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―現役知財法務部員が、日々気になっているあれこれ。本音すぎる辛口連載です。

※ 本稿は個人の見解であり、特定の組織における出来事を再現したものではなく、その意見も代表しません。

やる前から勝算をしつこく聞いてくる事業部長をなんとかしたい!

裁判になったら勝てるのか負けるのか、行政指導を受けるのか受けないのか、クレームが来るのか来ないのか、特許が取れるのか取れないのか……。毎日毎日、そんな質問を受けているわけだが、“100%勝てる”、“絶対に問題ない”なんて気持ちの良い答えの出せるシチュエーションはほとんどない

法務担当者は、ひとつの法的論点を取り上げても、さまざまな例外、多様な解釈、法律以外の変数が与える影響などによって、結論がどうにでも左右されることを知っている。それゆえ、このような質問に安易な答えを出すことで「間違い」が起きることを避けたいと思うのである。

だからといって、何の答えにもなっていない玉虫色の御託を並べ立てても、残念ながら、ビジネスの世界では役に立たない。事業部門や経営者に対しては、自らの知見に基づき「やるべきか、やらざるべきか」で答えるべきであると、以前の当コラムでも述べた。

一方、「やるべきか、やらざるべきか」で答えても納得されず、以下のように、しつこく「勝てるのか、勝てないのか」を追及される場面もある。

いや、やるかやらないかを判断するために、見通しが必要なんだ。で、勝てるの? 勝てないの? 勝算は何パーセントなの?

うるせーーーー! 一生天気予報でも見てろ!!!と言いたくなるかもしれないが、そういうわけにもいかない。だからといって、80%とか60%とか答えて、負けたときに「法務が80%勝てると言っていたのに、外れたじゃないか!」と責任を押し付けられるのが不安……という方が少なくない。その結果、

「一般論としては勝てる係争ですが、相手方がどう出るかにもよりますし、最終的には裁判所が判断することですので、う~ん、どうでしょう。結局、やってみないことには分かりません……」

と、奥歯に物が挟まったような答え方をして、結局相手をイラつかせることになるのだ。

勝算を口にすることを、過度に恐れる必要はない!?

ただ、実際には、「法務が『勝算×%』と言った」という言質を取られて、にもかかわらず勝てなかったことを理由に法務部門の責任が問われる、という不安は、取り越し苦労であることが多い

裁判になればもちろん、トラブルの決着がつくまでには、長い時間がかかることが多いので、当初の見通しで得られた安心感など、忘れ去られていることが多いのである。担当者が異動や配置換えなどによって変わっていることも多く、「そんなこと言いましたっけ?」「確かに言ったかもしれませんが、状況は刻一刻と変わっているので」でやり過ごせることも結構あるのだ

決着がつくころに、「あの時、法務担当の○○さんは勝算×%と言ったよな?」と蒸し返されることを、そんなに恐れる必要はないのだ。何度もやり過ごしてきた筆者が言うのだから間違いない。もっとも、負けた時点の法務担当者は気まずいので、威張って言うことではないが。

稟議書など、後々も受け継がれるような公式文書上で、「法務部の見解…100%勝てます」みたいな内容は残さない方がよいかもしれないが、口頭やメールで勝算を述べることを、それほど躊躇する必要はないだろう

気を付けよう! ビッグマウスは両刃の剣

いっそのこと、ビッグマウス上等で、「任せてください、絶対勝てますよ!」と言い切ってやるのはどうだろうか? このようなセリフをよどみなく言える度胸があれば、相手は間違いなく安心するだろうなぁ。「法務部の○○さんは頼りになりそうだ!」と期待を高めることもできそうだ。そして実際、そのとおりの成果を出すことができれば、「期待通りだ! ○○さんはデキる人だ!」と評価はうなぎ上りに違いない。

自分の手腕に自信があって、6~8割がた勝てそうな所感であれば、イチかバチかに賭けるのも面白い人生だ。そして、こういうところで勝負に出ることができる人間こそ、成り上がる資格があるのだ。

もっとも、自信満々に大見得を切った紛争で負ければ、逆に「口先だけは一丁前だが、実は全然頼りにならない」という最悪のレッテルを貼られることにもなりかねない。ビッグマウスは両刃の剣であることも、認識しておかねばならない

相手も納得、自分も責任を負わない“魔法の言葉”教えます!

筆者は、いいとこ取りがしたいので、予防線を張りまくって相手をイライラさせることも、「絶対勝てます!」と無責任に断言することも、あまりしない。その代わりに多用しているのが、「勝つために全力を尽くします!」である

これが結構相手に響くのである。「絶対勝てます!」は、負ければウソになるが、「勝つために全力を尽くします」ならば、仮に負けてもウソではない。「全力を尽くしましたが、力及ばず負けてしまいました」であれば、信用を失いにくいのだ。少なくとも、大きな覚悟を伴うことなく、気負わずに言えるセリフではないだろうか?

事業部や経営者が、紛争などの勝算をしつこく尋ねるのは、正確な勝算そのものが知りたいからというよりも、「このまま紛争にリソースを投入していいのかどうか」を判断したいからである。勝率が50%なのか80%なのかの答えが得られなくても、目の前の法務部に全幅の信頼を寄せることができれば、「よし、やろう」と踏み切ることができる。要するに彼らの背中を押すことができればよいわけで、「勝つために全力を尽くします!」は、そのための有効打になるのだ。

ちなみに、勝ち筋の紛争ではない場合、社内でいい顔をしようと思って「全力を尽くしますよ!」などと言い放つのは考えものである。周囲に過度な期待を抱かせて、会社を負け戦に突入させることになるからだ。まずは、「現時点では負ける可能性がある。証拠を出せるかどうかにかかっている」「長期化する可能性があり、紛争に突入することはトータルでマイナスになるおそれがある。勝てたとしても費用倒れになる」などとハッキリ伝えよう。

それを踏まえてなお、会社として「戦おう」と意思決定をしたのなら、そのときにはじめて「わかりました。勝つために全力を尽くします!」と答えれば、カッコ良く見えますよ(戦況に応じて撤退する勇気も忘れずに!)

→この連載を「まとめて読む」

友利 昴

作家・企業知財法務実務家

慶應義塾大学環境情報学部卒業。企業で法務・知財実務に長く携わる傍ら、著述・講演活動を行う。著書に『明治・大正のロゴ図鑑』(作品社)『企業と商標のウマい付き合い方談義』(発明推進協会)『江戸・明治のロゴ図鑑』(作品社)『エセ商標権事件簿』(パブリブ)『職場の著作権対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)『エセ著作権事件簿』(パブリブ)『知財部という仕事』(発明推進協会)などがある。また、多くの企業知財人材の取材・インタビュー記事や社内講師を担当しており、企業の知財活動に明るい。一級知的財産管理技能士として、2020年に知的財産官管理技能士会表彰奨励賞を受賞。

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