アフィリエイト広告規制とステルスマーケティング規制(ステマ規制) - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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アフィリエイト広告

インターネット広告は継続的に高い成長率を維持し続け、2021年におけるインターネットの広告費は、マスコミ四媒体注1の広告費2兆4,538億円を上回り、2兆7,052億円となった注2
このようなインターネット広告の拡大傾向のもとで、いわゆる「アフィリエイト広告」が注目を集めている。
「アフィリエイト広告」とは、アフィリエイトプログラムを利用した成功報酬型の広告のことを言い、具体的には、「アフィリエイター」と呼ばれるウェブサイト等の運営者が、運営サイトに広告主が供給する商品等のバナー広告や商品画像リンク等を掲載し、当該サイトを閲覧した一般消費者が、これらのバナー広告等を通じて広告主のサイトにアクセスし、商品の購入等をした場合に、アフィリエイターに対して、広告主から成功報酬が支払われるという形態で行われる。
アフィリエイト広告は、

① 需要喚起を効果的に行うことができる。

② 初期費用を抑えることができる。

というメリットがある一方で、

❶ 広告主でないアフィリエイターが表示物を作成するため、広告主による管理が行き届きにくい。

❷ 報酬目当てに誇大広告や虚偽広告が作成されやすい。

といったリスクをはらむという特徴を持っており、消費者庁もアフィリエイト広告による不当表示の防止に積極的に取り組んでいる。

アフィリエイト広告による不当表示防止に向けた消費者庁の取り組み

消費者庁は、令和3年3月3日、アフィリエイトサイトにおける育毛剤商品の表示について優良誤認表示注3があったとして、措置命令を行った注4
また、消費者庁は、令和3年6月から「アフィリエイト広告等に関する検討会」を主催し、その検討結果に基づき、令和4年2月15日に「アフィリエイト広告等に関する検討会報告書」を公表。さらに、令和4年6月29日には「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(以下「指針」という)を改正し、アフィリエイト広告に関する記載を多数盛り込むに至っている。

指針では、アフィリエイト広告を行う事業者(以下「広告主」という)に対し、以下の七つの管理上の措置を講じるようを求めるとともに、各措置に関する具体例を掲げているが、上記改正に伴い、多数のアフィリエイト広告に関する記載が追加されている。

① 景品表示法の考え方の周知・啓発

② 景品表示法を含む法令遵守の方針等の明確化

③ 表示の根拠となる情報の確認

④ 表示に関する情報の共有

⑤ 必要な要件(社内等への周知など)を満たす、表示を管理するための担当者(以下「表示管理担当者」という)を定めること

⑥ 表示の根拠となる情報を事後的に確認するための必要な措置を採ること

⑦ 不当表示が明らかになった場合に迅速かつ適切な対応を行うこと

指針に新たに盛り込まれたアフィリエイト広告に関する事項

指針に新たに盛り込まれたアフィリエイト広告に関する記載は多岐にわたるが、中でも広告主にとって特に重要と考えられる各措置に関する具体例の記載概要について、以下で紹介する。

① 「景品表示法の考え方の周知・啓発」の措置の具体例

・ 表示の作成をアフィリエイターに委ねる場合、広告主の役職員のみならず、アフィリエイターに対しても景品表示法の考え方の周知・啓発を行う。

② 「景品表示法を含む法令遵守の方針等の明確化」の措置の具体例

・ 不当表示等を行わないことなど、あらかじめ法令遵守の方針等をアフィリエイターとの間で明確にする。

・ アフィリエイターが上記の法令遵守の方針に違反した場合の具体的な措置(債務不履行を理由とする成果報酬の支払いの停止や契約解除など)について、アフィリエイターとの間であらかじめ明確にしておく。

③ 「表示の根拠となる情報の確認」の措置の具体例

・ 表示提供段階において、アフィリエイターが作成した表示内容を事前に確認する。

※ 広告主の人員体制等の理由でその確認の徹底が困難である場合の措置の例

― 表示後可能な限り早い段階で、すべての当該表示内容を確認する。

― 成果報酬の支払額や支払頻度の高いアフィリエイターの表示内容を重点的に確認する。

― ASP注5などの他の事業者に表示内容の確認を委託する。

④ 「表示に関する情報の共有」の措置の具体例

・ 表示内容の方針や表示の根拠となる情報を、アフィリエイターと事前に共有する。

※ 広告主の人員体制の制約やアフィリエイターが複数にのぼる等の理由で上記の共有の徹底が困難である場合の措置の例

― アフィリエイターから表示内容の方針について相談を受け付ける体制を構築する。

― ASPなどの他の事業者を通じて共有する。

⑤ 「(社内等への周知など)必要な要件を満たす、表示管理担当者を定めること」の措置の具体例

・ アフィリエイターに広告主の表示管理担当者を周知する。

・ アフィリエイターにも表示等管理担当者が設置される場合、広告主・アフィリエイター間でそれぞれの表示等管理担当者の権限や所掌を確認し、アフィリエイターの表示管理担当者も含めて景品表示法等の表示に関連する法令についての講習を実施する。

⑥ 「表示の根拠となる情報を事後的に確認するための必要な措置を採ること」の措置の具体例

・ アフィリエイト広告は一旦削除されると回復させることが困難であるため、広告主において根拠となる情報を事後的に確認できるよう、表示等の保存も含めた資料の保管等を行う。

※ 表示等の根拠となる情報が多数にのぼり、すべての情報の保管等が困難である場合の措置の例

― その保管等を、表示の作成を委ねるアフィリエイターに義務づける、あるいは、ASPなどの他の事業者に委託する。

― 広告主が、保管等をする代わりに定期的な表示等の確認を行うなど、不当表示等の未然防止に必要十分な取り組みを行う。

― 成果報酬の支払額または支払頻度が高いアフィリエイターが作成する表示等の根拠となる情報について重点的に保管等を行う。

⑦ 「不当表示が明らかになった場合に迅速かつ適切な対応を行うこと」の措置の具体例

・ アフィリエイト広告において不当表示等が明らかになった場合に、広告主が自らあるいはASPやアフィリエイター等を通じて迅速に不当表示等を削除・修正できる体制を構築する。

・ アフィリエイターが広告主との契約内容に違反して不当表示等を生じさせた場合には、広告主は等で取り決めた措置(成果報酬の支払いの停止、支払った成果報酬の返還、提携契約の解除等)を迅速かつ確実に行う。

・ アフィリエイターに表示等の作成を委ねている場合においては、広告主が不当表示等に関する事実関係を迅速かつ正確に確認することが困難であることも考えられるため、広告主は、不当表示等に関する事実関係を明らかにし、不当表示等による消費者被害の発生・拡大を効果的に防止する観点から、消費者等の外部からの相談や情報提供を日常的かつ確実に受け付けられる窓口(既に設置している連絡相談窓口の活用も可能)を設置する。

⑧ ①~⑦以外の措置の具体例

・ アフィリエイト広告において、広告主以外の第三者の体験談や感想であるのか、広告主が対価を支払って作成を委ねた表示であるのかが判断できないため、一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害することのないよう、広告主は、アフィリエイト広告が当該広告主の表示であることを一般消費者が認識できるよう対応すること、当該広告主とアフィリエイターとの関係性を理解できるような表示を行うといったことをアフィリエイターに求めるなどの対応を行うこと注6

指針は、上記具体例について、「事業者へのヒアリング等に基づき参考として記載するものであり、各事業者が講じる具体的な措置は、その規模や業態、取り扱う商品又は役務の内容、取引の態様等に応じ、各事業者において個別具体的に判断されるべき」であるとしており、上記の具体例をすべて網羅的に実行しなければ、ただちに事業者が講ずべき景品表示法上の管理上の措置がとられていないと評価されるものではない。

しかしながら、事業者がアフィリエイト広告を実施するにあたっては、アフィリエイト広告が不当表示を招きやすいという特徴があることを認識し、上記具体例を念頭に置いて、自社の特徴を踏まえ、「景品表示法上の管理上の措置」の構築を検討することが求められる。

アフィリエイト広告に対する規制強化の動向

景品表示法は、商品やサービスを供給する事業者(広告主)が行う不当表示を規制する体系となっており、ASPやアフィリエイターといった商品やサービスを供給しない事業者に対する規制はできないとされている。
もっとも、消費者庁が主催する「景品表示法検討会」が令和4年3月から立ち上げられ、その中で、アフィリエイト広告に関し、ASPやアフィリエイターへの規制も必要ではないかという議論がなされており注7、今後の動向が注目される。

ステルスマーケティング規制について

昨今、インターネット広告において、広告であることを秘匿したまま一般消費者の口コミ等であるかのように装って宣伝を行う「ステルスマーケティング(ステマ)」注8が広がりつつあり、問題視されている。
しかしながら、ステルスマーケティングそのものについては、その表示に優良誤認表示や有利誤認表示注9がなければ、現行の景品表示法では正面から対応できなかった注10
もっとも、ステルスマーケティングについては、既にEUや米国において規制対象となっており注11、日本でも、令和4年9月16日、消費者庁が事務局となって「ステルスマーケティングに関する検討会」が立ち上げられた。
そして、令和4年12月27日に開催された第8回「ステルスマーケティングに関する検討会」において、景品表示法5条3号に基づく指定注12に「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」を加えることで、事業者の広告でありながら一般消費者が広告であることを判別することが困難なステルスマーケティングを、不当表示の一つとして、景品表示法による規制対象としていくことが提言された注13。事業者としては、こうしたステルスマーケティング規制の動向についても注視し、自社広告の管理を進める必要があるといえる。

→この連載を「まとめて読む」

[注]
  1. 新聞・雑誌・ラジオ・テレビを指す。[]
  2. 株式会社電通・ニュースリリース「2021年 日本の広告費」(2022年2月24日)[]
  3. 「優良誤認表示」とは、「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあるもの」(景品表示法5条1号)をいう。[]
  4. 消費者庁「株式会社T.Sコーポレーションに対する景品表示法に基づく措置命令について」(令和3年3月3日)[]
  5. 「ASP」は「アフィリエイト・サービス・プロバイダー(Application Service Provider)」の略語であり、法人や個人のアフィリエイターを幅広く募り、アフィリエイトネットワークを構築し、広告主とマッチングさせる機能を持つ事業者を意味する。[]
  6. 後述するステルスマーケティングを意識した記載となっている。[]
  7. 消費者庁景品表示法検討会事務局「景品表示法検討会 第2回 議事録」(2022年4月14日)5頁[]
  8. 「ステルスマーケティング」は「ステマ」と省略されて呼称される場合も多く、「ステルスマーケティング規制」も同様に「ステマ規制」と呼ばれることが多い。[]
  9. 「有利誤認表示」とは、「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」(景品表示法5条2号)をいう。[]
  10. 消費者庁景品表示法検討会事務局・前掲注9・5頁。なお、Ⅲ⑧や前掲注8で紹介したとおり、広告主が行うべき措置の例として、アフィリエイト広告が当該広告主の表示であることを一般消費者が認識できるよう、アフィリエイターに当該広告主との関係性を理解できるような表示を行うよう求めるなどの対応を行うことが指針に追加された。そのため、ステルスマーケティングを行う広告主に対しては、消費者庁が、景品表示法26条1項が求める「表示に関する事項を適正に管理するため」の「必要な措置」を講じていないとして、事業者に対して指導および助言を行うほか(同法27条)、当該事業者が正当な理由がなく必要な措置を講じていないと認めるときには、当該事業者に対して必要な措置を講ずべき旨を勧告することは可能と考えられる(同法28条1項)。また、当該事業者が勧告に従わないときは、その旨を公表することも可能と考えられ(同法28条2項)、その意味では、ステルスマーケティング広告にも一定の規制が存在するといえる。 []
  11. カライスコス アントニオス「報告 海外における広告規制の現状」(第3回 景品表示法検討会(2022年5月12日開催)資料2)[]
  12. 景品表示法は、優良誤認表示(5条1号)と有利誤認表示(5条2号)に加え、「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」(5条3号)を不当表示として、景品表示法の規制対象としている。2023年1月末時点で、内閣総理大臣は、「無果汁の清涼飲料水等についての表示」「商品の原産国に関する不当な表示」「消費者信用の融資費用に関する不当な表示」「不動産のおとり広告に関する不当な表示」「おとり広告に関する表示」「有料老人ホームに関する不当な表示」の六つを景品表示法5条3号に基づき指定している(六つの指定告示の内容は、消費者庁ウェブサイト「表示規制の概要」を参照)。[]
  13. ステルスマーケティングに関する検討会第8回(2022年12月27日)資料2「ステルスマーケティングに関する検討会 報告書(案)」[]

辻井 康平

弁護士法人御堂筋法律事務所 パートナー弁護士

2003年同志社大学大学院法学研究科前期博士課程修了(公法学専攻)。2005年弁護士登録、弁護士法人御堂筋法律事務所入所。2014年弁護士法人御堂筋法律事務所パートナー(現任)。独占禁止法違反・景品表示法違反対応・不正競争防止法違反対応・法人関係刑事事件対応等の企業不祥事対応、訴訟紛争対応、環境法対応を得意分野とする。

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