PFIの基本的な仕組みと近時の法改正等 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに

「PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)」とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力および技術的能力を活用して行う手法をいう。我が国では、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(以下「PFI法」という)が1999(平成11)年7月に制定されるなどして、PFI事業の枠組みが設けられた((また、PFI法に基づき、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等に関する事業の実施に関する基本方針」(平成30年10月23日閣議決定)が定められ、加えて、PFI事業を実施するにあたっての実務上の指針・留意点を示すものとして、「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」「PFI事業におけるリスク分担等に関するガイドライン」「契約に関するガイドライン-PFI事業契約における留意事項について-」「モニタリングに関するガイドライン」「VFM(Value For Money)に関するガイドライン」「公共施設等運営権及び公共施設等運営事業に関するガイドライン」が公表されており、PFI事業の実施にあたって活用されている。また、後述のとおり、2023年1月16日付で、「スタジアム・アリーナに係るコンセッション事業活用ガイドライン」が新たに公表されている。))12
PFI事業の実施主体は、国(各省庁の長)や地方公共団体の長(都道府県知事等)である((あくまで国や地方公共団体が発注者となり公共事業として行うものであり、いわゆる民営化とは異なる。))。PFI事業の対象となる公共施設等は、道路、鉄道、港湾、空港、河川、公園、水道、下水道、工業用水道、庁舎、宿舎、教育文化施設、スポーツ施設、集会施設、情報通信施設、新エネルギー施設、人工衛星など多岐にわたる(PFI法2条1項各号参照)((なお、後述のとおり、「スポーツ施設」「集会施設」は、2022(令和4)年12月16日に施行されたPFI法の改正により、PFI事業の対象となる公共施設等を列挙するPFI法2条1項3号に、明示的に追記された。))。また、PFI事業は、実施方針の策定、PFI事業の選定、事業者の選定、事業の実施など、PFI法の定めに従って実施することを要する。
1999年におけるPFI法の制定後、さまざまな公共施設等についてPFI手法の活用がなされ、特にいわゆる“ハコモノ”についてサービス購入型を前提とした建設・運営が数多く実施されてきた。また、2011(平成23)年のPFI法改正により、公共施設等運営権制度、いわゆるコンセッション方式が導入され、より民間事業者のノウハウを活かせるよう、制度の整備も順次進んできている。

本稿では、日本におけるこのようなPFI手法の基本的な仕組みを解説した上で、近時の法改正や「スタジアム・アリーナに係るコンセッション事業活用ガイドライン」の公表などについて解説する((なお、PFIに対する概念としてPPPという概念も存在する。PPP(Public Private Partnership)とは、官民が協同して効率的かつ効果的に質の高い公共サービスの提供を実現するスキームを広く意味するとされている。PFIもその一種であり、他に指定管理者制度、包括的民間委託、DBO(Design Build Operate)方式、第三セクター方式、公的不動産利活用事業(PRE)などもPPPの一種であるとされる。))。

PFIの特徴と活用

PFIは、上記のとおり、民間の資金、経営能力および技術的能力を活用することにより、国や地方公共団体等のみが実施するよりも、より効率的かつ効果的に公共サービスを提供することを目指すものである。従来の公共事業では、インフラの整備にあたって、国または地方公共団体が必要な設計・建設・維持管理業務の方法を決め、年度ごとに民間事業者に個別発注する形がとられていたが、PFIでは、個別の業務ごとではなく、これらの業務を一括して複数年度まとめて発注することで、事業コストなどの効率化、サービスの良質化を促進することを目指す。また、従来の公共事業では、公共側の役割が大きかったため公共側がリスクをとる場面が多く民間事業者のリスクは限定されていたが、PFIでは、民間事業者の役割が広がることに伴い、「リスクを最もよく管理することができる者が当該リスクを分担する」とのリスク分担の考え方に基づいて、適切なリスク分担を検討することが求められる。加えて、公共施設等の整備等に関する事業をPFI事業として実施するかどうかについては、PFI事業として実施することにより、当該事業が効率的かつ効果的に実施できることが基準とされており、「支払に対して最も価値の高いサービスを供給する」という考え方(「VFM」(Value For Money))が実現されうる場合、すなわち、公共部門が自ら実施する場合よりも、PFI手法を用いるほうが効率的・効果的である“VFMがある”事業であることが前提となってくる。

図表1 従来型公共事業とPFI事業との違い

出典:内閣府民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)「PPP/PFIの概要」2頁

こうした特徴を持つPFI手法が必要とされる背景には、例えば、公共施設等の老朽化((「2023(令和5)年度版国土交通白書」では、「我が国においては、高度経済成長期以降に集中的に整備されたインフラの老朽化が深刻であり、今後、建設から50年以上経過する施設の割合が加速的に進行していく。老朽化が進むインフラを計画的に維持管理・更新することにより、国民の安全・安心の確保や維持管理・更新に係るトータルコストの縮減・平準化等を図る必要がある」(121頁)とされている。))、人口減少((国立社会保障・人口問題研究所公表の「日本の将来推計人口(令和5年推計)結果の概要」では、「出生中位推計の結果に基づけば、…2045年の1億880万人を経て、2056年には1億人を割って9,965万人となり、2070年には8,700万人になるものと推計される」とされている。))、生産年齢人口の減少による税収の減少(厳しい財政状況)、職員の減少(厳しい人員状況)が見込まれる中、インフラを維持していくことが求められているという国および地方公共団体などの状況が挙げられる。このような状況を踏まえて、公共施設等の整備・運営に民間の資金や創意工夫を活用することにより、公共施設等の建設、維持管理等に係る財政、人員等の行政の効率化を図り、財政健全化とインフラの確保の両立を達成しつつ、より効率的かつ効果的で良好な公共サービスを実現するために、PFI手法が必要とされており、今後も活用が期待される所以となっている。

PFIの事業スキーム

PFI事業の事業スキームは多岐にわたるが、例えば、施設の所有形態による事業方式の分類としては、①BTO(Build Transfer Operate)、②BOT(Build Operate Transfer)、③BOO(Build Own Operate)などがあり、また、対価の支払形態による事業類型の分類として、❶サービス購入型、❷独立採算型、❸混合型に分けることができる。
加えて、2011年のPFI法改正以降は、公共施設等運営権制度、いわゆるコンセッション方式も導入されている。

施設の所有形態による事業方式の分類

PFI事業は大きく分けて(a)施設の設計・建設と(b)維持管理・運営の2段階に分けられるが、民間事業者が建設した施設の所有権がどのタイミングで公共側に移転するか(供用開始後の施設の所有者が誰になるか)によって分類したのが以下の事業方式の類型である。①BTO方式では国や地方公共団体が、②BOT方式および③BOO方式では民間事業者が施設の所有者となる。これらの分類は、民間事業者による“建設”が伴うことが前提となっており、従来からのいわゆる“ハコモノ”の建設を伴うPFIにおいて多く用いられている((税制度の関係(固定資産税や不動産取得税の課税の有無)などから、我が国で実施されてきたPFI事業の多くでBTO方式が採用されてきた。))3

(1) BTO(Build Transfer Operate)方式

運営権者である民間事業者が資金調達を行って公共施設等を建設(Build)し、完工した時点で当該施設等の所有権を国や地方公共団体に移転して(Transfer)、かかる施設等の維持管理・運営(Operate)を行うスキームである(図表2)。

図表2 BTO方式とは

出典:内閣府民間資金等活用事業推進室HP「PFI事業導入の手引き基礎編」 Q15 PFIの事業方式と事業類型

(2) BOT(Build Operate Transfer)方式

運営権者である民間事業者が資金調達を行って公共施設等を建設(Build)し、完工した後にそのまま当該施設等の維持管理・運営(Operate)を行って、事業期間の終了時にかかる施設等の所有権を国や地方公共団体に移転(Transfer)するスキームである(図表3)。

図表3 BOT方式とは

出典:内閣府民間資金等活用事業推進室HP「PFI事業導入の手引き基礎編」Q15 PFIの事業方式と事業類型

(3) BOO(Build Own Operate)方式

運営権者である民間事業者が資金調達を行って公共施設等を建設(Build)し、完工した後にそのまま当該施設等の維持管理・運営(Operate)を行って、事業期間の終了後においてもかかる施設等の所有権を保有(Own)するスキームである(図表4)。

図表4 BOO方式とは

出典:内閣府民間資金等活用事業推進室HP「PFI事業導入の手引き基礎編」Q15 PFIの事業方式と事業類型

対価の支払形態による事業類型の分類

以下は、民間事業者がどのように収益を挙げるかに着目した分類である。

(1) サービス購入型

民間事業者が公共施設等の設計、建設、維持管理、運営等のサービス(および資金調達)を提供し、国や地方公共団体がそのサービス対価として民間事業者に対して一定のサービス購入料(実質的には、公共施設等の建設費用等)を支払う事業類型である。国や地方公共団体によりサービス購入料が支払われるため、民間事業者が基本的に公共施設等に係る需要変動リスクを負担しない点に特徴がある(図表5)。

図表5 サービス購入型とは

出典:内閣府民間資金等活用事業推進室HP「PFI事業導入の手引き基礎編」Q15 PFIの事業方式と事業類型

(2) 独立採算型

民間事業者が公共施設等の設計、建設、維持管理、運営等のサービス(および資金調達)を提供するだけでなく、住民に対して公共施設等を用いたサービスを提供し、利用者から利用料金を受領する事業類型である。国や地方公共団体からサービス対価などは受領せず、施設の需要変動リスクは民間事業者が負担するところに特徴がある(図表6)。

図表6 独立採算型とは

出典:内閣府民間資金等活用事業推進室HP「PFI事業導入の手引き基礎編」Q15 PFIの事業方式と事業類型

(3) 混合型

民間事業者が資金調達と公共施設等の設計、建設、維持管理、運営等を行い、住民に公共施設等によるサービスを提供して利用者から利用料金を受領し、国や地方公共団体からも一定のサービス購入料を受領するスキームである。民間事業者による完全な独立採算が難しい場合において、利用料金の補填として、国や地方公共団体がサービス購入料を民間事業者に対して支払う点に特徴がある(図表7)。

図表7 混合型とは

出典:内閣府民間資金等活用事業推進室HP「PFI事業導入の手引き基礎編」Q15 PFIの事業方式と事業類型

コンセッション方式(公共施設等運営権制度)

2011年のPFI法改正により導入された制度である。利用料金の徴収を行う公共施設について、施設の所有権を公共主体が有したまま、施設の運営権((公共施設等運営権(公共施設等運営事業を実施する権利をいう。PFI法2条7項)。所有権の存在・喪失にかかわる行為は運営権の範囲を超え、“建設”および“改修”は含まれていない。したがって、例えば、新設工事および施設等を全面除却し再整備することはできない。他方、既存施設の増改築は施設の維持管理として、運営権の範囲に含まれると考えられる。))を民間事業者に設定する方式であり、公的主体が所有する公共施設等について、民間事業者による安定的で自由度の高い運営を可能とすることにより、利用者ニーズを反映した質の高いサービスの提供を目的として導入された。
コンセッション方式の特徴は、国や地方公共団体が公共施設等の所有権を保有し続け、民間事業者は施設の運営および維持管理を実施し、民間事業者が直接利用料金を利用者から収受する点にある(図表8)。これにより、国や地方公共団体は、当該施設の所有権を有したまま運営等のリスクを移転することができ、運営権対価を徴収することにより施設収入の早期回収の実現が期待できる。また、民間事業者の知恵やノウハウにより、事業経営・事業実施を効率化し、顧客ニーズを踏まえたサービス向上の実現が期待される。加えて、運営権を財産権(みなし物権)((PFI法24条。所有権のうち運営に必要な権利(使用権・収益権等)を切り出した権利である(民法206条「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」)。))と認め、抵当権の設定等による資金調達の円滑化等が図られることも期待されている。
コンセッション方式の対象となる公共施設等は、国や地方公共団体が所有権を有し、かつ、利用料金を徴収するものに限定されている。これまで、コンセッション方式は、空港を中心に活用され、他にも、上下水道、道路、文教施設、水力発電所などで活用され、または活用が検討されるなどしている。

図表8 コンセッション方式とは

出典:内閣府 民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)「公共施設等運営事業(コンセッション事業) 公共施設等運営(コンセッション)方式」

コンセッション方式においては、民間事業者に設定されるのは、公共施設等について運営・維持管理等を行うことができる公共施設等運営権であり、公共施設等が現に存在し、公共がその所有権を保有している必要がある。もっとも、従来型のPFI事業を前提に民間事業者が公共施設等を新設して完成後に公共が所有権を取得した上で、民間事業者に対して公共施設等運営権を設定する、いわゆる“BT(Build-Transfer)コンセッション”と呼ばれる手法もとられることがあり、今後も活用が期待される。例えば、後述の「スタジアム・アリーナに係るコンセッション事業活用ガイドライン」においても、BTコンセッション方式の導入が検討されている。

近時の法改正等

上記のとおり、一言にPFIといってもさまざまな方式や収益手法があり、より広くPFI手法が用いられるようにすること等を目的として、PFI法制定以来、順次、法改正などがなされてきているが、近時も以下のような法改正等が行われている((なお、2023(令和5)年6月2日付で、「PPP/PFI推進アクションプラン(令和5年改定版)」(内閣府民間資金等活用事業推進室)が公表されている。同アクションプランでは、PPP/PFI手法を、新たな資本主義の中核となる新たな官民連携の柱と位置づけ、水力発電(ハイブリッドダム)や自衛隊施設・スモールコンセッションなど新たな分野の開拓、ローカルPFIの推進などPPP/PFI手法の進化・多様化をを示唆した上、事業件数10年ターゲットとして、重点分野合計575件の目標を設定している。重点分野としては、空港、水道・下水道、道路、スポーツ施設、文化・社会教育施設、大学施設、講演、MICE施設、公営住宅、クルーズ船向け旅客ターミナル施設、公営水力発電、工業用水道が選定されている。この中では特に、水道・下水道・工業用水道について、コンセッションおよびコンセッションに段階的に移行するための官民連携方式を「ウォーターPPP」として導入拡大を図り、事業件数10年ターゲット合計225件を設定していることが特筆される。))。

令和4年PFI法の改正

2022年12月16日付で、PFI法の改正法が公布された。主な改正点は、以下の3点である。なお、下記(1)は2022年12月16日、(3)は2023年1月16日に(ただし、PFI推進機構の設置期間の延長の点については2022年12月16日に)施行され、(2)は2023年6月15日に施行された。

(1) PFI事業の対象となる公共施設等の定義の追加

PFI法2条1項に定める「公共施設等」の定義のうち3号に、「スポーツ施設」と「集会施設」が追加された。この「公共施設等」の定義は、PFI事業の対象となる施設を列挙するものであるため、かかる改正により、「スポーツ施設」と「集会施設」が明示的にPFI事業の対象となるものと改正されたことになる。「スポーツ施設」には、例えば野球・サッカーなどに利用される屋外施設であるスタジアムやバスケットボール・バレーボールなどに利用される屋内施設であるアリーナが含まれる。また、「集会施設」には、コミュニティーセンターなどが含まれる。
ただし、元々「スポーツ施設」と「集会施設」は「公共施設等」の定義に既に規定されていた「公益的施設」に含まれると解釈されてきたため、今回の改正により、PFI事業の対象が拡大することにはならない。もっとも、例えばスポーツ施設については、スポーツ庁・経済産業省を中心にスタジアム・アリーナ改革が推進され、2025年までに20拠点整備することが掲げられるなどしており(下記も参照)、また、「PPP/PFI推進アクションプラン(令和5年改定版)」(内閣府民間資金等活用事業推進室、令和5年6月2日付)においても、例えばコンセッション手法の導入対象として新たに開拓する領域の一つに位置づけられている。そこで、法律上も明示することによりPFI等を通じた質の高いサービス提供できるこれらの施設を増やすことを目的として追加されたものであり、これらの施設について、今後さらなるPFI手法などの活用が期待されるところである((スポーツ施設や集会施設については、これまでBTO方式、コンセッション方式、BTコンセッション方式、指定管理者制度などが活用されてきたが、さらなるPFI手法などの活用が期待されるところである。))。

(2) 公共施設等運営権者の提案による実施方針の変更手続の創設

いわゆるコンセッション事業について、民間事業者の提案に基づく実施方針((実施方針は、PFI事業の選定、民間事業者の選定などにあたり、民間事業者の募集および選定に関する事項、公共施設等の立地ならびに規模および配置に関する事項などを定めるものである(PFI法5条1項および同2項)。従前は、事業開始後の実施方針の変更は認められていなかった。))の変更の手続が創設された(PFI法19条の2)。コンセッション事業は事業期間が数十年の長期にわたるが、事業開始後に当初想定されていなかった事態が生じた場合においても、かかる事態を踏まえて実施方針を変更することはできなかった。そこで、事業開始時には想定されなかった事情変更に柔軟に対応するため、実施方針の変更手続が設けられることとなった。
具体的には、民間事業者は、実施方針のうち、公共施設等の規模や配置に関する事項について変更を提案することができることになる。かかる提案を受けた地方公共団体等は変更案については、変更提案に係る公共施設等の工事が公共施設等運営事業の適正かつ確実な実施の確保に支障を及ぼすおそれがなく、国民に対する低廉かつ良好なサービスの提供のため必要があると認められるか否かを検討の上、変更の是非を決定されることになる。
この変更手続により、コンセッション事業について、当初の想定からは外れる事象(長期にわたる事業期間中の技術革新や社会情勢の変化((感染症対策、防災・減災対策等に伴う、施設の改良(増改築等)による公共施設等の変更なども想定されている。民間事業者はアリーナなどの観客席の増設や配置の変更、通路の拡張やエレベーターの増設といったバリアフリー対応を柔軟に行えるようになる。))などの事情変更等)の発生時に実施方針を変更して、公共施設等の規模や配置を変更することが可能となる。かかる変更手続を通じて、今後、より柔軟な事業展開を図ることが可能となることが期待されるところである。

(3) 株式会社民間資金等活用事業推進機構(以下「PFI推進機構」という)の業務の追加等

利用料金を徴収・自らの収入として収受するPFI事業に対する金融および民間投資を補完するための資金の供給等を目的として設立されたPFI推進機構につき、特定選定事業((「選定事業であって、利用料金を徴収する公共施設等の整備等を行い、利用料金を自らの収入として収受するもの」をいう(PFI法31条)。))を支援する事業を行う民間事業者に対する専門家派遣・助言に関する業務の追加等の改正がなされた(PFI法52条1項6号・7号等)。
かかる改正は主に地域金融機関等に対するコンサルティング業務等を想定したものである。PFI事業の取組は地方にも普及し地域金融機関による支援も増えてきているところであるが、地域金融機関に対してノウハウなどを共有することで、地方においてよりPFI事業の導入が進むことを期待して、PFI推進機構がかかる業務も担うことになったものである((なお、他に、特定事業を推進するために必要な調査および情報の提供に関する業務を追加する改正(PFI法52条1項11号)、および、PFI推進機構の設置期間を2033年3月31日まで延長する改正(同法56条2項)がなされている。))。

「スタジアム・アリーナに係るコンセッション事業活用ガイドライン」の公表

内閣府民間資金等活用事業推進室は、「スタジアム・アリーナに係るコンセッション事業活用ガイドライン」を2023年1月16日に公表した。このガイドラインは、スタジアム・アリーナを対象とする公共施設等運営事業(コンセッション事業)を対象としたものである。かねてよりスポーツ庁および経済産業省は取組目標としてまちづくりや地域活性化の核となるスタジアム・アリーナを2025年までに20拠点整備することを掲げているところ((スポーツ庁・経済産業省「スタジアム・アリーナ改革ガイドブック」(平成30年12月)。))、スタジアム・アリーナは大規模、かつ、周辺地域に対して大きなインパクトを与える潜在力を持つ施設であり、より自由度の高い運営を想定した設計等により民間のノウハウを活用することが重要であることから、それを実現する手法の一つとしてのコンセッション手法・事業につき、統一的な理解を促進すること、そしてより一層効率的な事業実施を支援することを目的として策定されたものである。
同ガイドラインでは、「スタジアム・アリーナに係るコンセッション事業の場合、市民による利用に加え、プロスポーツチームや音楽イベント、eスポーツ、エクストリームスポーツ等の興行を行う事業者やMICEによる利用も考慮する必要があ」り、「当該施設を本拠地とするプロスポーツチームが利用しやすい環境の整備や観客の体験価値を向上させることに加え、幅広い興行の実施を可能とすることで施設の集客力を高めることが重要であり、この点において民間事業者のノウハウの発揮が期待される」(同ガイドライン6~7頁)として、スタジアム・アリーナに係るコンセッション事業の特徴(図表9参照)を示す((コンセッション手法と指定管理者制度との比較、官民連携手法選択の論点整理、BTO方式、DBO方式、BTコンセッションの比較なども行っている。))などした上で、コンセッションの推進に向けて検討・考慮すべき事項について解説がなされている。

図表9 スタジアム・アリーナに係るコンセッション事業のスキーム

出典:内閣府民間資金等活用事業推進室「スポーツ・アリーナに係るコンセッション事業活用ガイドライン」6頁「2.2.1. コンセッション手法の特徴」

加えて、「スタジアム・アリーナの整備・運営事業の事業化検討段階における重要な論点」「事業者の公募段階における重要な論点」についての解説もなされている。事業化検討段階においては、四つの要件と15の論点が整理され(図表10参照)、例えば、スタジアム・アリーナを利用するプロスポーツチームの関与について、そのパートナーとしての位置づけを想定して、将来的な入札・公募を踏まえ、応札・応募への制限・非制限の考え方が示されているなどスタジアム・アリーナの特徴を踏まえた解説が付されるなどしている((他にも、例えば、独立採算型・混合型コンセッション事業のスキーム例を示した上で、事業効果拡大に向けた工夫、検討のポイントなども示されるなどしている。))。
今後、同ガイドラインで示された指針・留意点等を踏まえて、スタジアム・アリーナに係るコンセッション事業などが促進されることが期待されるところである。

図表10 事業化検討段階の四つの要件と検討すべき15の論点

要件

検討すべき主な論点

A.集客力を高めるまちづくりを支える持続可能な経営資源としての要件

① マーケット調査

スポーツ・エンタメ興行等の利用可能性、公共施設等としての社会的価値の向上の可能性、複合施設化・収益施設併設の可能性、社会課題解決(地域経済等への貢献)の可能性等のポテンシャルの確認の重要性を示す。

② 上位計画等との整合性

スタジアム・アリーナが持つ地域活性化・まちづくりの起爆剤となる潜在力を活かして、地域に必要な機能(地域の交流拠点機能、健康増進機能、防災拠点機能等)を整理する重要性を示す。

③ アセットマネジメントの推進

基本計画の策定や事業手法検討の前段において、他の公共施設等の複合化・集約化等のコンパクトなまちづくりの検討を行う等、アセットマネジメントの推進に関する考え方を示す。

④ 候補地における環境調査

スタジアム・アリーナを整備する場合に配慮すべき事項(騒音・振動や交通渋滞等)への対応を示す。

⑤ 候補地の選出

上記①~④のほか、後述⑧・⑨に示す各種制約、⑩に示す補助金等の整理に基づき最適な候補地を選出する考え方を示す。

B.プロジェクト上流段階において検討されるべき事項に関する要件

⑥ 施設や規模のスペック

収益性の向上およびライフサイクルコストの最適化を図ることが重要であり、施設の整備段階・運営段階で公共側が最低限規定すべき事項を除き、積極的に民間事業者の提案に委ねる考え方を示す。

⑦ プロスポーツチーム等の関与方法

プロスポーツチーム等は事業化を目指すパートナーとして位置づけることが想定されるため、将来的な入札・公募を踏まえ、応札・応募への制限・非制限の考え方を示す。

⑧ 各種競技団体等との調整

利用が想定される各種競技団体等の要望を事前に整理して施設の設計に反映させること、興行と公的利用の利用枠のバランスや予約の優先順位などを明確にすることの重要性を示す。

⑨ 同種施設との位置づけ

新たに整備する施設の効用を最大限に発揮するため、同種施設との機能や利用の住み分け、地域のスポーツ協会・体育協会等や都道府県等のステークホルダーとの役割分担の考え方を示す。

C.収益・財務に関する要件

⑩ 適用可能な補助金等

現時点でスタジアム・アリーナに適用可能な補助金等を整理するとともに、留意事項等を示す。

⑪ 事業スキーム

独立採算型・混合型コンセッション事業のスキーム例に加え、運営権対価の有無や独立採算の成否ではなく、コンセッション手法の活用意義やメリットに焦点を当てる重要性や、本体事業と附帯事業を切り分ける事業スキーム検討上の工夫の例を示す。

D.各種庁内手続に関する要件

⑫ 財産区分

コンセッション手法の特徴(料金施策や営業誘致の柔軟性)を活かすため、普通財産として区分し得ることを示すとともに、先行事例を基に設置条例の工夫等により公の施設においても収益拡大が実現可能であることを示す。

⑬ 発注方式

総合評価一般競争入札と公募型プロポーザル方式の主な違いを示すとともに、BT+コンセッション事業において積極的な性能発注を進めるため、公募型プロポーザル方式の検討可能性を示す。

⑭ VFMの算出

積極的な性能発注を進めるBT+コンセッション事業のコンセプトを前提とした場合における特定事業選定時のVFM算出について考え方を示す。

⑮ 予算措置

先行事例を参考に、独立採算型・混合型コンセッション事業における予定価格算出の考え方を示す。

出典:内閣府民間資金等活用事業推進室「スポーツ・アリーナに係るコンセッション事業活用ガイドライン」16頁「3.1 事業か検討における論点と検討すべき項目の整理」

  1. また、公共施設等や公共事業に関する個別の法令も参照する必要がある(例えば、水道法、航空法、空港法など)。さらに、所管省庁ごとにガイドラインが公表されているものもあり、公共施設等によっては、個別のガイドラインを活用することも必要になる(例えば、文部科学省:「文教施設におけるコンセッション事業に関する導入の手引き」(平成30年3月)、国土交通省:「都市公園の質の向上に向けたPark-PFI活用ガイドライン」(最近改正令和5年3月31日)など)。 []
  2. なお、前掲注1・「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」、同・「契約に関するガイドライン」、同・「VFM(Value For Money)に関するガイドライン」、同・「公共施設等運営権及び公共施設等運営事業に関するガイドライン」については、2023(令和5)年6月2日付で、それぞれ改正がなされている。 []
  3. 民間事業者による資金調達にあたっては、PFI事業を実施する主体として、特別目的会社(Special Purpose Company/SPC)を設立の上、いわゆるプロジェクトファイナンスの手法(特定のプロジェクトを対象とするファイナンスであって、主たる返済原資が当該プロジェクトから生み出されるキャッシュフローに限定され、かつ、担保が当該プロジェクトに関する資産に限定されるファイナンス手法)がとられ、金融機関とSPCを中心とする借入人関係者との間で、金銭消費貸借契約、各種の担保契約、直接協定などの締結・交渉が行われることも多い。特に、プロジェクトファイナンスにおいては、いわゆる全資産担保が志向され、SPCの株式に係る株式質権設定契約、SPCが有する預金債権に係る預金債権質権設定契約、保険に係る保険金返還請求権質権設定契約、不動産・動産などに係る抵当権設定契約・譲渡担保権設定契約、SPCが締結するプロジェクト関連契約に基づく債権に係るプロジェクト関連契約に基づく債権質権設定契約、プロジェクト関連契約に基づく地位等の譲渡予約契約など、さまざまな担保権設定契約が締結されることが多い。これは、第三者によるプロジェクト資産への執行(差押等)排除し、かつ、いわゆるステップイン(プロジェクトファイナンスでは、事業により発生する収益・キャッシュフローが返済の原資となるため、プロジェクト関係者の倒産・事業停止等により事業遂行自体が停止してしまいキャッシュフローが生じなくなる事態を防ぐ必要がある。そこで、そのような事態に備えて、事業主体の交代などを設定した担保権などを通じてレンダー主導で行うことができるようにすること)が可能となる状態を確保する目的で実施されるものである。 []

井上 卓士

TMI総合法律事務所 パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士

2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2017年TMI総合法律事務所。2017年コーネル大学ロースクール卒業(LL.M.)。2018年ニューヨーク州弁護士登録。PPP/PFI等の官民連携プロジェクトのほか、不動産取引、不動産開発、再生可能エネルギーなどに精通し、セミナー講師や執筆など、多くの情報発信を行う。TMI総合法律事務所PPP/PFI(官民連携/インフラ)プラクティスグループ所属。著作『金融機関の法務対策6000講』(きんざい、2022年)、「Chambers GLOBAL PRACTICE GUIDES – Project Finance 2021 – Japan : Trends and Developments」、「Ports and Terminals 2021 (Japan) / Getting the Deal Through」ほか。