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上場企業であっても二極化しているESGの取り組み

多くの投資家はこれまで、環境や社会を意識する投資はリターンが小さいと考えていた。しかし、近年では、環境や社会を意識する投資はリターンが大きくリスクは小さい、とする研究結果が多く発表されるようになり、流れが大きく変わりつつあるという。企業が長期的に成長するためには“Environment(環境)“”Social(社会)”“Governance(ガバナンス)”に対する取り組みが重要であるという見方が市場に急速に広まりつつあり、“ESG”に積極的に取り組む企業に対する投資は拡大の一途をたどる。企業にとって、今後多くの投資を呼び込んだり、ブランディングを向上させたりする際、ESGは欠かせないものになるだろう。ただし、先例が少なく、企業にとってのリーガルリスクがどこにあるのか把握できないため、長島・大野・常松法律事務所でESG/SDGsに関わる案件を多く手がける本田圭弁護士と宮下優一弁護士、福原あゆみ弁護士にもそのような取り組みに関係した相談が非常に多く、ESG/SDGs関連法務の重要さを実感しているという。

「日本を含めた世界各国がカーボンニュートラルの達成目標を次々に打ち出しており、脱炭素化の流れは不可逆的な大きな流れになっているといえます。そのような流れを受け、各企業は、脱炭素化を含めたESGを推進する機関・部署の設置や、使用する電力の脱炭素化など、さまざまな取り組みを行っています。一方、取り組みが法律で定められているわけでなく、取り組まなかった場合の罰則があるわけでもないため、まだ着手できていない企業も少なくありません。上場企業であっても積極的に体制の構築を進めている企業とそうでない企業の二極化が進んでいます。ただし、投資家にとって、ESG/SDGsの対応状況はもはや投資判断における重要な材料の一つとなっており、企業は今すぐにでも動き出すべきです」。

SDGs(持続可能な開発目標)の達成年として設定された2030年までまだ5年以上も残っているが、これらの取り組みは一朝一夕で形になるものでなく、義務化されてから始めるようでは遅いと本田弁護士と宮下弁護士、福原弁護士は注意を促す。

さまざまな課題が関連する間口の広い案件にワンチームの総合力で向き合う

ESGの重要性は理解しつつも、具体的にどのようなことを実践する必要があるのだろうか。Environmentでは再生可能エネルギー由来の電気の使用や二酸化炭素の排出削減、Socialではサプライヤーの人権問題への配慮やダイバーシティ、Governanceでは積極的な情報開示や資本効率への高い意識などが例として挙げられる。

本田 圭 弁護士

「脱炭素化達成において非常に重要な位置を占めるのが再生可能エネルギーです。日本では2012年から導入された固定価格買取制度(FIT制度)によって再生可能エネルギー発電設備の設置が進んできましたが、欧米など諸外国と比べてまだまだで、主力電源化は道半ばといえます。2022年4月からは市場連動型の制度(FIP制度)が始まるなど、大きな変更が生じますが、引き続き再生可能エネルギー発電プロジェクトに関する相談は非常に多いです。これからは風力発電、特に洋上風力発電に対する関心がさらに高まると見ています。海に囲まれた日本は世界でも有数の海岸線の長さを誇り、洋上風力発電導入の余地は大きいです。環境への影響が小さくないことなどから規制は厳しく、また、リードタイムも長い開発プロジェクトですが、発電量などを考慮すると将来的には主要な再生可能エネルギー源になっていくはずで、相談も増加してきています。なお、現在はFIT/FIP制度の対象となっていないものの、海の潮の流れを利用した潮流発電などの新しい発電方法も注目を集めつつあります。2006年から留学した際、環境法およびエネルギー・天然資源法を専攻し、環境問題がここまで大きなテーマとなる前から再生可能エネルギーに関する案件を数多く手がけ、知見を得てきました」(本田弁護士)。

福原 あゆみ 弁護士

「EU各国の法規制や中国新疆ウイグル自治区の人権侵害に対する制裁など“ビジネスと人権”に関する話題が多く、企業からの人権コンプライアンスに関する相談も増えています。また、人権リスクの特定・評価・対応の枠組みとしての“人権デュー・ディリジェンス”のフレームワークの策定など、人権の尊重に関する方針を既に定めている企業において取り組みをアップデートする中での相談も多く寄せられています。ただ、人権のみに限っても、強制労働・児童労働からヘイトスピーチの問題など広義ではさまざまなものが含まれるため、企業としてどこに力点を置いて対応すべきかの判断が難しいという意見も目立ちます。また、これまではCSR部門で担当することがほとんどで、それ以外の部門での認知が低かったり、社内で研修を実施しようと思っても経営層に重要性を理解してもらいづらいこともあったようです。しかし、最近はサプライチェーンの選定段階からの人権尊重の観点に基づくリスクマッピングの策定や、人権に対する意識を高めるための社内研修の相談も増えています。人権問題は企業にとって最も重視すべき課題の一つとなりつつあり、対応の優先度が上がってきていると実感しています」(福原弁護士)。

宮下 優一 弁護士

「気候変動や人的資本をはじめとするサステナビリティに関する企業情報の開示について、グローバルな議論が急速に進んでいます。これまでは各上場会社が任意にこれらの開示を行っていますが、改訂コーポレートガバナンス・コードによって、上場企業には人的資本に関する開示が求められるほか、とりわけプライム市場上場企業には気候変動に関する開示が求められる予定です。さらに、将来的な金商法に基づく法定開示書類である有価証券報告書などにおける開示について政府での議論が始まりました。適切な組織体制の構築、ダイバーシティに配慮した社員の育成・登用などの取り組みだけでなく、それをいかに実践しているか、積極的な情報開示が重要です。また、ESG投資のプレーヤーとして海外投資家は無視できない存在であるため、日本語だけでなく英語での情報発信も重視しなければなりません。こうした動きに伴い、ESG情報の開示に関するリーガルアドバイスのニーズが高まっています」(宮下弁護士)。

ESG/SDGsと聞くと新しい法的分野と思いがちであるが、コーポレートやガバナンス、プロジェクトファイナンス、キャピタルマーケット、危機管理対応など、同事務所がこれまで積み重ねてきた知見が活きる分野の統合的なプラクティスであり、案件を手がける際はそれぞれの分野に長けた弁護士たちがすぐに集まって動き出すという。また、ESG/SDGsの取り組みは欧州が中心となっているため、ただでさえ日々新しい情報がもたらされる分野において、国内だけでなく海外の情報にもアンテナを張り続ける必要がある。幅広い知見が総合的に求められる課題に対し、弁護士一人ひとりではなくワンチームとして向き合う。ワンチームでの取り組みは、“複数の弁護士が協力して最高の質を有する法務サービスを提供すること”を基本理念に含む同事務所が強みとするところだ。

定義や基準、ルールがない中でも“社会的意義”を追求すれば見えてくる

現状、ESGについての標準的な定義は存在せず、評価指標についても各評価機関側の判断で行われている。法令などに定められた基準もなく“世界共通の判断基準がない”というのが一定の認識だ。ESGでは、さまざまな社会問題に対し、企業がリスクを認識した上でどのような戦略によって取り組んでいくかが問われているともいえる。

「英豪の現代奴隷法やドイツのサプライチェーン法など、各国が関連する立法を競い、企業に求められる人権コンプライアンスの水準は徐々に厳しくなっています。もっとも、サプライチェーンの人権リスクを評価するにあたり、直接の取引を行っているサプライヤーと比較して、二次・三次サプライヤーの状況を把握することは簡単でなく、またいまや日本国内だけでビジネスが完結している企業は少なく、グローバルで見ていかなければならないとなると、費用も労力もかかります。また、人権リスクが解消されないまま取引から撤退した企業に対して国際的批判がなされるケースや、取引の性質等に鑑みると撤退が困難なケースもあり、企業が新たに事業を開始する場合には人権リスクをより深度をもって検討し、評価することが求められつつあります。一方で、“どこからが人権侵害か”という線引きを行うことが困難な場合もあり、深度ある検討のためにはさまざまな要素を考慮する必要があります。企業では有事に至ってしまう前の予防的な取り組みも増えてきていますが、仮に訴訟に発展しても、当事務所には国内外の訴訟経験が蓄積されているため、適切な解決に導くことが可能です」(福原弁護士)。

「脱炭素化やこれを実現するために再生可能エネルギーを活用する流れは世界的に、かつ着実に進んでいくでしょう。また、先行する欧州ではさらに一歩進み、“何をもってグリーンな‘Environment’の取り組みといえるのか”といった定義付けの取り組みが始まりました。例えば、太陽光発電を導入するためにパネルを設置することは脱炭素化の面から見れば環境保護に効果的ですが、パネルを設置するために大量の森林を伐採したり、設置工事で発生した残土による土砂崩れが起こったりしたとしたら、それは環境破壊であり、グリーンとはいえないでしょう。今後は、世界的に、目先の成果だけでなく中長期的な視点によるESGの取り組みが評価されていく流れになっていくと思います。他方で、国内に目を向けてみると、事業における使用電力の化石燃料から再生可能エネルギーへの置き換え、保有不動産の環境認証取得、排出権取引によるオフセット取引などによって、数値的にも着実に成果を上げている企業はあります。“実践できる取り組みにはどんなものがあるのか分からない”などの悩みを抱えられている企業もいらっしゃると思いますが、企業内部だけで対応しようとせず、蓄積されたさまざまな手法をベースに提案をすることができる我々のような法律事務所に相談していただきたいと思います」(本田弁護士)。

「ESGとは何か、自社の取り組みが社会的に意義のあるものかどうか、ということを突き詰めていくと、自ずと答えが見つかるのではないかと考えています。例えば、会社による社債の発行による資金調達をサポートさせていただきましたが、その目的は新型コロナウイルス感染症の影響を受けて事業の継続や資金繰りに困っている中小企業への支援等に充てることでした。これこそソーシャルボンドだと実感する社会的意義のある案件でした。また、このような取り組みを効果的に情報開示することで、企業価値の向上にもつながります。今は気候変動をはじめとしてESG情報を開示するための基準が乱立していますが、IFRS財団によるサステナビリティ報告基準設定の提案など、基準の統一への動きが見られています。基準が見えてくると、ここに法務部の関与が必ず求められるでしょうし、ESGは企業活動全体に関わることですので、法務部が自社の事業全体を把握し、これまで以上にビジネスに関与していく必要があるでしょう」(宮下弁護士)。

利益追求型の企業活動では、短期的に利益を上げることはできても、社会への悪影響が生じれば持続的な成長は見込めない。企業としての継続的な安定・成長力をつけるためにも、今からのESGへの取り組みが企業に求められている。長島・大野・常松法律事務所は、ESG/SDGs関連法務を通じて、よりよい社会の実現のために役立ちたいと考えている。

→『LAWYERS GUIDE 2022』を「まとめて読む」
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 DATA 

ウェブサイトhttps://www.noandt.com

所在地・連絡先
〒100-7036 東京都千代田区丸の内2-7-2 JPタワー
【TEL】03-6889-7000(代表)【FAX】03-6889-8000(代表)


所属弁護士等:523名(日本弁護士483名、外国弁護士40名)(2021年10月現在)

沿革:2000年1月に長島・大野法律事務所と常松簗瀬関根法律事務所が統合して設立

過去の主要案件:▽一般企業法務▽国内外におけるM&A案件・企業再編案件▽ファイナンス・資金調達案件▽不正調査・不祥事対応案件▽事業再生・倒産案件▽国際仲裁および海外争訟対応を含む紛争案件▽労使紛争等の労働法関連案件▽不動産・J-REIT関連案件▽知的財産関連取引・知財争訟案件▽独占禁止法/競争法関連案件▽税務アドバイス・プランニング、税務争訟案件▽インフラプロジェクト・資源・エネルギー関連案件▽IT・テクノロジー関連案件▽メディア・エンタテインメント・スポーツ関連案件▽個人情報保護・プライバシー関連案件▽薬事・ヘルスケア関連案件▽アジアや北米をはじめとする海外における事業展開の支援など多数

所属弁護士等による主な著書・論文(共著含む)『株主間契約・合弁契約の実務』(中央経済社、2021)『日米実務の比較でわかる 米国アウトバウンドM&A法務の手引き』(中央経済社、2021)『LegalTech』(金融財政事情研究会、2020) ほか多数

受賞歴:Chambers Japan Awards 2019、IFLR Asia-Pacific Awards 2021、ALB Japan Law Awards 2021等にて複数の部門において受賞。Chambers Global/Asia-Pacific、The Legal 500 Asia Pacific、IFLR1000、Asialaw Profiles、ALB Rankings等の外部機関による部門別評価において各分野にて継続的に高い評価

本田 圭 氏

弁護士
Kiyoshi Honda

99年慶應義塾大学法学部卒業。01年弁護士登録(第二東京弁護士会)。07年Lewis & Clark Law School卒業(LL.M. in Environmental and Natural Resources Law)。08年University College London Faculty of Laws卒業(LL.M. in International Business Law)。11~17年カーボン・オフセット認証制度認証委員、15~16年環境不動産普及促進検討委員会ワーキンググループメンバー。17年~太陽光発電事業の評価ガイド策定委員会委員、21年~武蔵野大学大学院法学研究科客員教授。再エネ発電プロジェクトおよび火力発電プロジェクトの開発・プロジェクトファイナンス案件、電力小売案件、環境法関連案件、不動産流動化・証券化案件を主に担当。

宮下 優一 氏

弁護士
Yuichi Miyashita

07年大阪大学法学部卒業。09年京都大学法科大学院修了。10年弁護士登録(第一東京弁護士会)。16年University of California, Los Angeles, School of Law卒業(LL.M. specializing in Business Law – Securities Regulation Track)、Thompson Hine LLP(ニューヨーク)勤務、16~17年SMBC日興証券株式会社資本市場本部エクイティ・キャピタル・マーケット部勤務。ESG・SDGs開示を含む企業情報開示のほか、国内外の資本市場における、社債、新規株式公開(IPO)、株式の公募増資、売出し、第三者割当増資、ブロックトレード、種類株式、新株予約権、新株予約権付社債(CB)など、大手証券会社のキャピタルマーケット部門での勤務経験を活かし、キャピタルマーケット案件を幅広く取り扱う。

福原 あゆみ 氏

弁護士
Ayumi Fukuhara

06年京都大学法学部卒業。07~08年東京地方検察庁検事、08~09年札幌地方検察庁検事、09~10年広島地方検察庁検事、10年法務省刑事局付。10~12年人事院行政官長期在外研究員制度・米国(University of Michigan Law School卒業(LL.M.)、Columbia Law School客員研究員)。12~13年横浜地方検察庁検事。13年弁護士登録(第二東京弁護士会)。法務省・検察庁での経験をバックグラウンドとして、企業の危機管理・争訟を主たる業務分野としており、海外当局が関係したクロスボーダー危機管理案件の経験も豊富。また、企業の役職員による品質不正や会計不祥事をはじめとする幅広い危機管理案件に従事。

『株主間契約・合弁契約の実務』

著 者:藤原総一郎[編著]、大久保圭・大久保涼・笠原康弘・粟谷翔・加藤嘉孝・宇治佑星[著]
出版社:中央経済社
価 格:3,080円(税込)

『日米実務の比較でわかる 米国アウトバウンドM&A法務の手引き』

著 者:長島・大野・常松法律事務所 ニューヨーク・オフィス[編]、大久保涼[編集代表/著]、北川なつ子・佐藤恭平・堀内健司・逵本麻佑子・加藤嘉孝・下村祐光[著]
出版社:中央経済社
価 格:3,850円(税込)

『LegalTech』

著 者:長島・大野・常松法律事務所/MNTSQ株式会社[編]、杉本文秀・藤原総一郎・垰尚義・森口聡・梅澤拓・柳澤宏輝・カオ小池ミンティ・水越政輝・角田美咲・髙橋宗鷹[執筆担当]
出版社:一般社団法人金融財政事情研究会
価 格:1,980円(税込)