダイムシフトの中でどうM&Aを成功に導くか

龍野弁護士 新型コロナ対応がかつてない価値観・社会活動のパラダイムシフトをもたらし、日本企業は“選択と集中”と教科書的な標語を唱えるばかりでなく、強い危機感を持って、ポートフォリオ改善のため思い切ったM&Aの決断に踏み切れるようになりました。

守田氏 M&Aの件数増加や規模、種類の多様化にも現れていると思います。たとえば、多くのM&Aを成功裡に実行している企業で行われているように、法務部とは別にM&Aに特化したチームを外部専門家とともに編制する等の組織改革も検討課題ではないでしょうか。これは、一定以上のM&A件数がないと、なかなか現実的ではないかもしれませんが、当社もM&Aを行う上での最適な社内体制、意思決定プロセスは常に検討課題であると思っています。

龍野弁護士 企業の法務機能のあり方が転換点にあることは同意します。
ただ、特定の部署にM&A業務を集中させることの効率性にはプロコンがあるため、自社にそれが適切なのか慎重に見極めることを強くおすすめします。まずは、既存の体制において権限を有する上席者が積極的にチームをリードしながらM&A関連業務に当たること、業務・情報が特定の人に集中することで生じる担当者の転職などによることも含めたノウハウが流出する、蓄積されないといったリスクをいかにマネージするかが重要・先決だと思います。守田さんもご承知のとおり、FA等の周辺職種に、今では元・事業会社のM&A担当の方々が少なからずいらっしゃいますから。

龍野 滋幹 氏

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 弁護士

2000年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。2007年米国ニューヨーク大学ロースクール卒業(LL.M.)。2008年ニューヨーク州弁護士登録。2007~2008年フランス・パリのHerbert Smith法律事務所にて執務。2014年~東京大学大学院薬学系研究科・薬学部「ヒトを対象とする研究倫理審査委員会」審査委員。国内外のM&A、JV、投資案件やファンド組成・投資、AI・データ等の関連取引・規制アドバイスその他の企業法務全般を取り扱っている。週刊東洋経済2020年11月7日号「「依頼したい弁護士」分野別25人」の「M&A・会社法分野で特に活躍が目立つ2人」のうち1人として選定。

守田 達也 氏

双日株式会社 執行役員 法務・広報担当本部長

1990年早稲田大学法学部卒業、日商岩井株式会社(現双日株式会社)入社。入社以来、国内、米国、インドネシア、シンガポールにて企業法務実務に携わり、各種取引、PF、不良資産処理、企業再編、M&A、コンプライアンス業務、危機管理等に関与。著作『企業法務入門テキスト―ありのままの法務』(共著)(商事法務、2016)『今日から法務パーソン』(共著)(商事法務、2021)など。

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