【税務】いま求められる、法務部門を巻き込んだ全社的な税務コーポレートガバナンスの充実 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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当局の税務コンプライアンス促進で必要性が高まる法務部門の関与

M&A・事業再編や相続・事業承継などにおいて法務・税務両面からのアドバイスをワンストップで提供する弁護士法人北浜法律事務所。税務チームは元東京国税局長、元国税審判官、税理士資格保有者などの弁護士で構成され、企業の税務リスク対応についてアドバイスを行う。

米倉 裕樹 弁護士

国税庁は2016年に「税務に関するコーポレートガバンスの充実に向けた取組の事務実施要領の制定について(事務運営指針)」を公表し、税務コンプライアンスの維持・向上への取り組みを推進している。その結果、出版物などを通じて本テーマへの企業の意識は変化してきたと語るのは、税務弁護士としてM&Aから税務調査まで幅広い案件を担当してきた米倉裕樹弁護士。
「指針ではトップマネジメントが税務に関するコーポレートガバナンス充実に積極的に関与・指導することで税務リスクが低減されるという考え方を前提に、そのようなコーポレートガバナンスの状況に応じて調査を行う方針を示しています。指針の対象は全国約500社ですが、それ以外の企業にも同様の税務に関するコーポレートガバナンスが求められているといえるでしょう」(米倉弁護士)。

安田 雄飛 弁護士

国税庁の指針は、従来のコーポレートガバナンスの枠組み内でも求められる内容を“税法”の観点から改めて意識すべきとのメッセージだと語るのはM&A、不正調査対応から税務事件まで幅広い案件を手掛ける安田雄飛弁護士。
「内部統制システムは法令順守のための仕組みですが、順守すべき法令には税法も当然に含まれます。その意味で、税務コーポレートガバナンスは、指針の対象外の企業も当然整備すべきものといえます。最も多い対応は自社の税務方針を策定・公表するものですが、指針では、税務調査の指摘事項を踏まえた再発防止策の実施が特に重視されています」(安田弁護士)。
税務調査・課税は事実認定、法令解釈適用のプロセスであるため、実効性のある再発防止策の策定には法務の知見が重要だという。
「指針上では法務部門の関与はあまり強調されていませんが、従来のコーポレートガバナンスの枠組みの中に税務の視点を取り込んでいく必要があることからすると、法務部門の果たす役割は大きいといえます。また、税務調査で指摘を受けるようなイレギュラーな処理に関しては、再発防止の前提として、指摘を受けた原因を正しく分析することが重要であり、そのためには法令上の要件の分析や事実認定といった法務的なスキルが必要です。国税側は、近年、審理部門を中心にこのような法務的なスキルに長けた人材を育成し、積極的に事案に関与させています。国税局側と同様の視点が企業にも求められているのです」(安田弁護士)。

役員責任との関係でも税務コーポレートガバナンスの整備が重要

塩津 立人 弁護士

役員は、税法違反があれば、任務懈怠責任が問われかねない。
「税法に違反するか否かは微妙な判断となる場合も多いため、税務調査で違反の指摘を受ければ、即、任務懈怠があるとして責任を問われるわけではありません。しかし、重加算税の賦課事案では比較的広い範囲で納税者の責任が認められており、注意が必要です」と語るのは、税務調査対応、不服申立て、税務訴訟などに幅広く対応する塩津立人弁護士。
「役員が従業員による不正行為を直接認識しえない場合の任務懈怠の有無の判断には、まずは、想定される不正行為を防止しうる管理体制を整備していたか否かが問われます。整備していれば、原則は任務懈怠はないと判断されます。したがって、税法の観点からコーポレートガバナンスを見直すことは、役員責任との関係でも重要です」(塩津弁護士)。
一方で、不正の防止体制整備はまだ普及しているとは言いづらいと説明するのは塩津弁護士。
「役員責任が問われるような不正が発生して初めて、全社的な取り組みを行うことが多いですね。慣行ベースの業務の経理・財務とリスクベースで考える法務の業務のアプローチが異なるため、両者の連携のハードルは高いといえます。しかし、実際に法務部門も関与して再発防止に取り組むと、同種の不正の発見や、類似の取引との区別など、より実効性のある措置がとれることが実感できるはずです」(塩津弁護士)。
体制整備を進めるには、トップマネジメントの積極的な関与・指導が必要だと米倉弁護士は指摘する。
「不適切な処理は営業や購買など事業部門の現場で生じることも少なくありません。事業部門から経理・部門への情報集約と法務部門との連携も含め、全社的に取り組むことが必要なのです」(米倉弁護士)。

横領など不正行為のリスクには法務視点の予防・対応が必須

企業に重加算税が賦課された場合にはレピュテーションに与える影響も大きい。しかも、経営陣が直接関与していなくても、役職員の横領等の不正行為は会社の行為と同視され重加算税が課される場合もある。
「不正の原因が実行者の権限に属さない場合や、内部統制システムが機能しても不正の発見が容易でない場合は重加算税が課されない場合もあります。過去には賦課されず済んだという経験ベースの判断だけではなく、リスクベースの視点を持った法務部門と連携して、会社が不正を防止しうる体制作ることが、結果的に重加算税の賦課のリスクを減らすことにもつながるでしょう」(米倉弁護士)。

→『LAWYERS GUIDE Compliance × New World』を「まとめて読む」
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米倉 裕樹

弁護士

93年立命館大学法学部卒業。96年司法試験合格。99年弁護士登録(大阪弁護士会)。06年ノースウェスタン大学ロースクール修了、北浜法律事務所入所。07年ニューヨーク州弁護士登録。10年税理士登録(近畿税理士会)。15~17年日本弁護士連合会税制委員会委員、近畿弁護士会連合会税務委員会委員長。

塩津 立人

弁護士

01年司法試験合格。02年京都大学法学部卒業。03年弁護士登録(大阪弁護士会)、色川法律事務所入所。10~12年金沢国税不服審判所国税審判官、12~13年大阪国税不服審判所国税審判官。13年弁護士再登録(大阪弁護士会)、北浜法律事務所入所。

安田 雄飛

弁護士

08年京都大学法学部卒業。10年京都大学法科大学院修了。11年弁護士登録(東京弁護士会)、三宅坂総合法律事務所入所。16~19年東京国税不服審判所勤務国税審判官、19年弁護士登録(大阪弁護士会)、北浜法律事務所入所、税理士登録(近畿税理士会)。近畿税理士会東支部幹事、近畿弁護士会連合会税務委員会委員。

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