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中国経済の大転換期においてグレーターチャイナをカバーする体制を構築

対中貿易赤字の縮小を目指し、米国が中国からの輸入品に対して追加関税措置を実施した2018年7月以降、米中貿易摩擦は収束の兆しが見えず、それどころか世界の覇権争いにまで発展してしまっている。そのような中で、日本は物理的に米国と中国の間にあるだけでなく、米国とは同盟国として、中国とは最大の貿易相手国の一つとして、両者と良好な関係を築いていかなければならないという板挟みにある。これから米中関係がどのように動いていくのか、日本企業も情勢を正確に見極め、適切な判断を下していく必要に迫られているものの、直近を見ているだけではそれも難しいだろう。しかし、今後の動きは、現在に至るまでの経緯を把握していれば予測することができる。そして、アンダーソン・毛利・友常法律事務所(AMT)注1には、30年以上にわたって中国社会・経済のうねりを肌で感じ、中国における法律業務に携わり続けた弁護士が多数、在籍する。森脇章弁護士は、直近の中国の姿勢について、日本企業をはじめとする外国企業の誘致には積極的に見えるが、いまだ大転換期の真っ只中にあると述べる。

「中国では、外国企業の存在に頼らずとも国内だけで完結できる経済基盤の確立に向けた動きが進んでいます。一方、数年後には米国を抜いて世界第1位の経済大国になるといわれており、国際社会の中で自らの存在をどのように大きくするか、各国との関係を良好に保ち続けるにはどのようにすればよいかを考え、外国企業の誘致にも積極的です。ただし、中国が海外諸国にどのような対応をとっていくのか、不安定な状況にあり、日本企業が今後難しい判断を迫られる場面も少なくないでしょう。我々は、中国政府が改革開放路線へと舵を切り始めたところから、中国社会・経済を見つめ、いくつかの転換期を目の当たりにしてきました。中国における法律業務は国家の動きを正しく把握することが重要で、それは一朝一夕にできることでなく、我々のような長年の経験に裏打ちされた弁護士でなければ難しいかもしれません」(森脇弁護士)。

また、中川裕茂弁護士も、弁護士一人ひとりの実力に加え、事務所としての強固な体制を強調する。

「我々は、中国市場の発展を見据え、早期から中国メインランド案件を幅広く取り扱い、東京オフィスにチャイナ・デスクを設けるとともに、1998年に北京オフィス、2013年に上海オフィスを設けるなど、日本企業などを積極的に法務面から支援してきました。また、中国メインランドだけにとどまらず、台湾や香港の経験豊富な弁護士も多数在籍しており、これらの法域を含めた“グレーターチャイナ”をカバーしていることも大きな特徴です。日本企業によるM&Aや当局の調査事案への対応など中国メインランド案件はもちろん、日本における中国企業の日常法務から中国企業の日本に対する投資案件まで、中国からのインバウンド案件も多数手がけています。日本企業による中国進出への意欲、中国企業による日本進出への意欲ともに現在も高く、中国法務を専門とする30名以上の弁護士によるチームによってサービスを提供しています」(中川弁護士)。

リアルなパラレルワールドでハイブリッド法務を提供

AMTのチャイナ・デスクに2021年1月、一つの大きな変化があった。射手矢好雄弁護士の加入である。大手法律事務所で30年以上にわたり一貫して中国法務を手がけてきた射手矢弁護士は、中国を取り巻く環境が非常に大きく動いた1年だったと指摘する。

「米中対立の狭間にあって、中国におけるビジネスをどのようにするべきか、日本企業にとってこれまで以上に真剣に考える時期でした。私は中国をリアルなパラレルワールドであると考えています。空想ではなく日本のすぐ隣に厳然と存在し、似ているようでまったく異なる国であるということを、日本企業は再認識するべきでしょう。新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、それがより一層、明確になったと感じています。中国において法律業務を手がけるには、法令や条文を見ているだけではまったく足りず、政府の風向き、中国の文化まで注視しなければなりません。当事務所には長年、中国の政治経済を見続けてきた人材が豊富で、蓄積された経験も知識もチームとして共有されています。優秀な人材、人数、拠点がすべて揃い、盤石な体制が整っている中で、これまで以上にじっくりと考え、法律だけでなく、中国の政治と経済、文化の正確な理解に基づくハイブリッド法務を提供できています」(射手矢弁護士)。

中国弁護士が日本から 日本弁護士が北京から

屠錦寧外国法事務弁護士は中国弁護士として日本から、若林耕弁護士は北京オフィス首席代表として中国から、最新の情報を発信する。


「主に中国で事業を手がける日本企業のために、中国法に基づくアドバイスを提供しています。クロスボーダー取引やコンプライアンス体制の構築から、当局による調査への対応といった危機管理業務まで、クライアントの依頼も多岐にわたっています。日本で事業を行う中国企業からのサポート依頼も多く、特に日本企業とライセンス契約を結びたいという中国企業が増えてきていると感じています。中国弁護士として中国法の専門的な観点からはもちろん、中国出身というバックグラウンドに基づく中国文化の深い理解によって、コミュニケーションの齟齬に端を発する誤解まで意識してアドバイスしています。当事務所のチャイナ・デスクでは、中国をよく理解している日本弁護士と、日本に深くなじんでいる中国弁護士がチームを組んで、さまざまな視点によるアドバイスを行っています」(屠外国法事務弁護士)。

「中国が向かおうとしている方向を現地の北京において直に感じ、肌感覚で理解したことをクライアントに伝えることが自らの役割であると考えています。中国では2015年以降、重要な法令が急速に制定されました。これらの動向は日本にいても知ることができますが、解釈や実務での施行の状況など日本からではなかなか理解できない場面も増えてきています。例えば、金融や証券、保険分野への外資の参入を中国当局は厳しく制限していましたが、最近は外資の投資に対して門戸を広げつつあり、まさに絶好のタイミングとして子会社の設立認可などを取得する積極的な動きが見られます。一方、コロナ禍で中国への入国管理・検疫審査が厳しいことも身をもって経験したことから、日本駐在員の派遣の際のハードルや現地で日々発生するさまざまな新しい問題への対応についても北京から伝えています」(若林弁護士)。

中国にとってのルールを正確に理解 日本の国益、日本企業の利益のためのリーガルサービス

中国におけるビジネスや法律業務では、国家としての考えが常につきまとう。企業同士の交渉においても共産党の存在は大きく、法律に則ったやりとりなど不可能であると考える日本企業もあるかもしれない。しかし、中国のルールを正しく知れば、中国におけるビジネスは決して難しくないという。

「中国企業との交渉において最も大切なことは、相手の利益に焦点を当てることです。自らと組んでビジネスを手がけることによってどれだけの金銭的な利益が出るか、ということに焦点を当てると交渉もうまく進みます。もちろん、ここに国家としての利益が介入してくることもあり、交渉が難航することもありますが、それでも中国は国家として何を目指しているのか、国家としてどのような利益を得ようとしているのかを理解すればまとまります。日本企業同士のように“あうんの呼吸”で進めるのではなく、国家のルールを理解した上で、自らがやりたいこと、相手がやりたいことをきちんと話し合うべきで、そのサポートは我々のような弁護士でなければできないでしょう」(射手矢弁護士)。

「中国法は日本や欧州の法律と似て非なるものです。中国においては2021年8月に個人情報保護法が制定されました。同法は、元になったといわれる欧州のGDPR(欧州一般データ保護規則)とかなり似通っていますが、そもそも個人の権利に対する考え方が欧州や日本などとは異なります。中国において政治家は“人民の指導者”といわれます。この言葉一つにも、根本的な考え方の違いが表れています。実は、中国の憲法には、“個人の人権を保障する”と明記されていて、“国家、社会、集団の利益ならびにその他公民の自由および権利を害してはならない”という観点からのみ制約されうることになっています。これは、人権が“公共の福祉”により制約を受けると規定されている日本と一見似ています。しかし、実際は中国の方が強く制約されているように見えます。なぜでしょう。それは、“指導者は人民のために人民の権利を制約することが正当化される”という父権主義的な考えが根底にあるからだと考えられます。ルールなどないと思われる方も少なくないと思いますが、価値観が異なっていることを理解し、その価値観に基づいて事案を検討すると、プロジェクトの先行きを見通すことができ、また解決の糸口を見出すことができるようになります」(森脇弁護士)。

「中国では古くから“経済安全保障”という概念が重視されています。中国の法律は、国益をどのように保護するか”という考えに基づいており、外国企業の誘致も“国益に資するか”という観点によっています。中国が世界第2位の経済大国に躍り出たあたりから経済安全保障という概念に敏感になり、米中貿易摩擦の具現化によってさらに重視されるようになりました。中国の動向を理解することはもちろん、米国はどのような対抗策を打ち出しているか、米国の制裁に従えば中国の制裁を受けるのではないか、大局的な視点が必要です。また、日本企業は和解による穏便な解決を模索しがちですが、必要なときには正当性を主張し、争うことをためらってはいけないと考えます。当事務所では、日本の先端技術を有するメーカーを代理しての中国アンチダンピング案件や、日本企業を代理してのICC、CIETAC、SHIAC、SIACでの仲裁・中国各地での訴訟業務の経験も多く、日本企業の利益、日本の産業政策の発展を常に意識しています」(中川弁護士)。

「次世代情報技術や新エネルギー車など重点分野を設定し、製造業の高度化を目指すための政策である“中国製造2025”が2015年に発表され、日本企業としてどのように関与していくか、という相談が増えています。次世代情報技術である5Gなどネットワーク関連技術に対する中国の意欲が高まっています。以前は中国企業が日本企業に対して主として求めるのは金銭的な出資でしたが、最近はそもそも出資ではなく、第一に最先端技術や特許の提供(ライセンス等)を求められることが増えています。それらは往々にして日本企業、日本国にとっても貴重な技術財産であり、いかに保護し、同時に最大限に活用するかは、各企業の知財戦略的な観点、さらには日本の“経済安全保障”上の観点に結びつく問題となってきています」(若林弁護士)。

外国法共同事業の開始で事務所内外に好影響 上海の共同事業開始でこれまで以上にシームレスに

AMTは2021年1月、外国法共同事業を開始した。屠外国法事務弁護士を含む4名がパートナーに就任し、経営にも参画することによって、日本人弁護士と外国法事務弁護士の間の垣根を取り払い、真にグローバルで、多様性・一体性のある組織に進化することへの事務所としての強い考えを打ち出した。

「もちろん、従来の形態でも非日本資格弁護士がチームを通じてクライアントのビジネスに貢献できますが、外国法共同事業の開始によって、特に対中国投資案件、国際仲裁・訴訟といった各種のクロスボーダー案件において、日本語が堪能な外国法事務弁護士パートナーが、日本法弁護士との緊密なチームワークで、これまで以上に日本企業をサポートできる体制が整ったといえます。また、私自身は、パートナーとなったことによって、AMTの一員であるという意識をより一層、強く感じるようになりました。内部の若手の外国法事務弁護士にとっても、将来的にはパートナーにもなれるというキャリア形成の道が示され、さらに高い専門性を身につけた外部の弁護士も集まりつつあります。このように、クライアントにとっても、当事務所にとっても、外国法共同事業の開始は好影響を与えていると思います」(屠外国法事務弁護士)。

さらに、AMTは2021年4月、上海における共同事業を開始した。長年にわたって築き上げられた法律事務所間の海外ネットワークによって、これまでも支障なくサービスを提供できていたが、共同事業の開始によって中国法業務をシームレスに実施できるようになった。中国現地における多種多様な案件について、各弁護士がこれまでに培ってきた経験と専門性を融合させ、現地に根差したきめ細かい対応を行うことが可能になる。日本企業にとって、中国経済のうねりを乗り越えていくための強力なパートナーであるといえよう。

→『LAWYERS GUIDE 2022』を「まとめて読む」
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 DATA 

ウェブサイトhttps://www.amt-law.com/

所在地・連絡先
〒100-8136 東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング
【TEL】03-6775-1000(代表)


所属弁護士等:弁護士等564名(日本法資格弁護士485名、非日本資格弁護士60名(うち、外国法事務弁護士12名)、弁理士16名、行政書士2名、司法書士1名)(2021年12月現在)

沿革:1952年設立。2005年1月1日、旧友常木村法律事務所と合併。2015年4月1日、ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業)の主力弁護士と統合。2021年外国法共同事業を開始

受賞歴:ALB Japan Law Awards 2021においてLitigation Law Firm of the Year、Restructuring and Insolvency Law Firm of the Year、Equity Market Deal of the Year、M&A Deal of the Year (Midsize)を受賞。Chambers Asia 2021において、Banking & Finance、Capital Markets、Capital Markets: Securitisation & Derivatives、Competition/Antitrust、 Corporate/M&A、Dispute Resolution、Employment、 Insurance、Intellectual Property、Life Sciences、Projects & Energy、Real Estate、Restructuring / Insolvency、Tax の各部門にて高い評価(Band 1 group)。IFLR1000 2021 において、Banking、Capital Markets―Debt, Equity, Structured Finance and Securitisation、M&A、Project equity、Project development、Project financeの各部門にて高い評価(Tier 1)

所属弁護士等による主な著書・論文(共著含む)『M&A・投資における外為法の実務』(中央経済社、2020)『医薬・ヘルスケアの法務〔第2版〕―規制・知財・コーポレートのナビゲーション』(商事法務、2020)『企業法務におけるナレッジ・マネジメント』(商事法務、2020)ほか

[注]
  1. 「アンダーソン・毛利・友常法律事務所」は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業および弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所を含むグループの総称として使用しています。[]

射手矢 好雄 氏

弁護士
Yoshio Iteya

81年京都大学法学部卒業。83年弁護士登録(第二東京弁護士会)。88年米国Harvard Law School卒業(LL.M.)。89年ニューヨーク州弁護士登録。05年中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)仲裁人、06~17年中華人民共和国社会科学院法学研究所アジア法研究センターなどを経て、21年アンダーソン・毛利・友常法律事務所。

森脇 章 氏

弁護士
Akira Moriwaki

92年慶應義塾大学法学部卒業。95年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利・友常法律事務所。02~07年北京オフィス首席代表、13年~上海オフィス首席代表。09年~中国人民大学法学院客員教授、14年~上海国際仲裁センター(SHIAC)仲裁人。

中川 裕茂 氏

弁護士
Hiroshige Nakagawa

96年京都大学法学部卒業。98年弁護士登録(第二東京弁護士会)。02年米国the University of Illinois at Urbana-Champaign卒業(LL.M.)。03年ニューヨーク州弁護士登録。07~16年アンダーソン・毛利・友常法律事務所北京オフィス首席代表。14年~中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)仲裁人。

屠 錦寧 氏

外国法事務弁護士
Jinning Tu

99年中国華東政法大学国際法学部卒業。00年中国弁護士登録。06年京都大学法学研究科修士課程修了(2012年博士号を在職中に取得)、アンダーソン・毛利・友常法律事務所。14年外国法事務弁護士登録(第二東京弁護士会)。21年アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。

若林 耕 氏

弁護士
Ko Wakabayashi

99年一橋大学法学部卒業。02年弁護士登録(東京弁護士会)。05年3~5月アンダーソン・毛利・友常法律事務所北京オフィス、05年6~11月台湾・台北Lee&Li(理律)法律事務所。16年~北京オフィス首席代表。

『M&A・投資における外為法の実務』

著 者:アンダーソン・毛利・友常法律事務所[編]、新城友哉・松本拓[編著]
出版社:中央経済社
価 格:2,860円(税込)

『医薬・ヘルスケアの法務〔第2版〕
―規制・知財・コーポレートのナビゲーション』

著 者:アンダーソン・毛利・友常法律事務所 医薬・ヘルスケア・プラクティス・グループ[編]
出版社:商事法務
価 格:4,180円(税込)

『企業法務におけるナレッジ・マネジメント』

著 者:アンダーソン・毛利・友常法律事務所 森下国彦・村山由香里・門永真紀[著]
出版社:商事法務
価 格:2,640円(税込)

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