【本連載について】
本連載「再生可能エネルギー法務の現在地」では、大江橋法律事務所のエネルギー・インフラストラクチャー・環境プラクティスグループの弁護士が、再生可能エネルギー事業を取り巻く法務上の主要論点について、全9回にわたり解説する。
具体的には、コーポレートPPA(全2回)、カーボンクレジット・GX-ETS、蓄電所に関する規制、洋上風力、プロジェクトファイナンスの組成、匿名組合出資、事業からの撤退・倒産、M&A・セカンダリー(卒FITを含む)といったテーマを取り上げ、事業のライフサイクル全体を俯瞰しながら、制度動向と実務上の留意点を整理していく予定である。
再生可能エネルギーに関連する制度や事業環境が大きく変化する中、本連載が、事業者、金融機関その他の実務関係者の皆様にとって、再生可能エネルギー法務の「現在地」を考える一助となれば幸いである。
はじめに
第1回では、コーポレートPPAに関係する昨今の法令等の改正状況の整理(施行済みの関連法令・制度としては、森林法、盛土規制法および景観法等の改正を、未施行の関連法令・制度変更等としては、電気事業法、環境影響評価法、太陽電池廃棄物の再資源化等の推進に関する法律の改正の議論を取り扱った)を中心に解説し、今後コーポレートPPAを締結する際の留意点にも簡単に言及した。そこで、本稿では、第1回での解説において言及した売電(供給)開始時期の合意について具体的に解説する(Ⅱ)。
また、第1回は発電設備の新規開発を伴う案件を主な対象としたが、近時は卒FIT(FIP転)に伴いコーポレートPPAを締結する案件が増加していることから、卒FIT(FIP転)に伴うコーポレートPPAの契約書上の留意点についても解説する(Ⅲ)。
売電(供給)開始時期の合意について
受給期間
特に発電設備の新規開発を伴う案件においては、用地の取得、発電設備の設置、許認可の取得および系統連系等が必要となり、土地の所有者、発電設備の工事請負事業者、行政および一般送配電事業者等、関連する当事者も多数に及ぶ。その関係もあり、発電事業者において、コーポレートPPAの締結時点で、特定の日までに電力の供給を開始できるか否かを見通すことが難しく、従前より、受給期間をどのように設定するのかはコーポレートPPAの契約書上の留意点の一つであった。
以上を踏まえ、発電事業者が提示するコーポレートPPAでは、受給期間の始期を特定の日とはせず、受給期間を「本発電設備が本電力の供給を開始した日の翌日から起算して●年後の日の属する月の末日まで」(発電設備が複数存在する場合の始期は「本発電設備のうち最初に本電力の供給を開始した個別発電設備の供給開始日の翌日」)とし、供給開始日は別途発電事業者が通知する旨の条項を設けている例が多いように思われる。
実際のところは、想定した供給開始日までに電力の供給が開始しないことについて早めに目途さえ立てば、需要家は他の方法で電力の供給を受ければよいこともあり、需要家に損害が発生する可能性は低く、想定した供給開始日よりも遅延したからといって直ちに紛争に発展することは少ない。しかし、需要家の立場からすれば、契約上は、いつ供給が開始するのかについて保証がないにもかかわらず、供給が開始すれば電力の供給を受ける義務に拘束され続けることになる。
そこで、発電事業者が提示するコーポレートPPAに対し、需要家としては、供給開始日を特定の日とし(その日までに供給が開始されなければ債務不履行解除が可能となる)、その日までに供給が開始されない場合の違約金の計算方法を定めておくという修正をするのが最も法的なリスクが少ない方法ではある。しかし、前述した背景からすれば、そのような修正に発電事業者が応諾する可能性は低い。
以上を踏まえた現実的な落としどころとしては、
・ 特定の日までに供給が開始される「想定」であることを明記し、発電事業者が当該想定日までに供給を開始するよう合理的な努力をする旨の規定を挿入する。加えて、コーポレートPPAの締結時点において、発電事業者が当該想定日までに供給を開始することが不可能または著しく困難となる事情を認識していないことを表明保証する旨の規定を挿入する。
・ 特定の日までに供給が開始されなければ、需要家がコーポレートPPAを解除できる旨の規定を挿入する。
・ 特定の日までに発電事業者が需要家に対して供給開始日を通知することを義務づけるとともに、当該通知した供給開始日までに供給を開始することができない場合の違約金の計算方法を定めておく。
といったところが考えられる。
今般、第1回で解説したとおり、森林法等の改正により、許可基準の厳格化に伴う審査期間の長期化や工事の遅延が発生する可能性が高まったこともあり、発電事業者においても、需要家においても、受給期間をどのように合意するのかはより一層留意する必要がある。
なお、筆者がコーポレートPPAのレビューを担当した際、発電事業者として、特定の日までに供給を開始する法的義務を負うつもりがないにもかかわらず、意図せず法的義務があるかのような記述になっている例も見受けられたため、そのような規定になっていないかについても留意されたい。
契約期間
コーポレートPPAのレビューを担当する際によく見受けられるのが、契約期間(有効期間)と受給期間を混同しているような規定例である。いうまでもないが、契約期間はコーポレートPPAがいつからいつまで効力を有するのかを規定するものであるため、その終期を受給期間の終期と一致させることに違和感はないが(一致させずに、受給期間における債権債務がすべて履行された時点を終期とする例も多い)、その始期は「本契約の締結日」とするのが自然である。
しかし、中にはその始期も受給期間の始期と一致させているかのような規定例もある。その場合は、供給が開始するまでコーポレートPPAは法的な効力を生じず、供給開始日までの当事者の各種義務の履行が法的に担保されていないことになるため、異なる概念であることを前提としたワーディングが望ましい。
卒FIT(FIP転)に伴うコーポレートPPAの契約書上の留意点
総論
固定価格買取制度であるFIT(Feed-in Tariff)制度から市場価格に連動して売電する(市場価格に一定の補助金(プレミアム)を上乗せして受け取ることができる)FIP(Feed-in Premium)に切り替えるFIP転案件は、FIP認定(再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法9条4項)およびそれに基づくFIP交付金(FIPプレミアム)の存在を前提に各種条件が設定されることから、
・ いつまでにFIP認定の効力を発生させる必要があるか。また、FIP認定の効力が発生しない場合にコーポレートPPAの取扱いをどうするのか。
・ FIP認定が取り消された場合はどうするのか。
・ FIP交付金が停止された場合の取扱いはどうするのか。
といった事項について検討し、契約書に織り込む必要がある。
FIP認定の効力発生について
FIP転案件は、既に発電設備は完成しており、一定の運転実績も存在することから、発電設備の新規開発を伴う案件ほど供給開始日の見通しが難しいわけではない。しかし、供給を開始するまでにFIP認定を受けることが前提となっているところ、特定の日までにFIP認定を受けることができるか否かはコーポレートPPAの締結時に確実とはいい難い。また、発電設備によってはFIP認定を受けるために追加工事が必要となる例もあり、発電設備の新規開発を伴う案件と同様に、供給開始日を特定の日としないことも多い。
加えて、FIP転案件は、FIP認定を受けることを前提とすることから、「供給開始日は、次の各号の日のうち最も遅い日をいう」として、「本発電設備が本電力の供給を開始した日」と「本FIP認定の効力が発生した日」を挙げる等の対応がありうる。
以上はFIP認定効力の発生について受給期間で処理する例であるが、本FIP認定の効力の発生をコーポレートPPAの停止条件としたり、特定の日までにFIP認定を受けることができない場合を解除事由として列挙したりする例もありうるところである。
これに対し、需要家としては、FIP認定を取得できない事情が存在しないことや、想定される供給開始日までにFIP認定を取得できない事情を発電事業者が認識していないことを、発電事業者に表明保証させることがありうる。
FIP認定が取り消された場合の対応
FIP認定が取り消された場合の対応については、その前提として、発電事業者がFIP認定を有効に維持する義務を負う旨が規定される例もある。もっとも、そのような義務を明記せずとも、最終的にFIP認定の取消し等がなされた場合にどのような処理をするのかを明記する方が重要である。
まず、FIP認定が取り消された場合、それでもなおコーポレートPPAを継続させるのか否かが問題となる。基本的にはFIP認定が取り消された場合になおコーポレートPPAを維持することは難しいため(発電事業者が代替の発電設備を用い、小売電気事業者・需要家が当該発電設備の代替を許容する場合にコーポレートPPAを継続するという建付けはありうるが、同等の発電所を用意することは難しいのではないかと思われる)、FIP認定が取り消されたことを解除事由に列挙することが通常ではないかと思われる。
加えて、FIP認定の取消しを原因とするか否かを問わず、コーポレートPPAが解除されたことに伴う損害賠償について違約金を設定しておくことがあるが、その設定がある場合は、違約金の適用を受けることで処理されることになる。
もっとも、当該違約金については、小売電気事業者・需要家に責めに帰すべき事由がある場合の発電事業者による損害賠償請求では、発電事業者の逸失利益に相当する金額が設定される例が多い。一方で、発電事業者に責めに帰すべき事由がある場合の小売電気事業者・発電事業者による損害賠償請求まで設定されるかはケースバイケースであると思われる。
小売電気事業者の損害については、小売電気事業者としての利益相当額をあらかじめ固定の金額で設定しておき、これを残期間における想定発電量に乗じた金額を違約金として設定することがありうる。一方で、需要家の損害については、実際には別途電力を調達するために余分に支出した費用が観念しうるものの、そもそも発電量の保証がないうえに、別途電力を調達するために余分に支出する費用を想定することも困難である。そのため、違約金の合意は難しく、相当因果関係の範囲内の損害として賠償を検討する建付けになっている例が多いと思われる。
FIP交付金の取扱い
FIP転案件では、受給料金単価を固定としたうえで、FIP交付金は小売電気事業者・需要家に帰属するという建付けにしている例もある。より具体的には、発電事業者がOCCTO(電力広域的運営推進機関)からFIP交付金を受領し、それを小売電気事業者・需要家に交付する旨を規定するとともに、それを料金と相殺する、というものである。
FIP認定取消時の処理は前述のとおりであるが、最終的にFIP認定が取り消されるとしても、それまでにFIP交付金の交付が一時的に停止されることもありうる。そこで、小売電気事業者等の立場からすれば、FIP交付金の交付停止を解除事由に列挙することもありうるが、そこまではせず、FIP交付金の交付停止時の処理について別途合意することが多いのではないかと思われる。
具体的には、FIP交付金の交付停止について、発電事業者の責めに帰すべき事由による場合は、発電事業者は、小売電気事業者等に対しFIP交付金相当額を支払うという建付けになる。他方で、想定はし難いが、発電事業者の責めに帰すべき事由によることなくFIP交付金の交付が停止された場合、それでもなお発電事業者にFIP交付金相当額の交付義務を課すか否かは当事者の交渉次第であると思われる(発電事業者がリスクを負わないよう、何も定めずに協議事項としておくか、一定の割合で分担することを前提に協議するかといったアレンジもある)。
また、FIP交付金の交付が停止されていないが、発電事業者の債権者が発電事業者のOCCTOに対するFIP交付金債権を差し押さえた場合も、同様に発電事業者にOCCTOからFIP交付金が支払われないことになる。
この場合、それでもなお発電事業者にFIP交付金相当額の交付義務がある旨を規定するとしても、既に発電事業者の信用に大きな不安が生じており、FIP交付金相当額を回収できない事態に陥る可能性が高い。そこで、このような場合に備え、発電事業者のOCCTOに対するFIP交付金債権の譲渡担保を受け、発電事業者の債権者による差押えがなされても、当該譲渡担保が優先するようにしておくことも考えられる(第三者対抗要件について、OCCTOは承諾はしないが、通知の受付はしている注1))。
なお、FIP交付金の振込口座を小売電気事業者等において管理する方法もありうるが、発電事業者の債権者による差押えがなされた場合は、OCCTOから当該振込口座にFIP交付金が振り込まれないため、この方法では発電事業者の債権者による差押えまではカバーできない点は留意が必要である。
おわりに
以上、第1回の解説において言及した売電(供給)開始時期の合意(Ⅱ)と卒FIT(FIP転)に伴うコーポレートPPAの契約書上の留意点(Ⅲ)について解説した。
今回は、コーポレートPPAの契約書上の留意点のごく一部の解説にとどめた。発電事業者および小売電気事業者においては、自社のひな形を改めて見直す場面等で、需要家においては、実際の契約実務で発電事業者または小売電気事業者から提示された契約書をチェックする場面等で、それぞれ一助にもなれば幸いである。
→この連載を「まとめて読む」
森本 祐介
弁護士法人大江橋法律事務所 パートナー弁護士
10年京都大学法学部卒業。12年京都大学法科大学院修了。主な取扱分野は、エネルギー、フランチャイズ、不動産、M&A・コーポレート、紛争解決等。
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