令和4年改正建築物省エネ法 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

© Business & Law LLC.

令和4年建築物省エネ法改正

本稿で取り上げるべくタイトルに記載した「建築物省エネ法」は略称であり、令和6年4月1日より正式には「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」(平成27年7月8日法律第53号)という。建築物省エネ法は令和4年に改正された(令和4年6月17日法律第69号による改正。以下、「令和4年改正」という)。その改正の目的は、長期的には2021年10月に政府が閣議決定した2050年のカーボンニュートラルの実現注1中期的には同年4月の米国気候サミットで政府が表明した“2030年度に2013年度比で温室効果ガスを46%削減”注2という目標に向けて、エネルギー消費の約3割を占める住宅・建築物分野での省エネ対策を加速することにある。

2021年10月22日の閣議決定(「エネルギー基本計画」)では

・ 2050年に住宅・建築物のストック平均でZEH・ZEB注3基準の水準の省エネルギー性能が確保されていることを目指す。

・ 建築物省エネ法を改正し、省エネルギー基準適合義務の対象外である住宅および小規模建築物の省エネルギー基準への適合を2025年度までに義務化する。

・ 2030年度以降新築される住宅・建築物について、ZEH・ZEB基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指すため住宅トップランナー基準の引上げ等を2030年度までに実施する。

ことが決定されており、これら閣議決定事項の実現のために、建築物省エネ法の“建築物のエネルギー消費性能の向上を図る”という従来の目的に“建築物への再生可能エネルギー利用設備の設置の促進を図る”ことを加えることになった。そこで、令和4年改正前は法令名に「向上」としかなかったところが「向上等」に改正された。

令和4年改正では、上記法令名および目的規定の改正のほか、

①  住宅トップランナー制度の対象拡充

②  省エネ性能表示の推進

③  すべての新築住宅・非住宅への省エネ基準適合の義務づけ

④  建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度の導入

等の改正がされている。
本稿では、このうち①から③を取り上げて解説を試みるものである。

なお、令和4年改正は、令和5年4月1日に一部施行済みであり、残る部分は令和6年と令和7年の各4月1日に順次施行予定である注4。 以下に紹介する①住宅トップランナー制度の対象拡充は令和5年4月1日に既に施行済みであり、②省エネ性能表示の推進はまさに本(令和6)年4月1日に施行となったばかりである。なお、③すべての新築住宅・非住宅への省エネ基準適合義務づけは令和7年4月1日に施行予定となっている。

住宅トッププランナー制度の対象拡充

住宅トップランナー制度の概要

「住宅トップランナー制度」とは、1年間に一定個数以上の住宅を供給する事業者に対して、国が、目標年次と建築物省エネ法(以下「法」という)が求める原則的な省エネ基準を超える水準の基準(トップランナー基準)を定め、新たに供給される住宅について平均的にトップランナー基準を満たすことを努力義務として課す制度である注5
令和4年改正前は、住宅トップランナ―制度の対象は、建売戸建住宅、注文戸建住宅、賃貸アパートであったが、本改正により分譲マンションにも対象が拡大された。前述のとおり、改正後の住宅トップランナー制度は令和5年4月1日に施行済みである。
対象となる住宅種別や対象事業者等は図表1のとおりである。

図表1 トップランナー制度の対象住宅・事業者

住宅種別

対象事業者※1
(年間供給戸数)

目標年度

 トップランナー基準

外皮基準※2

一次エネルギー消費量基準 

建売戸建住宅

150戸以上

令和2年

省エネ基準

省エネ基準比15%削減

注文戸建住宅

300戸以上

令和6年

省エネ基準比25%削減
(当面の間20%)

賃貸アパート

1000戸以上

令和6年

省エネ基準比10%削減

分譲マンション

1000戸以上

令和8年

強化外皮基準

省エネ基準比20%削減

※1 対象事業者に該当するか否かは各年度内に「確認済証」が交付された住宅を対象として戸数をカウントする。戸数が所定の個数を上回れば国に対する省エネ性能の報告が必要となる。複数の種別の住宅を供給している事業者は戸数を種別ごとにカウントして該当する種別について国への報告が必要になる注6

※2 概要、「外皮基準」とは、外壁や窓等の外皮の表面積当たりの熱の損失量が基準値以下になることを求める基準をいい、一次エネルギー消費量基準とは空調エネルギー消費量、換気エネルギー消費量、照明エネルギー消費量等の合計から太陽光発電設備等による創エネ量のうち自家消費分を控除した量が基準値以下になることを求める基準をいう注7

出典:国土交通省「分譲マンションにおける住宅トップランナー制度の概要等について」(令和5年1月)8頁をもとに作成。

勧告、公表、命令

住宅トップランナー制度は、法の文理上は対象事業者の努力義務となっており注8、対象事業者に目標年度およびそれ以降の年度における必達が求められているわけではない。
しかし、国は、対象事業者に対し、エネルギー消費性能の一層の向上を相当程度行う必要があると認めるときは、その目標を示して、その一層の向上を図るべき旨を勧告することができ、その勧告に従わない事業者については公表することができる。さらに、勧告を受けた事業者が正当な理由なく勧告に係る措置をとらなかった場合において、エネルギー消費性能の一層の向上を著しく害すると認められるときは、国は、社会資本整備審議会の意見を聞いて、勧告に係る措置をとるべきことを命じることができる。また、国は、これら勧告、公表、命令の施行に必要な限度で、報告徴求、立ち入り、ならびに住宅、帳簿および書類等の検査をできることになっている注9
つまり、国が、これら勧告、公表、命令の措置をとることにより、対象事業者はトップランナー基準の実現を事実上強制されるともいえる制度設計になっている。もちろん、その措置の発動にあたっては上記の厳しい要件を満たす必要があり、法執行も慎重になされるものと予想される。しかし、地球温暖化対策が喫緊の課題であることを踏まえれば、対象事業者においては、トップランナー基準の実現に向けて真剣な取組みが必要な環境にあるとの認識が必要である。

省エネ性能表示の推進

省エネ性能表示制度の開始(令和6年4月1日~)

本(令和6)年4月1日から省エネ性能表示制度が始まる。法には33条の2と3の規定が新設され、建築物の販売または賃貸を行う事業者に対し、当該建築物の省エネ性能を表示するよう努力義務が課されることになる。また、33条の2第2項に基づき「建築物のエネルギー消費性能に関し販売事業者等が遵守すべき事項」(令和5年9月25日告示第970号)(以下、単に「告示」という)が制定され、同告示において省エネ性能表示の詳細が定められている。

省エネ性能表示制度の目的は、消費者等の建築物の省エネ性能への関心を高め、省エネ性能が高い建築物が選択されやすい市場環境を整備することにある。つまり、建築物の省エネ性能は、建築物の耐震性能などと同様に、建築物の外観等から容易に把握できるものではないため、消費者等が省エネ性能を把握したうえで物件を比較検討できるよう建築物の省エネ性能を把握している者がその性能を“見える化”して情報提供する必要があることから、建築物の省エネ性能表示制度が導入されたものである。

表示すべき事項等

建築物の販売・賃貸事業者が表示すべき事項やその表示に当たり遵守すべき事項は告示に示されている。
省エネ性能表示制度が適用されるのは、本年4月1日以降に建築確認申請がされた建築物である。それ以前に建築確認申請がされた建築物(既存建築物)には適用がない。もちろん、既存建築物についても省エネ性能表示をすることが望ましいが、後述する勧告等の対象にはならない。
表示すべき事項は次の①および②注10である。

① 販売等を行う建築物の区分に応じた以下の表示事項

・ 非住宅建築物(複合建築物の非住宅部分を含む):一次エネルギー消費量の多段階評価

・ 住宅(複合建築物の住宅部分を含む):外皮性能の多段階評価および一次エネルギー消費量の多段階評価

・ 複合建築物(棟単位):一次エネルギー消費量の多段階評価

② ①に掲げる事項に係る評価年月日

※ 多段階評価とは、省エネ性能に応じてあらかじめ定められた段階表示のどの段階に該当するかを示すことである。具体的には、国土交通省住宅局参事官(建築企画担当)付「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の建築物省エネ表示制度ガイドライン(第1版)」(2023 年 9 月)および国交省による本制度の解説HPを参照。

また、任意の表示事項としては、

・ 建築物への再エネ利用設備の有無と同設備がある場合の再生可能エネルギーを考慮した一次エネルギー消費量の多段階評価の表示

・ 1年当たりの目安光熱費の金額

・ 省エネ性能について、第三者評価を受けた場合は当該第三者による評価のマーク

が列挙されている注11

表示方法

表示方法はラベルにより、告示にその様式が列挙されている。具体例は国交省HPの建築物省エネ法に基づく省エネ性能表示制度に関するトップページに、

・ 住宅(住戸)用

・ 住宅(住棟)用

・ 非住宅用

・ 複合建築物用

のそれぞれにつき、自己評価分と第三者評価分の2種類ずつ計8種類が掲載されているので、ご覧いただきたい。
これらのラベルを新聞、雑誌、チラシ、パンフレット、ウェブサイト等の建築物の広告に表示する必要がある。

第三者評価

省エネ性能表示は自己評価に基づく表示をすることで法の要件を満たすが、第三者評価を取得することが推奨されている。「第三者」とは、法15条1項に規定する登録建築物エネルギー消費性能判定機関または建築物のエネルギー性能の評価についてこれと同等以上の能力を有する機関をいう、とされている注12。建築物の環境性能評価については、CASBEEやLEEDなども知られているが、省エネ性能表示制度における第三者評価に該当するのは一般社団法人住宅性能評価・表示協会のBELSである注13。なお、現段階では、国はBELS以外の第三者評価を対象とすることは考えていないとのことである注14

勧告、公表、命令

省エネ性能表示は、法の文理上は、建築物の販売・賃貸事業者の努力義務とされているが、国は告示に従わない対象事業者に対し、住宅トップランナー制度と同様に勧告、公表、勧告に係る措置をとることを命じることができる注15
ただし、その運用に関し、国は、制度施行後当面の間は、“事業者の取組状況が他の事業者の表示意欲の阻害につながっている場合”や“制度全体の信頼性を揺るがすような場合等の社会的影響が大きい場合”を対象に運用するとしている注16。具体例としては、

・ 多数の住宅を供給する事業者が、比較的容易に表示できる状況であるにもかかわらず、それらの住宅について相当数表示を行っていない場合

・ 遵守事項を逸脱した表示により広範囲で消費者等の混乱が生じている場合

が挙げられている。

“社会的影響が大きい場合”がこれらの具体例に限定されるわけではなく、また、法執行が“社会的影響が大きい場合”に限定されるのは制度施行後の“当面の間”であることから、対象事業者は、省エネ性能表示が世間一般にある程度浸透した後には、より厳格な法執行がされるであろうことに注意を要する。

すべての新築住宅・非住宅への省エネ基準適合の義務づけ

建築物の新築、増改築への省エネ基準適合の義務付け

建築物の備えるべきエネルギー消費性能基準は、法2条3号に基づき「エネルギー消費性能基準等を定める省令」(平成28年1月29日経済産業省、国土交通省令第1号)に定められており、住宅には外皮性能基準と一次エネルギー消費量基準が適用され、非住宅には一次エネルギー消費量基準のみが適用されることとなっている注17

令和4年改正前は、上記基準への適合義務が課せられていたのは、新築、増改築いずれの場合も床面積の合計が300㎡以上の非住宅のみであったが、令和4年改正により、その適合義務は、原則、すべての建築物に課せられることになった。この改正は令和7年4月1日からの施行が予定されている。ただし、政令で床面積が10㎡以下の小規模建築部は適合義務の対象外となる見込みである注18。また、令和4年改正後の令和4年改正後の法20条(現行法18条)により、

・ 居室を有しないこと、または高い開放性を有することにより空気調和設備を設ける必要がないもの

・ 法令または条例の定める現状変更の規制および保存のための措置等の措置のために省エネ基準への適合が困難なもの

・ 仮設の建築物

は省エネ基準適合義務の対象から除外されることになる。対象から除外される建築物は具体的には政令で定められることとなっており、たとえば、車庫、駐輪場、畜舎、公共用歩廊、観覧場、スケート場、神社、寺院、国宝、重要文化財、景観重要建造物等が例として挙げられている注19

建築確認との関係

建築物への省エネ基準適合義務を課す規定は、令和4年改正前の現行法では11条2項(改正後は繰り上がりにより10条2項)により「建築基準法第6条第1項に規定する建築基準関係規定とみなす」こととされていた。令和7年4月1日以降は、建築物の新築、増改築について、原則として、改正後の法11条1項の省エネ適合性判定により省エネ基準に適合するものと判定されない限り、建築確認を受けることができなくなる点が重要である。
その例外として省エネ適合性判定を要しないこととなるのは、

① 建築確認の対象外の建築物(都市計画区域・準都市計画区域外の平屋かつ200㎡以下のもの)

② 建築確認の対象であるが建築基準法において構造規定等について審査や検査が省略される建築物(都市計画区域・準都市計画区域内の平屋かつ200㎡以下で、建築士が設計・工事監理を行ったもの)

②  省エネ基準への適合性の判定を行うことが比較的容易な建築である場合(仕様基準注20を用いることが可能な場合等)

である注21

増改築

増改築について、現行法では、増改築時に建築物全体について省エネ基準への適合が求められているが、令和4年改正により増改築部分のみ省エネ基準への適合を求める制度に見直された注22。現行法のもとでは、増改築時の建築主の負担が大きく、特に、住宅では、一次エネルギー消費量基準と外皮性能基準の両者への適合が求められるため、建築物全体の断熱改修が必要となって、その負担は一段と大きいことから、省エネ改修等の円滑化を図るために増改築部分のみの省エネ基準への適合を求める制度に改正された注23
なお、増改築修繕、模様替え等のいわゆる改修・リフォームは対象外である注24。減築と増築が同時に行われた場合で全体の床面積が増加しない場合であっても、増築が10㎡を超える場合には省エネ基準に適合させる必要がある注25

最後に

建築物省エネ法の令和4年改正は、わが国の建築物の省エネ性能がZEH・ZEB水準に到達するためのさらなるステップとなるものである。本改正により建築物の建築・販売・賃貸に関与する事業者のより一層の努力が求められるようになることに加え、省エネ性能表示制度に見られるように、建築物を購入・賃借する消費者の省エネ性能に対する意識を喚起することにより省エネ性能に優れた建築物を求める市場環境を形成して、事業者の取組みへの動機・誘因としようとしている点に本改正の特徴がある。

本改正により、わが国の地球温暖化対策がさらに前進することが期待される。

→この連載を「まとめて読む」

[注]
  1. 「地球温暖化対策の推進に関する法律」(平成10年10月9日法律第117号。以下「温対法」という)の令和3年改正(令和3年6月2日法律第54号による改正)時に、同法2条の2に基本理念として規定された。[]
  2. 2021年10月22日の閣議決定で温対法8条に基づく「地球温暖化対策計画」に盛り込まれた。[]
  3. ゼロ・エネルギー・ハウス/ゼロ・エネルギー・ビル。[]
  4. 国土交通省公表の「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第 69 号)に係る質疑応答集(令和5年12月26日時点)」(以下、「質疑応答集」という)「〇その他」問1。 []
  5. 国土交通省「分譲マンションにおける住宅トップランナー制度の概要等について」(令和5年1月)6頁。[]
  6. 前掲注5・「分譲マンションにおける住宅トップランナー制度の概要等について」10頁。[]
  7. 外皮基準や一次消費量基準の具体的な内容は、「建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令」(平成28年1月29日経済産業省、国土交通省令第1号)に定められている。[]
  8. 法28条および31条。[]
  9. 法30条および33条。[]
  10. 告示1項。国土交通省住宅局参事官(建築企画担当)付「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の建築物省エネ表示制度ガイドライン(第1版)」(2023年9月)(以下、「ガイドライン」という)13頁。[]
  11. 告示2項2号。[]
  12. 告示2項2号ハ括弧書き。[]
  13. 前掲注4・質疑応答集「2.表示制度」問2、前掲注10・ガイドライン8頁を参照。[]
  14. 前掲注4・質疑応答集「2.表示制度」問17。[]
  15. 法33条。[]
  16. 前掲注10・ガイドライン26頁。[]
  17. エネルギー消費性能基準等を定める省令1条1号(非住宅)、2号(住宅)。ちなみに、複合建築物の備えるべき消費性能基準については同条3号に定めがある。[]
  18. 前掲注4・質疑応答集「1.省エネ基準適合の義務化」「1-1 制度全般。義務対象」問1および問2。[]
  19. 前掲注4・質疑応答集「1.省エネ基準適合の義務化」「1-1 制度全般。義務対象」問6~問8。[]
  20. 省エネ計算を不要とする省エネ基準適合の方法、仕様基準の適用は「住宅」に限られる。[]
  21. 国土交通省住宅局建築指導課参事官(建築企画担当)市街地建築課「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律の解説(令和5年3月版)」22頁。[]
  22. 改正後の法10条1項。[]
  23. 前掲注4・質疑応答集「1.省エネ基準適合の義務化」「1-2 増改築の扱い」問6。[]
  24. 前掲注4・質疑応答集「1.省エネ基準適合の義務化」「1-2 増改築の扱い」問1および問2。[]
  25. 前掲注4・質疑応答集「1.省エネ基準適合の義務化」「1-2 増改築の扱い」問7。[]

高井 浩一

弁護士法人御堂筋法律事務所 パートナー弁護士

1992年京都大学法学部卒業。1994年弁護士登録、御堂筋法律事務所入所。2014年日商簿記検定1級合格。2014~2018年豊中市公平委員会委員(2018年同委員会委員長)、豊中市伊丹市クリーンランド公平委員会委員。2016年~昭和貿易株式会社社外監査役。2019年~社会福祉法人恩賜財団済生会支部大阪府済生会第三者委員。循環取引、会計不正等の企業不祥事に関する調査・紛争対応をはじめ、企業法務全般に精通し、著作・講演多数。

御堂筋法律事務所プロフィールページはこちらから