風通しのよい企業風土を生む“心理的安全性”のつくりかたとは - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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組織変革の手法の一つとして注目を集めるキーワード“心理的安全性”をご存知だろうか。コンプライアンス体制構築の視点から法律業界でも関心が集まっている概念だ。企業内の問題把握に欠かせない、風通しの良い組織を作るために具体的に何をすべきか。
心理的安全性のあるチーム構築の専門家である石井遼介氏にお話を伺った。

『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター、2020年)

トラブルを報告しやすい“心理的安全”な組織とは?

――“心理的安全性”とはどんな概念ですか。
組織やチームにおいて、地位や経験にかかわらず、誰もが率直な意見・素朴な疑問を言うことができる状態を指します。当たり前で何気ないことに思えますが、この“心理的安全性”が組織・チームの業績に貢献する根拠が数多くあります。チームの心理的安全性を提唱したエイミー・エドモンドソン教授の調査では、パフォーマンスの高い医療チームほど医療ミスの報告件数が多いという結果が出ています。これは、もちろんミスが多ければ治療の質が上がるわけではなく、ミスを隠さないチームほど結果を出せたということですね。

――企業の経営やコンプライアンス/ガバナンスにおいても通じるものがありそうです。
“心理的安全性は”いま、二つの文脈で注目されています。一つは挑戦やイノベーションを促進する“組織開発・組織活性化”の文脈。もう一つはミスやトラブル・法律違反をすみやかに報告でき、だからこそ改善できる組織体質づくりのための、“コンプライアンス/不祥事予防”の文脈です。心理的安全な組織を実現すれば、イノベーションとコンプライアンスの両面を促進する効果があるのです。

――「かえって規律が緩む」と捉える人もいませんか。
「“ヌルい”組織になる」と誤解されることもありますが、そうではありません。罰・不安を与える“心理的非安全”な状態、“恐れのある”組織における負の効果は80年以上前に行動分析学の始祖B.F.スキナー教授により否定されています。一言で言えば“罰は行動を減らす”方向に機能します。𠮟責で人を追い込むことは短期的な成果を生むかもしれませんが、長期的に見れば行動を委縮させます。コンプライアンスの面でも、罰と不安で支配された環境では従業員は“余計なことを言わない”ようになり、結果、マネジャーや経営陣に必要な情報は集まらなくなるでしょう。

石井 遼介 氏

心理的安全な組織をつくるためにできること

――どうしたら心理的安全な組織やチームをつくることができるでしょうか。
心理的安全性の構成要素には四つあり、“話しやすさ” “助け合い” “挑戦” “新奇歓迎”です。意見を言っても、助けを求めても、挑戦してみても、個性を発揮しても安全なチームです。この状態をつくるには、まずリーダーが“正論を振りかざすのではなく、チームが前に進むために役に立つ言動”を増やすことが重要です。ミスの報告をしたメンバーに対して「もちろんミスがないように仕事をするが、次回も起きてしまったのであれば報告・相談をしたい」と思える反応を示せているかどうかが大切です。

――コンプライアンスを促進する法務部員は他部署のリーダーではありません。他部署を心理的安全な状態にすることはできますか。
法務部員が他部署を変えることは大変ですが、心理的安全な関係を構築することはできます。まずは他部署をよく知り、相手への自然なリスペクトが生まれるまで、彼らがいかに企業に貢献しているかを理解しようと心がけてください。例えば“相談・報告を責めない”というルールを設け周知したシステム部門が、エラーやトラブルのいち早い検出・対応に効果をあげた事例もあります。トラブルが起こった際に隠蔽が行われず、情報漏洩などの大きな問題への発展を防ぐことができました。

――経営陣を巻き込み、心理的安全な社風にするにはどうすればよいのでしょうか。
“心理的安全性”がキーワードとして流行しているので、興味を持った役員がいれば手伝うことから始めましょう。役員からすれば、自分の挑戦に対して仲間ができることで、行動が促進されます。このときに、反対派への説得にリソースを割きすぎる必要はありません。まずは仲間と共に取り組み、トラブルの防止などの成果が出始めれば「今はこういう流れなんだ」と無関心層・反対派も自然とついてきます。

――経営陣や上司に“心理的安全性”を理解·実践してもらう方法はありますか。
自分より上の立場の人を変化させることは難しいため、外部の力を借りることも一案です。弁護士、コンサルタント、我々などからの情報提供は良いきっかけになるでしょう。その際のコツは、外部専門家とも“心理的安全”な関係を作ることです。信頼に足る人であれば、組織の問題について“ぶっちゃけ話”をして“話し合い” “助け合い”による効果的な施策を探りましょう。外部研修の結果、叱責ばかりしていた役員会で、メンバーからの報告に対する労いと感謝をする習慣が生まれ、役員会が活性化した企業もあります。できることからやってみましょう。

→『LAWYERS GUIDE Compliance × New World』を「まとめて読む」
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石井 遼介

ベストセラー『心理的安全性のつくりかた』著者

東京大学工学部卒。シンガポール国立大 経営学修士(MBA, Honour)。“心理的安全性”の研究者としてチーム・組織のパフォーマンスを科学し、“心理的安全性”の計測尺度・組織診断サーベイを開発。ビジネス領域等で成果の出るチーム構築を推進する。株式会社ZENTech 取締役。日本認知科学研究所理事。慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科研究員。

心理的安全性のつくりかた

著 者:石井 遼介[著]
出版社:日本能率協会マネジメントセンター
発売日:2020年9月
価 格:1,980円(税込)

最高のチームはみんな使っている 心理的安全性をつくる言葉55

著 者:原田将嗣[著]、 石井遼介[監修]
出版社:飛鳥新社
発売日:2022年8月
価 格:1,650円(税込)