フリーランス新法の規制概要と企業の実務対応(後編) - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに

令和5年5月12日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年5月12日法律第25号。以下「フリーランス新法」または単に「法」という)が公布され、2024年秋まで(公布から1年6か月以内)に施行される予定となっている。
フリーランスに業務を委託している各企業においては、フリーランス新法施行に向けて、一定の対応を要することになるところ、本稿では、フリーランス新法の規制概要と各規制に伴う実務対応について、2回に分けて解説する。

前回(前編)では、フリーランス新法の規制対象や取引条件の明示義務、報酬の支払期日、継続的な委託を行う際の禁止事項について紹介した。
後編である今回は、業務委託先の募集にあたっての広告規制や妊娠・出産・育児または介護に対する配慮義務、ハラスメント防止措置、解除・契約不更新の予告・理由開示義務を取り上げたうえで、同法に関する公正取引委員会、中小企業庁長官、厚生労働大臣による措置等についても紹介する。

募集情報に関する広告規制

規制概要

委託事業者は、広告等注1により「特定受託事業者」の募集に関する情報注2を提供するときは、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならず(法12条1項)、正確かつ最新の内容を保持しなければならない(法12条2項)。

実務対応

各企業においては、上記広告規制に反しないよう関係部署への啓発活動および体制整備を進めなければならない。

妊娠・出産、育児または介護に対する配慮義務

規制概要

委託事業者が一定期間以上 継続して「特定受託事業者」に業務委託をした場合、その申出に応じて、当該特定受託事業者注3が妊娠、出産若しくは育児または介護と両立しつつ当該継続的業務委託に係る業務に従事することができるよう、状況に応じた必要な配慮をすることが法的義務として規定されている(法13条1項)。
これに加え、継続した業務を委託しない場合でも、特定受託事業者からの申出に応じて上記の必要な配慮をすることが努力義務として規定されている(法13条2項)。

実務対応

上述のとおり、一定期間以上継続して「特定受託事業者」に業務委託をした場合、その申出に応じて「必要な配慮」をしなければならない。
この「一定期間」については、今後、政令で定めることとされているが、2023年4月5日の衆議院内閣委員会における政府参考人の答弁によれば、同期間については、5条の期間(3か月~6か月。前編Ⅴ稿末注8を参照)より長い期間が想定されること、内閣官房が関係省庁と共同で実施したアンケート調査において契約期間が1年以上の場合には仕事のかけ持ち数が減るという傾向がみられたことから、1年を一つの参考として検討することが答弁されている。
また、上記衆議院内閣委員会における政府参考人の答弁によれば、個別契約に共通する条件を定める基本契約を締結したうえで、具体的な仕事を委託する際に個別契約を締結するという契約形態を採用する場合、基本契約の契約期間が「政令で定める期間」以上であれば、法13条の規制を受ける継続的な業務委託であると判断するとされている。
フリーランスとの間で単発的かつ短期間の業務委託を行うにあたって、企業慣習に従って安易に基本契約を締結し、同基本契約の契約期間が「政令で定める期間」以上となっていると、基本契約を締結せず個別の業務委託契約を締結していれば適用されなかった法規制を受ける可能性があることに留意しなければならない。
また、ここにいう「必要な配慮」の具体例として、公正取引委員が公表しているQ&A(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)Q&A」。以下、単に「Q&A」という)では、以下のような対応が列挙されている(Q&A問7)。

① フリーランスが妊婦検診を受診するための時間が確保できるようにしたり、就業時間を短縮したりすること

② 育児や介護等と両立可能な就業日・就業時間を設定したり、オンラインで業務を行うことができるようにすること

今後、厚生労働大臣が定める指針において、配慮の考え方や対応の具体例の明確化が図られることとなっており(法15条。Q&A問7)、各企業は、今後公表される指針を確認のうえ、配慮義務に反しないよう、関係部署への啓発活動および体制整備を進めなければならない。

ハラスメント防止措置

規制概要

委託事業者は、以下に掲げる特定受託業務従事者注4に対するハラスメントが生じないよう、相談に応じ、適切に対応するための体制整備その他の必要な措置を講じなければならないとされている(法14条1項)。

① 性的な言動に対する特定受託業務従事者の対応により、業務委託の条件について不利益を与え、その就業環境を害すること、性的な言動により、その就業環境を害すること(セクハラ

② 特定受託業務従事者の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動によりその就業環境を害すること(マタハラ

③ 取引上の優越的な関係を背景とした、業務委託の遂行に必要かつ相当な範囲を超えた言動により特定受託業務従事者の就業環境を害すること(パワハラ

また、特定受託業務従事者が上記相談を行ったこと、または、当該相談対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、その者に対し、業務委託に係る契約の解除その他の不利益な取扱いをしてはならないとされている(法14条2項)。

実務対応

委託事業者が講じるべき「必要な措置」の具体的な内容としては、

① ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、従業員に対してその方針を周知・啓発すること
(対応例:社内報の配布、従業員に対する研修の実施)

② ハラスメントを受けた者からの相談に適切に対応するために必要な体制の整備
(対応例:相談担当者の任命、外部機関への相談対応の委託)

③ ハラスメントが発生した場合の事後の迅速かつ適切な対応
(対応例:事案の事実関係の把握、被害者に対する配慮義務の履行)

が想定されている(Q&A問8)。
特に、②の相談対応体制の整備は、労働関係法令(男女雇用機会均等法等)で求められている従業員のハラスメント対策と同様の内容であることから、同労働関係法令に基づき整備した社内の相談体制やツール等を活用するという対応も考えられる(Q&A問8)が、別途外部機関に委託するかを含め、検討や準備に時間を要すると考えられるため、ある程度早い段階から着手しておく必要があろう。
なお、「ハラスメント」の考え方や委託事業者が講ずべき措置の具体例については、別途厚生労働大臣が指針を定めることとなっている(法15条)。

解除・契約不更新の予告義務および理由開示義務

規制概要

一定期間以上注5継続して「特定受託事業者」に業務委託をした場合において、委託事業者がその委託契約を解除しようとする場合、あるいは、契約を更新せずに契約期間の満了によって当該委託契約を終了させる場合には、当該特定受託事業者に対し、少なくとも30日前までにその予告をしなければならないとされる(法16条1項)注6
ただし、天災その他やむを得ない事由により予告が困難な場合など一定の場合には、例外的に上記予告を要しないとされる(法16条1項但書)。
具体的に、どのような場合に予告を要しないかについては、今後、厚生労働省令で定められることになるが、2023年4月5日の衆議院内閣委員会における政府参考人の答弁によれば、

・ 天災等により業務委託の実施が困難になったため契約を解除する場合

・ 特定業務委託事業者の上流の発注事業者によるプロジェクトの突然のキャンセルにより特定受託事業者との契約を解除せざるを得ない場合

・ 契約を解除することについて特定受託事業者の責めに帰すべき事由がある場合

等が想定されている。

なお、上記予告がされた日から同項の契約が満了する日までの間において、契約解除または不更新の理由について開示請求があった場合には、委託事業者は、遅滞なく理由を開示しなければならないとされる(法16条2項)注7
ただし、第三者の利益を害するおそれがある場合など一定の場合注8には、例外的に理由開示を要しないとされる(法16条2項但書)

実務対応

各企業においては、法16条1項に違反する30日前の予告なき解除や契約不更新、法16条2項に違反する解除理由や契約不更新理由の不開示がなされないよう、ルール作りや啓発活動その他の体制整備を進める必要がある。
規制違反となる予告なき解除や契約不更新が生じないようにする方策の1つとして、継続性が想定される特定受託事業者との業務委託契約については、解除や契約不更新の場合の予告規定を盛り込むことをルール化することも考えられる。ただし、上記のとおり、例外的に予告が不要な場合があることから、委託契約に予告規定を盛り込む場合、その点も同時に定めることが望ましい。

フリーランス新法に関する公正取引委員会、中小企業庁長官、厚生労働大臣による措置等

措置等の概要

委託業者に法第2章( 3条・4条・5条・6条3項)に違反する事実がある場合、特定受託事業者は公正取引委員会または中小企業庁長官にその旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる(法6条1項)。その場合、公正取引委員会または中小企業庁長官は必要な調査を行い、申出内容が事実である場合、フリーランス新法に基づく適当な措置をとらなければならないとされている(法6条2項)。
具体的には、

・ 中小企業庁長官による公正取引委員会への措置請求(法7条)

・ 法3条・4条5項・5条・6条3項違反に関する公正取引委員会による勧告(法8条)

・ 上記勧告に従わない場合の命令(法9条1項)

といった措置が規定されている。
また、法9条1項の命令に至った場合、その旨を公表できるとされており(法9条2項)、命令違反については罰則(50万円以下の罰金)が設けられている(法24条1項2号)。

また、委託事業者に法第3章(法12条・13条・14条・16条・17条3項)の規定に違反する事実がある場合には、特定受託事業者は厚生労働大臣にその旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる(法17条1項)。その場合、公正取引委員会または中小企業庁長官は、必要な調査を行い、申出内容が事実である場合、フリーランス新法に基づく適当な措置をとらなければならないとされている(法17条2項)。
具体的には、

・ 法12条・14条・16条・17条3項違反に関する厚生労働大臣による勧告(法18条)

・ 上記勧告に従わない場合の命令(法19条1項)

といった措置が規定されている。
また、法19条1項の命令に至った場合、その旨を公表ができるとされており(法19条2項)、命令違反については罰則(50万円以下の罰金)が設けられている(法24条1項2号)。

加えて、公正取引委員会、中小企業庁長官および厚生労働大臣は、フリーランス新法に関して委託事業者に報告を求め、検査を行うことができるとされ(法11条および20条)、報告拒否や虚偽報告、検査の拒否・妨害・忌避については罰則(50万円以下の罰金)が設けられている(法24条1項2号)。

実務対応

各企業においては、まずはフリーランス新法に違反し、勧告を受けることがないよう努めなければならない仮に勧告を受ける至った場合にはすみやかに是正を行い、さらなる命令や公表といった措置を受けることがないようにすることが重要である。
また、各企業においては、公正取引委員会、中小企業庁長官及び厚生労働大臣による報告の求めや検査には誠実かつすみやかに対応できる体制を整え、万が一にも報告拒否や虚偽報告、検査の拒否・妨害・忌避による罰則を受けることがないようにしなければならない。

おわりに

以上、前編・後編に分ける形で、フリーランス新法の規制概要と各規制に伴う実務対応について紹介した。
各企業においては、「公布から1年6か月以内」とされている施行までの間に、自社および業務委託先について本法の適用を確認したうえで、本稿で紹介した対応の準備を行うとともに、施行後においては、本法違反とならないよう、適切な運用を行わなければならない。
本稿がフリーランス事業者への委託業務を行う各企業の役に立ては幸いである。

→この連載を「まとめて読む」

[注]
  1. ここでいう「広告等」とは、「新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法」と定義される(法12条1項)。[]
  2. 「業務の内容その他の就業に関する事項として政令で定める事項に係るもの」に限られる(法12条1項)。[]
  3. 特定受託事業者が法人である場合にあっては、その代表者が対象となる(法13条1項)。[]
  4. 特定受託事業者である個人または法人の代表者のことを指す(法2条2項)。[]
  5. 法16条の規制は、業務委託を継続して一定期間以上行う場合(契約更新の場合を含めて判断される)に適用されるが、この期間については法13条と同様の期間となると想定される。
    また、上記衆議院内閣委員会における政府参考人の答弁によれば、法16条についても、基本契約の契約期間が「政令で定める期間」以上であれば、法16条の規制を受ける継続的な業務委託であると判断するとされている。 []
  6. 具体的な予告の方法等については、今後、厚生労働省令で定められることになる(法16条1項)。[]
  7. 具体的な理由開示の方法等については、今後、厚生労働省令で定められることになる(法16条2項)。[]
  8. どのような場合に例外的に理由開示を要しないかについては、今後、厚生労働省令で定められることになる(法16条2項但書)。[]

辻井 康平

弁護士法人御堂筋法律事務所 パートナー弁護士

2003年同志社大学大学院法学研究科前期博士課程修了(公法学専攻)。2005年弁護士登録、弁護士法人御堂筋法律事務所入所。2014年弁護士法人御堂筋法律事務所パートナー(現任)。独占禁止法違反対応・景品表示法違反対応・不正競争防止法違反対応・法人関係刑事事件対応等の企業不祥事対応、訴訟紛争対応、環境法対応を得意分野とする。

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