イスラエル国弁護士、スリランカ国弁護士による“日本で唯一”のリーガルサービス
法律事務所にグローバル化の波が押し寄せてから久しい。それは日本市場に行き詰まり、海外市場へ活路を見出さんとした日本企業のグローバル化に追随したもので、ごく自然な流れと言える。また一方、入ってくるものもあり、日本市場へ進出を目論む外国企業や外国人機関投資家の動きも活発になった。日本市場における日本企業へのサービスだけでなく、海外市場における日本企業のサポートから日本市場における外国企業へのアドバイスまで、法律事務所のあり方も変わった。ただ、設立当初からグローバルなリーガルサービスを提供してきた渥美坂井法律事務所・外国法共同事業にとっては既に取り組んできたことであり、現在も国際業務の幅をさらに広げ続けている。
「当事務所は外国法事務弁護士の比率が高く、また彼らは日本弁護士と対等な関係性をもって活躍しています。そのような姿が新たな外国法事務弁護士を惹きつけ、我々がリーガルサービスを提供できる地域が広がり、クライアントが求める法域の多様性にも対応できています。また、多様な物の見方、価値観を持った弁護士同士の交流によって、所内全体の視野が広がるという好循環が生まれています」。野崎竜一弁護士は、外国法事務弁護士による好影響を実感する。
「イスラエル国弁護士注1であるエバ イザック・ニイムラ外国法事務弁護士(ニューヨーク州法)が新たに加入しました。ただ、イスラエル国法についての日本でのアドバイスはまだ開始できていません。日本においてイスラエル国法の外国法事務弁護士は前例がないため、日本の法務省がイスラエル国の弁護士資格制度それ自体から審査を進めている状況にあるからです。もし認められれば、イスラエル国法について日本でアドバイスできる初めてにして唯一の外国法事務弁護士になると思われます。また、同じく日本で唯一の注2スリランカ国弁護士の資格を持つダミンタ・パティラナ外国法事務弁護士(スリランカ国法)も在籍し、活躍しています。さらに、2024年5月にベルギー・ブリュッセル、7月にはベトナム・ホーチミンにオフィスを開設しました。海外市場に精通した外国法事務弁護士による東京オフィスでのアドバイスから、現地社会に対する造詣が深い日本弁護士による海外オフィスでのサポートまで、クライアントのあらゆる要望に応えられる体制を整えています」(野崎弁護士)。
日本弁護士と外国法事務弁護士 対等な関係性
木村勇人弁護士は、日本・外国双方の企業をクライアントとして持ちつつ、パティラナ外国法事務弁護士を中心とするスリランカチームにも属し、スリランカ市場への進出を目指す日本企業をサポートする。「日本国内の法律事務所では、海外市場におけるプロジェクトであっても、日本弁護士がチームリーダーとなり、外国法事務弁護士はチームメンバーとして動くことが一般的と思われます。しかし、当事務所では外国法事務弁護士がチームリーダーとなり日本弁護士をまとめていくことも多く、スリランカチームでもパティラナ外国法事務弁護士がリーダーとして活躍しています注3」。
パティラナ外国法事務弁護士へのクライアントの信頼も厚く、新たな相談も増えているという。「スリランカに対する日本企業の動きとしては、まず物流企業、交通企業の進出が活発です。また、紅茶が有名なこともあって飲料メーカーも進出しています。目新しいところでは、洋上風力発電事業を手がける企業がスリランカに着目しています。スリランカでは港など沿岸部の地形が洋上風力発電施設を建設するのに適しているそうです。このほか、日本の食文化やキャラクター文化など、ソフトカルチャーに対するスリランカの関心が高くなっています。2022年に発生した反政府運動を契機に政情が不安定となっていましたが、それも沈静化し、安定に向かっています。インドに進出している日本企業は多く、またアドバイスできる弁護士も少なくありませんが、スリランカ国弁護士の資格を持つのは日本でパティラナ外国法事務弁護士ただ一人であるため注4、クライアントからの期待を感じ取っています。
パティラナ外国法事務弁護士は英語も日本語も堪能で、クライアントとのやり取りに支障はありません。ただ、クライアントは、日本法の観点に基づく日本弁護士からの日本語による説明を求めていると感じることが多々あります。我々がパティラナ外国法事務弁護士とクライアントのコミュニケーションの橋渡しとしての役割を果たしていきたいと考えています」(木村弁護士)。
ブリュッセルオフィス開設 情報の正確性、信頼性への確固たる自信
同事務所はこれまで、ロンドン、ニューヨーク、フランクフルトに拠点を構えているが、四つ目の海外拠点として開設したのが、EU本部が置かれ、欧州経済の中心地であるブリュッセルオフィスである。「“現地にある”ことの最大の強みが情報の質、正確性です。ITネットワークが発達した今、世界のどこからでも目的の情報を得ることはできますが、信頼性には疑問符がつきます。特に、EU圏内の立法の動向は日々変わり、加盟国の中での賛成・反対の状況も明確に公表されるわけでもないため、交流がある企業や弁護士の雰囲気からでしか感じ取れない情報も多くあります。正確性と速さを満たすには現地の空気を肌で感じるのが最適です」。亀岡悦子ニューヨーク州弁護士/ブリュッセル弁護士会Bリスト弁護士注5は20年以上欧州に身を置き、日本企業に適したアドバイスを日本語で提供し続けている注6。
「これまでEUにおける競争法、規制法に関する案件を手がけてきました。主に欧州でビジネスを進める日本企業に対してアドバイスしてきましたが注7、これまでは現地に拠点を開設するほどではなく、日本企業もEUの立法動向などについて日本国内の法律事務所に相談するだけでも問題なかったと思います。しかし、競争法はもちろん、企業活動をめぐる立法動向が活発になり、問題が発生してからの手当てではなく、その前段階からの積極的な対応をとることが必要となっています。日本企業が直接、日本人である現地弁護士に日本語で相談できるよう、現地オフィスの開設が強く求められていると感じました。実際に競争法も広がりを見せていて、たとえば日本企業が他国の補助金などを得てEU圏内に進出する際は届け出が必要になるなど、刻々と様相を変えています。通商法分野に跨るEU対内直接投資規制の仕事も増えてきました。また、EUに対して中国が大きな影響を及ぼしている状態が続いており、まだ当分、落ち着くことはないと見ています。EUと中国の間の政治的な動きを注視する必要があり、現地にいるからこそ得られる情報をクライアントに提供できることにやりがいを感じています」(亀岡ニューヨーク州弁護士/ブリュッセル弁護士会Bリスト弁護士注8)。
文化・自然資源を保存から活用へと転換し地域経営体制の構築につなげる
文化、観光、まちづくりに関して法律家が携われることは何だろうか。大規模開発によって環境を壊してしまった事業者と地域のトラブル解決などネガティブなことを想像してしまいがちであり、実際にトラブル解決のために来たと誤解されることが少なくないという。「日本には豊かな文化資源、自然資源があり、高付加価値をつけることによって新たな産業や収入源となりうるのですが、活かしきれていません。国や行政、事業者、地域が密接に連携しなければならないのですが、それが簡単ではないからです。また、新たなルールメイキングも重要です。すべてのステークホルダーの間に立ち、それぞれの利益だけでなく地域全体の活性化につながる地域経営体制の構築に取り組むことは、弁護士だからこそできることも多く、とてもやりがいのあることだと感じています」。齋藤貴弘弁護士は同事務所の弁護士たちとの勉強会を通じ、もっと高度かつさまざまな専門知識を用いて取り組むべき課題であると感じて同事務所へ移籍し、文化観光まちづくりプラクティスチームを立ち上げた。
「文化、観光、まちづくりに関する法規制は少なくありません。たとえば、“文化財を観光の目玉として活用したい”と思っても文化財保護法やそれに伴う条例がありますし、国立公園に宿泊施設や飲食店等を誘致したりアクティビティを整備・提供したりする際にもさまざまな規制をクリアしないといけません。現在、文化財に関しては、文化庁とともに文化財の保護と活用の好循環を生み出す持続可能な文化観光のための戦略を検討しています。国立公園に関しては、環境省のアドバイザーとして国立公園を活用していくための地域協働実施体制の構築、マスタープランの策定、自然体験アクティビティと連携した国立公園ならではの感動体験を提供する宿泊施設の誘致、それらを実施していくための資金調達等のしくみ作り等を支援しています。日本の文化・自然資源には大きなポテンシャルがあります。それらを成長させ地域を活性化させていくための地域経営体制を構築するべく、弁護士としてのガバナンスやファイナンス、法規制対応に関する知識経験を活かすと同時に公益性を保ちながら取り組んでいきたいと考えています」(齋藤弁護士)。
異業種に進出するラグジュアリーブランド サポートに向けてチーム新設
同事務所はこれまで、東京オリンピック、ラグビーやバスケットボールのワールドカップなどの大規模なスポーツイベントの運営組織をサポートしてきた。スポーツのビッグイベントにはスポンサーが不可欠であり、有名スポーツブランドや高級ファッションブランドなどが名を連ねる。「スポーツイベントの運営組織をサポートすることは、背後のスポンサーを間接的に保護していることになるのではないか――これまでイベントごとにスポット的にサポートしてきましたが、各スポンサーに対して恒常的なサポートの提供を狙い、ラグジュアリー、ファッション&ライフスタイルブランドチームを立ち上げました」。イアン・S・スコット外国法事務弁護士(オーストラリア クインズランド州法)と伊藤晴國弁護士は、チーム立ち上げの経緯をこう話す。
「“ラグジュアリーブランド”と一口に言っても、ファッションやジュエリー、時計、靴といった製品からホテルや百貨店に至るまで、幅広くあります。各ブランドは自らの価値を毀損することなくいかに保持するかに腐心しますが、そのためには近年、持続可能性への配慮も強く求められています。製品そのものはもちろん、パッケージングも資源の無駄遣いを避け、持続可能性を考慮しなければなりません。消費者からは厳しい目が向けられており、“地球環境に配慮していない”と判断されてしまうと、ブランドイメージを大きく損ねてしまうでしょう」(スコット外国法事務弁護士)。
「ラグジュアリーブランドでもデジタルに関連する課題が増えてきています。たとえば、バーチャルリアリティ空間でのアバターに用いるアイテムに高級ファッションブランドが進出してきており、サイバーセキュリティにも目を配る必要があります。また、これまでブランド製品は卸売業、小売業を経て消費者の手に渡っていましたが、オンラインショッピングが普及し、ブランドと消費者が直接やり取りすることも可能となりました。デジタル化への対応も非常に重要です」(伊藤弁護士)。
各ラグジュアリーブランドは近年、これまでの専門領域だけでなく、異業種への進出に積極的であるという。そこをターゲットとし、サービスの拡大を目指す。
「たとえば、これまでバッグや服の製造を手がけてきた欧州のラグジュアリーファッションブランドは近年、リゾート業界に進出し始めています。ホテルなどリゾート施設で使用する家具や雑貨を提供するのです。また、高級チョコレートブランドがカフェの運営を始めています。固有のインダストリー以外への参入が活発であり、広がりを持った大きなビジネスが期待できます。欧州では高級ブランドをターゲットとしてリーガルサービスを提供している法律事務所が多くあります。我々はそのような法律事務所とも連携しており、協働しながら日本市場での拡大を目指しています」(スコット外国法事務弁護士)。
「日本はラグジュアリーブランドにとってまだまだ魅力的な市場で、あるクライアントは世界的な売上の多くを日本市場で得ています。消費者はラグジュアリーブランドに対して“高級である”というイメージを持っていますが、仮に模造品が安価で多く出回っているような市場であれば、イメージは毀損され、魅力は失われます。しかし、日本は模造品の排除が進んでおり、海外のラグジュアリーブランドにとっては安全にビジネスができる国なのです。人口減少などマイナス要素はあるものの、ラグジュアリーブランドの進出意欲は旺盛で、我々のサービスへのニーズも高いと考えます」(伊藤弁護士)。
締め括りに、次のように常に事務所全体でクライアントにサービスを提供する同事務所の“魅力”を語る。「我々はこれまで、スポーツイベントごとの大きなプロジェクトで、さまざまな分野の知見を持った所内の弁護士と協働し、サービスを提供してきました。ラグジュアリーブランドが異業種へ進出する際に発生する多様な法的課題にも、ラグジュアリー、ファッション&ライフスタイルブランドチームのメンバーだけでなく、他のプラクティスグループの弁護士がすぐに加わります。当事務所はプラクティスグループ間の垣根が低く、一人の弁護士が複数のプラクティスグループに所属していますし、交流も活発です。クライアントに対し、担当となった弁護士だけが対応するのではなく、事務所全体でサービスを提供する体制が整っており、ビジネスを遅滞させることなく要望にお応えできるでしょう」(スコット外国法事務弁護士、伊藤弁護士)。
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野崎 竜一
弁護士
Ryuichi Nozaki
シニアパートナー弁護士。96年慶應義塾大学法学部卒業。00年弁護士登録。07年Boston University School of Law修了(LL.M. in Banking and Financial Law)。第一東京弁護士会所属。
木村 勇人
弁護士
Hayato Kimura
パートナー弁護士。09年東京大学教養学部卒業。11年東京大学法科大学院修了。12年弁護士登録。22年University of Michigan Law School修了(LL.M.)。第二東京弁護士会所属。
亀岡 悦子
ニューヨーク州弁護士/ブリュッセル弁護士会Bリスト弁護士※
Etsuko Kameoka
ブリュッセルオフィス代表パートナー。90年慶應義塾大学法学部卒業。92年慶應義塾大学大学院法学研究科修了。12年ブリュッセル弁護士会(Bリスト)、ニューヨーク州弁護士登録。
※ 日本における外国法事務弁護士の登録はない。
齋藤 貴弘
弁護士
Takahiro Saito
パートナー弁護士。01年学習院大学法学部卒業。06年弁護士登録。第二東京弁護士会所属。
イアン・S・スコット
外国法事務弁護士
Ian S. Scott
シニアパートナー弁護士。94年ボンド大学(スポーツ奨学金受給1991年1月)。95年ボンド大学(オーストラリア、クインズランド州)法学士(LLB)。12年外国法事務弁護士(オーストラリア クインズランド州法)登録。第二東京弁護士会所属。
伊藤 晴國
弁護士
Harukuni Ito
シニアパートナー弁護士。94年東京大学法学部卒業。01年弁護士登録。07年Northwestern School of Law修了(LL.M.)。第二東京弁護士会所属。
著 者:小島清顕・木村勇人 ほか[著]
出版社:情報機構
価 格:68,200円(税込)
著 者:田中和明・小出卓哉[編著]、及川富美子 ほか[著]
出版社:清文社
価 格:7,920円(税込)