【多様化する株主対応】時勢の変化とともに多様化する株主対応。企業はいかに備えるべきか - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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時勢の変化が株主行動に影響 新しい論点・トラブルも発生

上場会社の顧問を数多く務める山下総合法律事務所。同事務所は、その専門性を活かして株式・金融関連の取引や相談に日々対応するとともに、株主対応や総会対応を行うことが多いのが特徴だ。
同事務所代表の山下聖志弁護士は、近年は時流の変化を受けてさまざまな行動をとる株主が増え、その対応にも柔軟さが求められていると語る。
「近年の株主が求めるものは対話や実利など実に多様で、新しい論点も増えてきました。今回は私自身が近年直面した事例と対応のポイントをご紹介し、自社でも想定されうるトラブルへの気付きやその対応への一助としていただければと考えています」。

株主総会の人数制限に株主の納得は得られるのか

新型コロナウイルスの感染拡大により、定期株主総会の人数制限やオンライン開催が広がった。某企業の株主総会においても、事前抽選による入場者制限を実施したが、そこで想定しない事態が発生したそうだ。
「ある機関投資家が抽選への応募なく突然来場し、株主の権利が制限されていると主張し入場を求めたのです。入場を拒否したら法的手段も辞さないといった強硬姿勢で、その場において冷静かつバランスに配慮した判断が求められました」。
当日は空席があり、他の株主の出席権を侵害するおそれが低かったことから例外的に入場を許可することを助言して場を収めたものの、山下弁護士は経営陣との対話を制限された株主の沸々とした不満を実感したという。
「入場制限やオンライン開催は株主総会開催の事務負担を減らす面もあり、積極的に導入する企業もあるでしょう。一方で、これからは感染予防を理由に株主との対話が疎かになっていないかという視点がますます重要になると思います。来年以降はバーチャルオンリー総会も法的に可能になるだけに、株主の納得感を得られる運営方法や当日対応の準備が欠かせません」。

山下 聖志 弁護士

発言内容が変化してきた劇場型の問題株主

株主総会担当者は、毎年、異議や不規則発言等で毎年警告を受けるいわゆる“問題株主”が株付けしていないかを注視している。しかし、昨今では、問題株主の言動にも変化が見られるようだ。
「聴衆である出席株主の制限やオンライン開催による心情の変化でしょうか、劇場型の言動を改め、正当かつ的確な質問・動議を行う場面が見られるようになりました。現状ではその方法の方が、聴衆や経営陣の注目や関心を得られ、目的を達成できるという考えかもしれません」。
当然のことながら、正当な質問に対し、従前どおり問題株主としての対応を行えば、多くの株主の信頼を損なうことになりかねないと山下弁護士は語る。
「出席株主にとっては、問題株主かどうかはその場の質問・言動からしかわかりません。運営側としては特に予断を抱くことなく、通常の手順に従って冷静に対話と対応をすべきでしょう」。

対話する力が問われる大株主からの圧力

経営から退いた大株主が企業の経営や戦略に不満を抱き、経営側に圧力をかける場合もある。
「私が経験した事例はある企業との経営統合を求めるもので、最終的に大株主の希望は通りませんでした。しかし、この事例で痛感したのは、“株主は株価の上昇のみを求めるとは限らない”ということです。企業に対する愛着や執着の問題となる場合もあり、法律論を超えた感情レベルでの解決が問われます。価格・条件面での合理性で片付けられない株主の不満に気づき、心を動かすアプローチを試みることも重要です。企業から見れば、類型化できない難しい対応と思いますが、そのような“対話”が企業の組織のあり方を左右することがありうるのだと思います」。

従業員株主の増加による“株式取引”“株主対応”の変化

近年は、いわゆる株式報酬制度が大きな広がりを見せており、ここ数年では従業員への現物株式(リストリクテッド・ストック等)の付与も急増している。そこで注意が必要なのは、まずは従業員の納税資金のための株式売却とインサイダー取引規制の問題だ。
「例えばベンチャー企業では、複数の新規事業を非常に速いスピードで立ち上げ、多くの従業員が関わるため、社内での情報遮断が難しい場合があります。そして新規ビジネスであるため早々に開示できるものでもありません。そのような状況で従業員が株式を売却しようとすると、インサイダー取引の懸念が生じてしまいます。株式売却の仕組みや情報管理など、全体としてバランスのとれた解決策を考える必要があります」。
また、山下弁護士は、2022年6月の公益通報者保護法改正による、通報の増加の見込みにも着目している。
「例えば通報に対応した者が法律上の守秘義務を負うなど、より通報が行いやすい環境となりました。今は顕在化していませんが、通報の母数が増えれば、従業員株主からの通報も出てくるでしょう。通報者である従業員が株主であった場合、労務やパワハラ・セクハラの問題が株主総会での議論に飛び火する可能性があります。今は限定した従業員に付与する例が多いですが、全社的に付与する企業も増加傾向であり、意外と見落とされている観点の一つだと思います。内部通報制度も株式報酬も、いずれも従業員の利益のための制度ですから、企業としての対応力・バランス感覚が試されていくでしょう」。

→『LAWYERS GUIDE Compliance × New World』を「まとめて読む」
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山下 聖志

弁護士

98年東京大学法学部卒業。02年弁護士登録(東京弁護士会)、柳田野村法律事務所(現柳田国際法律事務所)入所。05~07年国内大手証券会社法務部門出向。10年ミシガン大学ロースクール修了(LL.M)。11年ニューヨーク州弁護士登録。16年山下総合法律事務所設立。上場会社・金融機関・ベンチャー企業など様々な業種・規模の企業に、専門性に裏付けられ問題の本質を解決する“生きた”助言を提供することを追求し続けている。