2022年11月21日、虎ノ門ヒルズフォーラムにおいて、「法務の可能性は無限大―『なりたい法務。』~経営を担う法務出身者たちが視点、キャリア、未来について語る」と題するセミナーが会場·オンライン受講のハイブリッド形式により合わせて650名以上の申込者を集め、盛況を博した。
本セミナーは①経営×法務×弁護士 3つの視点で語る「法務の可能性」、②法務×テック 課題解決の道しるべ、の2部構成をとり、それぞれのテーマにおいて第一線で活躍する登壇者による自由闊達なディスカッション・意見交換が行われた。
[第1部]経営×法務×弁護士 3つの視点で語る「法務の可能性」
経営が法務に求めるソリューション提案力
第1部は「経営×法務×弁護士 3つの視点で語る「法務の可能性」」と題し、龍野滋幹氏(アンダーソン·毛利·友常法律事務所外国法共同事業パートナー弁護士)をファシリテーターに迎え、宮崎裕子氏(スリーエム ジャパン株式会社 代表取締役社長)、少德彩子氏(パナソニック ホールディングス株式会社 取締役、執行役員兼グループGC)、守田達也氏(双日株式会社 CCO兼法務、内部統制統括担当本部長)によるディスカッションが繰り広げられた。
宮崎氏、少德氏、守田氏はいずれも法務から経営へというキャリアを有する。現在の立場からそれぞれ過去を振り返りつつ、“経営が法務に求めるもの”について、まず議論がなされた。
3名に共通する見解は、「法務は経営に対して、ソリューションを提案すべき」という点である。
「経営陣が誤ったことをしようとしたとき、法務にはそれを絶対的に阻止することが求められます。しかし、“ダメなものはダメ”ではなく、代替案を示せる“ソリューション法務”である必要があります」(少德氏)。
「期待されるソリューションとは、必ずしも、詳細な法的説明ではなく、スピードが要求される場面においては、端的な指摘でなければなりません。例えるならば、新宿駅西口で外国人から丸の内線への行き方を尋ねられたとき、英語の正しい文法で右へ行って左ヘ行って…と伝えるのではなく、レッドサークル(赤い丸 丸の内線のマーク)に行け、というようなシンプルかつ相手の立場に立った説明です」(宮崎氏)。
では、ソリューション法務を実現するためには、どのようなスキルが必要となるのであろうか?
この問いかけに対して少德氏は、法務に対する専門性だけではなく、事業に対する深い理解が必要だと指摘している。また、守田氏も「商社にはさまざまな事業部があり、それぞれ方針もビジネスの手法も異なります。法務部としては、これらの多様な事業部に対する理解が必要です」と指摘する。
一方、宮崎氏は、法務部員には、視点を自在に切り替える力が形成されているとする。例えば、M&A他交渉の場面で相手方の立場を考察する経験から視点を切り替える力が培われていくのだという。「契約の場面では5年後、10年後を見据えた時間の奥行きを考える訓練もされている。こうした経験から、視点を変え、視野を広く、視座を高くすることを念頭に置けば、よいソリューションに導けるはずです」(宮崎氏)。
ファシリテーターの龍野氏は、そもそも法務は経営に必要なプロセスを包含している部署だとし、その経験を活かせば法務から経営へというキャリアを描けるのではないかと締めくくった。
経営×外部弁護士 専門性高い踏み込んだ助言を
続いて、“経営から見て外部弁護士に期待すること”について検討が進められた。
まず守田氏が指摘したのが専門性だ。同時に、外部弁護士の助言にもソリューションは必須だという。宮崎氏と少德氏が期待したのは、類似案件の豊富な経験であった。こうした材料は実務に照らし合わせた論拠となり、利害関係者への説得にも用いやすいからだ。
また、少德氏は、事業やオペレーションなど社内事情への理解が重要とした。「その上で、保守的な見解だけではなく、最終的な意思決定を後押ししてくれるような踏み込んだアドバイスが欲しいですね」(少德氏)。
これらの意見を受けて龍野氏は、次のように語っている。
「専門的な知見や先験的なノウハウへの期待は当然だと認識しています。昨今はそのためナレッジマネジメントに力を入れています。例えば私の所属事務所では、チーフ·ナレッジ·オフィサー(CKO)を創設して個々の弁護士のノウハウを集約しています。また、ソリューション提供のためには、①imagination(会社・相手方・その他を取り巻くあらゆる状況を想像してアドバイスする力)、②creativity(“ダメなものはダメ”ではなく代替案を出す力)という二つの“想像·創造”が重要です」。
また、法務から外部弁護士へ期待することは?という龍野氏の問いかけに対して、「もう少し朝型になってほしい」という守田氏の回答と「私は年なので朝型なのですが···」という龍野氏の掛け合いには会場からは笑いがこぼれた。
経営者になった法務が語るスキルアップ手法
次に、宮崎氏、少德氏、守田氏がどのようにして法務·経営としてのスキルを磨いてきたのか、その方法について語られた。
宮崎氏は、自身が関わる案件の社内クライアントと対等に話ができるように、その業務に関する知識を貪欲に吸収したという。
「品質管理、ロジスティクス、ファイナンスなど担当する案件に関する本を可能な限り読みました。本棚の1列ぐらい読むとだんだん専門分野の全体構造やポイントがつかめてきます。信頼してもらえる一歩になり、現実的なソリューションの提案に近づいたように思います」(宮崎氏)。
少德氏は、法務は、若い頃から経営陣との接点が多く、彼らがどのような思考プロセスで意思決定をしているか、傍で見て直に学ぶことができ、その経験が今に活きているという。また、修羅場を何度か経験することも沈着冷静さを身につける源になったそうだ。そして、トライアンドエラー、好奇心、チャレンジ、ストレッチを成長のためのキーワードとして挙げた。
10年後の企業法務 無限大の可能性
最後は10年後の法務の展望について、それぞれの目標も交えて話された。
「法的なバックグラウンドを持つ人がリーダーシップを発揮する時代になっていると思います。さまざまなステークホルダーと関わる法務の重要性も増すでしょう」(宮崎氏)。
「私自身はコンプライアンスも含めて法務業務をまだまだ極めていきたいと思っています。LegalTechなど、法務業界についてはまだまだ伸びていく可能性があります」(守田氏)。
「10年後に最高の企業法務チームを創ることが目標です。その定義をチームで話し合いながら2023年年4月までにまとめる予定です。また、法務からもっと宮崎さんのような経営者が輩出できていたら嬉しいですね」(少德氏)。
「元来ロジカルに物事に取り組むのが法務業界。企業を成長させ、経営していくためのハイレベルな問題に対応できる法務部、法律事務所が増えていくことを願っています」(龍野氏)。
[第2部]法務×テック 課題解決の道しるべ
第2部では「法務×テック 課題解決の道しるべ」と題して、守田氏をモデレーターに、少德氏、河野省二氏(日本マイクロソフト株式会社技術統括室チーフセキュリティオフィサー)、角田望氏(株式会社LegalOn Technologies(旧 株式会社LegalForce) 代表取締役/弁護士)、による意見交換が行われた。
守田氏は、この20年企業法務の業務範囲の拡がりと深度が増し続ける一方で、法務部の人員は潤沢ではなく部員への負荷が高まっており、抜本的な業務効率が必要であると指摘。リーガルテック導入による効率化に期待を寄せる。
また、少德氏もDXの進展は全社的な課題となっており、法務での業務プロセスの改革という視点からリーガルテックの導入を模索しているという。その導入に際しては、全体業務の大半を占める契約業務の変革が効果的だと考えているという。
情報セキュリティからコンプライアンスへのアプローチ
河野氏は、セキュリティから法務業務を効率化するサービスを手がけている。セキュリティが法務と関わりを持つようになったきっかけはプライバシーという概念からだという。プライバシーのリスクを特定し、防御するシステムで危機管理の一助を担う。そして昨今、社内に蓄積されたさまざまなデータを利活用することが不可避な中、複雑化·多様化するコンプライアンス、プライバシー対策に包括的に対応し、データガバナンスを構築することが重要だと河野氏は指摘する。
「セキュリティガバナンスとは、セキュリティの現場をモニタリングして、想定した状態になっていなければそれをすぐに修正するプロセスです。一度安全な状態(サイバーハイジーン)を構築しておけば、小さな変化に気付きやすくなり、大きな事故を起こす可能性が減るのです。これは社内不正やコンプライアンスでも同様です」(河野氏)。
テック活用による法務のナレッジ共有
角田氏は、法律事務所のアソシエイト時代に体験したDD等のチェックの大変さから、AIを用いてミスなく効率的に契約業務を支援するさまざまなサービスを開発してきた。つまり、法務部が抱える課題(人員不足や教育)に応えることを目的としている。
「LegalForceには主に、三つの機能があります。相手方から提出された相手方有利の契約書レビューをサポートする機能、自社の基準(ひな型)でレビューする機能、そしてナレッジマネジメント機能。これは自社のひな型もそうですが、過去にレビューしてきたものを蓄積していくものです。これらの機能を場面場面でどのように使えば生産性を上げることができるかを、業務ごとに設計していただけると、業務プロセスの効率化につながると思います」(角田氏)。
法務業界はこれまであまり横のつながりやネットワークは強くなかった。しかし、AIによるナレッジ集約型のサービスを各社が使うことで、自然とナレッジが共有されていくという副次的な効果もあるのではないか、と守田氏は指摘した。これに対し、角田氏も「ナレッジの共有は日本の企業全体の競争力強化につながり、リーガルテックを通じて、知の共有が促進され全体の底上げにつながっているのではないか」と続けた。
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宮崎 裕子
スリーエム ジャパン株式会社 代表取締役社長
96年弁護士登録、尚和法律事務所(現ジョーンズ·デイ法律事務所)入所。01年あさひ·狛法律事務所(現西村あさひ法律事務所)入所。04年Davis Wright Tremaine LLP入所。05年ニューヨーク州弁護士登録。06年あさひ·狛法律事務所へ復帰。07年デル株式会社、13年日本アルコン株式会社を経て、17年スリーエムジャパン株式会社に入社。ジェネラルカウンセル執行役員法務および知的財産担当を勤めた後、21年6月から現職。
少德 彩子
パナソニック ホールディングス株式会社 取締役、執行役員兼グループGC
91年松下電器産業株式会社(現パナソニック ホールディングス株式会社)へ入社後、06年ニューヨーク州弁護士登録。AVCネットワークス社 常務、コネクティッドソリューションズ社 常務、オートモーティブ社 常務 ゼネラル·カウンセル(GC)、チーフ·リスクマネジメント·オフィサー(CRO)、コーポレート戦略·技術部門法務戦略担当等に従事した後、22年6月から現職。
守田 達也
双日株式会社 CCO 兼 法務、内部統制統括担当本部長
90年、総合商社である日商岩井株式会社(現双日)入社以来、東京·大阪·ジャカルタ·シンガポール·NYで法務·コンプライアンス業務に従事。法務部長を経て現在は法務·内部統制担当本部長(執行役員)、CCO。
龍野 滋幹
アンダーソン·毛利·友常法律事務所外国法共同事業 パートナー弁護士
02年弁護士登録、アンダーソン·毛利·友常法律事務所入所。07年米国ニューヨーク大学ロースクール卒業(LL.M.)、08年ニューヨーク州弁護士登録、07~08年フランス·パリのHerbert Smith法律事務所にて執務。国内外のM&A、ジョイント·ベンチャー、投資案件やファンド組成·投資、AI·データ等の関連取引·規制アドバイスその他の企業法務全般を取り扱う。
河野 省二
日本マイクロソフト株式会社 技術統括室 チーフセキュリティオフィサー
98年より、セキュリティガバナンスコンサルタントとして企業の経営層向けのアドバイザリを行いつつ、数多くの政府向けセキュリティガイドラインを策定。17年12月より現職。情報セキュリティのISOを策定するJTC1 SC27およびSC40委員会、FISC安全対策委員、FISC安全対策監査委員など標準策定委員活動を継続。(ISC)²としてグローバルなセキュリティ資格CISSPの国内主席講師として人材育成等も行う。
角田 望
株式会社LegalOn Technologies 代表取締役・弁護士
10年京都大学法学部卒業、旧司法試験合格、12年弁護士登録。13年森・濱田松本法律事務所入所、M&Aや企業間紛争解決に従事。17年独立、法律事務所ZeLo・外国法共同事業開設および株式会社LegalForce(現株式会社LegalOn Technologies)を設立し、現職。
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アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 パートナー弁護士 龍野滋幹 氏