黎明期からDNAに組み込まれた“ダイバーシティ”の気質
法の整備・運用の世界的な動きを形容する表現として“グローバル”は既に言い古された標語となり、焦点は“ダイバーシティ“すなわち、法に交わるすべての法人・個人の多様性の尊重へと軸足を移している。渥美坂井法律事務所・外国法共同事業(A&S)の誇る成長の歴史、有数のネットワーク、豊かな人材、それらを信頼して寄せられる数多の案件は、まさに“ダイバーシティの宝庫”と言うほかない。
「A&Sは、他の日系事務所に先がけ、2005年7月から外国法共同事業を立ち上げ、外国法事務弁護士をシニアパートナーとして迎え入れることで国際的なサービス基盤を整備してきました。これが功を奏し、外国企業の日本進出時における日本法のサポート案件には絶対的な強みを持ち、最近では、テクノロジー、金融、製薬、再生可能エネルギー等の分野を中心とした主に欧米プレーヤーの国内展開を強力にサポートしています。所属弁護士の出向の引き合いも大変多くいただいており、出向先は官公庁に始まり、業界は証券、海外大手放送局、造船等重工業、製薬、デジタル、ゲーム開発など多岐に及んでいます」(野崎竜一弁護士)。
「既に事業を広く展開して高度なプラクティスを有する海外企業のインバウンドを数多くサポートすることで、A&Sは事業面で成熟した日本における“第一号案件”に接しています。これにより、当該案件から得られる磨かれたノウハウ・知見を蓄積して、日本企業の国内案件にも効果的に還元することにつながっています。また、国内の危機管理案件をクロスボーダーの視点で大きく対処する場合も多くあります。例えば、国内での製造過程での検査数値偽装等の不祥事が国内で発覚した場合、外国の規制官庁への所定の手続を進める上で、現地事務所と協働してワンストップな対応が行えます。経営体制についてアドバイザリーとして全面的に関わり、会社と従業員の雇用を守りながら当該会社の“復興”を推し進めていく“究極のコーポレート”が、A&Sの持ち味であると考えます」(根津宏行弁護士)。
直近では大手事務所と同様に米国拠点(ニューヨーク・オフィス)を開設したが、設立の背景事情や人事には大きな特徴があると野崎弁護士は強調する。「海外企業の進出を長年サポートしてきた当然の帰結として、現地オフィスを設立してさらなる顧客満足を達成することが目的であり、決して“新天地に挑戦する”というスタンスではありません。また、他事務所の多くは海外拠点の代表パートナーが日本人であるのに対し、A&Sは現地の外国人弁護士が務めています。これにより、現地の言語と事情に精通した弁護士による現地企業との強固なコネクションを武器としたサービス提供を可能としています」。
A&Sにとって、“ダイバーシティ”とは外発的な達成目標などではなく、黎明期からDNAとして備わった先天的気質のあらわれに過ぎない。
「一昔前は、“企業法務の弁護士”というと学歴や性別に大きな偏りがあったものですが、A&Sは歴史的に弁護士の出身(国籍)や来歴も含めバラバラであり、実際に、大手重工メーカーや製薬企業をはじめとするインハウス(社内)弁護士経験のある者のキャリア採用実績や外国人・女性弁護士の比率は、競合の法律事務所を大きく上回っています。かかる多様性を前提としてコミュニケーションを円滑に進める文化が定着し、各々のキャリア・ステップと価値観を尊重しながら専門性を高める相乗効果をも生み出しています。また、税理士や監査法人など所外の専門家とも能動的にチームを組み、A&S内で完結させることにこだわらない真のワンストップ対応を実現しています」(根津弁護士)。
法域をまたいだ世界的なネットワークでクロスボーダー案件を機動的に支援
A&Sの機動力は、所内の人材の豊かさにとどまらず、法域をまたいだ世界的ネットワークにより、二次的に強化されている。「法分野や地域に応じ、実績と定評のある国際的なリーガル・ネットワークに複数加盟しています。米英のグローバル・ローファームのように、世界各国に自前で支店を出すスタイルもワンストップ・サービスを提供する点では有利な反面、特定の分野に得手・不得手があればサービスの品質に差が生じるおそれがあります。対して複数のネットワークを並行して積極活用するA&Sは、費用・スピード・品質のすべての面で顧客企業のニーズに即応した柔軟なアレンジができ、クロスボーダー案件に好影響を与えていると考えます」(山島達夫弁護士)。
とりわけ、モノ・ヒトの移動面の制約が継続するポスト・コロナ下にあって、海外子会社をも包摂する企業集団としてのガバナンス強化が競争力保持の要となる日本企業。山島弁護士は、“A&S包囲網”の果たせる役割を簡潔に整理する。「第一に、海外子会社が自社の顧問弁護士にのみ依存する事態を避け、問題に応じて得意な現地弁護士をピンポイントで紹介・起用することができます。第二に、日本の親会社でハンドリングが難しい海外子会社の問題を、我々がハブとなり、現地の担当社員および弁護士事務所とコンタクトをとって解決に導きます。最後に、事業管理(プロマネ)の視点から、親・子会社の双方の意向を踏まえた上で理想のガバナンス対応を行えます」。
スポーツ法と韓国プラクティス 重厚な布陣で産業界のダイバーシティを加速
A&Sのダイバーシティが大いに発揮された最近の実績としては、スポーツ法分野が最も分かりやすい。
「A&Sのスポーツ法部門は、国際的な大規模スポーツイベントにおいて専門的かつ網羅的な管理・運営実務を担っており、東京五輪2020やラグビー・ワールドカップ2019では運営組織のリーガル・カウンセルに選ばれました。私も委員を務めるスポーツ仲裁裁判所(CAS)や、世界ドーピング防止機構(WADA)など、主要スポーツを管轄する最大級の国際組織の活動にも参画し、これは、単に選手個人の権利保護のため各国の法令にのみ則り活動する弁護士とは一線を画しています。ワールドカップ等のメジャーな大会は2〜4年ごとに開催されますが、その収益は世界全体のスポーツイベントの9割を占め、次回開催までのスポーツ界の基盤となる大変重要なものです。大会ホスト国が運営組織と締結する契約には、競技会場の設営から関連施設やグッズの手配・販売まで数百ページに及ぶ契約が並び、スポーツの種類によって内容も異なります。例えば、前記の2大会において、A&Sでは開催の数年前から大会成功までのプログラムを策定。採択されたモデルは、他の国内外の競技大会にも多く用いられています」(イアン・S・スコット外国法事務弁護士)。
多くのアクターと資金が環流する“祭典”を、縁の下から支える精鋭部隊。スポーツ法部門きっての専門家として、またスポーツをこよなく愛する者として、スポーツ界の法的秩序と発展を願うスコット外国法事務弁護士の熱意が肌で伝わってくる。「スポンサーと選手や運営クラブ等との厳格な契約関係も不可欠です。アンブッシュ・マーケティングや競合スポンサーとの契約規制といった予防的な観点に加え、関係法令に従いながらスポンサーのブランド価値を高めていく商業的な要素の両方について、スポンサーや所属選手の理解を助けていくことが重要と考えています」(スコット外国法事務弁護士)。
地理面・経済面で密接な韓国との商取引にかかるリーガル・サービスもA&Sのダイバーシティを象徴するセクターだ。「韓国プラクティスグループは日本の弁護士6名、外国弁護士等数名の10名前後で構成され、韓国の大手企業や有力弁護士事務所で長い勤務経験がある両言語対応の韓国弁護士を揃え、韓国企業の文化を熟知した上での深いアドバイスが提供できます。現状、両国企業の一般商取引に始まり、ECサイト運営事業者のコンプライアンス体制整備や韓国Private Equityおよび韓国企業の日本でのM&A案件などを受任しています」(ソン・ヨンソプ大韓民国弁護士)。
「韓国出身の外国法事務弁護士は日本でも数える程しかおらず、実務チームとして機能するA&Sのグループは国内屈指のものです。私自身は日韓市場のマーケティング計画の策定や方法の指導を主業務としています。また、外国人弁護士として、クロスボーダー案件に共通する問題に対して手広く対応できると自負しています」(バニー・L・ディクソン外国法事務弁護士)。
海を隔てた隣国でありながら、進出に二の足を踏む状況を想定して、ソン大韓民国弁護士は、クリアな取引契約の締結のほかに日本企業が注意すべき実務上のポイントを丁寧に解説する。「1点目は裁判管轄と準拠法の選択ですが、これは契約締結までの交渉力次第で有利な合意に導くことが十分可能です。次に、商品の輸出入にかかる事前の監督官庁からの確実な許認可取得と輸出先国の法律の遵守であり、大いに傾注せねばなりません。3点目は、契約の履行状況や相手方の信用状況を締結後も常時把握すること。以前、ジョイントベンチャーの相手方(韓国企業)の大株主や投資対象企業の代表が会社資産を横領して問題化したケースを経験していますので、この場を借りて注意喚起したいと思います」。
今日、韓国の伝統財閥で顕著であったオーナーによる経営支配の問題(例えば、内部取引による私益の騙取、持株会社制度の濫用、公益法人による支配力の拡大など)は、規制立法の成立やアクティビスト株主の台頭を背景に徐々に解消に向かっており、両国の企業を取り巻く事業環境にも一体感が醸成されてきた。「日韓ビジネスは政治的な対立をよそに現在も大変活発であり、商機はふんだんにあります。また、いずれもドイツ大陸法を基礎として法の構成・規定がよく似ていますし、日本企業の法務担当者の几帳面さやリスク分析の緻密さにも感心しています。各企業が臆することなく日韓市場に進出し、我々が品質・価格面で適切にサポートできることを楽しみにしています」(ディクソン外国法事務弁護士、ソン大韓民国弁護士)。
最先端分野から地域密着の一般法務まで 実績を積み重ねる個性豊かな弁護士集団
翻って、世間に知られた民事訴訟からも、A&Sの類稀なダイバーシティを存分に感じ取ることができる。
「最近の注目を集めた案件では、製造業大手上場会社の不適切会計処理問題による株価下落を原因とする証券訴訟が筆頭といえます。原告である多くの国内外の機関投資家株主を訴訟代理しており、件数・訴額の両面において最大規模の訴訟をA&Sが代理しています。一連の訴訟においては、事案発覚後から提訴に至るまでの期間も被害者である機関投資家等に対する綿密なサポートを行うなど、プロアクティブな対応を実践し、提訴後も早期和解を成立させる等の実績を出して訴訟をリードしています。また、先例の乏しい先端的分野における訴訟にも常に挑戦しています。例えば、仮想通貨のハッキング被害、流出事案のような新しい分野に関する紛争も、日本国内における訴訟代理はもちろん、海外における損害賠償請求訴訟等も手がけており、実際に解決を得られているような事例もあります。A&Sはこうした先端分野の民商事の訴訟、とりわけ証券訴訟やクロスボーダー訴訟などの案件において圧倒的に件数を積み重ねていることが大きな強みです」(外山照久弁護士)。
2020年12月にA&Sに合流した麹町オフィスの渥美陽子弁護士は、地場の中小企業事業者や富裕層をメイン顧客とした地域密着型の企業法務・一般法務を一手に担う。「前者では、売掛金回収等の一般商取引や事業承継M&A、後者では、名誉毀損や離婚、相続関連の訴訟代理などの国内案件が主体です。例えば、遺言作成にあたり、高齢の被相続人の意思を明確にして相続発生後の相続人間のトラブルを予防したり、相続人の確定や相続権を主張する方との利害調整を行ったりと、純粋な法律論では収まらない業務にも精力的に取り組んでいます。経営者の離婚案件にも力を入れています」。
世間を賑わせた“紀州のドンファン”の遺産相続をめぐる原告(故人の兄弟)による遺言の無効確認訴訟の代理も引き受ける渥美弁護士。生々しい鑑定手続の現場を吐露し、リモート取材の場を大いに湧かせてくれた。「遺言書の故人(被相続人)の署名漢字“野”の偏(へん)が“田”と“土”に分かれていて、書き順が明らかに妙なのです。また、遺言書の形式も、紙1枚に赤ペンで3〜4行と非常に奇抜なものです。真正性を争うため、受遺者として指定された相手方の筆跡鑑定書の提出を再三要請していますが、一向に出てこないので困っています」。
東京の中心街から世界のすみずみまで、シニアパートナーからアソシエイト、バックオフィスの一人ひとりに至るまで。ダイバーシティが頑丈な基礎骨格となり、各弁護士の実力と連携が爆発的なパフォーマンスを生み出すことで、熱気冷めやらぬ法律実務の大舞台において、A&Sはさらに高く跳躍する。