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適正な経営および業務執行の成果が株価や配当金に反映され、株主還元と同時に役員報酬がこれに連動する。株式報酬制度は、経営の客観性・透明性を担保し、株主価値を共有させる合理的なシステムとして注目され、上場企業を筆頭に導入が急速に進んでいる。その一方で、制度の仕組みづくりを始める企業にとっては、当該制度の基本構造および自社をとりまく事業環境・特性などの緻密な理解が不可欠だ。制度導入の法的背景、制度設計の類型およびそれぞれの特徴について、講師の山下聖志弁護士(山下総合法律事務所 代表パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士)が具体的な導入事例を交えて説明した。

経営の客観性・透明性の強化要請に応える株式報酬

「株式交付による役員報酬制度が強く要請されている背景として、法制度上の事情と会社・役員双方の経営面・財務面からの事情の2点が挙げられます」と山下弁護士は指摘する。
まず、法制度上の事情として、コーポレートガバナンス・コードに“経営陣の報酬が持続的な成長に向け……客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し……その際、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべき”旨が明記され(補充原則4-2①)、その流れを受けて、役員報酬の制度・開示義務が整備され(2021年3月施行の会社法および企業開示府令(企業内容等の開示に関する内閣府令)改正)、業績連動報酬・株式報酬を含む役員報酬のあり方にさらなる透明性・公正性が求められることとなった。また、上場会社の役員等(取締役および執行役)に対する株式報酬の無償交付が認められる(にて詳述)など、利便性に優れた(法理論的にも)画期的な規定も後押しになっている。

さらに、については、役員の自社株保有数を増加させて株主との価値共有を深めつつ、損金算入が可能な制度設計・導入を早期に進めたいとする企業側の事情と、株式報酬の取得による(給与所得を上回る)インセンティブ報酬や、在任中における株主権(議決権・配当等)を享受したいと望む役員側の事情が大きく関係しているという。

譲渡制限付株式(RS)による役員報酬の制度概要

山下弁護士は、まず、株式報酬の基本形である譲渡制限付株式(RS:Restricted Stock)について次のように説明する。「RSは、原則として役員の役務提供の開始(就任)をもって当人に交付され、一定の条件(譲渡制限期間)の満了時に制限解除(「リフト」)され売却可能となる株式であり、図表1に示すとおり、期間を事前に固定するRSと当該役員の退任日までと定めるRSに大別され、期間固定型RSでは、譲渡制限期間を3年程度とすることが一般的です。また、退任日解除型RSは、ここ数年で急速に導入数が増加しています」。

①②のいずれも、役務提供開始の時点で株式を当該役員に交付すること(事前交付型)が特徴であり、業績連動型の株式交付としない限りは損金算入が認められる。なお、通常はは給与所得課税となりますが、国税庁(大阪国税局)の公表内容によればは退職所得課税とされることから、当該役員にとっては、課税メリットの大きいが有利となる。

図表1 譲渡制限付株式(RS)の2類型

① 期間固定型RS

② 退任日解除型RS

(事後交付型)業績連動型株式報酬(PSU)の制度概要

業績連動型株式報酬として代表的な事後交付型制度は、役務提供開始時に株式交付を受ける権利単位(PSU:Performance Share Unit)を付与するとともに、一定の業績評価期間(3年程度が主流)を設定し、同期間に所定の業績条件が達成された場合、その達成度に応じて当該PSUに相当する株式を事後的に交付する方式だ。「事後交付型の業績連動型報酬は、株式交付時(正確には株式を交付することが確定した時)の時価を標準に給与所得として課税されます。業績連動給与として損金算入されるためには詳細な開示など高いハードルがありますが、業績連動型という点では、より株主価値の共有を促進するシステムといえます」(山下弁護士)。

山下 聖志 弁護士

PSUとRSを組み合わせた新制度と各制度導入にかかる実際・留意点

株式報酬制度の導入にあたり、図表2のようにPSUの対価として業績評価期間終了時に退任日解除型RSを交付する形式(以下、「PSU+RS」という)が新たに導入されている。役員側にとっては、株式報酬が退職所得として扱われることで、RS交付時の所得課税が繰り延べられ、RS(前記参照)と同等の課税メリットが得られるとともに、当該RS交付時から退任日まで当該株式にかかる株主権(議決権・配当等)を享受できるメリットがある。また、企業側にとっても、RS交付につき業績連動型でありながら(所定の要件を満たすことにより)損金算入が認められるなど、双方に利点がある仕組みといえる。

図表2  PSU+RSのイメージ

「PSU+RSにおける報酬(株式交付数)の算定にあたっては、各企業が事業特性・業態等に適合した業績評価指標を設定し、ステークホルダーの要請・目線に耐えうる合理性を具備した内容とすることが重要です。当事務所がサポートした評価指標の策定事例としては、TOPIX採用銘柄の株価総利回り(TSR:Total Shareholder Return)と対比した自社株の株式(株価)成長率を、独自に設定した株式交付割合に乗じて交付数を算出する仕組みとした大手総合商社や、全業種の平均値であるTOPIXと併せて競合他社のTSRを加味することにより、成長率算定において市況・経営環境の変化に敏感な自社事業の特性を組みこみ合理性を高めた大手海運会社の例が印象的です」と山下弁護士。

PSU+RSをはじめ株式報酬制度の導入検討をこれから開始する企業においては、

 そもそもその導入自体が要請されているか(業績連動型に適した業態であるか、業績連動型へ移行する旨の外部・社外役員等からの要請や対象役員に業績評価期間終了後も継続して株式保有を推奨する等の事情があるか)

 業績評価指標をどのように設定するか(例:利益指標、売上指標、株価指標、ESG/SDGs指標)

 基本の金銭報酬、短期インセンティブ(賞与)および中長期インセンティブ(株式報酬)との適切な割合を当該役員の職位・責任等に応じてどう決定するか

といった点に留意が必要だ(本セミナーで紹介した主要な株式報酬制度の長所・短所については、図表3を参照されたい)。
業績評価指標に関しては、ESG経営やSDGs等の非財務指標に基づき株式報酬を支払う場合、現行の法人税法上は損金算入が認められていません。ただ、財務指標に基づく報酬との区分を明確化にすることで財務指標部分の報酬を損金算入することは可能ですし、たとえばESG/SDGs事業を財務指標に組み入れられる形でセグメント化できれば損金算入の可能性もあります。今後、CSRの観点から非財務指標の取扱いが明確化されること(損金算入が可能となること)を望みたいと思います」(山下弁護士)。

図表3 主な株式報酬制度(PSU+RS/RS/PSU)のメリット・デメリット

業績連動型+RS RS(事前交付型)
PSU(事後交付型)
報酬の目的
業績連動型報酬
退職時までインセンティブ継続
勤務条件型報酬
退任型は退任時までインセンティブ継続
業績連動報酬
キャッシュアウト・払込の有無
なし なし なし
業績連動性
配当・議決権
業績評価期間中:なし
RS交付後:あり
あり 業績評価期間中:なし
株式交付後:あり
税務 法人
損金算入
可(業績連動給与)※1 可(事前確定届出給与) 可(業績連動給与)
個人
退職所得※1
譲渡制限解除時の時価にて課税
給与所得/退職所得
譲渡制限解除時の時価にて課税
給与所得
金銭債権支給・株式交付の時点で課税(見込)
メリット 業績連動課税メリット大 費用固定が可能&課税メリット大 業績連動
デメリット
費用計上額が業績評価期間後の株価による 業績連動にすると損金算入不可 費用計上額が業績評価期間後の株価による

※1 税務上の確認が必要である。

株式報酬制度の導入実施を決めた企業においては、

 有価証券報告書や事業報告等での開示や関係機関(社外役員・報酬諮問委員会等)への説明を意識した制度設計とすること

 会社法および金融商品取引法上の制度をうまく活用すること

が肝要だと、山下弁護士は指摘する。特にについては、上場会社の役員等(取締役および執行役)に対して株式(株式発行または自己株式処分)を無償で(払込みなく)割り当てることができる。

また、この無償交付構成は、株式交付のための会計上の費用を(株式交付時ではなく)当初のPSU付与時の時価に固定できるというメリットがあり、また、その新株発行または自己株式処分の決定が金商法上のインサイダー取引規制にかかる“重要事実”にも該当しないため、情報管理の負担も軽減できることから、導入範囲を同役員等に限定する場合には有力な交付方法といえる。

「手続の簡素化や退職所得の優遇課税など、企業にとっても対象者にとってもメリットを多く享受できる制度設計に向け、法令の動向を見据えながら丁寧な助言・支援を続けていきたい」と語る山下弁護士。各社の制度設計を担う企業担当者にとって、制度導入の法的背景、制度設計の類型とその特徴を事例を交えてわかりやすく伝えた本セミナーは、非常に有意義な時間となったに違いない。

山下 聖志 氏

山下総合法律事務所 代表パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士

1998年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録(東京弁護士会)。柳田国際法律事務所入所。2005〜2007年 国内大手証券会社法務部門出向。2010年 米国ミシガン大学ロースクール卒業(LL.M.)。2011年ニューヨーク州弁護士登録。2012年 柳田国際法律事務所パートナー就任。2016年 山下総合法律事務所設立。

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