はじめに
「ごみを出すこと」はすべての企業の事業活動において発生している。工場で製品を製造する際には端材などのごみが、店舗やオフィスではそこで発生したごみが排出されている。しかし、ごみを出す行為は利益を生み出す行為ではないため、そこにおける企業の責任や契約について関心が払われる機会は必ずしも多くはない。
もっとも、廃棄物処理法の規制に違反した場合にはその内容によっては刑事罰も法定されているので、事業者における法令遵守は重要である。また、最近は、国としてサーキュラーエコノミーを実現するための取組みが推進され、出したごみを廃棄して終わりではなく、廃棄物の削減やリサイクルなどの取組みという面で新たな関心事となっている。こうした取組みの中で、廃棄物処理法を始めとする環境規制に触れる事業者も多くなってきている。
本稿では、事業活動で生じる廃棄物に関連する規制である廃棄物処理法における排出事業者の責任の概要と、実務で目にすることも多い廃棄物処理委託契約のチェックポイントを解説する。
廃棄物関連規制の概要
廃棄物の処理に関する規制の中核は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」または「法」という)である。
廃棄物処理法は、廃棄物の排出を抑制し、および廃棄物の適正な分別、保管、収集、運搬、再生、処分等の処理をし、ならびに生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全および公衆衛生の向上を図ることを目的とする法律である(法1条)。
その目的の達成のため、廃棄物処理法では、廃棄物の収集運搬および処分を業として行う者に市町村または都道府県知事の許可を取得することを必要として事業者を管轄自治体の監督下におくほか、廃棄物処理施設の設置にも事業者が市町村または都道府県知事の許可を取得することを要求している。
また、後述するとおり、産業廃棄物については事業者が排出事業者として、排出から処分まで適正に処分を行う責任を課している。
廃棄物処理法における事業者の規制
廃棄物該当性
廃棄物処理法の対象となるのは同法上の「廃棄物」に該当するものである。排出物が廃棄物に該当しない場合には廃棄物処理法は適用されないので、収集運搬や処分にあたっては同法の規制は及ばない一方、廃棄物に該当するとその取扱いには同法のさまざまな規制が及ぶことになる。
廃棄物の定義は「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう」と定められている(法2条1項)。そして、同条項の「不要物」とは、自ら利用しまたは他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい、これに該当するか否かは、その物の性状、排出の状况、通常の取扱い形態、取引価値の有無および事業者の意思等を総合的に勘案して決するものと解されている(最二小決平成11年3月10日刑集53巻3号339頁)。
上記の判断枠組みは、廃棄物の客観的な性状や取扱い状況を総合的に判断するもので「総合判断説」と呼ばれる。また、行政実務においては、上記の各要素が通知により具体化されているので注1、廃棄物に該当するかはこれらを見て判断することになる。
ただし、実務上は、取引価値の有無が非常に重視されており、有価物として売買しているという実態がない場合には原則として廃棄物であるとの認定を受けることが多い点に注意が必要である。
廃棄物の種類
事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理する責務を負っている(法3条1項)。
廃棄物処理法上の廃棄物には、大きく分けて、一般廃棄物と産業廃棄物がある。さらに、これらのうち、爆発性、毒性、感染性その他の人の健康または生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有するものとして政令で定めるものについては、それぞれ、特別管理一般廃棄物と特別管理産業廃棄物として分類される。
一般廃棄物とは、産業廃棄物以外の廃棄物を指すので(法2条2項)、ここでは産業廃棄物の定義を説明する。
産業廃棄物とは、①事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物、および、②輸入された廃棄物ならびに日本に入国する者が携帯する廃棄物を指す(法2条4項)。
①については、事業活動に伴って生じていることと、政令で定める分類に該当することの双方が必要であり、事業で排出される廃棄物のすべてが産業廃棄物に該当する訳ではない。
一般廃棄物の処理責任は市町村にあり、市町村が処理計画を立てて、それに従って収集運搬と処理を行う。事業活動に伴って排出される廃棄物であって、政令で定める産業廃棄物の分類に該当しない廃棄物は「事業系一般廃棄物」などと呼ばれ、排出する事業者は、これを自ら処理をするか、排出地の市町村の計画に適合するよう分別排出をすることが求められる。
一方、産業廃棄物については、当該産業廃棄物を排出する事業者が、排出事業者として排出から処分までの責任を一貫して負っている(法3条、11条1項参照)。廃棄物処理法が許容している産業廃棄物の処理の方法は①排出事業者が自ら処理をする方法、または、②許可のある処理業者に委託する方法の2つである。
いずれの場合も、法令において、事業者が遵守すべき細かな規制が課されている。
業規制
廃棄物を収集運搬することや、処分(リサイクルを含む)をすることを業として行うためには、一般廃棄物については市町村長の、産業廃棄物については都道府県知事の許可がそれぞれ必要である(法7条1項、7条6項、14条1項、14条6項)。
この許可は当該収集運搬や処分を行う市町村や都道府県ごとに必要であり、一般廃棄物の収集運搬および処分の許可については毎年、産業廃棄物の収集運搬および処分については原則として5年ごとの許可の更新が必要となる。
また、一般廃棄物および産業廃棄物の処理施設を設置する場合には、当該施設の所在地を管轄する都道府県知事の許可が必要である(法8条1項、15条1項)。
このように取り扱う物がひとたび廃棄物であるとされるとそれを集めて運ぶのにも、処理をするのにも行政の許可が必要になるのである。
上記の廃棄物の処理や施設の設置許可が必要な場合には、いくつかの例外がある。
以下にその概要を示すが、近年は、効率的なリサイクルの推進のためにこうした例外規定を新たに法律で設けること等により廃棄物の効率的な収集運搬や処分を行えるような制度作りが進んでいる。たとえば、2022年4月から施行されているプラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律や、2024年に制定された資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律では、法律に従った認定を受けた場合には廃棄物処理法に基づく許可を得ることなく廃棄物の処理を行うことのできる制度が設けられている。
図表1 廃棄物の処理の業の許可および施設の設置許可の例外
根拠条文(廃棄物処理法) | 概要 | |
専ら再生利用の目的となる廃棄物(いわゆる専ら物)のみの収集・運搬・処分 |
7条1項ただし書、同6項ただし書、14条1項ただし書、同6項ただし書 |
専ら再生利用の目的となる廃棄物のみの収集・運搬・処分を業として行う者その他環境省令で定める者 →当該廃棄物の収集・運搬・処分が可能 |
再生利用認定制度 |
9条の8、15条の4 |
廃棄物の再生利用につき、環境大臣の認定を受けた者 →当該認定に係る収集・運搬・処分が可能 |
広域認定制度 |
9条の9、15条の4の3 |
廃棄物の広域的な処理を行う者が環境大臣の認定を受けたとき →当該認定に係る収集・運搬・処分が可能 |
石綿含有産業廃棄物の無害化処理に係る特例 |
15条の4の4 |
石綿含有産業廃棄物等につき高度な技術を用いた無害化処理を行うことにつき環境大臣の認定を受けた者 →当該認定に係る収集・運搬・処分が可能 |
他の法律で特例がある場合 |
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【例】 ・家電リサイクル法に基づく収集・運搬(同法49条1項)、認定事業者からの受託者(同法49条2項) ・小型家電リサイクル法に基づく認定事業者(同法10条) ・プラスチック資源循環促進法に基づく自主回収・再資源化事業計画の認定事業者(同法39条、48条、50条)、 ・再資源化高度化法に基づく認定事業者(同法11条、16条、20条) |
排出事業者の責任
(1) 排出事業者責任の内容
上記⒉で述べたのとおり、産業廃棄物の排出事業者は、自己の排出した産業廃棄物を①排出事業者が自ら収集運搬または処分をする方法(法12条1項。以下「自ら処理」という)、または、②許可のある処理業者に委託する方法(同条5項)により処理する責任を負っている。排出事業者の責任については、環境省による「廃棄物事業者責任に基づく措置に係るチェックリスト」注2が参考になる。
自ら処理を行う場合には、政令で定める産業廃棄物の収集、運搬および処分に関する基準に従わなければならない。政令で定めるこれらの基準は厳格なものとなっているため、許可を有する処理業者に産業廃棄物の収集運搬および処分を委託している事業者が多いと思われる。
排出事業者は、産業廃棄物の処理を委託する場合、都道府県知事の許可を有する産業廃棄物処理業者に委託をしなければならない。また、委託基準を遵守する必要があるほか(法12条5~7項)、産業廃棄物の搬出までの間は、保管基準を遵守しなければならない(法12条2項)。
委託基準の内容は政令および省令で定められている。具体的には、産業廃棄物の収集運搬ならびに処分ないし再生が当該委託先の事業の範囲に含まれるものであることと(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(以下「令」という)6条の2第1号および2号)、委託契約を書面で行い、かつ、法定記載事項と所定の書面が添付される必要がある(同令6条の2第4号)。
産業廃棄物処理に係る委託契約は事業の中で目にする機会が多いと思われるので、以下(2)でチェックポイントを説明する。
また、排出事業者が遵守すべき義務としては産業廃棄物管理票(マニフェスト)に関する義務がある。マニフェストは、排出事業者が廃棄物の処理を委託する際に処理業者に交付し、処理終了に係る写しの送付を受け、送付を受けた日から5年間保存をしなければならない(法12条の3、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(以下「規則」という)8条の26)。マニフェストに係る義務違反に対しては、刑事罰も定められている(法27条の2)。
その他、多量排出事業者(前年度の産業廃棄物の発生量が1000トン以上である事業場を設置している事業者)については、当該事業場に係る産業廃棄物の減量その他その処理に関する計画を作成して都道府県知事に提出するとともに、当該計画の実施の状況について、環境省令で定めるところにより、都道府県知事に報告しなければならない(法12条9項、10項)。違反をした場合には過料が科されることになっている(法33条2号、3号)。
(2) 廃棄物処理委託契約書のチェックポイント
廃棄物処理委託契約の法定記載事項やモデル契約は自治体がホームページなどで公表しているため、参考になる。
委託契約を締結するにあたっては、まず、契約書で法定記載事項が網羅されていることの確認が必要である。産業廃棄物の処理業者から提示される契約はほとんどの場合法定記載事項を充足しているものと思われるが、稀に政省令の改正に対応ができていない例があるので注意が必要である。
以下の法定記載事項の一覧は東京都のウェブサイト注3からの抜粋である。
図表2 廃棄物処理委託契約の法定記載事項注4
必要な条項 |
委託の種類への対応 | ||
収集運搬 | 処分 | ||
委託する産業廃棄物の種類 |
適用 |
適用 |
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委託する産業廃棄物の数量 |
適用 |
適用 |
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運搬の最終目的地 |
適用 |
— |
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処分又は再生の場所の所在地 |
— |
適用 |
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処分又は再生の方法 |
— |
適用 |
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処分又は再生の施設の処理能力 |
— |
適用 |
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最終処分の場所の所在地 |
— |
適用 |
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最終処分の方法 |
— |
適用 |
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最終処分施設の処理能力 |
— |
適用 |
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委託契約の有効期間 |
適用 |
適用 |
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委託者が受託者に支払う料金 |
適用 |
適用 |
|
産業廃棄物許可業者の事業の範囲 |
適用 |
適用 |
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積替え又は保管 [収集運搬業者が積替え、保管を行う場合に限る] | 積替え保管場所の所在地 |
適用 |
— |
積替え保管場所で保管できる産業廃棄物の種類及び保管上限 |
適用 |
— |
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安定型産業廃棄物の場合、他の廃棄物との混合への許否等 |
適用 |
— |
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委託者側からの適正処理に必要な情報 | 産業廃棄物の性状及び荷姿に関する情報 |
適用 |
適用 |
通常の保管で、腐敗・揮発等の性状変化がある場合の情報 |
適用 |
適用 |
|
他の廃棄物と混合等により生ずる支障等の情報 |
適用 |
適用 |
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JISC0950に規定する含有マークの表示に関する事項 |
適用 |
適用 |
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石綿含有産業廃棄物、水銀含有産業廃棄物又は水銀含有ばいじん等が含まれる場合は、その旨 |
適用 |
適用 |
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その他取り扱いの際に注意すべき事項 |
適用 |
適用 |
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契約期間中に適正処理に必要な情報(上記6項目)に変更があった場合の情報伝達に関する事項 |
適用 |
適用 |
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委託業務終了時の受託者の委託者への報告に関する事項 |
適用 |
適用 |
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委託契約を解除した場合の処理されない産業廃棄物の取り扱い |
適用 |
適用 |
排出事業者は、委託する処理業者を自らの責任で決定すべきものであり、また、処理業者との間の委託契約に際して、処理委託の根幹的内容(委託する廃棄物の種類・数量、委託者が受託者に支払う料金、委託契約の有効期間等)は、排出事業者と処理業者の間で決定し、これらの決定を(コンサル会社などの)第三者に委ねるべきではないとされている注5。
なお、委託料は適正な金額である必要があり、適正な対価を負担していないと認められたときは、委託をした廃棄物の不法投棄や不適正処理があった場合に排出事業者が措置命令の対象となることがある(法19条の6第1項2号)。
また、委託契約書には、産業廃棄物処理の処理業者の許可証の写しを添付しなければならない(令6条の2第4号、規則8条の4)。
委託をする事業者(排出事業者)においては、許可期間が有効なものであることのほか、当該許可証の写しと委託契約書とを照らし合わせて委託内容が許可事業の範囲内であること等両者の記載内容に齟齬がないかを確認しておく必要がある。委託契約書は契約終了後も5年間の保存が義務付けられている(規則8条の4の3)。
法定の委託契約を締結していない場合は、委託基準違反として罰則(自然人につき3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、法人の両罰規定あり)が課される可能性がある(法26条1号、32条1項2号)。
(3) その他実務上の留意点
廃棄物を適正かつ安全に処理をするためには、排出事業者から処理業者に廃棄物に関する適切な情報提供が必要であり、前記(図表2)のとおり委託契約書では、「委託者の有する委託した産業廃棄物の適正な処理のために必要な事項に関する情報」が法定記載事項とされている。
なお、この情報伝達のため、処理の委託に当たっては廃棄物データシート(WDS)を提供することも推奨される注6。また、排出事業者においては、自身が排出した廃棄物が事故や労働災害注7を引き起こすリスクがあることを認識し、適切に分別排出を行うことも重要である。
廃棄物処理法では、排出事業者は、産業廃棄物の処理の状況に関する確認を行い、当該産業廃棄物について発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程における処理が適正に行われるために必要な措置を講ずるように努めなければならないとされている(法12条7項)。ここでいう「必要な措置」は、委託先の施設の外観や情報を単に見るだけといった形式的な確認ではなく、委託した産業廃棄物の保管状況や実際の処理工程等について、処理業者とコミュニケーションをとりながら確認を行うことや、公開されている情報について、不明な点や疑問点があった場合には処理業者に回答を求めることなど、法に基づき適正な処理がなされているかを実質的に確認することが重要とされている注8。
この規定は努力義務ではあるものの、排出事業者が適正処理の確認をしていないことは、万一自身の排出した産業廃棄物につき不法投棄や不適正処理が発生した場合において行政からの措置を命ぜられる根拠となる可能性がある(法19条の6第1項第2号参照)。
実務上、現地確認によって処理業者による不適正処理が判明するケースもある。処理業者における不適正処理等が判明した場合には、すみやかに管轄の自治体に報告をして適切な対応を講ずる必要がある。
- 「行政処分の指針について(通知)」令和3年4月14日環循規発第 2104141 号環境省環境再生・資源循環局廃棄物規制課長通知。[↩]
- 環境省環境再生・資源循環局 廃棄物規制課「排出事業者責任に基づく措置に係るチェックリスト」。[↩]
- 東京都環境局「委託契約書」。[↩]
- 委託契約書の法定記載事項は規則改正により追加されてきている例も多く、2026年1月からは「特定化学物質の環境への排出量の把握及び管理の改善の促進に関する法律(化管法)の第一種指定化学物質等取扱事業者である場合で、委託する産業廃棄物に第一種指定化学物質を含む等の場合は、当該物質の名称及び量又は割合」の項目も記載を義務付けられる。[↩]
- 「廃棄物処理に関する排出事業者責任の徹底について(通知)」平成29年3月21日環廃対発第1703212号、環廃産発第1703211号環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課長・産業廃棄物課長通知。[↩]
- 詳細は環境省のウェブサイトにガイドラインが掲載されている(環境省「廃棄物情報の提供に関するガイドライン」)。[↩]
- スプレー缶による破砕機の損壊や引火物の混入による爆発、有毒ガス発生による作業員の中毒などの事例が報告されている(前掲注(5)参考資料2「労働災害動向調査等」)。[↩]
- 前掲注(2)14~15頁。[↩]

町野 静
弁護士法人イノベンティア パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士
慶應義塾大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院及びデューク大学ロースクール修了。07年より弁護士。慶應義塾大学非常勤講師(環境法)。第一東京弁護士会環境保全対策委員会副委員長。経済産業省産業構造審議会・化学物質政策小委員会、産業技術環境分科会資源循環経済小委員会(容器包装リサイクルWG及び自動車リサイクルWG)、産業環境対策小委員会の各委員会委員を務める。専門は、知的財産法、環境法、国際取引。