【内部不正・危機管理】不祥事防止のための打ち手 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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企業不祥事調査・対応のエキスパートによる原因分析

検察や規制当局などの出身者・出向者が数多く在籍するのぞみ総合法律事務所。このため、企業不祥事発生時の社内調査や第三者委員会としての調査の依頼が日々集まる。
「企業調査では、証拠のありかを想定する“嗅覚”、時にプライベートな領域や外部領域の証拠をも収集する“工夫”、膨大なメールから片鱗をつかみ掘り下げる“根気”、事実を引き出すためのヒアリング“テクニック”を総動員し、事実を解明することが肝要です。客観的証拠を根拠の中心に据えて事実を認定する力も求められます。このように証拠収集や事実認定には相当の経験・ノウハウと度胸が必要な分野です」と語るのは、地検特捜部や特別刑事部で数多くの捜査に従事した経験をもつ吉野弦太弁護士だ。
吉野弁護士によると、不祥事を起こした企業が効果的な再発防止策を策定するには、原因を適切に分析することが肝要だという。「事実解明が不十分だと、原因分析も深みのないものとなりがちです。不祥事は人が起こすものである以上、動機や不正を正当化しようとする彼らなりの理由に着目する必要があります。また、“使いにくい制度が不正の温床になる”という逆説的なことも起きています。さらに、“経営側からのプレッシャーによる最終的なしわ寄せ”が当該部署の不正原因と見られることもあります。原因分析は、人・制度・経営体制(方針)など、さまざまな大小の視点で掘り下げることが必要です」(吉野弁護士)。

吉野 弦太 弁護士

正しいルールの策定と健全な企業文化の醸成を

企業不祥事には、個人の利益のために行われる“ムシ型”と、組織の利益のために行われ、長期間にわたって不正が恒常化する“カビ型”がある。金融庁検査官の職務経験があり、金融機関を多数クライアントにもつ吉田桂公弁護士は、「この“ムシ型”の不祥事を完全に防止することは難しい」と語る。
「金融機関の場合、顧客資金の横領等、“ムシ型不祥事”がしばしば発生します。これを完全に防ぐことは困難ですが、そのリスクを縮小することはできます。よく用いられるのは不正のトライアングル(個人が不正行為に至る背景を“機会”“動機”“正当化”の3観点からモデル化したもの)を用いた防止策です。人の内面である“動機”や“正当化”はアプローチが難しいのですが、“機会”は管理体制の問題で、対策は可能です」(吉田弁護士)。
吉田弁護士によると、不正防止のプロセスは“ムシ型”か“カビ型”かにかかわらず、“いかにPDCAを回せるか”だという。「まずは規程やマニュアルなど、社内ルールを形成すること(P)。ルールがない状態では不正を正当化する風潮が生まれかねません。規範(P)ができて初めて実行(D)・チェック(C)・見直し(A)の流れを行うことができます」(吉田弁護士)。
ただ、効果がある施策とするためには、健全な企業文化の醸成が重要だという。「不正が発生するたびに、“ルールを増やしたり、チェック回数を増やす”といった対策を講じがちですが、細かいルールが増えすぎると、ルールが形骸化します。重要なのは、従業員一人ひとりが会社の理念やパーパスに共鳴し、自分事化して実践するような企業文化を醸成することです。ただ、企業文化の醸成には時間がかかります。企業文化の醸成を中長期の経営戦略として捉え、理念やパーパスを日常の行動に落とし込むなどの取組みを継続することが肝要です」(吉田弁護士)。

吉田 桂公 弁護士

外部の視点を取り入れることで規範の逸脱を防止

消費者庁に出向経験を持ち、景表法・消費者法分野における不祥事防止や当局対応案件が多い山田瞳弁護士は、企業の規模やコンプライアンス意識の度合いに応じた現実的に運用可能な社内ルールの提案をしているという。「企業が表示を作成する際には“消費者からどう見えるか”という視点が抜け落ち、“企業としてどう見せたいか”が先走りがちです。その結果、実際との齟齬が生じて当局から指摘を受けることがないよう、社内で表示を作成するプロセスに第三者的立場の部署や外部の弁護士の視点による確認作業を介在させたりします」(山田弁護士)。

山田 瞳 弁護士

また、社内調整に弁護士が関与する場面もある。「営業部隊の力が強く、行き過ぎた営業施策に及ぶような場合には、弁護士から法的リスクの度合いを伝えることで、一定の歯止めの役割を果たすこともあります。他方で、新規ビジネス等でグレーゾーンに踏み込む場合には、実際に処分に至る可能性と処分の影響度合いを踏まえてクライアントが適切にジャッジできるように助言しています」(吉田弁護士)。

不正調査で学んだノウハウを日々の業務に活かす

同事務所は徹底したOJTにより、若手弁護士にベテラン弁護士がノウハウを伝えている。2022年に弁護士登録し同事務所に入所した堀場真貴子弁護士も多くの不祥事調査や体制構築に関与し、経験を積んでいる。「不正調査では、あらゆる場面で経験や感度が必要とされます。若手弁護士は、先輩弁護士からこれらを日々学んでいます」(堀場弁護士)。
学んだノウハウは、日々の不祥事防止業務にも反映されている。「不祥事の端緒を得るためには内部通報窓口の設置や体制整備も重要で、当事務所ではこれらの業務も取り扱っています。窓口に通報があった際には、多くの事実をフラットに聞いて評価するという、不正調査で学んだノウハウが活きています」(堀場弁護士)。

堀場 真貴子 弁護士

読者からの質問(不祥事防止のための企業文化の変革)

Q 不祥事を防ぐために企業文化を変えるには、どのようなアプローチが必要ですか。
A 重大不祥事等の有事が起こると企業文化を変える推進力が働きやすいのに比べて、平時に企業文化を変えることは容易ではありません。しかし、有事の“前”の取組みが肝要です。各従業員が会社の理念やパーパスを腹落ちし、実践することが重要ですが、まずは、経営陣が理念やパーパスに沿った言動を行うことが求められます。“理念やパーパスに沿った行動とは何か”を可視化するために、役職員間で対話の機会を設け、“理念やパーパスを体現する行動がどういうものか”について意見を出し合い、理念やパーパスと行動を結びつける作業をしてほしいと思います。そうすると、意識変化や行動変容が起こり、不祥事防止の土台ができます。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2024』を 「まとめて読む」
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吉野 弦太

弁護士
Genta Yoshino

98年中央大学法学部卒業。00年検事任官。07年法務省大臣官房訟務部門(行政訟務担当)。10年横浜地方検察庁特別刑事部。12年東京地方検察庁特別捜査部。13年金融庁・証券取引等監視委員会(特別調査課、国際取引等調査室、市場分析審査課)。16年弁護士登録(第二東京弁護士会)。

吉田 桂公

弁護士
Yoshihiro Yoshida

03年東京大学法学部卒業。04年弁護士登録(第二東京弁護士会)。06~07年日本銀行決済機構局出向。07~09年金融庁検査局出向。23年中央大学ビジネススクール卒業(専攻は企業文化、組織論)。MBA(経営修士)、CIA(公認内部監査人)、CFE(公認不正検査士)。

山田 瞳

弁護士
Hitomi Yamada

02年中央大学法学部卒業。08年東京大学法科大学院卒業。09年弁護士登録(第二東京弁護士会)。19~21年消費者庁総務課・法規専門官(訟務)。

堀場 真貴子

弁護士
Makiko Horiba

19年中央大学法学部卒業。21年一橋大学大学院法学研究科法務専攻卒業。22年弁護士登録(第二東京弁護士会)。