「瑕疵担保責任」と「契約不適合責任」とは
「瑕疵担保責任」とは、2020年4月1日施行の2017年債権法改正(平成29年法律第44号。(以下「2017年改正法」という)前の民法(以下「旧民法」といい、2017年改正法による改正後の民法を「現行民法」)という)561条以下、特に570条に定められた担保責任を指す。
旧民法570条
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
旧民法566条
1 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。
企業間の取引は、商取引として商法の適用があることも通常と思われるため、以下、改正前商法(「旧商法」)の規定も引用する。
旧商法526条
1 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が六箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3 前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。
これに対し、現行民法・商法においては、「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へと改められた。
現行民法562条
1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
現行民法563条1項
前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
現行民法564条
前二条の規定は、第四百十五条の規定による損害賠償の請求並びに第五百四十一条及び第五百四十二条の規定による解除権の行使を妨げない。
現行民法566条
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
現行商法526条
1 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。(※旧商法526条1項と同じ)
2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が六箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。
3 前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。
「瑕疵担保責任」と「契約不適合責任」の違いとは
2017年改正法による改正事項は多岐にわたるが、一般的な契約実務との関係で押さえておくべきポイントは、おおむね以下のとおりである。
法的性質の明確化:法定責任説から契約責任説へ
旧民法下においては、「瑕疵担保責任」の法的性質について見解の対立があった。通説的見解である「法定責任説」は、特定物売買では特定物はその物しか存在しないので、売買の目的物が特定物である場合、その品質・性能等は契約内容とはならず契約責任も問えないという考え方(特定物ドグマ)を前提とするものであり、瑕疵担保責任は、特定物売買における買主の保護を図るために法律が売主に課した特別の責任(法定責任)と整理されてきた。
法定責任説に従えば、特定物に隠れた瑕疵があった場合の法的効果としては、損害賠償請求と解除のみが認められ、追完請求はできないと解されてきた。また、旧民法下において代金減額請求が認められていたのは、旧民法563条や565条のような量的瑕疵の場合のみであり、旧民法566条や570条のような質的瑕疵については、代金減額請求は認められていなかった。
ただし、法定責任説には現代の取引実務と合致しないとの批判があり、旧民法下でも瑕疵担保責任を債務不履行責任の一類型ととらえる見方(契約責任説)も有力であった。リーディングケースとされる最高裁判例(最判昭和36年12月15日民集15巻11号2852頁)も、純粋な法定責任説に立つものではなく、その後の裁判例の立場は必ずしも明確ではなかった。
また、旧民法における瑕疵担保責任は「物の瑕疵」と「権利の瑕疵」とが別個に定められており、それも混乱の一因であった。
そこで、現行民法においては、「契約の内容に適合した権利の移転・目的物の引渡しをなすべき義務を承認すること」を前提として、「契約責任説」を採用することが明確化された。従来の瑕疵担保責任は、物・権利に関する契約不適合を理由とする「契約不適合責任」として、一元的に整理・統合されることとなった。
「瑕疵」から「契約不適合」へ
「(隠れた)瑕疵」という用語は、現行民法において「契約の内容に適合しない(契約不適合)」に改められた。しかし、旧民法下においても、判例(最判平成22年6月1日民集64巻4号953頁、最判平成25年3月22日集民243号83頁)は、「瑕疵」の実質的意味を「契約の内容に適合しないこと」と解釈していたため、この用語変更は実質的な意味合いを変更するものではない。立法担当者によれば、「瑕疵」という用語は、「目的物に客観的なキズがあれば契約不適合の有無にかかわらず売主が担保責任を負う」との誤解を招くおそれがあるため、端的に「瑕疵」の具体的な意味内容を表す「契約不適合」という用語を採用したとされている注1)。
他方、現行民法では「隠れた」瑕疵という要件も削除されている。これは、売主がどのような性質を備えた目的物を給付すべきかは、当事者の合意や契約の趣旨に従って決まるため、目的物の契約適合性の有無を当該契約に照らして判断すれば足りると考えられたためである。
このように、担保責任の対象である「瑕疵」と「契約不適合」との間に大きな意味内容の違いはない。
救済手段の明確化・多様化
現行民法では、契約不適合があった場合に買主が取り得る救済手段が、旧民法よりも明確化・多様化された。具体的には、Ⅰで引用した条文に記載されているとおり、現行民法においては、契約不適合の救済手段として、①履行の追完請求、②代金減額請求、③損害賠償請求、④解除があり得ることが明確化された。このうち、①と②は旧民法下では(特に法定責任説の下では)明示的には認められないか、一部の類型しか認められていなかったものである。
ここで、新たに追加または拡大された救済手段①と②の内容に触れておく。①履行の追完請求とは、引き渡された目的物に契約不適合があるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡しまたは不足分の引渡しを請求するものである。また、②代金減額請求とは、引き渡された目的物に契約不適合があるときは、買主は、売主に対し、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求するものである。
旧民法下において認められていた③損害賠償請求、④解除については、債務不履行責任についての規律として一元的に整理・統合されたことから、債務不履行の一般的な規律が適用されることが明確化されている(564条)。
買主側の帰責事由がある場合の整理
現行民法においては、公平の観点から、契約不適合があったとしても、それが買主側の帰責事由によるものであるときは、①履行の追完請求ができず、②代金減額請求もできないこととされている(現行民法562条2項、563条3項)。また、④解除もすることができない(現行民法543条)。他方、③損害賠償請求については、買主側に帰責事由があることが直ちに請求を不可能ならしめるものではないが、過失相殺において考慮されることになる。
期間制限と通知義務
契約不適合責任を追及できる期間には、法律上、期間制限が定められている。現行民法においては、種類または品質に関する契約不適合がある場合にのみ、契約不適合責任追及に係る期間制限が適用され、数量や移転した権利に関しては、この期間制限は存在しない(現行民法566条本文)。旧民法下ではこのような区別はなかったため(旧民法566条3項)、この点も2017年改正法による改正事項の一つである。
ただし、企業間の取引は通常、商取引であるため、商法における期間制限(526条2項)を考慮する必要がある。この商法上の期間制限の対象は、2017年改正法による改正を受けていないため(商法526条2項前段)、結局、企業間取引については数量に関する不適合についても期間制限が適用されることとなることに留意が必要である。また、買主側が通知義務を負うことにも留意すべきであろう(商法526条2項)。
契約実務においてどのように対応すべきか
2017年改正法が施行されてから既に6年以上が経過しており、改正法対応がなされていない契約書は少なくなっているように思われる。ただし、それでもなお、「瑕疵担保責任」という用語が残っている契約書を実務で見かける機会がないわけではなく、だからこそ質問者もこのような疑問を持たれるのであろうと推察する。
そのような契約書を見かけたときに気を付けるポイントは、おおむね以下のとおりである。なお、民法および商法の契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)の規律は任意規定であり、契約書の定めによって上書きすることが可能である(法律の定めと契約書の定めでは、契約書の定めが優先する)。ただし、消費者契約法や宅建業法、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)の適用対象となる契約など、一部の契約類型においては、片方の当事者に一方的に有利な契約書の定めが無効になることもある点には留意されたい。
用語の置き換え
上記のとおり、旧民法下における「瑕疵」の実質的な意味合いは「契約不適合」と解されていたため、究極的には契約書上「瑕疵」のままであっても「契約不適合」と同義と解される場面が多いと思われる。ただし、2020年4月1日以降に締結された契約または同日以降に更新された契約(自動更新条項による更新を含む)には現行民法が適用されるため(民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則34条)、それを明確化する趣旨からも、「瑕疵」は「契約不適合」に改めるのが望ましい。用語自体の実質的な意味合いは変わっていないため、以下の救済手段等に関する明確化は別途必要であるものの、基本的には用語をそのまま置き換えれば足りる。
救済手段の明確化
旧民法下では、瑕疵担保責任の救済手段は一部の類型を除き「損害賠償」と「解除」に限られていたところ、現行民法下では①履行の追完請求、②代金減額請求、③損害賠償請求、④解除が規定されている。そのため、契約書においては、契約不適合があったときにこれらの各救済手段を認めるか否か、また認める場合の相互関係(どちらに救済手段を決定する権限があるのか、救済手段の優先関係はあるか、等々)を明確化することが望ましい。
買主側の帰責事由に関する規律
上記のとおり、現行民法では、契約不適合が買主側の帰責事由によるものであるときは、①履行の追完請求、②代金減額請求、④解除のいずれもできないこととされている。この規律に関しても契約書で取扱いを明確化しておくことが望ましい。すなわち、売主側であれば民法の規律がそのまま適用される方が有利である場合が多いだろうし、買主側であれば売主にも帰責事由がある場合(双方に帰責事由がある場合)は契約不適合責任を追及できるように、民法の規律を修正するような定めを契約書に盛り込むことが考えられる。
期間制限と通知義務
2017年改正法の前後を問わず、企業間取引においては商法の定めを考慮する必要がある。そのため、②の救済手段の明確化と併せて、各救済手段と期間制限・通知義務との対応関係についても明確化しておくことが重要である。
おわりに
以上のとおり、「瑕疵担保責任」と「契約不適合責任」は、用語としての実質的な意味合いに大きな違いはないものの、法的性質の明確化、救済手段の多様化、帰責事由に関する整理など、契約実務に影響を及ぼすさまざまな変更がなされている。
改正法施行から相当の時間が経過した今日においても、旧民法時代の条項が残存している契約書は散見されるため、契約書レビューの際には、上記のポイントを踏まえた確認・修正を行っていただければ幸いである。
日頃の契約関連業務の中で感じている疑問やお悩みがございましたら、ぜひアンケートフォームよりお聞かせください。
皆さまからお寄せいただいたご質問をもとに、記事内で弁護士が分かりやすく解説いたします。
→この連載を「まとめて読む」
- 筒井健夫=村松秀樹『一問一答 民法(債権関係)改正』(商事法務、2018年)275頁。)[↩]
朝倉 亮太
桃尾・松尾・難波法律事務所 弁護士
桃尾・松尾・難波法律事務所パートナー弁護士。取扱分野は契約書審査を含む一般企業法務のほか、紛争解決手続(訴訟・仲裁)、知財、個人情報、M&Aなど。13年東京大学法学部卒業。15年弁護士登録(第一東京弁護士会)。16年桃尾・松尾・難波法律事務所へ入所後、契約法務や紛争解決を含む企業法務に従事。事業会社への出向を経て、22年米国カリフォルニア大学バークレー校ロースクール卒業。22~23年ニューヨーク州Winston & Strawn LLP勤務。23年ニューヨーク州弁護士登録。現在Business&Lawにおいて「基礎の基礎から学ぶ契約書レビュー」と題するセミナーを配信中。
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吉田 憲正
桃尾・松尾・難波法律事務所 弁護士
23年慶應義塾大学法学部卒業。26年弁護士登録(第一東京弁護士会)、桃尾・松尾・難波法律事務所入所。
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