ハノイオフィス開設特集
満を持して設立されたハノイオフィス
1952年の開設以来、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、海外とのクロスボーダー取引分野において着実な実績を積み重ねてきた、いわば渉外系法律事務所の先駆者的存在である。アジア各国の案件も積極的に手がけ、2000年代後半より本格的にベトナムへの進出を始動。その後、三木康史弁護士が2012年にベトナム駐在を開始し、2015年には南部ホーチミン市にオフィスを開設。多数のベトナム進出企業に対する法務サポートを行ってきた。
そして、同事務所は、さらなる飛躍を求めて、2022年11月にベトナムの首都であり、政府の主要機関や中央銀行、多くの企業の現地法人の本社が集積しているハノイ市に二つ目のオフィスを開設した。その理由を、三木弁護士は次のように語る。
「ベトナム北部に進出する日系企業がますます増えてきました。そうしたクライアントに対応すること、また、最近増加している競争法関係の届出や中央銀行に対するローン関連の届出など政府当局とのやり取りをスピーディに行うことを目的として、オフィス開設に至りました」(三木弁護士)。
政治の中心ハノイ市と経済の中心ホーチミン市の距離は約1,800㎞。日本の本州の長さに近い、この二つの都市にオフィスを構えることで、ベトナムに進出している日系企業へのサービスがいかにスピーディに実現できるか想像に難くないであろう。加えて、三木弁護士はホーチミンオフィスの開設以前から地元の最大手VILAF法律事務所に3年間勤務していた経験があり、現地弁護士や各行政府との豊富なネットワークを構築している。まさに満を持しての開設である。そして、ハノイオフィスでは、政府の肝入りで開発が進むハノイ市およびハイフォン市などの主要都市を中心として、新規不動産プロジェクトも多く手がけているという。
ベトナム法・慣習に通じた法務サポート
ハノイオフィス・ホーチミンオフィスが提供する法務サポートの最大の特徴、それはベトナムの法だけではなく慣習をも加味した手厚さである。
「ベトナムでM&Aをする際のデューデリジェンスでは、日本や先進国のM&A案件と比較して多数のリスクが露見することが珍しくありません。典型的には、給与や社会保険料の未払いなどですね。売手・対象会社側が未払い分を全額支払うことを前提条件にするのがベストですが、リスクが顕在化する前段階であれば、事後的な補償条項のみとする場合もあります。リスクの深度によって売手側にも強く出すぎないのもディールをうまく進めるコツです」(福田一翔弁護士)。
「リスク回避のため、株式の対価を分割払いにして、一部を一定期間エスクローに置いて様子を見たというケースもありますね。また、ベトナムは労働者保護が強いので、何かあっても簡単に懲戒解雇することができません。ベトナムの法と手続に沿った就業規則を策定することが必須です。各都市の労働当局の厳しさにもバラつきがありますので、M&Aの際に必ず就業規則を確認し、訂正や作り直しのサポートを実施しています」(三木弁護士)。
ベトナムの法令は、作り込みが甘いうえに法改正も頻繁に行われる傾向にある。また、公布されるのは改正文のみのため、理解を深めるのに時間を要する。こうした法令動向を絶え間なくフォローアップしつつ実務を行うことで、両オフィスは法的知見を高めているという。
たとえば、近時の個人情報保護政令に基づく公安への届出や、競争法に基づく企業結合の届出などは、規制の網が広くかかりすぎているため、当局の処理能力を超えた届出が集中し、そのため当局は受理を渋ることがある。また、社会情勢等の影響で、当局が新規許認可の発行を渋り、その結果、事業が滞ってしまうということもある。こうした場面においても、これまでの知見を活かしたアドバイスをすることが可能だ。
「“出資後の紛争を生じさせない”という点では、労務管理が非常に重要です。ベトナムでは日本と比較するとジョブホップが一般的ですが、従業員に長く働いてもらえる職場環境を作るため、チームとしての一体感を高めるためのリトリート等の機会を増やしたり、成長のためのキャリアパスを示してあげることも重要です。これは、我々のオフィスでも同じで、この視点を取り入れたベトナム人アソシエイトの教育・コミュニケーションを実施しています」(福田弁護士)。
こうした、法だけではない、慣習等を加味した手厚いサポートを可能ならしめるのは、行政府との交渉、現地商工会議所や法律事務所との連携といった実績を長年積み上げてきた結果なのである。
紛争案件の蓄積で実現 両利きの法務
“両利きの経営”という概念がある。これは、既存事業の改善と新規事業に向けた行動を両立させることで、成功からの失速を防ぐというものだ。ハノイオフィス・ホーチミンオフィスが実施しているのは、まさにその法務版である。
「我々の業務には、“紛争が起きたときにどのようにして解決するか”という業務と、“紛争が起きないように予防する”業務とがあります。予防については、“契約をいかにうまく作り込むか”がカギになります。これは紛争案件とつながっているため、実際のベトナム紛争案件から学ぶことによって、紛争を回避するためによりよい契約条項を作り込むことができます。我々は、恐らく他事務所と比較してもベトナム紛争案件の取扱件数がかなり多いので、その辺りのノウハウが蓄積されているのです」(三木弁護士)。
「ベトナム国際仲裁センターにおける仲裁案件についても、東京の仲裁案件の専門チームと連携し、数多く取り扱っています。この点は、他の日系事務所に比べてかなりの優位性があると自負しています。今後もベトナム仲裁案件には力を入れていきたいと考えています」(福田弁護士)。
ブリュッセルオフィス開設特集
欧州連合の“首都”ブリュッセル・オフィス 欧州全域を見据えて
ベルギー・ブリュッセルには欧州委員会が所在し、欧州における政治・行政・法律の中心的な機能を果たしており、欧州連合(EU)の“首都”ともいえる性格を持つ。アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は2022年のロンドン・オフィス開設に続き、ブリュッセルに欧州本土初めてのオフィスを2024年初旬に開設し、欧州とその周辺地域での日本企業へのサポート体制を強化する。
「ブリュッセルには全世界から第一線の法律事務所がオフィスを開設しており、講演等を通じた欧州委員会からの情報発信や、弁護士同士の情報交換も頻繁に行われています。私は欧州委員会競争総局での執務経験もありますが、ブリュッセル・オフィスを通じて、今後もこれらの法律事務所との連携を強化することで、欧州とその周辺地域で事業展開する日本企業へ優れたサービスを提供することができます」(ムシス・バシリ外国法事務弁護士)。
「ブリュッセルは、ロンドン、パリ、アムステルダム、フランクフルトなど欧州主要都市へのアクセスが2~3時間と至便で、欧州各国で事業や投資を行う日本企業の皆様へ現場での法務サービスを提供するのに適しています」(金子涼一弁護士)。
M&A、競争法、データ保護、ESG 欧州法規制の発信地から
欧州委員会がリードするEUの規制動向は、競争法やデータ保護、ESGをはじめとするさまざまな規制法分野で日本にも影響や示唆を与えている。ブリュッセルは欧州における規制法の“メッカ”といえる。
「欧州委員会は活発に新しい法規制を導入しており、直近では、外国補助金規制(Foreign Subsidy Regulation)が話題となっていますが、日本企業にも適用される可能性があります。また、水平的な企業結合に関するガイドラインはサステナビリティの観点から改定され、“グリーン化”を目的としたM&Aに対する欧州委員会をはじめとする各国競争当局の対応も注目されます」(ムシス外国法事務弁護士)。
「データ保護の分野もデジタル化が進む中でクローズアップされてきており、最近では、ChatGPTにGDPRがどのように適用されるのかが大きな話題となりました。また、ESGに関する規制もGDPRなどと同様に日本にも域外適用される可能性も出てくると予想されますので、こうした情報もブリュッセル・オフィスではいち早く収集して、日本企業の皆様にさまざまな規制法分野でアドバイスしていくことができます」(花水康弁護士)。
また、ブリュッセル・オフィスでは、日本と欧州(とその周辺地域)との間のM&Aや投資、新規事業展開など、現地の法律事務所とも必要に応じて協働しながら、迅速かつ高度な法的サービスを幅広く提供する予定であるという。
「当事務所は設立から70年以上、クロスボーダーのM&Aや投資のほか、さまざまな企業間取引について、インバウンドとアウトバウンドの双方向で実績を積み上げてきました。米国やアジアはもちろんのこと、欧州でも多様な規模・注力分野の現地法律事務所と友好的なネットワークを構築しています。また、日本の大手法律事務所の中では先駆けて外国法共同事業となり、東京やアジア諸国の現地オフィスでは優秀な外国法弁護士が多く活躍しています。欧州法務についても、当事務所のメンバーと現地法律事務所とのチームワークで日本企業の皆様の力になっていきます」(金子弁護士)。
日本企業の欧州での法務課題を現地から多角的に支援
また、ブリュッセル・オフィスでは、これまでの海外オフィスでの経験も活かしながら、既に欧州やその周辺地域に展開・進出をしている日本企業に対して、日常的な法務相談やビジネスに関するさまざまな問題(国際紛争、労働問題など)についてもアドバイスしていく予定である。
「現在、欧州に進出されている日本企業の中には、現地での法務機能を有していないことも少なくありません。日本(本社)の法務ご担当者にとっては、時差や地理的な距離などが理由で欧州現地とのコミュニケーションに不便を感じていらっしゃるケースも多いという印象です。私たちが欧州事業における法務機能の一役を担えれば、欧州事業の円滑な運営と発展にとって大きなメリットとなると考えています」(金子弁護士)。
「私たちは、事務所の歴史的にも、日本企業の海外展開へのサポートを得意としており、アジア地域ではクライアントの皆様から厚い信頼をいただいています。この10年、私はシンガポール・オフィスにおいて、日本企業の東南アジアへの進出と現地展開を支援してきました。このノウハウをブリュッセル・オフィスで活かすことで、欧州でも当事務所のプレゼンスを発揮できると考えています」(花水弁護士)。
※ 「アンダーソン・毛利・友常法律事務所」は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業および弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所を含むグループの総称として使用しています。
三木 康史
弁護士
Yasufumi Miki
03年東京大学法学部卒業。05年弁護士登録(第一東京弁護士会)。12年米国University of California, Los Angeles卒業(LL.M.)。12~15年VILAF法律事務所(ベトナム・ホーチミン)勤務。13年ニューヨーク州弁護士登録。15年パートナー就任。15年ホーチミンオフィス代表。22年ハノイオフィス代表。
福田 一翔
弁護士
Kazuhiro Fukuda
08年慶應義塾大学法学部卒業。10年慶應義塾大学法科大学院卒業。11年弁護士登録(第二東京弁護士会)。16~17年ニューヨークの大手総合商社勤務。18年ベトナム駐在開始、ベトナム外国弁護士登録、英国University College London卒業(LL.M.)。22年パートナー就任。
ムシス・バシリ
外国法事務弁護士
Vassili Moussis
89年べルギーEuropean School, Brussels I 卒業(European Baccalaureate(EB))。94年ベルギー Catholic University of Louvain卒業(LL.B.)。95年英国University College London卒業(LL.M.)。95~96年ベルギー欧州委員会にて研修。97年英国 College of Law, London修了(CPE)。98年英国 College of Law, London修了(LPC)。00年Solicitor of the Senior Courts of England and Wales登録。03年英国 University College London 修了(Ph.D.)。10年外国法事務弁護士登録。21年パートナー就任。
花水 康
弁護士
Ko Hanamizu
99年慶應義塾大学法学部卒業。02年弁護士登録(第二東京弁護士会)。05~06年金融庁総務企画局市場課に出向。08年ベルギーKatholieke Universiteit Leuven卒業(LL.M.)。08~09年Mannheimer Swartling法律事務所(スウェーデン・ストックホルム)勤務。09年Mallesons Stephen Jaques法律事務所(オーストラリア・シドニー)勤務。11年パートナー就任。13年シンガポールオフィス代表。
金子 涼一
弁護士
Ryoichi Kaneko
08年東京大学法学部卒業。10年東京大学法科大学院卒業。11弁護士登録(第二東京弁護士会)。17年米国University of California, Berkeley修了(LL.M.)(Business Law Certificateを得て修了)。17~18年Slaughter and May法律事務所(英国ロンドン)勤務。18~19年Uría Menéndez法律事務所(スペイン)勤務。21年パートナー就任。
著 者:アンダーソン・毛利・友常法律事務所 事業再生・倒産プラクティスグループ[著]
出版社:中央経済社
価 格:2,860円(税込)
著 者:西谷敦・松永廉・藤田将貴[著]
出版社:一般社団法人金融財政事情研究会
価 格:3,850円(税込)
著 者:中村慎二[著]
出版社:中央経済社
価 格:3,630円(税込)