事業会社の盲点となる環境有害物質・廃棄物・温室ガス等の法規制 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに

本連載は、他の法分野と比較しても理解しなければならない規制の内容(許認可・登録・届出、定期報告義務等)が極めて広範でありかつ複雑な環境規制・廃棄物規制について、事業会社が致命的リスクを回避し、ミスのない規制対応・行政対応を行ううえで留意が必要な“盲点”について、数回にわたり解説するものです。

第1回は「法令と異なる各自治体ごとの環境条例規制と法的リスク」について、第2回は「事業上生じる副生物・廃棄物を他のビジネスに転用・再利用する場合の留意点」についてそれぞれ解説してきました。最終回である今回は、「事業会社の盲点となる環境有害物質・廃棄物・温室ガス等の法規制」(具体的な規制のポイント)について紹介します。

複雑かつ数多ある環境・廃棄物法規制

近時、各企業において、SDGs(サステナビリティのための目標)やESGへの取り組みが欠かせないものとなっていますが、法令・条例としても、脱炭素社会(カーボンニュートラル)社会の実現に向けた規制、その他環境有害物質・廃棄物・温室ガス等についてのさまざまな規制が次々と制定され、また頻繁な改正が行われています。
第1回でも紹介しましたが、法令上規制される廃棄物や環境汚染物質は多様であり、これらを規制する法令も、環境関連の主要なものだけでも40を超えます注1

図表1 主要な環境関連法令(再掲)

1.環境基本法

2.環境影響評価法

3.地球温暖化対策の推進に関する法律

4.エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等等に関する法律

5.建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律

6.電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法フロン排出抑制法

7.オゾン層保護法

8.自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(自動車NOx・PM法)

9.大気汚染防止法

10.水銀による環境の汚染の防止に関する法律

11.特定工場における公害防止組織の整備に関する法律

12.悪臭防止法

13.特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(化管法/PRTR法)

14.化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律

15.土壌汚染対策法

16.水質汚濁防止法

17.下水道法

18.農薬取取締法

19.毒物及び劇物取締法

20.放射性物質汚染対処特措法

21.浄化槽法

22.ダイオキシン類対策特別措置法

23.廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)

24.ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法

25.資源の有効な利用の促進に関する法律

26.循環型社会形成推進基本法

27.国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律

28.プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律

29.容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装リサイクル法)

30.食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(食品リサイクル法)

31.建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法) 

32.使用済自動車の再資源化等に関する法律(自動車リサイクル法) 

33.特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)

34.特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律(バーゼル法) 

35.労働安全衛生法

36.石綿障害予防規則

37.消防法

38.電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再エネ特措法) 

39.電気事業法

40.工場立地法

41.騒音規制法

42.振動規制法

図表1に掲げた法令のほかにも、宅地造成等規制法(盛土規制法)、森林法、農地法、河川法、海岸法、砂防法、景観法、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律、地すべり等防止法、都市緑地法、首都圏近郊緑地保全法等、関連する数多くの法令が存在し、加えて各自治体(都道府県のみならず市区町村も)の条例・指導要綱等による別途の規制や、それぞれに付随した規則・通知・ガイドライン等、事業者が理解しなければならない規制の範囲は極めて広範かつ複雑で、とるべき行動(許認可・登録・届出、定期報告義務等)も多くあります。

冒頭でも触れたとおり、近時、各法令・条例においては新規制定や改正が繰り返されており、事業者がこれらの内容を網羅的に把握し、適時に対応することは極めて困難です。しかしながら、かかる規制を見逃してしまうと、行政処分や罰則を受けるリスクがあります。
そこで、事業者にとって“盲点”となりうるいくつかの規制のポイントを以下に紹介します。

ビジネス上の盲点となりうる代表的な法規制(ポイント)

ここで取り上げる法令は、以下のとおりです(稿末注に掲げる資料もあわせてご参照ください)。
なお、で述べたように環境関連の規制を定める法令は数多くあり、以下の法令および紹介する規制についても、各法令における規制のごく一部であることにご注意ください。

・ 省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(昭和54年6月22日法律第49号))

・ 温対法/温暖化対策推進法(地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年10月9日法律第117号))

・ 廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年12月25日法律第137号))

・ PCB廃棄物特措法(ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(平成13年6月22日法律第65号))

・ 化管法/PRTR法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成11年7月13日法律第86号))

・ 化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(昭和48年10月16日法律第117号))

・ 土壌汚染対策法(平成14年5月29日法律第53号)

・ アスベスト法規制(大気汚染防止法(昭和43年6月10日法律第97号)、石綿障害予防規則(平成17年2月24日厚生労働省令第21号)等)

・ プラスチック資源循環促進法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(令和3年6月11日法律第60号))

省エネ法

エネルギー使用量が1500kL/年以上の特定事業者は、エネルギー使用状況届出書を提出したうえで、毎年、エネルギー使用量・温室効果ガス(エネルギー起源CO2)排出量等、中長期計画(削減目標等)を報告する必要があります(上記基準を超える工場も別途報告の対象となります)が、2023年の改正法(令和4年5月20日法律第46号による改正)施行により、対象エネルギーが非化石エネルギーにも拡大されました。
定期報告を行わず、または虚偽の報告をした場合は、50万円以下の罰金が科せられます(両罰規定あり)。
なお、特定事業者に限らず、全事業者の取り組むべき事項・目標として、

・ 省エネのための管理標準の設定

・ 省エネ措置の実施

・ 中長期的な年平均1%以上のエネルギー消費原単位等の低減

が求められます注2

温対法

CO2などの温室効果ガスを対象として、エネルギー起源CO2はエネルギー使用量1500kL/年以上、非エネルギー起源CO2は3,000t以上(かつ常勤従業員21名以上)の事業者は、毎年、温室効果ガス排出量を報告する必要があります(上記基準を超える工場も別途報告の対象となります)
報告を行わなかった場合または虚偽の報告を行った場合は、温対法により20万円以下の過料が課せられます。

なお、東京都の「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」においても同様の規制があり、同条例上の、特定温室効果ガスの排出状況等の届出を行わなかった場合、または虚偽の届出を行った場合は、25万円以下の罰金が科せられます。また、地球温暖化対策計画書の提出を行わなかった場合、または虚偽の報告を行った場合は、50万円以下の罰金が科せられます(両罰規定あり)注3

廃掃法

事業者には、

・ 産業廃棄物の適正処理(不法投棄の禁止)

・ 適正委託(マニュフェスト、処理の確認等)

が求められます注4。さらに、産業廃棄物を1,000t以上/年発生させた事業場設置事業者等(多量排出事業者)には、毎年、

・ 産業廃棄物処理計画・処理計画の実施状況報告

・ 産業廃棄物管理票交付等状況の報告

が求められます。

廃棄物処理計画を提出せず、または虚偽記載をした場合には20万円以下の過料が、廃棄物処理計画の実施状況報告を提出せずまたは虚偽記載をした場合には20万円以下の過料となる可能性があります。

PCB廃棄物特措法

事業者は、一定の期限までにPCB廃棄物の処理を委託する必要があります。また第三者への保管委託は禁止されています。なお、2022年5月に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画」が改定されたことにより、地域によって差はあるものの、高濃度PCB廃棄物は2026年3月末までの間に、低濃度PCB廃棄物は2027年3月末までの間に、適切に処理を実施する必要があります。その他、PCB廃棄物の保管届出(毎年)、譲渡禁止等の規制があります。

無届出・虚偽届出をした者、高濃度PCB廃棄物の保管の場所を変更した者は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される場合があります注5

化管法/PRTR法

政令(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律施行令(平成12年3月29日政令第138号))指定の24業種の対象事業者(かつ常勤従業員が21人以上)が、いずれかの第一種指定化学物質(現在515物質が指定)の年間取扱量が1t以上となる(または法令で定める特別要件施設を設置している)場合には、毎年、排出量・移動量を個別事業所ごとに届け出る必要があります。

対象となる事業者が届出をせず、または虚偽の届出をした場合には、罰則として20万円以下の過料が科される場合があります注6

化審法

多様な化学物質を対象とする化管法では、第一種特定化学物質としてPCB(ポリ塩化ビフェニル)など34物質、第二種特定化学物質としてトリクロロエチレンなど23物質、一般化学物質としておよそ2万8000物質が指定されています。
物質ごとに規制内容が定められており、たとえば、第二種特定化学物質の製造・輸入者等は、毎年、製造・輸入予定数量/実績数量等について届出を行う必要があります。また、年間1t以上の一般化学物質を製造・輸入した者は、毎年度、製造・輸入数量や具体的用途等の届出を行う必要があります。

事業者によりますが、届出をせず、または虚偽の届出をした場合には、罰則として30万円以下の罰金が科される場合があります。

土壌汚染対策法

規制対象となる特定有害物質は、現在26種類ですが、

① 水質汚濁防止法上の特定施設を廃止する場合

② 3,000㎡以上(一定の場合には900㎡以上)の土地の形質変更を行った者による事前届出の結果、知事が“土壌汚染のおそれあり”と認定した場合

③ 知事が“土壌汚染により人の健康被害が生ずるおそれあり”と認定した場合

に、土地の所有者、管理者または占有者に土壌汚染の調査・報告義務が課されます。

なお、2019年施行の改正(平成29年5月19日法律第33号による改正)により報告・調査が求められる要件についても改正がなされたことから、届出・調査報告義務の対象地が2倍に増加するとも言われています注7

アスベスト法規制(大気汚染防止法、石綿障害予防規則等)

2023年までに順次施行されている改正大気汚染防止法(令和2年6月5日法律第39号による改正)により、原則としてすべての建物について解体・改修の前に業者が石綿の有無を調査し報告することが必要となりました。また、規制対象がすべての石綿含有建材に拡大されています。
報道では、かかる法改正によって、飛散防止策が必要な解体・改修工事は現在の20倍に増える見込みであることも指摘されています注8

プラスチック資源循環促進法

プラスチック資源循環促進法は2022年に施行された新しい法律であり、同法では消費者に無償提供されるプラスチック使用製品として指定されている「特定プラスチック使用製品」について、同製品の提供事業者および排出事業者が取り組むべき判断基準が策定されています。
提供事業者は、

・ 設定した使用合理化の目標

・ 特定プラスチック使用製品の提供量

・ 使用の合理化のために実施した取り組みおよびその効果

について公表するように努めることが要請されています。また、多量排出事業者は、毎年度、

・ プラスチック使用製品産業廃棄物等の排出量

・ 排出抑制目標の達成状況に関する情報

を公表するよう努めることが要請されています注9

条例の規制がビジネス上の盲点となりうるケース

上記でも述べたように、事業者が遵守すべき規律には、各法令が定めるもののほか、自治体ごとに定められた条例・規則・指導要綱などがあります。しかも、条例によっては

・ 法令よりも厳しい基準や要件が設定されているケース

・ 規制対象・対象物質がより広範に設定されているケース

・ 追加で行うべき手続が設定されているケース

が数多く存在します。
条例管理の難しさは、都道府県だけでなく市区町村でも独自に条例(基準)が定められており、施行規則や指導要綱等まで網羅しなければならないという点にあります図表2)。国の法令と条例とで異なる規制基準があるケース、国の法令にはない義務が条例に存在するケースなどでは、これらの見落としや理解が不十分であることによる規制違反を招くケースが多々あります。

図表2 法律と条例の関係性の例(再掲)

当然、これらの規制内容も日々改正されていきます。適時適切なアップデートがなされないと、少し前までは適法であった行為であっても、ある時点を境に、知らないままに法令違反を犯してしまっているということも少なくありません(詳細については第1回をご参照ください)。

行政対応・自治体対応がビジネス上の盲点となりうるケース

仮に法令・条例や具体的な指針・ガイドライン・指導要綱その他が存在していたとしても、必ずしも明確な基準・解釈が設定されているわけではありません。
特に環境行政においては、自治体の裁量に委ねられている面があり、ある自治体や官庁から“問題ない”旨の見解が提示されたにもかかわらず、他の官庁等から当該見解に従った処理が“違法である”と判断されるといったケースもあります。そのため、事業者としては、専門家のアドバイスを踏まえて適切に対応する必要があります(詳細については第2回をご参照ください)。

おわりに

以上、3回にわたり、環境規制・廃棄物規制について、事業会社が致命的リスクを回避し、ミスのない規制対応・行政対応を行ううえで留意が必要な“盲点”について紹介してきました。

以上説明をしたいくつかのポイントだけでも、実務上これらの規制を踏まえた適切な対応を行うのが容易ではないことを理解していただけたかと思います。「十分な対応を行うための社内体制・グループ体制・サプライチェーン体制をどのように構築すべきなのか」「新規ビジネスにおいてどのような点に留意すべきなのか」「法令上問題があるとの指摘を受けた場合にどのように対応すべきなのか」など、難しい事態に直面することも多いかと思いますが、行政や弁護士その他の専門家にも相談をしながら慎重に進めていくことが必要となってきます。

→この連載を「まとめて読む」

[注]
  1. 数多ある環境・廃棄物法規制の項目については、下記をご参照ください。猿倉健司「環境汚染・廃棄物規制とビジネス上の盲点」(牛島総合法律事務所 特集記事・2022年6月15日)同「環境リスクと企業のサステナビリティ(SDGs・ESG)」(牛島総合法律事務所 特集記事・2022年3月29日)同「Environmental risks and corporate sustainability (SDGs and ESG)」(Ushijima & Partners Special Topics・2022年5月25日)同「新規ビジネスの可能性を拡げる行政・自治体対応 ~事業上生じる廃棄物の他ビジネス転用・再利用を例に~」(牛島総合法律事務所 特集記事・2023年1月25日)同「Responding to national and local governments to expand the possibilities of new businesses – Diversion and reuse of waste generated in business activities」(Ushijima & Partners Special Topics・2023年1月25日)[]
  2. 猿倉健司Business & Law Webセミナー「事業会社の盲点になりやすい環境有害物質・廃棄物・温室ガス等の規制(個別規制編)」個別規制【①】、猿倉健司「2023年4月施行改正省エネ法において留意すべき定期報告制度」(牛島総合法律事務所 Client Alert 2022年6月17日号)[]
  3. 猿倉Webセミナー・前掲注2)個別規制【④】。[]
  4. 猿倉Webセミナー・前掲注2)個別規制【②】、猿倉健司『不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務』(清文社、2021年)389~391頁、同「廃棄物のリサイクルを目的とする処理(廃棄物処理)の実務的な留意点」(牛島総合法律事務所 ニューズレター・2020年6月5日)[]
  5. 猿倉Webセミナー・前掲注2)個別規制【③】、猿倉・前掲注4)401~410頁、猿倉健司「PCB廃棄物(ポリ塩化ビフェニル廃棄物)処理の実務上の留意点(2022年改正対応)」(牛島総合法律事務所 ニューズレター・2022年8月9日)同「2022年改正 PCB廃棄物(ポリ塩化ビフェニル廃棄物)の処分期限の留意点」(牛島総合法律事務所 Client Alert 2022年8月31日号)[]
  6. 猿倉Webセミナー・前掲注2)個別規制【⑤】。[]
  7. 猿倉Webセミナー・前掲注2)個別規制【⑥】、猿倉・前掲注4)370~387頁。[]
  8. 猿倉Webセミナー・前掲注2)個別規制【⑦】、猿倉・前掲注4)35~37頁、猿倉健司「アスベスト・石綿による規制と土壌汚染の法的責任(2020年法改正対応)」(牛島総合法律事務所 ニューズレター・2020年6月29日)同「【弁護士解説】建物建設・解体工事におけるアスベストの法規制と建設業者の責任」(AIG損保「ここから変える。」、2023年5月23日)[]
  9. 猿倉健司「2022年プラスチック資源循環促進法の制定と事業者・企業に求められる責任・義務」(牛島総合法律事務所 ニューズレター・2022年2月8日)[]

猿倉 健司

牛島総合法律事務所 パートナー弁護士

早稲田大学法学部卒業。2007年弁護士登録。環境法政策学会、第二東京弁護士会環境法研究会のほか、世界最大規模の法律事務所ネットワークであるMULTILAWに所属。環境・エネルギー・製造・不動産分野では、国内外において、企業間・株主間の紛争、行政自治体対応、危機管理対応、新規ビジネスの立上げ、M&A等を中心に扱う。『不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務』(清文社、2021年) のほか、数多くの寄稿・執筆、講演・研修講師を行う。「新規ビジネスの可能性を拡げる行政・自治体対応」「環境・廃棄物規制とビジネス上の盲点」(いずれも牛島総合法律事務所HP特集記事)、「環境有害物質・廃棄物の処理について自治体・官庁等に対する照会の注意点」(BUSINESS LAWYERS・2020年5月22日)等も。

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