【契約】契約書のチェックをめぐる法律事務所とのコミュニケーション - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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桃尾・松尾・難波法律事務所は、国内外の多様な企業から、依頼企業の状況や法務ニーズに応じ、顧問に限らず、出向、常駐、法務受託といった多岐にわたる形態で依頼を受けている。その中で同事務所が重視しているのが、“案件把握のためのコミュニケーション”だ。某エネルギー系企業のインハウスローヤーA氏をゲストに迎え、高石直樹弁護士、角元洋利弁護士、和氣礎弁護士にその手法について語っていただいた。

“紛争からの逆算”の観点で契約書を審査し紛争・トラブルに備える

A氏 私は、契約書審査において大切なことは、基本書だけを頼りにするのではなく、関連する法令の制度趣旨などにも立ち返りつつ、条文を精査していくことだと考えています。このあたり、法律事務所の先生方はどのようにお考えですか。

高石弁護士 おっしゃるとおりですね。基本書はよくまとまっていて便利なので、そこから入ることは時間の節約にはなるかと思います。しかし、難しい案件ほど正確を期すためには、条文を精査し、立法趣旨を確認することが重要ですね。

角元弁護士 当事務所では、すべての弁護士が訴訟や仲裁といった紛争解決分野にも深い知見・経験を有しています。そこで、“紛争からの逆算”の観点で、「紛争・トラブル発生時に実際に使える、そして、役立つ条項や表現は何か」という点を契約書審査段階で検討し、的確なアドバイスを提供することを得意としています。
業務委託契約を例にとると、訴訟で実際に自らが代理した案件の経験も踏まえ、契約を解消された場合を想定して、損害賠償がどの程度認められるかを最高裁の判例なども参考にしながら違約金や損害賠償の条項の精査をしています。

和氣弁護士 契約書を作成する段階から、訴訟等に至った場合に、どのような要素が考慮されるかということを重視しながら深堀りしていくことも重要ですね。例えば、継続的契約の解消の可否等の検討ではたくさんの要素が考慮されます。重要度の高い契約書を締結する際は、過去の裁判例等も確認しつつ、「どのような要素が考慮されるのか」「本件ではどうか」ということを複合的な視点から検討する必要があり、その際には紛争解決分野で事案を細かく分析した経験が活きると思います。

A氏 “紛争になると事情を細かく見られる”という点は、いざというときに備えて裏付けとなる証拠をきちんとそろえておくことを意識しておく観点からも大切だと痛感しました。

事案の把握がキーポイント

A氏 当社では、これまでのところ法律事務所へ積極的な情報の開示・提供を事前にはそれほど行っておりません。「最低限これだけあれば、答えてもらえるのではないか」というスタンスが多いです。「もう少し情報が欲しい」と言われれば、後から提供することはします。

高石弁護士 情報には、既に文字化されているものと、文字化はされていないけれどその業界や会社にとっては当然とされているような慣習や慣行があります。裁判官としての経験からすると、悩ましい点がある場合には、これを的確に判断するためには後者の情報も確認・検討しておきたいところです。弁護士になってからも同様で、契約書審査に正確を期すためには、このような“外部からは見えにくい点”を情報として求め、説明していただくことが、万一紛争が発生した場合の解決に資するという点からも、とても重要だと考えています。

高石 直樹 弁護士

角元弁護士 法務部がある企業の場合、相談メモに事案の概要、論点、事案に関する当社の考え方などがきれいにまとめられていることが多いです。しかし、それをそのまま鵜呑みにするのではなく、きちんと検証するために、適切にヒアリングすることが法務部員以上に現場から遠いところにいる外部弁護士には求められていると思います。

和氣弁護士 法務部の方が間に入ってくださる案件では、法務部の方が事業部の持っている情報を翻訳して私たちに伝えてくれるので、非常にありがたいですね。依頼者の事業部の方と直接やりとりをする場合、回答方法にも注意が必要であり、例えば、「~という条件を満たす限りで許容される」といった条件つき許容の説明をする場合、法務部の方が仲介してくださる場合以上に事案への落とし込みを含めて丁寧に説明する必要があると思います。

高石弁護士 Aさん、企業として外部弁護士に望むことや改善してほしいことがあればぜひ教えていただけますか。特に厳しめのものを(笑)。

A氏 やはり“事案を適切に把握してもらう”ということに尽きますかね。以前、事案の全体像は把握されていたのですが、一部、誤解されていた点があって、そのまま進んだために途中で軌道修正をしなければならなくなった経験がありました。もっとも、当社も前提を共有できていなかったのを気付けなかったのは反省しなければなりません。また、企業結合の対応をお願いしていた際に、「公正取引委員会に出す資料は客観的なものが必要ですよ」と“後から”言われたことがありました。事前に聞いていたら、資料の準備や主張書面の書きぶりなどで手戻りが発生しなかったと思います。法律事務所の先生方には当然のことでも、企業内には蓄積がなさそうなことは早めに情報提供をいただけると助かりますし、こちらからも確認するよう心がけたいと思いました。

日々進化する技術・サービスを契約実務に落とし込むためには
―技術・サービスの進化による複雑な契約への対応

和氣弁護士 当事務所では、月1回程度の頻度で所内勉強会を開催しています。勉強会のテーマはさまざまですが、新領域の法的論点、契約の留意点などについても情報交換、意見交換を重ねることで、日々進化していくビジネスに対応できるよう研鑽をしています。

角元弁護士 近時の勉強会はパートナー弁護士が自らの得意分野を若手弁護士に伝授する場ともしており、その分野を担当したときに絶対に落としてはいけないポイントや勘所を伝えるようにしています。私たちはいわゆるセクション制を採用していないので、一人ひとりがジェネラリストを目指しつつ、複雑な案件にも対応できるように研鑽を重ねています。

角元 洋利 弁護士

A氏 案件にはどのような体制で臨まれるのでしょうか。

和氣弁護士 原則として、パートナー1名・アソシエイト1名以上の体制で対応しています。それを前提に、案件の大きさ、複雑さ、分野等を勘案して柔軟に構成要素を変えています。パートナーとアソシエイトの組み合わせは固定化しておらず、アソシエイトは多数のパートナーと案件ごとにタッグを組んで働いており、このような体制が業務の幅にもつながっていると思います。

A氏 パートナーとアソシエイトの組み合わせが変わるというのは、非常におもしろいですね。企業からすると、普段からお願いしているパートナーが依頼しやすいのですが、必ずしも得意分野でない案件の場合、アソシエイトがその分野を得意としていれば安心できます。経営でいう“プロジェクト型組織”の法律事務所版ですね。これは企業から見ても魅力的な取り組みです。

契約審査のアウトソーシングには多様なバリエーションがある

A氏 当社では、特殊性の高い契約や訴訟案件、多様な要素の総合的な判断が必要な規範的要件に関する案件、書籍では確認できないような法律相談などについて外部弁護士に依頼をしています。また、経営判断原則の判例で、「外部専門家の意見を聞くことで役員の責任が減免される」というものがあったと思いますが、関連企業の債務保証をしている案件については、毎年、外部弁護士の意見を聞くようにしています。
ところで、桃尾・松尾・難波法律事務所の特色はどのようなものでしょうか。

高石弁護士 私たちの強みは、中規模事務所であるので、大小さまざまな案件に応じて柔軟に対応することが可能だという点にあります。また、各弁護士は一定の得意分野は有していますが、部門が分かれておらず、全員がジェネラル・コーポレートに関する豊富な知見・経験を有していることも強みの一つです。

角元弁護士 “柔軟な対応”という点では、顧問契約だけではなく、いわゆる法務受託も実施しています。また、「法務部員が退職して業務負荷が大きくなってしまった」というお話をよく聞きますが、そのような場合は短期間に限定して日常的な契約書審査などのサポートもしています。

和氣弁護士 企業から外部の弁護士には専門性の高さが求められており、それは今も昔も変わらないと思います。例えば、独占禁止法、景表法、下請法等の判断に迷うような法令に関するアドバイスといったものですね。一方で、最近はさまざまな理由から企業の法務部門の人員不足・マンパワー不足も生じており、「日常のオペレーション部分で外部の手を借りたい」というアウトソーシングのニーズも増えているように思います。このような場合、少し前までは“出向”や“常駐”と表現されるような“依頼者のオフィスで業務を行う”形態が多かったと思いますが、最近では、リモートワークも進んだ影響で、“事務所で業務しつつ依頼者の法務部機能の一部を代替する”という“法務受託”とでも表現すべき形態も増えており、当事務所でもそのような対応をしています。

和氣 礎 弁護士

A氏 事業会社も法律事務所も働き方改革が進んでいるので、そうした多様なサポートメニューがあることはありがたいですね。従来の顧問契約では、“1(イチ)か0(ゼロ)か”ということでしたので。
それから、独占禁止法や景表法のような法令については、規範的要件などさまざまな要素を考慮しなければいけません。ところが、当社の場合、社内だけでは対応できる人材を育てきれないのが現状です。そこで、やや難しいと思われる法令が絡む案件については、外部弁護士への相談の際に、案件に携わっていない若手部員も同席させ、いわばOJTで能力の向上を図っています。

知見のフィードバックを通じて予防法務の礎を創る

高石弁護士 私は裁判官時代に、研修制度で民間企業に派遣してもらい、法務部に在籍していたのですが、その際、事業部門から受けた新規事業の立ち上げに関する相談を中規模法律事務所にしていたことがありました。そこでは、法務部が関与し、特定の課題を掘り下げた上で相談を実施するというのではなく、法務部と事業部門が一緒になって、事業計画の早期の段階から、法律事務所とともに定期的に開いている相談会・検討会にその時点での課題を持ち寄るような形で行っていました。
事業部門からすると、「法務部だけではなく、外部の専門家である弁護士に新規事業の内容がまだ粗い段階であっても早期に聞いてもらえる」という安心感があり、また、法務部としても事業部門が検討している新規事業の内容や課題の状況が早期に把握できました。外部弁護士側としても、新規事業の計画についてラフなものであっても早めに関わることで、各種規制や法的課題を踏まえた、より実現可能性の高い精緻な事業計画にしてもらうためのアドバイスができるというメリットがあり、私はよかったと感じているのですが、Aさんはどう思われますか。

A氏 新規事業については未知の部分が多いので、早い段階からその内容が分かれば法務としても注意すべき点などを早めに確認できますし、外部弁護士からも早めに貴重な示唆をいただけるのはありがたいですね。

高石弁護士 それから、先程OJTのお話がありましたが、昨今の法務部門の機能や人材にますます多様な分野における高い専門性が求められている中で、例えば契約書チェック時のコメントバックといった“OJT”と外部セミナーを受講するなどの“OFFJT”の間にあるような、各企業の法務部門が抱えている固有の課題に対してオーダーメイド的にきめ細かく対応するような形での法務機能のサポートや、個々の法務部員のスキルアップのためのサポートなども法律事務所としてもできると考えています。このような点は、どう思われますか。

A氏 法律相談の際に、その事案の回答だけではなくて、一歩立ち止まった“法的なものの考え方”とか“制度の背景”“条文の趣旨”などを伝えてもらえると、法務部員のリーガルマインドが高まると思います。法律文書や行政文書は記載された字面だけでは意味が伝わりにくいところがあるので、そこを内部ではなく外部から噛み砕いて伝えてもらうことによって、信頼性も増しますし、経営に伝える際にも役に立ちます。また、こうしたサービスを提供いただければ、法務部員の成長も自然と促されるでしょう。

和氣弁護士 法務サービスの形態はともあれ、一つの会社と長年お付き合いしている中で、契約書チェックを含めた多くのご依頼を受けていると、その会社特有の注目しなければいけないポイントが見えてきます。個別案件のフィードバックだけではなく、そうした知見を活用した社内セミナーをご提案することもありますね。

高石弁護士 そこは重要なポイントで、法律事務所の中にそうした知見がたまると、同種企業と比較した場合の依頼企業の契約書や対象の取引の傾向や特徴をよく把握することができます。そのような多角的な観点からのフィードバックを行う機会をいただけると、依頼企業の予防法務にも役立てていただけると思います。

角元弁護士 同種の会社の契約書のレビュー時に気付いた“よい点”を、契約書のひな型の修正やトラブルの事前防止の示唆に活かすことは、当事務所では既に実施しています。法律事務所にたまったこうした知見を、企業法務の方にはぜひ活用していただきたいですね。

A氏 たまってきた法律相談などを一段階高いレイヤーで類型化して、部門別とか業務別とかで整理できるととても助かります。それに法律事務所にたまった他の知見を加えてサポートいただけると嬉しいですね。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題』を 「まとめて読む」
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高石 直樹

弁護士
Naoki Takaishi

民間企業(生保)勤務後、04年判事補任官、14年判事任官、16年判事退官。この間、千葉・名古屋(岡崎支)・東京・水戸(土浦支)の地家裁で民事・行政事件のほか、家事・刑事事件も担当。事件部以外に、07~08年民間企業長期研修(大手流通系企業法務部に在籍)、11~13年司法研修所(裁判官研修担当)、13~14年米国ミシガン州の裁判所で在外研究。16年弁護士登録(第一東京弁護士会)、桃尾・松尾・難波法律事務所入所。21年コーネル大学ロースクール卒業(LL.M.)。23年桃尾・松尾・難波法律事務所パートナー就任。

角元 洋利

弁護士
Hirotoshi Kakumoto

10年弁護士登録(第一東京弁護士会)、桃尾・松尾・難波法律事務所入所。16年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。16~17年米国ニューヨーク州Weil, Gotshal & Manges勤務。17年ニューヨーク州弁護士登録。17年桃尾・松尾・難波法律事務所復帰。20年桃尾・松尾・難波法律事務所パートナー就任。

和氣 礎

弁護士
Motomu Wake

12年弁護士登録(第一東京弁護士会)、桃尾・松尾・難波法律事務所入所。18年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M. James KentScholar)。18~20年法務省東京法務局訟務部部付(弁護士登録一時抹消)。20年桃尾・松尾・難波法律事務所復帰。23年桃尾・松尾・難波法律事務所パートナー就任。

A氏

エネルギー系の企業に勤務するインハウスローヤー。法務、事業部門、グループ会社管理・新規事業に携わる。