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―現役知財法務部員が、日々気になっているあれこれ。本音すぎる辛口連載です。

※ 本稿は個人の見解であり、特定の組織における出来事を再現したものではなく、その意見も代表しません。

説明のない契約書修正に物申す!

契約相手と、契約書のドラフト修正の応酬をしているとき、一番腹が立つのは、何の説明もなく、文言を変更されたり、削除されることである。お皿を割った子どもが、割れた皿をそのまま食器棚に閉まって知らん顔をしていることがあるが、あれとまったく同じである。なんで、子どもってああいうことをするんでしょうね……。バレないと思っているのか、それとも、黙認を期待しているのか。そんな相手には、「何のためにお口はついてるんですか?」と叱る母親の如く、「何のためにWORDにコメント機能がついてるんですかー?」と小一時間ばかり問い詰めてみたいものである。

いや、私もいい大人なので、いちいち説明されなくても修正意図がわかるようなことに対しては、別に何も言いますまい。たとえば、何の説明もなくロイヤリティ料率が5%から10%に修正されていたら、「なるほど、お金が欲しいんですな~」と察するくらいの知恵は、こちらだって備えているのである(そして5%に再修正する)。
それに、契約条件の本質に関わらないような些末な箇所に対する変更であれば、特に説明がなくとも、気分を害さない程度には広い心を持っているつもりでもある。とはいうものの、「てにをは」の使い方や、条項番号の振り方など、本当に些末というか、「そんなの、どっちでもいいよね!?」というべき点を黙って修正されると、それはそれでなんか腹立つんですよね。ここは正直に「私は①よりも(1)の方が好きなんです」とコメントに書いてくれた方が、ほっこりするというか、好感を持つと思う。いや、実際やられたらウザいと思うかもしれませんが……。

私自身に経験はないが、ウソかマコトか、

「WORDでドラフトを送ったら、修正案が編集不可のPDFで返ってきた」
「修正履歴もつけずに、重要な箇所がしれっと修正されていた」
「修正案に合意していないのに、捺印された原本が送られてきた」

という話すら耳にしたこともある。そんなの、もはや反社会的行為じゃないですか!? 反社条項に該当するとみなして、今すぐに取引を停止してやりたいところではあります。

契約書案の、特に大事な部分を修正する場合には、やはり丁寧に修正理由を添えるべきでしょう。その修正理由に納得できれば譲歩のしようもあるが、誰だって、理由もわからないまま契約条件を変更することは受け入れがたいものである。
黙って5%から10%に修正されたロイヤリティ料率をまた黙って5%に戻すと、今度は相手からコメント付きで返事がくることがある。「ライセンス対象物には工数がかかっており、この事業規模では10%はいただかなければビジネスが成り立ちません」と。そう言ってくれれば、そこで初めて「そういうことなら10%で承知しました。その代わり、ミニマムギャランティを減額してもらえませんか?」などと、こちらも譲歩する気になるし、交渉が先に進むのである。

理由になっていないコメントは、理由がないのと同じ!?

もっとも、コメントがついてさえいれば何でもいいというものでもない。ときどき、理由になっていない修正理由をコメントに書いてくる人がいるが、あれもいかがなものでしょうか。たとえばこうだ。

「他のお取引先様とはこの条件で契約していただいておりますので」

沈没しかけている船に乗り合わせた日本人乗客を海に飛び込ませるには、「みなさん飛び込んでおられます」と言えばいいという有名なタイタニック・ジョークがあるが、まさにそれじゃないか! などと、私は思ってしまうのだが、みなさんはどうでしょう。案外、説得されてしまう人も多いかもしれませんね。そして、こういうやり口は、やはり海外事業者との契約交渉では通じないんですかねぇ……。

それから、「社内の規則により、この条件でしか契約ができませんので」と言われることもある。「いや、おたくの事情なんか知ったこっちゃありませんよ!」などと声を荒げては、かえってこちらが反社条項該当性を疑われるおそれがあるので言いませんが、やっぱり理由にはなっていないよねぇ。「なんでそういう規則になってるのか、納得できる理由を教えてくださいよ」という言葉がどうしても口から出かかってしまうのだが、私の性格が面倒くさいのかもしれません。
もっとも、「社内規則で決まってまして……」と言われると「規則でそう決まってるのなら、しょうがない」と諦めてしまう向きは確かにあると思う。それは、どんな規模のどんな業界で働く人にとっても、企業人なら「会社員は、社内規則には従わなければならない」という前提を共有しているからだ。一種のマジックワードであり、逆の立場になれば重宝する言い訳である。

しかし、冷静になって考えると、何も懲戒を受けるような契約条件を突きつけているわけではないのだから、

「本当にその規則、ちょっとでも柔軟に曲げられないんですか?」
「その規則を守るのと、うちとの取引を進めるのと、どちらを選びますか?」

くらいのことを言って、突き返すことを考えてみてもよいのではないでしょうか。

「お察しください」が孕む暴力性

そして、理由になっていない修正理由の最右翼が、「弊社事情をなにとぞお察しください」である。もう、泣きが入っちゃってる。しかし、これこそ何の説明にもなっていない。いや、頼むからその事情を言ってくださいよ!
多少なりとも察することのできる事情ならば、考慮のしようもある。たとえば「支払期日は3月末とさせてください。お察しください」と言われれば、「年度内の収入にしたいんだろうな。今年度の業績がよくないのかな」と想像することはできるのである。

しかしながら、ときどき、本当にこれっぽっちも察することができない場合があるから悩ましい。たとえば「契約期間は3年ではなく2年とさせてください。お察しください」と言われたらどうでしょう。「いや、わからん。何で?」という話ではないか。
もしかすると、察することのできない自分の知識と想像力が欠如しているのでは……と不安を覚えてしまう。だからといって、「え、どういうことですか?」と聞くのも無粋なようで憚られる。

だがしかし、案外、というかおそらく確実に、相手はそれを狙っているに違いないのだ。修正理由はおそらく、単に「その方がウチにとって都合がいい、得だから」である。そんな身も蓋もない、こちらが納得しようもない修正理由を追及されるのを牽制するために、「空気を読め」と言わんばかりに、追及しにくい言葉の盾で圧力をかけているだけではあるまいか。

そんな策略に呑まれず、空気を読まずに、ずけずけと切り込んでいく勇気を、時には持ちたいのです、私は。

友利 昴

作家・企業知財法務実務家

慶應義塾大学環境情報学部卒業。企業で法務・知財実務に長く携わる傍ら、著述・講演活動を行う。主な著書に『知財部という仕事』(発明推進協会)『オリンピックVS便乗商法—まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘』(作品社)『へんな商標?』(発明推進協会)『それどんな商品だよ!』(イースト・プレス)、『日本人はなぜ「黒ブチ丸メガネ」なのか』(KADOKAWA)などがある。一級知的財産管理技能士。

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