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コロナ禍によるテレワークの普及とジョブ型雇用への注目

コロナ禍発生の約1年前である2019年4月、働き方改革関連法のうち長時間労働の是正を図る部分が施行され、時間外労働規制が強化された注1。その後のコロナ禍におけるテレワークの普及は顕著であるが、テレワークにも強化された時間外労働規制の適用がある。また、近時、テレワークの普及により従来型の雇用管理等が難しくなったと感じる企業の増加もあり、ジョブ型雇用に関する議論が活発化している。

本稿では、まず、働き方改革関連法による時間外労働規制の概要を再確認したうえ、テレワーク時の労働時間管理の注意点について検討する。次いで、ジョブ型雇用と労働契約の関係を解雇と賃金に焦点を当て検討する。

テレワーク時の労働時間管理

働き方改革関連法による時間外労働規制の強化

2019年4月、働き方改革関連法により時間外労働規制が強化され、労働者の労働時間の管理について、使用者に一層の厳しい姿勢が求められることになった。時間外労働は、月45時間、年間360時間を「限度時間」として第1段階の上限とし、これを超える時間外労働を求めるには「通常予見することができない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に必要がある」注2という状況が現に存在しなければならないことが明記された。また、使用者は、労働者に対し、年次有給休暇を年間最低5日取得させなければならないことになった注3。さらに、労働安全衛生法の改正により、使用者に、管理監督者を含むほぼすべての労働者の労働時間の把握が義務付けられた注4。労働時間の把握方法につき、適正把握ガイドライン注5に明らかなとおり、当局は、使用者の恣意を排した客観的な方法によることを原則とし、労働者の自己申告を例外と位置づけ、自己申告制を採用する使用者には、以下の運用等の徹底を求めている。自己申告制を採用、またはタイムカード等で把握した労働時間を自己申告により修正する運用をしている使用者は、注意が必要である。

・ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること

・ 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、休憩や自主的な研修、学習等であり、労働時間ではないと報告されていても、使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと

・ 使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと

テレワークによる就業時間の曖昧化への警戒

テレワークには、「仕事とプライベートの区切りを明確につけにくい」という特徴がある。終業時刻後に、一旦終了した仕事を再開し、上司、部下、同僚、顧客にかかわらずメールのやりとりをするといったことが典型例である。「つながらない権利」注6が議論されていることはつとに知られているところであるが、労働時間管理の観点からも、就業時間外であっても、部下が上司から、担当者が顧客から、メールを受信したことに気づけば、それに翌日まで返信しないでおくのは勇気がいることであり、上司の側に配慮が必要であるし、就業時間外にメールや携帯電話で顧客対応をすることがテレワークゆえに常態化していないか、注意が必要である。使用者としては、就業時間外の上司への返信や顧客対応は求めておらず、労働者の自主的判断であるということが多いと思われるが、そのような場合でも、労働時間と認められる場合が往々にしてあるからである。

参考となるのは、持ち帰り残業に関する裁判例注7である。この裁判例は、上司が、就業時間外に部下による上司宛のメール送信や顧客とのメールのやりとりが頻回に行われているのを知っていたにもかかわらず止めさせなかったことを根拠に、これらのメールのやりとりは、使用者による黙示の指揮命令下にあり、その従事時間は労働時間に当たるとした。

テレワーク時の中抜け時間と自己申告制の運用のあり方

テレワークには、「中抜け時間」が生じやすいという特徴もある。ただ、育児・介護の負担のある労働者に不規則に中抜け時間が生じることは容易に理解できることであり、育児等の負担のある労働者のテレワークによる労働参加の促進に必然的に伴う現象と理解できる。
前述の労働時間規制はテレワークにも適用される。当局は、テレワークガイドライン注8において、テレワーク時の労働時間の把握についても、適正把握ガイドラインを踏まえるよう求め、自己申告も認めているが、自己申告と実態に乖離がないか検証する等の運用を求めている。そのため、中抜け時間についても、検証が求められる。しかし、自宅にて一人で労働している労働者の申告内容を検証する手段は限られている。通常、労働者の側においても、育児や介護のための中抜けに気兼ねがあると思われ、厳密な検証は、むしろ労働者の心理的な負担になるのではと危惧される。テレワークの普及による育児等の負担のある労働者の労働参加の促進に反するような運用は望ましいこととは言えない。

この点、「これからのテレワークでの働き方に関する検討会 報告書」(令和2年12月25日)は、テレワークの際の労働時間の管理の在り方について、

・ 使用者が仕事の遂行状況を常時把握・管理するような方法は、テレワークのメリットを失うことになりかねない。

・ 自己申告された労働時間が実際の労働時間と異なることを客観的な事実により使用者が認識している場合を除き、労働基準法との関係で、責任を問われないことを明確化する方向で検討することが適当である。

・ 中抜け時間があったとしても、少なくとも始業時間と終業時間を適正に把握・管理すれば、労働基準法との関係で、問題はないことを確認しておくことが適当である。

と指摘しており、この方向でガイドラインや運用の変更がされることが強く期待される。

働き方改革関連法により、管理監督者も含めたほぼ全労働者の労働時間の把握義務が労働安全衛生法に規定されたことも踏まえ、テレワーク時の労働時間の把握は、労働者の心身の健康状態の把握に重点を置くものと位置づけることも可能と思われる。テレワーク下では、労働者の生活実態をも考慮した、柔軟な自己申告制の運用が許容されてよいのではなかろうか。

ジョブ型雇用の法的検討

ジョブ型雇用に関する理解と検討の必要性

ジョブ型雇用は、経団連注9によるその導入の提案注10や、テレワークが普及すると、従来型の雇用管理や労働者の評価が難しいという事情もあり、今後の拡大が見込まれる。報道によれば、既に導入している企業もある注11。この状況からすると、ジョブ型雇用を未導入の企業も、その内容の理解と検討が必要と思われる。そこで、ジョブ型雇用に関し、解雇、賃金といった点を検討する。

ジョブ型雇用と解雇規制

「ジョブ型雇用」という語には、法令上の定義はない。ただ、少なくとも労働者が従事する「ジョブ」=「職務・業務」の内容を明確に特定した雇用形態という理解は共通になっていると思われる。
そうだとすると、その職務がなくなった場合や労働者がその職務の遂行に相応する能力を有しない場合には、労働者の解雇が可能となるという考え方も成り立ちうるように思われる。
しかし、配転により解雇を極力回避することを求める従来の裁判例を前提とすれば、職務がなくなったからといって、ただちに労働者を解雇することは認められないであろう。
また、職務に相応する能力の欠如については、勤務成績不良者に対する解雇が争われた裁判例が参考になるが、以下のとおり、結論が分かれている。

・ 経営コンサルティング会社にスペシャリストして中途採用された者の普通解雇が認められた事案注12

・ ITベンチャー企業の業務推進部長として中途採用された者の普通解雇が認められなかった事案注13

これらの裁判例からすると、ジョブ型雇用の採用により、職務に相応する能力を有しない労働者の解雇が容易になるとは言い難い。

ジョブ型雇用と成果主義賃金

ジョブ型雇用なら「ジョブ」=「職務・業務」の達成度を評価しやすくなるという発想から成果主義賃金との親和性が高いとの考え方もある注14
しかし、成果主義賃金をルールとして確実なものにするには、

・ 「ジョブ」を成果評価の基準として十分と言いうるほど、明確かつ詳細な内容のものとして規定できるか

・ 「ジョブ」の達成度の評価を、労働者の納得感を得られる客観的な手続にてなしうるか

という少なくとも二つの問題をクリアする必要がある。これらの問題はジョブ型雇用如何に関わらない。つまり、「ジョブ型雇用なら、成果主義賃金制度を導入しやすくなる」とは言えない。
加えて、従来からのメンバーシップ型雇用制度下にある企業が、既雇用の労働者に適用すべくジョブ型雇用制度を導入するにあたり、各労働者の「ジョブ」の内容を明確化するにとどまるのであれば別論、「ジョブ」の達成度を評価して降格を伴う異動や賃金の減額を実施する内容のものとするのであれば、労働条件の不利益変更に該当することに注意を要する。その結果、労働契約法10条に従った就業規則の変更手続が必要になり、同条の枠組みに収まらないほどに労働者の不利益が大きい場合は、労働者の個別同意の取得が必要になる。労働者からの個別同意の取得に関し、退職金支給基準の変更事案に係る最高裁判例注15は、

・ 同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認められるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」必要があり、「退職金額が0円になる可能性が高くなること」等労働者に生ずる「具体的な不利益の内容や程度についても、情報提供や説明」が必要

としている。
よって、「ジョブ」の達成度を評価して賃金減額等を実施する制度を導入するのは、ハードルが相当高いと考えておかざるを得ない。
ジョブ型雇用の導入については、

・ メンバーシップ型のメリットを生かしながら、適切な形でジョブ型を組み合わせた「自社型」雇用システムを確立することが求められている注16

・ (パソコンのソフトウェアの構造を例えに用いて)OS(オペレーションシステム)はメンバーシップ型としながらも、その上で、ジョブ型っぽいアプリを走らせることは可能である注17

などと言われている。
上記検討からすると、これらに言われているようなジョブ型の限定的な導入が、現行の労働法制、労働判例とも整合的な制度設計を可能にするものと思われる。

コロナ禍収束後に向けて

多様な労働者の労働参加の確保とその活性化は、少子高齢化を背景として必須であり、テレワークやジョブ型雇用の導入がその方策として有効に機能することが期待される。テレワークやジョブ型雇用が、コロナ禍収束後も定着する可能性は高く、今後の議論の動向にも注目が必要である。

→この連載を「まとめて読む」

[注]
  1. 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年7月6日法律第71号)による労働基準法36条に関する改正。[]
  2. 労働基準法36条5項。もちろん三六協定の締結、届出も必要である。[]
  3. 労働基準法39条7項。[]
  4. 労働安全衛生法66条の8の3。高度プロフェッショナル制度の適用のある労働者のみが例外となる(労働安全衛生法66条の8の4。労働基準法41条の2)。[]
  5. 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)[]
  6. 一般に「就業時間外における電話や電子メール等による業務上の連絡を拒絶する権利」とされる。[]
  7. アルゴグラフィックス事件(東京地判令和2年3月25日・平成28年(ワ)26294号)。[]
  8. 厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(令和3年3月)[]
  9. 一般社団法人経済団体連合会。[]
  10. 経団連「2020年版経営労働政策特別委員会報告」(2021年1月21日)15頁等。[]
  11. 日立製作所につき2022年3月16日付日本経済新聞、富士通につき同月23日付同紙。[]
  12. プラウドフットジャパン事件(東京地判平成12年4月26日・労判789号21頁)。[]
  13. 芝ソフト事件(東京地判平成25年11月21日・労判1091号74頁)。[]
  14. ジョブ型雇用という語を日本で初めて使用されたという濱口桂一郎氏は、このような考え方を強く非難されている(濱口桂一郎「間違いだらけのジョブ型雇用論─本当のジョブ型雇用とは何か?」労政時報4031号26頁)。[]
  15. 山梨県民信用組合事件(最判平成28年2月19日・民集70巻2号123頁)[]
  16. 経団連・前掲注10・17頁。[]
  17. 濱口桂一郎氏による(「ジョブ型雇用に関する質疑応答(受講者から登壇者への質問)」労政時報4031号40頁Q2の回答)。[]

高井 浩一

弁護士法人御堂筋法律事務所 パートナー弁護士

1992年京都大学法学部卒業。1994年弁護士登録、御堂筋法律事務所入所。2014年日商簿記検定1級合格。2014~2018年豊中市公平委員会委員(2018年同委員会委員長)、豊中市伊丹市クリーンランド公平委員会委員。2016年~昭和貿易株式会社社外監査役。2019年~社会福祉法人恩賜財団済生会支部大阪府済生会第三者委員。労働法務をはじめとする企業法務全般に精通し、『懲戒処分をめぐる法律実務-Q&Aと事例-』〔共同執筆〕(新日本法規、2014年)ほか、著作・講演多数。

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