電子化の流れを踏まえた文書管理のあり方とは? - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに

本連載は、リーガルテック導入やリーガルオペレーションの進化における課題について、法務部長(佐々木)と弁護士(久保さん)が、往復書簡の形式をとって意見交換します。連載第16回は私、佐々木毅尚が担当します。

問いかけへの検討
―電子化の流れを踏まえた文書管理のあり方とは?

さて、前回の久保さんからの問いかけは以下のとおりでした。

  • 昨今、多くの企業に、「従来の“紙”を前提とした文書管理は時代遅れになりつつある」という問題意識や、「米国のディスカバリー対応のため、文書の保存・廃棄に関するルールを作る必要がある」という認識が広がりつつあるように感じられる。さらに、契約書に関しては、CLM(Contract Lifecycle Management)の考え方も議論されている。
    このような潮流の中で、企業内の文書管理のあり方についてどう考えるか

この問いかけについて、私の考えをお話したいと思います。

企業における文書管理の歴史

企業活動では、注文書、納品書、請求書、申請書、報告書、契約書等、さまざまな文書が日常的に活用されています。特に、1995年にWindows95が発売されると、パーソナルコンピュータ(PC)をオフィス内の事務機器として導入する企業が増加し、これらの文書はPCソフトウエアを使って作成することが標準となり、使用されるソフトウェアにも、文書テンプレート、文書校正、変更履歴等の便利な機能が次々と追加され、文書作成のスピードと正確性を向上させていきました。
この流れ中で、

「文書を“紙”ではなくデータで管理する」
「データで交換する」

という習慣が定着しましたが、当時のハードディスクはデータベース容量が十分ではなかったため、オフィス内では、文書を保存したフロッピーディスクやCD、DVD等の記憶媒体の数が増えていきました。
紙媒体であれば、修正途中の文書の多くは廃棄されますが、データであればそのまま「履歴データ」として残されるケースが散見され、また、文書がデータとなり、作成と管理が簡素化されたことで、作成される文書量は飛躍的に増加していきます。このようなデータ量の増加によって、企業にとってはその「整理」が大きな課題となったのです。

こうした企業のニーズをつかんだベンダー側も、文書管理を目的とするパッケージソフトウエアを開発。導入する企業が徐々に増加していきました。
そして、さらなるテクノロジーの進化に伴い、フロッピーディスク、CD、DVD等の記憶媒体はUSBや大容量のハードディスクに置き換わり、現在は、ハードディスクからクラウドサービスへの転換が進んでいます。また、2010年頃から「SaaS(Software as a Service)」と呼ばれるインターネットを通じて提供されるサービスが増加し、パッケージソフトウエア購入ではなく、クラウドコンピューティングを活用して必要なサービスを利用し、使用料を支払うという形態のサービスへの転換が進んでいます。

ディスカバリーと文書管理

米国における訴訟では「ディスカバリー」という証拠開示制度があり、訴訟当事者は、訴訟に関連する文書を保全し、「キーワード検索」「レビュー」という作業工程を経て相手方へ文書を開示する義務があります。
このディスカバリーは訴訟手続の中で最もコストがかさむ手続であり、文章量が増えれば増えるほど、コストが増加していきます。特に関連文書の中心となるEメールデータ量がコストを決める大きな要因となります。

文書量が増える原因は「文書作成」よりも「文書保存」にあり、保存期限を定めて不要な文書を廃棄していないことが最も大きな原因となります
たとえば、Eメールの保存期間を定めて廃棄しないと、ディスカバリーで大量のEメールデータを保全する必要に迫られます。私自身、過去の米国訴訟で20年分のEメールデータを多大なコストをかけて保全した経験があり、文書保存期間の管理の必要性を痛感しました(ディスカバリーの詳細については、『eディスカバリー物語―グローバル・コンプライアンスの実務』(商事法務、2022年)を参照していただくと解像度が高まるでしょう)。

CLM(Contract Lifecycle Management)

CLM(Contract Lifecycle Management)」とは、契約書の検討、作成、審査、捺印、保存という一連の処理フローについて、テクノロジーを活用して管理することを意味します
新規取引開始に伴う販売契約書を例として、日系企業における契約書処理の業務フローを見てみると、

① 営業部門が契約のスキームを考えて、法務部門に契約書ドラフト作成を依頼する。

② 法務部門がドラフトを作成して営業部門に送付する。

③ 営業部門が顧客とドラフトの内容を交渉する。

④ 営業部門と法務部門で顧客のフィードバックを検討しながらドラフトを修正する。

⑤ 営業部門が確定した契約書を製本し、捺印管理部門に送付する。

⑥ 捺印担当部門が捺印処理を行い、営業部門に契約書を送付する。

⑦ 営業部門が顧客に契約書を送付し、捺印を依頼する。

⑧ 営業部門が顧客から返送された契約書を保管する。

という、複数の部門が関与した、かなり複雑なフローとなります。

ここで、各フローの間で「送付」という事務作業が発生し、相当な事務コストが発生していることがお気づきいただけるのではないでしょうか。実は、「送付」はコストがかかるだけではなく「誤送付」や「滞留」というミスの原因となる要素を含み、件数の増加に比例してコストとリスクがかさむ作業であるといえます。
また、契約書の「保管」については、そのままキャビネットに直行して保管され、顧みられないケースも少なくなく、「契約期限管理」や「契約条件遵守」といった契約書に記載されている義務が履行されていないリスクもあります。
CLMは、これらの問題点を解消し、契約書処理の作業品質を高めることを目的として活用されています。

企業の文書管理のあり方

現在における「PCによる文書データ作成を中心とした事務処理」を前提に考えると、手作業で膨大な文書データを適切に管理することは、到底不可能といえます。企業としては、文書管理システム等のテクノロジーを導入して社内文書を管理せざるを得ない状況にあるのではないでしょうか。

既に多くの企業では、経費申請、勤怠申請等の各種社内申請についてワークフローシステムを導入しており、申請手続については文書管理のシステム化が進んでいるといえます。
特にワークフローシステムは低コストで導入が可能なため、文書管理の効果的な対策として、ワークフローシステムの導入領域を拡大していくことも一案でしょう。一方で、ワークフローシステムはデータベース機能が相対的に弱く、データ検索に難があります。このため、データベース機能については、ワークフローとは切り離し、別のサービスを導入することも検討する必要があります。最近は、システムのAPI連携が進化しており、複数の別個のサービスを連携して活用することも可能となっています。

ただし、システムの導入だけでは、文書管理における課題を完全に解決することはできません。
文書管理を適切に行うためには、保存期限を中心とした文書管理ルールの作成と運用が必須要件で、特に保存期限が切れた文書のデータ削除を定期的に行うことが強く求められます。たとえば、

・ 毎年、年度末である3月に各部門が管理する文書の保存期間をチェックし、削除するフローを構築する。

・ Eメールは3年で自動削除する設定を行う。

等の対策を実施することが考えられます。このように、文書管理は「削除と廃棄」がキーワードになっているといえます。

法務部長から弁護士への問いかけ

個人情報保護のゆくえ

このところ、アジア各国で個人情報保護法の整備が進んでおり、直近では、2021年11月に中国で個人情報保護法が施行され、2022年6月にはタイでも個人情報保護法が施行されています。また、米国においても、連邦法レベルの包括的な個人情報保護法が委員会で審議され、議会に提出することが可決されました。企業としては、これまでの競争法、反贈収賄、ハラスメント対応等を中心としたコンプライアンス推進活動に「個人情報保護」を加える必要があります。
日系企業の法務責任者は、これらの国際的な個人情報保護強化の動きに対処するため、どのようなルートで情報を入手し、日常的にどのような対処をしておくべきでしょうか。久保さんのご意見を伺いたいと思います。

→この連載を「まとめて読む」

佐々木 毅尚

「リーガルオペレーション革命」著者

1991年明治安田生命相互会社入社。YKK株式会社、太陽誘電株式会社等を経て、2022年7月からSGホールディングス株式会社へ移籍。法務、コンプライアンス、コーポレートガバナンス、リスクマネジメント業務を幅広く経験。2009年より部門長として法務部門のマネジメントに携わり、リーガルテックの活用をはじめとした法務部門のオペレーション改革に積極的に取り組む。著作『企業法務入門テキスト―ありのままの法務』(共著)(商事法務、2016)『新型コロナ危機下の企業法務部門』(共著)(商事法務、2020)『電子契約導入ガイドブック[海外契約編]』(久保弁護士との共著)(商事法務、2020)『今日から法務パーソン』(共著)(商事法務、2021)『リーガルオペレーション革命─リーガルテック導入ガイドライン』(商事法務、2021)『eディスカバリー物語―グローバル・コンプライアンスの実務』(商事法務、2022)

『リーガルオペレーション革命─リーガルテック導入ガイドライン』

著 者:佐々木 毅尚[著]
出版社:商事法務
発売日:2021年3月
価 格:2,640円(税込)