【コーポレート】平時のアクティビスト対策 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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政策保有株式解消の時代には平時のIR・SR活動が重要

会社法の第一人者によって設立された1964年以来、多種多様な上場企業の株主総会指導を手がけてきた弁護士法人第一法律事務所。同事務所は株主総会を“株主との重要なコミュニケーションの場”と捉え、法的なサポートにとどまらず、定性的な運営ノウハウなど、きめ細やかなアドバイスを提供してきた。そのコミュニケーションは、近年大きな変化を遂げている。
「東京証券取引所(東証)の要請などを背景に、株主提案の数が毎年増加傾向にあります。企業が正面から会社提案の合理性を説明する必要に迫られることも少なくありません」と語るのは、株主総会対応をはじめコーポレート分野の助言を通じて企業のトップと対話を続けてきた家近知直弁護士だ。

「企業は株主提案よりも会社提案の方が合理的であることを機関投資家などの大株主に説明し、賛同を募ります。総会直前時期、機関投資家の議決権行使担当者は複数の総会対応で時間がなく、十分に対話する時間を得ることができません。このため、平時からのIR・SR活動が重要になります」(家近弁護士)。

家近 知直 弁護士

一般的に平時のIR・SR活動は、法務部ではなくIR・SR担当者が担う。しかし、株主提案を受けるなどの“有事”となった場合には、法務部が外部専門家と連携し、対応することになる。このため、法務部はIR・SRの内容を常に把握することが望ましいと、大沼剛弁護士は指摘する。

「有事対応のベースとなるのは、当該企業のこれまでのIR・SR活動です。法務部はこの内容を踏まえて外部専門家と協議しなければなりません。コーポレートガバナンス・コードの改訂で株式の持ち合い構造が崩れたため、これまでのように容易に反対多数で株主提案を否決できるという状況ではなくなり、多くの企業の法務担当者が危機感をもつようになっています」(大沼弁護士)。

持ち合い解消で、有事発生の可能性は多くの企業で高まっている。特に、伝統的な歴史があり、長年内部留保を行ってきた企業は、それを投資や配当に振り向けるよう要求を受けやすい。

「東証が改善策の開示・実行を要請したPBR(株価純資産倍率)1倍を大きく下回るような企業は投資ファンドのターゲットとなりがちです。村上ファンドなど、著名なアクティビストはもちろんのこと、各国の金融緩和政策により市場に資金が流入し、投資ファンドの裾野が広がりました。特に独立ファンドなどは比較的時価総額の小さい企業をターゲットとする傾向にあります。これらの企業は少額の資金でもある程度のボリュームの株式を取得されてしまうため、昨今の時流には反するものの、買収防衛策の導入も検討する意義があります」(大沼弁護士)。

読者からの質問(IR・SR活動について法務部が把握するための方策)

Q IR・SR活動について法務部が把握するには、どのような方策がありますか。
A IR・SR活動は、経営・法務・財務・サステナビリティなど、さまざまな分野が関わるため、本来的にIR・SR担当者のみで対応することが困難な分野です。このため、株主との対話をIR・SR担当者任せにするのではなく、たとえば株主総会議案に対する議決権行使結果の理由を聴取する際など、株主との対話にも法務部の担当者が積極的に同席していくべきでしょう。

“株主と何を対話すべきか” 有用な具体例とは

大沼弁護士によると、「アクティビストも、まずは対話を行ったうえで株主提案を行う流れがある」という。大株主については、会社提案に反対の議決権行使があった場合、次年度に提案予定の議案を念頭に置きながら総会後に対話を行い、反対理由を聴取して次年度の株主総会に活かすことも重要だという。もっとも、そうした明示的に対話すべき議題がない場合に、株主と何を話すべきかについて苦悩している担当者も多い。

「公開情報以外でも、インサイダー取引規制やFDルール(フェア・ディスクロージャー・ルール)に抵触しない範囲を見極めながら仮説を提示して対話をするなど、各社で工夫をされている印象です。また、統合報告書や中期経営計画は株主総会前のタイミング以外で対話をもつきっかけとなります。比較的時価総額が小さな会社は統合報告書を作成していない場合も多いのですが、SR活動の一環として作成することをお勧めします」(大沼弁護士)。

大沼 剛 弁護士

株主の特性に合わせて適切な対応パターンを見極める

時価総額が大きい企業では、パッシブ投資家と対話を行うこともポイントとなる。

「パッシブ運用が広がり、多数の投資先企業を有する機関投資家は個別の招集通知を精査する時間に乏しいため、議決権行使助言会社の助言どおりに議決権行使することや、各社が定める議決権行使基準を単純に当てはめて議決権行使を行うことが多いです。もっともSR活動の中で会社の経営方針について丁寧に考え方を伝えていくことで、意外に形式的な基準の中でもある程度幅をもった判断をされていることを確認できたりします。また、有事の際もこうした平時からの関係構築が有用に働くケースがあります」(家近弁護士)。

一方で、アクティビストに同調して漁夫の利を得ようとする個人株主への対応も欠かせない。

「アクティビストが企業に投資していることが判明した際、企業がアクティビストの要求内容を受け入れることを期待した個人株主が当該企業の株式を買い集める事例が散見されます。こうした個人株主は、アクティビストの要求に同調する傾向にあるため、企業としては平時から中長期的に企業の“ファン”となってくれる個人株主を増やすことが重要です。典型的な戦略ではありますが、“株式分割をして投資単位を下げる”“株主優待によって自社のサービスを知ってもらう”“株主還元を充実させる”などの戦略も、いまだなお有効です」(大沼弁護士)。

中間配当・期末配当のために株主名簿を取得した際に、見知らぬファンドが大株主の名前に挙がっていた場合は注意が必要だ。

「万全を期すためには、この段階から証券会社・証券代行・弁護士らと協働し、今後の対応を検討していくべきです。当該ファンドが過激派か穏健派かで対応を変える必要があり、前者であれば、時流に反してはいますが買収防衛策の導入も検討しなければなりません。買収防衛策の平時導入は有効ですが、株主の賛同を得にくいため、有事導入型を備える検討をしてもよいでしょう。加えて、小規模な会社の平時の対策としては、まずは株価を向上させるべく中長期の経営戦略を策定することが重要です」(家近弁護士)。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2024』を 「まとめて読む」
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家近 知直

弁護士
Tomonao Iechika

01年早稲田大学法学部卒業。05年弁護士登録(第二東京弁護士会)、第一法律事務所入所。10年金融庁検査局へ任期付公務員として出向。16年弁護士法人第一法律事務所パートナー(社員弁護士)就任。

大沼 剛

弁護士
Go Onuma

14年司法試験予備試験合格。15年立命館大学法学部卒業。16年弁護士登録(大阪弁護士会)。17年弁護士法人第一法律事務所入所。