ビジネスと人権領域におけるサステナビリティ条項の実践的活用 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに(ビジネスと人権に関する近時の動向等)

日本政府が2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(以下「人権ガイドライン」という)を公表してから1年半余りが経過した。その後、2023年4月に経済産業省から「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」が公表され、日本における「ビジネスと人権」に関する取り組みが加速している。この間、欧州を中心に、海外でもさまざまな動きがあった。そのうち主要と考えられる動向としては、以下の図表1に挙げたようなものがある。

図表1 欧州における「ビジネスと人権」に関する取組例

ドイツ

サプライチェーン・デュー・ディリジェンス法は、2023年1月1日の施行から早や1年が経過したが、この間、バングラデシュの工場での安全性が確保されていないとして人権擁護団体がアマゾンおよびイケアについて当局に苦情を申し立てた事案や、新疆から部品や原材料を調達している自動車メーカーについて苦情が申し立てられた事案、果物の仕入先であるエクアドルとコスタリカでの低賃金労働や農薬による健康リスクについてスーパーマーケットチェーンへの苦情が申し立てられた事案など、同法に基づき当局に対して苦情が申し立てられたケースが複数発生している(ただし、罰則が適用された例はまだ見られない)。

フランス

2023年12月5日、フランス郵政公社(ラ・ポスト・グループ)に対し、数百人の不法労働者を下請契約で常態的に就労させていることや、グループ内の安全衛生作業手順が「親会社および発注会社の注意義務に関する法律」に違反するとして、同法に基づくものとしては初となる有罪判決が言い渡された。

EU

2024年4月24日、EU議会が「企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(Directive on Corporate Sustainability Due Diligence=CSDDD)※1」を採択した。CSDDDの適用対象についてはここまで紆余曲折を重ねたが、最終的に、①EU域内の企業については、従業員数1000名超かつ全世界の年間売上高4億5,000万ユーロ超の場合に(ただし、当初は従業員数5000人以上かつ売上高15億ユーロ超の企業のみが適用対象であり、その後段階的に適用対象が拡大される。)、②EU域外の企業については、EU域内の年間純売上高が上記の基準を超える場合に、それぞれ適用されることとなった。CSDDDの適用対象企業は、そのバリューチェーンについてデュー・ディリジェンスの実施義務を負い、違反した場合には最大で全世界での年間売上高の5%の制裁金を科せられるほか、民事損害賠償の対象にもなり得る。各EU加盟国は、今後2年の期間内に、CSDDDを踏まえた国内法を制定することになる。

※1 European Parliament. Press release. Due diligence: MEPs adopt rules for firms on human rights and environment(24 April 2024)

翻って日本では、既に先進的な取り組みを行っている企業、対応道半ばの企業、ようやく対応を開始するという企業などさまざまある状況であるが、海外に進出している日本企業を対象とした統計によれば、人権デュー・ディリジェンス(以下「人権DD」という)を実施している企業は28.5%に止まり、その中でも、直接のサプライヤーに対して人権DDを行っている企業は48.6%、Tier 2のサプライヤー(二次下請け)まで対象としている企業は18.4%と、人権尊重に向けた取り組みが広く浸透しているとはいまだ言い難い状況にある((日本貿易振興機構「2023年度 海外進出日系企業実態調査(全世界編)」参照。))。

一方で、筆者らの業務においては、クライアント企業より、海外企業との契約締結交渉において、人権尊重に向けた取り組みや人権DDへの対応に関する契約条項の提示を受けたとの相談、あるいは、自社から取引先に対してそのような契約条項を提示することについての相談を受けることが増えたと感じる。日本貿易振興機構の別の統計においても、企業が人権DDを行う際に取引先から情報を入手するための具体的方策として、

① 取引先アンケートの実施

② ヒアリング調査・ミーティングの実施

③ 定期的な現地確認

④ 通報システムの設計

⑤ 契約書に人権要件を明記する

⑥ 契約書に原材料の調達先について報告することを盛り込む

といった事項が挙げられているが((日本貿易振興機構「2023年度 海外進出日系企業実態調査(北米編)」参照。))。、このうち①または③のような事項は、取引先との契約書で対応義務について定めることによってその実効性を更に高めることができると思われ、直接的に契約書に言及する⑤および⑥とオーバーラップする面も少なからずある。

このように、サプライチェーンに対する人権DDを実効的に行うための方策として、取引先との契約に人権DDに関する事項を盛り込み、人権尊重に関する共通理解を醸成するとともに、人権DD実施時の対応等について適切なコントロールを及ぼすということは、一つの重要な視点と思われる。
このような人権尊重に関する契約条項(本稿では便宜上「サステナビリティ条項」という)は、2021年に「ABAモデル契約条項2.0」((ABAモデル契約条項2.0および解説を含む報告書 ‟BALANCING BUYER AND SUPPLIER RESPONSIBILITIES Model Contract Clauses to Protect Workers in International Supply Chains, Version 2.0”。))が発表された際にも取沙汰されたところであるが、日本企業として使いやすい契約条項とはどのようなものかという視点も踏まえて、改めて取り上げることとしたい。

サステナビリティ条項を検討する際の視点

人権DDは、企業による人権侵害リスクを軽減するためになされる継続的な取り組みであり、実質的で実効的な実践が求められることは言うまでもない。そして、前述のとおりサステナビリティ条項は、サプライチェーンに対する人権DDの実効性を確保するために導入されるものである以上、その内容は、取引先であるサプライヤーにとってある程度片務的なものとならざるを得ない。しかし、サステナビリティ条項は、あくまで人権DDの実効性を確保することを目的とするものであり、サプライヤーに人権DDの責任を転嫁するものであってはならない。したがって、サステナビリティ条項の設計および導入に際しては、人権DDの実効性を図る視点と、サプライヤーに対する責任転嫁とならないように留意する視点の双方から、複眼的に検討する必要がある

実効性確保の視点からの検討

人権DDにおいては、自社の事業活動のみならず、サプライチェーンを含む取引関係を通じた人権への負の影響の評価および対処が求められる。また、ここでいう取引関係には、自社の直接の取引相手(以下「一次サプライヤー」という場合がある)との関係だけでなく、直接の取引相手を介した間接的な取引関係(すなわちサプライチェーン全体)も含まれる。これは、ビジネスによる人権侵害のリスクはサプライチェーンの末端で顕在化するケースが多く、そのような人権侵害を回避するには、サプライチェーン全体を通じて人権DDを実施する必要があるからである。

したがって、実効的な人権DDを実現するには、一次サプライヤーとの契約において、一次サプライヤー自身の人権リスクの評価・対処を求めることはもとより、更にその先に位置する一次サプライヤーの取引先を含む二次以下のサプライヤーにも自社の人権リスクの評価・対処を行わせるため、一次サプライヤーに対して、二次以下のサプライヤーに対する合理的措置をとるよう求めることができるようにしておくことが望ましい。

この点、合理的措置の具体的内容については、関連するサステナビリティ条項についての後記説明に委ねるが、上述した観点から講じ得る他の工夫としては、一次サプライヤーとの契約におけるサステナビリティ条項そのもの(あるいは実質的に同内容のサステナビリティ条項)を、二次以下のサプライヤーとの契約においても連鎖的に導入する(フローダウン条項を規定する)ことを一次サプライヤーに義務づけることが考えられる。実際、「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」においても、このようなフローダウン条項がサプライチェーンにおけるリスク情報を川下に伝達するために有用であることが言及されているほか、前述したABAモデル契約条項2.0にも、二次以下のサプライヤーとの契約にフローダウン条項の規定を求める内容が含まれている。

もっとも、フローダウン条項は、サプライチェーン全体を通じての実効的な人権DDを確保するための有効な一つの仕組みではあるが、不可欠または必要十分な仕組みというわけではない。フローダウン条項の挿入の可否または当該条項の実効性は、一次サプライヤーによる、二次以下のサプライヤーに対する影響力の程度による部分が大きいことから、実際のサステナビリティ条項に盛り込むか否かは、取引の実情に応じた判断が必要である。

責任転嫁を防止する視点からの検討

サステナビリティ条項がサプライヤーに対する責任転嫁として用いられないようにするためには、同条項の目的が、サプライチェーン全体を通じた人権DDの実効性を図るために契約当事者が協力して人権DDを実施する点にあることを明確に規定しておくことが望ましい(もちろん、大前提として、調達側企業の経営陣や調達担当者がかかる目的を十分に認識していることが重要であることは言うまでもない)。

また、個々のサステナビリティ条項の内容に関しては、たとえば、調達側企業がサプライヤーに対して自社の行動規範の遵守を求めたり、あるいは、人権DDの実施に際してサプライヤーに詳細な調査や高度な是正措置等を求めたりすることによって、サプライヤーに過大なコストや労力の負担を生じさせる場合には、下請法が禁止する「買いたたき」(同法4条1項5号)や「不当な経済的利益の提供要請」(同法4条2項3号)、あるいは独禁法が禁止する「優越的地位の濫用」(同法19条、2条9項5号)に該当する可能性があるため、サプライヤーに過大なコストや労力の負担が生じない工夫(サプライヤーによる行動規範の遵守や人権DDの実施にとって有用な情報の提供、サプライヤーに要求する調査・是正措置等の合理的限定や調達側企業による協力、サプライヤーに生じたコストの一部負担など)が必要である。

更に、上述のように、一次サプライヤーに二次以下のサプライヤーに対する合理的措置をとるよう求めたり、フローダウン条項の規定を求めたりした場合に、二次以下のサプライヤーが当該合理的措置やフローダウン条項に違反したとしても、一次サプライヤーが二次以下のサプライヤーのすべてをコントロールできるわけではない以上、一次サプライヤーが責任を負う場面を限定する(たとえば一次サプライヤーに悪意または重過失が認められる場合に限り責任を負うなどの)工夫が必要になると考えられる。

なお、サステナビリティ条項に法的効果を持たせる方式に関しても、人権尊重に向けた取り組みは、サプライヤーのみが負担する片務的なものではなく、当事者双方が協力して取り組むべきものであるという観点からは、サプライヤーから一方的に差し入れられる誓約書方式ではなく、契約書等の両当事者による合意書方式によることが望ましいであろう。

サステナビリティ条項の具体的内容

次に、サステナビリティ条項に盛り込むことが考えられる具体的な条項の内容について解説したい。なお、具体的な条項例としては、日本弁護士連合会「人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)」(2015年1月7日)などを参考にすることが考えられる。

自社の行動規範等をサプライヤーに遵守させる条項

まず、一次サプライヤーなど直接の取引先に対して、自社の行動規範・調達基準の遵守を義務づける条項を定める必要がある。
遵守を求める行動規範・調達指針については、人権のみならず、他のサステナビリティ(ESGの側面を含む広い持続可能性)の観点も踏まえて策定する方法と、ひとまず人権のみにフォーカスを当てて策定する方法が考えられる(後者の場合には、実務的には、「人権方針」などとして定められることが多いと思われる)。いずれの場合であっても、人権との関係においては、「ビジネスと人権に関する指導原則」等の国際人権基準に則り、ISO26000((国際標準化機構(ISO)により2010年11月に発行された社会的責任に関する国際規格 “ISO26000 Social responsiblity”。))、国連「グローバル・コンパクト」、OECD「OECD多国籍企業行動指針」、ILO「多国籍企業と社会政策に関する原則の三者宣言」等の国際的な規範・規格を参照しつつ、各企業の直面する人権課題やリスクを踏まえた内容にする必要がある。

なお、契約締結後に、自社を取り巻く社会経済環境の変化に応じて、行動規範・調達基準を改定することがあり得る(また、そのような対応が望まれる)が、サプライヤーに改定後の行動規範・調達基準を遵守させるために、サステナビリティ条項には、契約締結後に自社の判断で行動規範・調達基準を改定することができる旨を定めておくことが望ましい。もっとも、就業規則の変更の有効性に関する議論と同様に、行動規範・調達基準の改定内容が合理性を有していない場合には、改定の有効性が否定される可能性があることには留意が必要である(かかる観点から、行動規範・調達基準の改定は、改定後の内容が合理性を有する限度でのみ可能である旨を規定しておくことも考えられる)。

サプライヤーによる情報提供および調達側企業の監査に関する条項

次に、サプライヤーによる情報提供および調達側企業の監査に関する条項として、以下の条項を定めることが考えられる。

① サプライヤーによる行動規範・調達基準の遵守、人権DDの実施状況の報告義務を定める条項

② サプライヤーに行動規範・調達基準の違反もしくは重大な人権侵害またはそのおそれが判明した場合の報告義務を定める条項

③ ①および②の義務の遵守、実施状況について自社による監査権限、これに対するサプライヤーによる協力義務を定める条項

なお、取引先が一次サプライヤーである場合、調達側企業の立場からは、二次サプライヤー以降の関連調達先における遵守状況や人権DDの実施状況についても、一次サプライヤーに対して報告や監査を義務づけることがより望ましいといえるが、サステナビリティ条項にそこまでの義務規定を設けるか否かは、当該一次サプライヤーとの関係性や、二次以下のサプライヤーにおける人権課題の重要性を踏まえて検討することになると思われる。

①の定めについては、報告とともに、報告の内容が真実であることを裏づける客観的資料の提出を義務づけておくことが望ましい。その場合、どのような資料の提出があればサプライヤーによる遵守状況等を確認しやすいかについては、各企業の事業の特性等を踏まえて個別に検討する必要がある。また、自社が求める内容を漏れなく報告してもらうためには、あらかじめ所定の報告書式を定めておくことが考えられる。もっとも、サプライヤーにとって過度な負担にならないような配慮が必要であることは前述したとおりであり、たとえばグループ企業全体で書式を統一することや、業界団体や公的機関が作成している書式をベースとすることも検討に値する。

また、③の定めについては、サプライヤーの自主的な報告のみに委ねていると実態を把握できない場合があり得るため、サプライヤーの現地担当者にヒアリングを行うことや書類を確認することを可能にするものである。なお、実務上、当該条項を設けたすべてのサプライヤーに対して監査を行うことは現実的ではないため、リスクベースアプローチの観点から、人権課題の重大性に応じた監査計画を作成しておくことが一般的であり、人員確保等の観点から限界がある場合には、まずは自社の事業に直結する主要なサプライヤーから監査を行うことでもよいと思われる。さらに、監査結果を自社のみならず、自社のグループ企業内で共同利用する可能性がある場合には、個人情報や秘密情報との関係で、サプライヤーから監査結果のグループ内での利用についてあらかじめ承諾を得ておく必要があることには留意が必要である。

サステナビリティ条項違反の是正を求める条項

上述のとおり、サステナビリティ条項において、サプライヤーに対し自社の行動規範や調達基準の遵守等を求める条項を定めることは重要であるが、単にかかる条項を設けるだけでは、その実効性が十分に確保されず、結果的に、人権に対する負の影響の解消という目的を達成することができないおそれがある。そこで、サプライヤーにおいて、自社の行動規範等への抵触や人権DDの不実施または不十分な実施などのサステナビリティ条項違反が認められる場合には、当該サプライヤーに対し、違反行為を是正し、人権への負の影響を是正・解消するために必要となる措置を講じることを要求することができる旨の条項を規定することが考えられる。

また、人権DDの実効性確保をより確実なものとするには、単に発注側企業がサプライヤーに対してサステナビリティ条項違反の是正措置を要求することができる旨を抽象的に規定するにとどまらず、たとえば、サプライヤーに対し、是正措置要求を受けた日から合理的期間内に、サステナビリティ条項に違反した理由を検証させるとともに、それを踏まえた是正計画を策定・報告させたうえで、当該計画に沿って相当期間内に違反を是正する措置を講じる義務を具体的に規定する方法も考えられる。なお、人権への負の影響は、早期に解消できるものもあれば、その解消のために根本的な制度変更等を要するために相応の時間や労力を必要とするものもあるため、単に、「相当期間内の是正」を要求するといっても、一律に「相当期間」の時的範囲を画することは困難であり、生じている「人権への負の影響」の深刻度や内容、是正可能性等に応じて個別具体的に検討する必要がある。
更に、サプライヤーにおいて自社の行動規範その他のサステナビリティ条項違反が認められ、かつ、相当期間内の是正もなされない場合には、サプライヤーとの契約を解除し、取引を中止する旨の条項を定めることが考えられる。

もっとも、人権ガイドラインに謳われているとおり、サプライヤーとの取引を中止することは、自社と人権への負の影響との関連性を解消することには繋がるものの、必ずしも負の影響自体が取り除かれるわけではなく、自社との関連性を解消することにより、かえって、人権への負の影響等が深刻化するおそれもある。

そのため、人権への負の影響が生じているからといって、直ちに契約を解除することは相当ではなく、サプライヤーとの関係を維持しながら、サプライヤーに対する影響力を行使しつつ、人権への負の影響を防止・軽減するよう働きかけを行うべきである。そして、人権ガイドラインでは、取引停止が相当と認められるのは、負の影響の防止や軽減のための試みが何度も失敗した場合や、負の影響が解消不能な場合、改善する合理的な見込みがない場合とされている。実務上は、取引を継続している間は、サプライヤーが負の影響の軽減に向けて、どのような方針の下、どのような対策等を実施しているかなどを定期的にモニタリングしたうえで、調達側企業においても、サプライヤーにとって人権への負の影響を解消するために必要な情報等を提供するなどの十分な措置を講じたにもかかわらず、なおサプライヤーが改善に向けた措置を講じようとしない場合などには、取引停止に向けた検討を行うことになろう。

ただし、サプライヤーが違反しているサステナビリティ条項の内容等によっては、直ちにサプライヤーとの取引中止を検討すべき場面もあり得るものと思われる。武力の行使その他の紛争に対する武器の供与や有害化学物質の使用など、特に人権侵害リスクが高く負の影響度の大きい行為を禁ずる条項などの違反については、即時解除事由として規定することも考えられ、自社やサプライヤーの状況等に応じて個別具体的に検討する必要がある。なお、即時解除事由を規定することの要否または当否を判断するにあたっては、上記のとおり、取引中止が人権への負の影響に対する改善につながらず、負の影響が深刻化する可能性があることから、サプライチェーンにおける人権への負の影響に対する責任を放棄するような事態とならないよう、慎重な検討が必要である。

グリーバンスメカニズム(苦情処理制度)の構築に関する条項

また、各企業は、自社およびサプライチェーンにおける人権への負の影響を早期に把握し、負の影響の是正や解消に向けた取り組みを行うため、自社およびサプライチェーンに関する苦情等の情報を収集する仕組みとして、グリーバンスメカニズムを構築し、または業界団体等のグリーバンスメカニズムに参加することが望ましいとされている。
そこで、サプライヤーに対して、独自のグリーバンスメカニズムの構築や調達側企業の構築するグリーバンスメカニズムへの参加を義務づけたり、あるいは、サプライヤーが参加することのできる業界団体等によるグリーバンスメカニズムが存在する場合には、それに参加することを義務づけたりするとともに、当該グリーバンスメカニズムにおいて判明した人権への負の影響等に対する是正・救済を行うことを義務づける条項を定めることが考えられる。

おわりに

冒頭で述べたとおり、昨今、上場企業を中心に、「ビジネスと人権」に関する取り組みが加速しているが、二次以下のサプライヤーについても人権DDの対象に含めている企業はごく僅かであり、充分な取り組みがなされているとは言い難い状況にある。その背景には、いまだ「ビジネスと人権」についての具体的な取り組み方法がわからないという事情があるのかもしれない。
この点、本稿で取り上げたサステナビリティ条項は、従来の契約実務で取り扱われてきた事柄の延長線上に位置づけられるものであり、その導入を検討することは比較的容易であると思われる。前述のとおり、サステナビリティ条項の導入は、サプライチェーンに対する人権DDの実効性を確保するための有効な方策の一つであるから、「ビジネスと人権」に対する取り組みに未着手の企業はもとより、既に何らかの取り組みに着手している企業においても、その実効性を高めるために、サステナビリティ条項の導入を検討されてはいかがだろうか。

寺井 昭仁

弁護士法人御堂筋法律事務所 パートナー弁護士

2001年慶應義塾大学法学部卒業。2003年弁護士登録。2010年米国ミシガン大学ロースクール卒業(LL.M.)。2011年米国ニューヨーク州弁護士登録。2016年弁護士法人御堂筋法律事務所パートナー。争訟・紛争解決、国際取引、独占禁止法・競争法、コンプライアンス・企業不祥事の各分野を中心に、企業法務全般を取り扱う。コーポレート分野では、ビジネスと人権への対応に関する相談を始め、海外子会社を含むグループコンプライアンス全般に関する相談等を受けるなどしている。

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武井 祐生

弁護士法人御堂筋法律事務所 パートナー弁護士

2006年京都大学法学部卒業。2008年京都大学法科大学院修了。2009年弁護士登録。2010年弁護士法人御堂筋法律事務所入所。2018年弁護士法人御堂筋法律事務所パートナー。独占禁止法・競争法、M&A・企業再編、争訟・紛争解決、コンプライアンス・企業不祥事の各分野を中心に、企業法務全般を取り扱う。ビジネスと人権への対応やグリーン化と競争法などSDGsに関する相談も取り扱う。ビジネスと人権分野では、人権方針の策定や人権マニュアルの監修、人権DDの実施に関する相談を受けるなどしている。

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山﨑 陽平

弁護士法人御堂筋法律事務所 パートナー弁護士

2008年同志社大学法学部卒業、2010年同志社大学法科大学院修了。2011年弁護士登録、2012年弁護士法人御堂筋法律事務所入所。2017年カリフォルニア大学ロサンゼルス校卒業、DORDA法律事務所(オーストリア・ウィーン)勤務。2019年ニューヨーク州弁護士登録。国際取引、M&A/コーポレート、競争法を主な取扱い分野とし、ビジネスと人権に関する企業の体制整備の支援や講演等を行っている。

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森 悠樹

弁護士法人御堂筋法律事務所 パートナー弁護士

2012年京都大学法学部卒業。2014年京都大学法科大学院修了。2015年弁護士登録。2016年弁護士法人御堂筋法律事務所入所。2024年弁護士法人御堂筋法律事務所パートナー。コーポレート・M&A、独占禁止法・競争法、労働法関連法務の各分野を中心に、企業法務全般を取り扱う。ビジネスと人権を含むサステナビリティ・ESGに関する相談も幅広く取り扱っている。

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藤岡 天斗

弁護士法人御堂筋法律事務所 アソシエイト弁護士

2018年神戸大学法科大学院修了。2019年弁護士登録。2020年弁護士法人御堂筋法律事務所入所。コーポレート・M&A、争訟・紛争解決、コンプライアンス法務の各分野を中心に、企業法務全般を取り扱っており、ビジネスと人権に関する人権方針の策定、人権DDを含むサステナビリティ・ESGに関する相談も幅広く取り扱っている。

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