いま専門弁護士に聞きたい!最新法務課題Q&A - Business & Law(ビジネスアンドロー)

© Business & Law LLC.

Business & Lawに寄せられた法務部員からの“頻出質問”に回答いただきました。

知財

回答者:弁護士法人御堂筋法律事務所 パートナー 矢部 耕三 弁護士

Q. 2021年6月11日に東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを改訂し、新たに「知的財産」に関する項目が導入されたと聞きました。また、2022年1月28日には内閣府内の検討会により「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」が公表されたようですが、それぞれの概要と企業経営に関する法務リスクへの影響を教えてください。


A. 2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード(以下「改訂CGC」)では、知的財産・無形資産(以下「知財等」)への投資等について、上場企業が自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ、わかりやすく具体的に情報を開示・提供すること(補充原則3-1③)、知財等への投資等の重要性に鑑み、経営資源の配分や事業ポートフォリオに関する戦略の実行が企業の持続的な成長に資するよう、取締役会が実効的に監督を行うこと(補充原則4-2②)が求められています。このように、今回の改訂は、企業(取締役会)に対して知財等への投資やそのリスクを適切に管理・監督し、効果的な情報開示を行うことを求めるものですが、その裏返しとして、株主・投資家等に対し、上述のような側面から企業を評価する機会を与えることで、日本企業が今まであまり得意ではなかった、知財等をベースにした企業価値の向上を中長期的に実現していくことが期待されています。
このような改訂CGCの要請に対して企業や投資家・金融機関が具体的にどのように対応すべきかについて、2022年1月に公表された「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」では、知財等の投資・活用にあたり、①価格決定力あるいはゲームチェンジにつなげる、②費用ではなく資産の形成と捉える、③ロジック/ストーリーとしての開示・発信を行う、④全社横断的な体制整備とガバナンス構築を行う、⑤中長期的視点で投資を評価・支援するという「5つのプリンシプル(原則)」が示されました。さらには、投資家や金融機関等からの高評価を得るために企業がとるべき「7つのアクション」も具体的に紹介されています。
今後、知財等の管理・戦略に関する情報を積極的かつ具体的に開示し、発信していくことがますます重要になっていくと考えられます。そして、知財等の戦略的な形成や適切な管理は、単にそれらを抱える事業部門における個別の権利取得や利活用という枠組みを超え、企業評価に直結するものとなりますので、善管注意義務などの取締役の責任を問われうる、重要な経営課題になってきたといえるでしょう。
「知財」に精通する弁護士法人御堂筋法律事務所の紹介記事を読む

データセキュリティ

回答者:シティユーワ法律事務所 スペシャル・カウンセル 武田 涼子 弁護士

Q. 秘密保持義務違反や営業秘密漏えいについて、最近はどのような動きがありますか。


A. 秘密情報や営業秘密の保護と利活用、管理について、昨今の状況に応じてさまざまな施策の動きがあり、それらの内容を把握し、自社に活用していくことが求められます。2022年6月17日に政府のサイバーセキュリティ戦略本部で決定された「サイバーセキュリティ2022」において、各機関が取り組む施策が網羅的に掲載されており、秘密情報に関しても、主に三つの局面に関する施策が記されています。
まず、情報漏えいの防止に資する施策として、経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」やそのてびき、不正競争防止法による保護を受けるために必要となる対策を記載する「営業秘密管理指針」のほか、同省の産業競争力強化法に基づく技術情報管理認証制度(事業者の機微技術・情報漏えい防止策等に関する認証制度)が挙げられます。2022年5月付の改訂版「秘密情報の保護ハンドブック」は、平成30年改正の不正競争防止法に追加された「限定提供データ」の保護や、個人情報保護法の改正等が反映され、また最近の総務省「テレワークセキュリティガイドライン」や中小企業庁「知的財産取引に関するガイドライン」等も示され、秘密情報の漏えいを未然に防止するための対策を検討するにあたり、重要な情報がまとめられています。その参考資料2「各種契約書等の参考例」では、就業規則等の社内規則例なども掲載されています。なお、経済産業省「限定提供データに関する指針」も、2022年5月付で改訂されました。関連して、2022年4月に改訂された情報処理推進機構(IPA)の「組織における内部不正防止ガイドライン」においても、営業秘密(特に重要技術情報)の内部不正による漏えいが事業経営に及ぼすリスクが増大していることへの経営者に向けたメッセージなどが強化されています。
また、秘密情報やデータは、保護のみならず、その利活用についても、適切に検討する必要があります。上記ハンドブックにおいても、情報の管理と有効利用との適正なバランスを考慮する必要性が述べられています。
そして、営業秘密の管理に資する施策として、判例分析等に関する情報が「営業秘密官民フォーラム」やそのメールマガジン「営業秘密のツボ」で共有されており、その過去資料は、IPAのサイトで掲載されています。今後もますます高度化・複雑化が予想されるサイバー攻撃等への対応や多様化する営業秘密の管理方法を充実させるためには、各企業における情報収集もそのカギになります。
「データセキュリティ」に精通するシティユーワ法律事務所の紹介記事を読む

内部通報

回答者:早川・村木 経営法律事務所 代表パートナー 早川 明伸 弁護士

Q. グループ内部通報制度の構築方法(特に親会社に集約する場合)の親会社・子会社それぞれの注意点を教えてください。「公益通報対応業務従事者」には、どのような人材が適任なのでしょうか。また、内部通報制度の利用率を上げるための各社の対応とその効果についても教えてください。


A. ご質問の3点について、順を追ってお答えしましょう。

1.グループ内部通報制度の構築方法
企業グループにおいては、親会社に設置した窓口を企業グループ共通の窓口とすることができます。その場合のグループ会社に関する内部通報の対応方法としては、二つの方向性が考えられます。一つは、親会社で調査・対策等の業務をすべて行うもの、もう一つが、親会社が通報者との窓口となりつつ、調査・対策等の業務はグループ会社に一任するものです。
グループ会社に関する内部通報については、会社の事業や就業環境に詳しい当該グループ会社の担当者が行うことで効率的な対応が期待できますが、グループ会社は人的リソースやノウハウが乏しいことが多いです。また、改正公益通報者保護法では、公益通報対応業務従事者の守秘義務違反に刑事罰が定められました。そのため、グループ会社に調査・対策等の業務を一任することはリスクがあります。そこで、親会社が全体の方針を立て、グループ会社に対して調査・対策等の業務について具体的な指示を出して管理監督することが現実的な方法として考えられます。

2.公益通報対応業務従事者への適格
公益通報対応業務従事者としては、各種法令や労務管理等について一定の知識のある人材が望ましいのですが、各通報案件において法令等が問題となる場合には、法務部や弁護士等の外部の専門家のサポートを受けることもできます。むしろ、会社の事業や就業環境に詳しい人材こそが実効的な対応に資するといえます。そのため、営業や開発等の事業サイド出身者も、担当者の一人としてふさわしいでしょう。
また、グループ会社では、管理系の部署(いわゆる“二線”)に担当者を置くことをお薦めします。グループ会社の社長等、いわゆる“一線”のトップを担当者とする例がありますが、グループ会社にとって不都合な事実の隠蔽等のおそれがあるため、避けるべきです。

3.内部通報制度の利用率向上策
内部通報制度の利用率を上げるためには、窓口に対する従業員の信頼を得ることが最も重要です。通報者は、「自分が通報したことを周囲に知られないか」「報復を受けないか」等について、大きな不安を抱えています。ここに少しでも疑念があれば、通報を踏みとどまってしまい、外部への通報・リークにつながるおそれがあります。内部通報に関する情報について厳格な管理体制を整備し、そのことを社内イントラや研修等において定期的に周知することが従業員の信頼を得ることにつながります。
「内部通報」に精通する早川・村木 経営法律事務所の紹介記事を読む

薬機法/広告

回答者:弁護士法人大江橋法律事務所 パートナー 山田 真吾 弁護士

Q. 医薬品等の広告表示について、薬機法違反とならないよう気を付けるべきポイントなどを教えてください。


A. 薬機法における広告規制は、同法66条~68条に定めがあります。このうち66条1項は、医薬品等の虚偽誇大広告の禁止を定めています。虚偽誇大の意味については、「医薬品等適正広告基準」という厚労省の通知に考え方が示されており、例えば、承認を受けていない効能効果を表示すること(例:糖尿病治療薬について、承認されていない高脂血症に対する効能効果を表示する)などがこれにあたります。近時、ディオバンという高血圧症治療薬について、その製造販売元の製薬会社の従業員が、効能効果に関する虚偽のデータを研究者に提供して学術誌に論文掲載させたとして、従業員と製薬会社が薬機法66条1項違反に問われるという刑事事件がありました。同事件では、結論としては従業員も製薬会社も無罪になりましたが、その理由は、学術誌への論文掲載という行為はその性質上医薬品の購入や処方を促すもの(顧客誘引手段)とはいえないと判断されたためであり、科学的・客観的なデータに反して効能効果を過大に偽る行為が顧客誘引手段として行われた場合には、同条項違反になると考えられます。
次に、薬機法68条は、未承認医薬品等の広告禁止を定めています。薬機法上、医薬品や医療機器(以下「医薬品等」)を製造販売するためには、厚生労働大臣の承認等を取得する必要があり、承認等取得前の医薬品等について広告を行うことは同条によって禁止されます。また、同条によって禁止される行為には、上記のような承認等の取得を予定している医薬品等に関する広告のみならず、そもそも承認等の取得を予定していない食品や雑貨などについて医薬品等のような効能効果を標榜する行為も含まれます。例えば、健康食品について疾病に対する治療効果を標榜したり(例:花粉症に効く)、アロマ製品(雑貨)について特定の細菌やウイルス名を挙げて疾病の予防効果を標榜したりする行為(例:コロナウイルスをブロック)などがこれにあたります。これは、製品の実質は単なる食品や雑貨であっても、標榜された内容により通常人が医薬品等としての目的を有すると認識するような場合には、薬機法上は医薬品等にあたると判断されてしまい、こうした食品や雑貨について承認等は当然得ていないので、「未承認の」(承認を得ていない)「医薬品等」について広告を行ったことになるというものです。
「薬機法/広告」に精通する弁護士法人大江橋法律事務所の紹介記事を読む

SNS/広告

回答者:弁護士法人第一法律事務所 上田 悠人 弁護士

Q. 最近、インフルエンサーなどの一般消費者目線の情報発信主体を起用・活用したマーケティングを行う企業が増えていますが、その際の留意点を教えてください。


A. 近時、多くの企業が、SNS上でインフルエンサーを起用して自社商品等の紹介の投稿をしてもらう“インフルエンサーマーケティング”を拡大させています。最近の消費者、特に若年層は、企業が自社の商品の広告として発信する情報を信用せず、インフルエンサーがSNS上で消費者目線の個人的な感想として勧める商品を好んで選択する傾向にあるからです。
他方で、企業がインフルエンサーに報酬を支払って自社の商品をPRする投稿を依頼していても、その投稿を見る消費者からは、インフルエンサーの純粋な感想と区別することができません。近時、健康食品や美容関係等の分野において、成果報酬を得るため虚偽等の悪質な投稿が横行したことが問題となり、2022年6月29日に消費者庁が、「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」を改定しました。同指針では、具体的事例として、投稿に“広告である旨”を明示することが挙げられ、しかも、「広告」の文言を投稿の“下部”ではなく、より目立つように“上部”に位置させるのが望ましい旨等が記載されました。
しかしながら、近時の消費者は、“広告であること”を明示しただけでその情報を信用しなくなり、広告効果が大きく減殺されるおそれがあるため、指針どおりの表示を行うことが現実的でない場面も多いのが実情です。この点については、前記指針は「あくまで参考であり、ただちに事業者の義務の内容になるものではない」との消費者庁の考えが示され、結局、景表法上の管理上の必要な措置を講じているか否かは事業者ごとに個別的に判断されるものとされており、投稿内容への関与の程度等の各事案の実態に即して個別に対応を検討する必要があります。
このように、近時の消費者は“情報の発信主体が誰であるのか”を重視しており、今後マーケティングを行う上では、インフルエンサー、SNS、口コミ、ASPを通じたアフィリエイター等も含めた、企業側ではない“消費者目線の情報発信チャネル”の開発・活用がより重要になっていくものと思われます。他方で、そのような一般消費者に近い存在の“非メディア”は、従来のテレビCMの広告代理店等と異なり、コンプライアンスの意識・知識が希薄で安易な情報発信をしてしまうリスクもあります。企業としては、基本的にはあくまで情報発信を依頼した企業側が広告主として広告規制の対象となりうる点に十分留意し、“非メディア”との契約内容を含めた活用方法を個別に検討していく必要があります。
「SNS/広告」に精通する弁護士法人第一法律事務所の紹介記事を読む

インサイダー/株式報酬

回答者:山下総合法律事務所 代表パートナー 山下 聖志 弁護士

Q. 最近、再び、インサイダー取引規制が論点となる場面が増えていると聞きます。特に役職員が関わる自社株式の取引に関して、注意すべき点を教えてください。


A. 最近、特に上場会社の役職員に自社株式(現物株式)を付与する例が顕著に増加しています。具体的には、“リストリクテッド・ストック(RS)”と呼ばれる譲渡制限付株式報酬や、“パフォーマンス・シェア(PS)”と呼ばれる業績連動型株式報酬がこれにあたります。役職員への株式付与が増加すると、当然、株式取引の機会も増えますから、インサイダー取引規制について注意すべき場面がより多く出てくることになります。

1.株式付与の場面
希釈化防止のため、新株発行ではなく自己株式処分により株式付与を行う場合、その自己株式処分がインサイダー取引規制の対象となる「売買等」に該当します(金商法166条1項)。そのため、仮に会社に未公表の重要事実(例えばM&A取引や決算情報)がある場合には、インサイダー取引規制違反にあたらないよう、実施前に公表したり、いわゆる“クロクロ取引”(金商法166条6項7号)を行ったりするなどの対応が必要です。“クロクロ取引”は会社・役職員間で未公表の重要事実をすべて共有する必要があるため、情報管理の観点から困難な場合もあります。このように実務面にも配慮しつつ、対応策を検討する必要があります。
また、1億円以上の新株発行または自己株式処分の決定は、それ自体が重要事実です。そのため、例えば1億円以上の株式付与を検討している最中に自己株式取得を行うと、インサイダー取引規制上の問題を生じさせます。株式付与を事前に公表したり、逆に株式付与の公表後に自己株式取得を行ったりするなど、事前に綿密にスケジュール・手続を調整・確認した上で、その内容どおりに実施することが必要不可欠です。

2.役職員による売買の場面
また、役職員が付与された自社株式を売買する場面にも、あわせて注意が必要です。特に株式報酬の場合には、株式付与(RSの場合は譲渡制限解除)の際に源泉所得税が課せられるため、株式を売却してすみやかに納税資金を確保するニーズが生じます。しかし、その時点で“たまたま”未公表の重要事実を知っていると、株式売却・納税資金確保ができない事態が生じてしまいます。このような事態を回避するためには、あらかじめ“知る前計画”を作成・提出する方法が有効です。“知る前計画”を活用する上では、計画・手続が法に沿うことはもちろん、内部者取引管理規程上も“知る前計画”による売却が可能か(改定の要否等)について事前に確認しておく必要があるでしょう。
「インサイダー/株式報酬」に精通する山下総合法律事務所の紹介記事を読む

→『LAWYERS GUIDE Compliance × New World』を「まとめて読む」
他の事務所を読む