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リーガルテックといえば、電子署名・AI契約レビュー・契約書管理といった法務業務の一部分の効率化を目的としたものがイメージされる。しかし、GVA TECH株式会社の提供する「GVA manage」は、従来のリーガルテックの役割を大きく変えるプロダクトだ。その開発には、法務機能のあるべき姿をめざす独自の方法論があった。その方法論について、同社代表取締役CEOである山本俊弁護士にうかがった。

実は各部署に分散している“法務機能”

リーガルテックの新たな領域を切り開くプロダクト、それが「GVA manage」だ。GVA manageはその方法論において、従来のリーガルテックとは一線を画す革新性を持つ。
GVA manageを開発したGVA TECH株式会社(ジーヴァテック株式会社)でも、

① AI契約書レビュー支援クラウドである「GVA assist

② 商業・会社変更登記オンライン申請を支援する「GVA法人登記

③ 法人の登記簿謄本の取得をサポートする「GVA登記簿取得

④ AIによる秘密保持契約書をチェックする「GVA NDAチェック

といった法務業務効率化のためのプロダクトを開発してきている。それでは、「GVA manage」の新しさはどこにあるのだろうか。
法務機能のあるべき姿、それは“法務と事業が一体となる”ことです。法務案件を全社でナレッジ化する“One Legal”という方法論のもと、GVA manageを開発しました」と語る山本CEO。スタートアップ企業への支援を数多く手がけるにつれ、経産省が提唱する“法務機能”の定義(社内外の関係者との対話を通じて、法令や契約のみならず、社会的評価等も意識した調整を行い、価値を共創する。図表1を参照)の実現は、法務部が単独でその機能を担うだけでは難しいのではないか、との思いが強くなったという。

図表1 経産省による“法務機能”の理想像

企業における法務機能とは、「社内外の関係者との対話を通じて、法令や契約のみならず、社会的評価等も意識した調整を行い、健全で持続的な価値を共創する機能」。

「法務機能」の意義(価値の共創)

○「法務機能」の手段(対話によるバランスの調整)

出典:経済産業省 国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会 法務機能強化 実装ワーキンググループ第6回資料1(事務局提出資料)「法務機能実装の方向性のストーリー(案)」(2019年6月)1頁を基に作成

そして、法務部門も事業を理解し、事業部門も法務を理解すること、すなわち“法務コミュニケーションの活性化”こそが重要となるのではないか、という仮説を構築するに至る。その裏付けとして、2022年12月に法務部門771名、非法務部門2,476名の合計3,247名からなるアンケート調査を実施した。
「アンケート結果から見えてきたこと、それは“実は法務機能は分散している”ということでした。経営・事業責任者は、約4割の人が週5時間以上を法務関連業務に費やしていたのです。この傾向は、従業員が1,000名以上の規模になるほどより顕著でした。つまり、法務部の業務効率化を目的とするだけでは、実は“法務機能”の半分しかサポートすることができないのです」。

事業部門が携わっている法務機能を効率化すること、それは事業部門だけではなく法務部門に対しても大きな見返りがあるといえよう。
「たとえば、システム開発の契約書のチェックを依頼されたとします。相手側から出された契約書は、請負の形態でした。でも自社の事業モデルは委任である場合、委任契約書に変更させることに法務機能としての一番のバリューがあります。しかし、従来のAI契約書レビューに請負契約書のままで入れるなど、背景をきちんと理解していないと、契約書の字面だけを見て、請負の範囲内でここが有利とか不利とかの議論になってしまいます。こうした背景の理解が法務部にあることがバリューを出す第一歩なのです。逆に事業部側も法務を理解していたら、“これ請負っぽいんですけど、うち準委任なんで委任のほうがよくないですか”とか、“損害賠償・知財はこうなっていて…”など、先回りして法務に伝えることができます。相互理解が進めば、法務機能のあるべき姿が、より実体的になってきます」。

時短の近道~使用ツール問わず、案件単位でまとめる

それでは、法務部と事業部の相互理解促進のためには何が必要となるのであろうか。
山本CEOは、法務機能のある特性に着目した。
「法務業務は、フォーマットも決まっており、依頼を受けて手続を進めていく経理部のような業務ではありません。単に手続の依頼を受けてそれを実施するのではなく、他部門と一緒にプロジェクトを進めていくことが多いのです。契約書一つを見ても、型が決まっているわけでもないし、チェックや交渉など関わる人数も膨大になります。また、より正確に業務を進めていくためには、法務部も事業部も過去案件にあたって確認していくことが求められます」。

この過去案件の調査に実は手間がかかっているという事実が、先のアンケート調査から明らかになった。もしも、過去案件を簡単に探すことができれば、経験値や能力的な差を埋める手段となるし、契約書のチェックや交渉などのさまざまな部分、つまり全社的にかなりの業務効率化が期待できる。
「アンケートから見えてきたのは、“案件に関する文書がきちんと紐づけられて整理されている企業はほとんどない”ということでした。フォームやメールやチャットといったコミュニケーションツールを介して、契約書、法律相談、提案書などのいろんな文書が飛び交っていますが、比較的よく整理できている企業でも、気が向いた人が共有フォルダに入れている程度というのが、過去案件に関する実態です」。

この結果から導き出された解決策が、“ナレッジマネジメントを法務案件管理と表裏一体で実現する”という方法論である。
「何かベースになるものがあれば、全員がゼロから考える必要はなくなります。つまり、ナレッジマネジメントを導入すれば、集合知となり、いつでも再活用することができます。これこそが、法務と事業の一体化、すなわち法務機能のあるべき姿を実現させるキーポイントだと確信しました」。

法務案件の集約において最も大事な考え方は“情報の選別をさせない”ことだという。結果だけではなく、誰がどんなコメントをして、どのような道筋をたどって案件が最終着地したのか。つまり、理想形は契約書1通単位ではなく、案件単位で、メールによる相談も契約書も提案書も参考資料も紐づけられて整理されていることである(図表2)。

図表2 案件単位で文書を集約する

出典:GVA manageウェブサイト「法務と事業を一体化するための法務管理メソッド One Legal」より引用

それにより、法務部門は正しい形で事業の進捗を認識でき、事業部門への理解も進む。これまでバラバラであった文書や個人のノウハウといったものは、いわば暗黙知の領域であるが、これを“見える化”することが法務ナレッジマネジメントの入口となるのである。
「複数部署にわたる法務機能の課題解決には“ナレッジマネジメント”←“法務案件の集約”←“案件の受付管理”という流れ(図表3)をしっかりと作ることが重要なのです」。

図表3 しっかりとした一本の“幹”が課題の解決につながる

出典:GVA manageウェブサイト「法務と事業を一体化するための法務管理メソッド One Legal」より引用

しかし、ここに一つの“壁”が存在する。それはIT化の進展に伴うコミュニケーションツールの多様化である。たとえば、契約書を例にとっても、従来の紙の契約書に加えて電子契約書が増えてきている。紙と電子が共存する中、それらをどのように統一して管理していくかは大きな課題であるが、コミュニケーションツールにおいても、また同様な状況が起こっている。フォーム、メール、チャット、プロジェクト管理ツール、ワークフローツール、社内システムなど多様化されたコミュニケーションツールごとに存在するドキュメント同士をいかにして整理していくかは、高いハードルだが、案件受付管理の必須条件といえる。どのような対応がベストなのだろうか。

事業部を説得するには、“プロセスを変えてはいけない”!

山本CEOは100社以上の企業に案件受付管理についてヒアリングを実施した。その結果、手法は六つに分類され、一番うまく運営されていたのは、法務案件管理用のフォームを活用している企業であった。

<法務案件受付管理の手法>

① フォーム(Microsoft Forms、Googleフォーム等)

② メール(Outlook、Gmail等)

③ チャット(Slack、teams、チャットワーク等)

④ プロジェクト管理ツール(Backlog、Jira、Notion、Kintone等)

⑤ ワークフローツール(イントラマート、アジャイルワークス等さまざま)

⑥ 社内システム(SharePoint等も含む)

「法務案件の依頼や相談がさまざまなコミュニケーションツールで展開されると、法務部にとっては一つひとつ確認する手間が生じますし、回答の遅延の原因にもつながります。法務案件管理用フォームであればさまざまな情報も取得できますし、受付窓口も一元化できます。なお、GVA manageの開発当初は、フォームによるコミュニケーションを目指したのですが、事業部側からするとそれは業務プロセスの変更になり、負担がかなり大きいというのが現状で、抵抗が強かった。“メールなどのやり慣れた依頼方法ではなく、わざわざURLを開いて操作することになるので、まるで他人の家に出かけるくらい面倒くさい感覚になってしまう”と(笑)」。

法務ナレッジマネジメントの理想形を実現しても、業務プロセスの大幅な変更を伴うと、それは事業部にとっては受け入れがたいものとなってしまう。このジレンマをいかに解消すべきか。
「かなり大変だったのですが、メールなど他のコミュニケーションツールの機能にも対応できるように、また事業部門はアカウントもなしで、従来どおりの業務プロセスのまま使えるように仕様を変更しました。その後、徐々にフォームからの依頼への理解をしてもらうように働きかけていくようにステップを踏むことを提案しています」。

図表4 業務プロセスを変えずに法務案件の管理とナレッジマネジメントを実現

出典:GVA manageウェブサイトより引用

リーガルテックに限らず、何らかのシステムやツールを新たに導入する際に、どこの企業でも問題になるのが業務プロセスの追加・変更である。どんなに優れたプロダクトであっても、社内の合意を得られず導入が見送られるというケースは枚挙に暇がない。新機能の習熟に要する時間はコスト的な問題を提示するのと同時に、習熟までの業務品質の低下も覚悟をする必要があるからだ。
アカウントなし、業務プロセス変更なしで自動的にナレッジが集約され、法務業務の一体化を実現”できるというGVA manageの開発方法論は、その障壁を生まないところも大きな魅力となっているのである。
また、GVA manageの主なユーザーは法務部であるが、その法務部にとっての事業部はいわば“顧客”である。“ユーザーの顧客“が喜んでくれること、それがGVA manageの開発におけるもう一つの方法論であった。
「事業部に喜ばれる機能は主に二つあります。一つは、“相談の回答や、契約書のレビューなどの‘対応期限’が設定・更新されました”という通知が届くこと、もう一つは、案件の進捗具合がデイリーで確認できる機能です」(企業ごとに通知のオンオフ設定も可能)。
この機能は、以下のようなアンケート結果に鑑みて実装されたものである。

<非法務部門の法務案件の課題意識 TOP5>

・ 法務からの回答までのリードタイムが長すぎる。

・ 過去の回答内容や対応履歴の検索・調査に時間がかかる。

・ 法務の回答作成や調査に時間がかかりすぎている。

・ 法務からの回答内容がよくわからない。

・ 法務担当者によって回答の方針が変わり、一貫性がない。

たとえば、“クライアントに対して法務部から示された契約書の回答期限を報告しているのに、何の断りもなく期限を変更される”という不満が事業部側では大きかった。“せめて前もって教えてくれればクライアントへのお詫びの仕方もあるのに、当日いきなり言われたのではビジネスマナーに劣る”というもっともな話だ。法務部からすれば、案件の混雑具合や想定外の難易度など、遅延の理由はあるのだが、その進捗を“見える化”することで、事業部側の不満・不安を解消したのである。また、法務部としても、“どの法務担当がどの案件をどのようなステータスで対応しているかを把握すると、案件割り振りの効率性や、事業部を含めて誰がボールを持っているかも一目瞭然で効率的だ”と好評なのだという。

図表5 案件ごとの進捗を“見える化”する

悲願の戦略法務実現への確かな道のりとは?

“コミュニケーションツールの多様化”という壁を乗り越えたGVA manageは、法務ナレッジマネジメントの理想形を実現したプロダクトへと成長した。法務部の暗黙知の領域の“見える化”を実現し、若手部員の教育ツールとしても有効に機能している。
「“案件単位”とは、契約書でいえば、業務委託とNDAがあったら、それらすべての契約類型、そして複数契約書すべてのバージョンも一まとまりになっているということです。またこうした契約書群に紐づくメッセージや法務相談のコメント、提案書などの付随書類も一緒にまとめられていて、検索で一覧表示されます。ベテラン社員の思考やビジネス上の自社ルールを、新人もすぐに調べることができます」。

図表6 案件詳細の画面

GVA manageは、案件受付管理とナレッジマネジメントを両立させる法務機能の“入口”であり“ハブ”でもある。あらゆるコミュニケーションツールや他のリーガルテックプロダクトとも連携が可能であることは、ナレッジの属人化を防ぎ、業務プロセスへの負荷の軽減とツールおよびプロダクト間の相乗効果を導きだす。
経営陣にも、法務がどうビジネスに貢献しているかが見えるため、法務部はデータに基づいた戦略的な社内交渉ができるようになる。
「GVA manageの将来像ですが、データが蓄積されることで、そのデータをGVA assistで活用して会社の方針をまとめた契約審査のプレイブックを作成して、それを参照してみんなが標準的に対応できるようになることを目指しています。また、契約書のデータだけではなく法務データ全体の蓄積により、案件に要する時間、方向性、季節要因、人的配分などの分析が可能になります。すると、業務上足りてない要因を特定して、案件ごとに有効な人的配置や時間配分などを施すことも可能となり、理想とする戦略法務を実現することができます。これらの分析は、法務部の適正な経営資源確保のために行う経営陣とのコミュニケーションにも役立つと思います」。

山本 俊 氏

GVA manageの開発に終わりはない。ユーザーとのディスカッションを重ねながら、随時バージョンアップを重ね続けている。過去の知見も統合できるよう、GVA manage導入前のドキュメントを一括してアップロードする機能も2023年3月にリリースとなった。今後の開発では、“どの部署からきたものか”という所在情報、契約書の類型のタグ、たとえば、NDAの相手方雛形/開示側などを付与することで、過去案件の検索時に類似案件をレコメンドする付加価値をつける。また、顧問法律事務所など外部とのコミュニケーションを自動的に格納できる機能なども直近のリリースとして計画されている。
こうした開発により、法務案件を構成するビジネス背景をもナレッジ化することが可能となる。これこそ法務部が事業を知り、事業部が法務を知るための知恵の集積たりえる由縁であろう。

→この連載を「まとめて読む」
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山本 俊

GVA TECH株式会社 代表取締役

弁護士登録後、鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にスタートアップとグローバル展開を支援するGVA法律事務所を設立。2022年ジュリナビ全国法律事務所ランキングで43位となる。2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。法務管理クラウド「GVA manage」、AI契約書レビュー支援クラウド「GVA assist」やオンライン商業登記支援サービス「GVA 法人登記」等のリーガルテックサービスの提供を通じ「法律とすべての活動の垣根をなくす」という企業理念の実現を目指す。