アジア渉外法務に強みをもつ曾我法律事務所と統合
2023年1月、シティユーワ法律事務所は中国法務、ベトナム法務をはじめとする渉外法務を強みとする曾我法律事務所と統合。粟津卓郎弁護士、住田尚之弁護士は中国法務をはじめとする渉外プラクティスの専門家としてシティユーワ法律事務所に加わった。「住田は10年以上の中国居住経験やJICAによる中国全人代常務委員会法制工作委員会への派遣経験から、中国現地における実務に長けています。私は中国プラクティスに長年携わるとともに経済産業省通商機構部に出向し、通商政策を担当していました。近年の中国とのビジネスには経済安全保障の視点が欠かせません。日々最新の法令、通知や情勢などの情報を分析し、アドバイスに活かしています」(粟津弁護士)。
住田弁護士は、2事務所が統合したことで提供できるサービスの幅が広がったと指摘する。「所属弁護士が7名の曾我法律事務所時代は日本企業のアウトバウンド案件が中心でしたが、国内業務の専門的なノウハウをもつシティユーワ法律事務所の弁護士と協業することで業務の幅が広がりました。最近は外国企業の日本進出案件の依頼も増えています。また、経済安全保障の事案では、日・米・中など、複数国の法令を踏まえた判断が必要となるケースがありますが、当事務所には各国の制度に精通した弁護士が所属しているため、多角的な視点で対応することが可能です」(住田弁護士)。
経済安全保障問題への対応を要する業種には、社内に対応部門を有するような大手企業が多いが、近年の規制強化により、対応スキルをもたない規模の企業にも影響が広がっている。「対応経験のない企業には、規制の詳細に関するレクチャーはもちろん、経済産業省への報告の手法など、具体的な実務の支援も行っています」(粟津弁護士)。
グローバル展開を行う企業が、ベテラン駐在員や現地責任者に運営を任せたまま、半ば“独立状態”になっている現地法人や支社のガバナンスを心配することも多い。「本社として現地の法令遵守に懸念がある場合など、中国の支社や現地法人の内部規程の確認や体制を見直すための具体策のアドバイスを求められるケースが増えています」(住田弁護士)。
予測不能な規制強化に伴うビジネスの再構築を支援
近年、中国を念頭に米国や日本の輸出規制が厳しくなり、重工業や半導体、化学品メーカーなど、対象品目を扱う企業が被る影響は甚大となっている。「ある半導体の素材メーカーは、“規制の動向によっては売上の半分が失われる可能性がある”と懸念されていました。規制は米国の政治に左右されるため予測不能な要素が大きい一方、メーカーは数十年先を見据えて長期的な投資をしなければなりません。身の振り方によっては、大きなダメージを受ける事態となってしまうのです」(粟津弁護士)。
このため、輸出規制の動向を把握するための情報収集や規制対応のニーズは高い。「“最新の状況においてどの程度の仕様であれば輸出できるのか”“輸出規制の対象品目について、輸出許可を米国政府当局から取得できる見込みはあるのか”というご相談は多いですね。中国に輸出できない場合は代替候補地としてベトナムに輸出するなど、サプライチェーンの再構築についてアドバイスをすることもあります」(粟津弁護士)。
日本の外為法における対内直接投資規制は2020年の改正で事前審査の届出業種の対象が拡大されたが、自社事業が届出業種の対象だと自覚していない企業も多い。「届出業種に“ソフトウェア開発等”が含まれた影響は大きいといえます。外国企業がソフトウェア開発等に従事する企業の設立や増資を行うことは非常に多いのですが、規制を把握しないまま、届出をせずに投資を実行している事案が散見されます。米国の議論を踏まえると、今後もAI関係はもちろんのこと、バイオ分野など、規制の対象は広がる可能性があります」(粟津弁護士)。
コロナ禍により現地調査が困難だったアンチダンピング調査は中国が2024年になって新たな調査を開始し、日本も数年ぶりとなる調査を行った。「日本政府の中国産黒鉛電極に対する調査の応訴企業の代理や、中国政府のEU、米国、日本、台湾産のPOM共重合体に対する調査の応訴企業の代理を行っています。アンチダンピング調査は“貿易紛争における報復・対抗措置の一つ”という側面もあり、今後増えるのではないかと推測されます」(粟津弁護士)。
経済制裁へのカウンター措置に企業はどう向き合うべきか
米中対立における米国の制裁に中国はカウンター的な措置をとっているが、中国でビジネスを行う日本企業はこれにどう向き合うべきか。「中国は経済制裁の効力を否定するルールや経済制裁に加担する企業や個人を処罰するルールを立て続けに制定しています。その結果、たとえば、米国輸出管理規則のもとで整備されたエンティティ・リストで名指しされている中国の中央企業との取引を突然打ち切ると、中国側から損害賠償請求を受けるなどのリスクがあります」(住田弁護士)。
住田弁護士によると、これら経済安全保障分野の問題に明確な解決法はないが、日本や欧米の法令のみならず中国法上のコンプライアンスリスクも考慮したうえで情報を収集・分析して総合的に対応すべきだという。
「2023年に中国の反スパイ法が改正され、スパイ行為の定義が拡大されたことで、多くの企業が“自社の社員や関係者が拘束されるリスクはないか”と非常に心配されています。過去にも日本人が拘束された事例がいくつか発生しており、事案の性質上、その背景事情は十分には明らかにされませんが、国境や軍事施設の周辺での旅行、写真撮影、無許可の探査・調査活動、中国にとってセンシティブな議論など、過去の事例から類型的にリスクが高いと考えられる行動は控えるべきでしょう。一方、外国人をみだりにスパイ容疑で拘束することは中国にとってもリスクがあるため、こうした点に最低限注意したうえであれば、一般のビジネスマンが過度に萎縮する必要はないかと思います」(住田弁護士)。
中国で行うビジネスについて発生する法的問題には、やはり現地法律事務所との緊密な連携が欠かせない。「曾我法律事務所時代から緊密に連携してきた現地事務所が複数あり、訴訟や行政上の申請といった現地での対応が必要となる場合にも即時に依頼ができる関係性があります。現地のプラクティスについては、“どの程度が許可されるか”など、政府機関の感覚や法律の背景などへの理解が欠かせません。現地事務所と手を携えることで、経済安全保障問題に限らず、あらゆる問題において迅速かつ最適に対応をすることが可能です」(住田弁護士)。
読者からの質問(規制技術を扱う中での外国人研究者採用)
粟津 卓郎
弁護士
Takuro Awazu
97年東京大学法学部卒業。99年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利法律事務所入所。01年糸賀・曾我法律事務所入所。02年テュレーン大学ロースクール(LL.M)卒業。03年ニューヨーク州弁護士登録、カリフォルニア州弁護士登録。03~04年経済産業省通商政策局通商機構部出向。05年弁護士法人キャスト糸賀パートナー。12年曾我法律事務所パートナー。23年シティユーワ法律事務所パートナー。
住田 尚之
弁護士
Takayuki Sumida
00年早稲田大学法学部卒業。02年早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了。03年弁護士登録(東京弁護士会)、糸賀・曾我法律事務所入所。03~04年北京市にて語学研修。05年弁護士法人キャスト糸賀入所。08年弁護士法人曾我・瓜生・糸賀法律事務所入所。08~10年JICAより中国全人代常務委員会法制工作委員会に派遣。12年曾我法律事務所パートナー。12年浩天信和律師事務所顧問。23年シティユーワ法律事務所パートナー。