FATF対応法案の成立が実務に与える影響等(上) - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに

技術の進化による決済手段の多様化や取引のグローバル化等が進展し、金融取引がより複雑化する中、金融機関等によるリスクに応じたマネーローンダリング(以下「マネロン」という)・テロ資金供与・拡散金融(以下「マネロン等」という)対策の高度化は国際的な要請であり、マネロン等対策の脆弱性が金融機関等の経営に与える影響も大きくなっている。
こうした中、2019年5月から金融活動作業部会(Financial Action Task Force(以下「FATF」という))による第4次対日相互審査(以下「第4次審査」という)が開始され、2021年6月のFATF全体会合における採択を経て、同年8月30日、第4次審査の報告書として、FATF「Anti-Money laundering and counter-terrorist financing measures Japan Mutual Evaluation Report」(以下「報告書」という)が公表された注1。また、同日、政府は、報告書における様々な指摘に対応するための計画として、「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画」(以下「行動計画」という)を公表した注2
行動計画においては、以下の図表1のような計画が示されていたところ、これに対応するものとして、2022年10月26日、「国際的な不正資金等の移動等に対処するための国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法等の一部を改正する法律案」(以下「FATF対応法案」という)が、国会に提出された注3。本稿執筆時点では、FATF対応法案は、来春にも成立するとの報道もなされている。

図表1 FATF対応法案に関連する行動計画(概要)

2022年夏

・ マネロンを行った場合の罪の法定刑の引き上げ

・ テロ資金供与罪の強化

・ 資産凍結措置の範囲の拡大と明確化

・ 大量破壊兵器拡散に関わる居住者の資産凍結 等

2022年秋

指定非金融業者及び職業専門家(Designated Non-Financial Business and Professions(以下「DNFBPs」という))における継続的顧客管理・厳格な顧客管理、疑わしい取引の届出の質の向上 等

連載第15回の本稿では、FATF対応法案の概要を解説することとし、第16回の次稿では、FATF対応法案が成立した場合、特に民間事業者にどのような実務対応が必要となるのか、どのような影響が生じうるかを考察する。

FATF対応法案の概要

FATF対応法案により改正される法律

FATF対応法案が成立すれば、次の法律が改正されることとなる。

・ 「国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法」(平成26年11月27日法律第124号)(以下「財産凍結法」という)

・ 「外国為替及び外国貿易法」(昭和24年12月1日法律第228号)(以下「外為法」という)

・ 「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」(平成11年8月18日法律第136号)(以下「組織的犯罪処罰法」という)

・ 「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(平成3年10月5日法律第94号)(以下「麻薬特例法」という)

・ 「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律」(平成14年6月12日法律第67号)(以下「テロ資金提供処罰法」という)

・ 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(平成19年3月31日法律第22号)(以下「犯罪収益移転防止法」という)

以下では、これらの法律の改正のポイントを概観する。

財産凍結法の改正

財産凍結法は、財産の凍結の対象者に対し、一定の行為を行う場合には、都道府県公安委員会の許可を受ける義務を課すとともに、当該対象者と取引を行う者に対し、許可証の提示なしに当該一定の行為を行ってはならない旨を定めている。

財産凍結法に関する主な改正のポイントは図表2のとおりである。

図表2 財産凍結法改正のポイント

法律の名称の変更

名称のうち「我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法」を「我が国が実施する財産の凍結等に関する特別措置法」という名称に変更される。

法律の目的の追加

「国際的なテロリズム行為」に加え、「大量破壊兵器等の開発等の防止」が法律の目的に加えられる。

法律に基づき財産の凍結等を行う者の範囲の拡大

「国際的なテロリズム行為を行った者(公告国際テロリスト)」に加え、「大量破壊兵器等の開発等※1を行った者(公告大量破壊兵器関連計画等関係者)」についても、財産の凍結等を行うこととされる。

財産の凍結等の措置の内容の拡充

・ 従前は、「金銭債務の履行を行うこと」が規制対象とされていたところ、改正により、「金銭および金銭以外のその財産的価値の移転が容易な財産に係る債務の履行を行うこと」が規制対象とされる※2

・ 従前は、その履行が「規制されている金銭債権の譲渡」が規制対象とされていたところ、譲渡が制限される債権は金銭債権に限定されないこととされる。

※1 「大量破壊兵器の開発等」とは、核兵器、軍用の化学製剤、もしくは細菌製剤、もしくはこれらの散布のための装置、またはこれらを運搬することができる物資の開発、製造、保有、譲渡、譲受け、および使用を意味する(改正案による改正後財産凍結法1条で定義)。

※2 現在は、財産凍結法施行令6条により、
① 預貯金等に係る債務
② 保険契約等に基づく年金、満期保険金、満期返戻金、解約返戻金又は満期共済金の支払に係る債務
③ 金銭貸借契約に基づく借入金の返還に係る債務(当該債務の保証に係る債務を含む)
等が「金銭債務」として指定されている。財産凍結法の改正後、具体的に、「金銭以外の財産的価値の移転が容易な財産に係る債務」が施行令により具体化されるものと考えられる。

外為法の改正

外為法は、日本の居住者および非居住者との間の取引のうち、資産凍結の対象者が関係するものについて、取引の当事者に財務大臣等の許可を受ける義務を課している。また、銀行等、および資金移動業者が為替取引を行う場合、および暗号資産交換業者が暗号資産の移転を行う場合には、これらの事業者に対し、取り扱う為替取引および暗号資産の移転等が外為法上許可が必要な取引であるか否か、および当該許可が必要な取引について必要な許可を受けているか否かを、それぞれ確認する義務を課している(以下「適法性の確認義務」という)。その他、銀行、資金移動業者、および暗号資産交換業者に対し、一定の取引を顧客と行う場合おいて、当該顧客の本人確認を行う義務を課している。

外為法に関する主な改正のポイントは図表3のとおりである。

図表3 外為法改正のポイント

資産凍結の対象となる取引の拡充

電子決済手段等の移転等を取り扱う事業者に対し、「電子決済手段等の移転等」について、財務大臣等の許可が必要な取引でないかを確認する義務を課すこととされる。

本人確認義務を負う事業者の範囲を拡大

「電子決済手段等の移転等を取り扱う事業者」に対し、一定の取引を顧客と行う場合に顧客の本人確認を行う義務を課すこととされる。

政府において事業者が遵守すべき基準の策定する義務を新設

・ 主務大臣に対し、銀行等その他の金融機関等、資金移動業者、両替業者のうち一定の者に対し、一定の取引を行うにあたって遵守すべき基準(以下「外国為替取引等取扱業者遵守基準」という)を定める義務を課すこととされる。

・ 主務大臣は、外国為替取引等取扱業者遵守基準に従った外国為替取引が適切に行われるために、各種の指導、助言、勧告、および命令を行うことができることとされる。

※ 法律案では、「電子決済手段等取引業者等」と定義づけられている。「電子決済手段」とは、2022年6月3日に成立した「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年6月10日法律第61号)により改正された「資金決済に関する法律」(以下「改正資金決済法」という)等に新たに設けられた概念であり、銀行、資金移動業者、および信託会社が発行するデジタルマネー類似型のステーブルコインが典型例である。電子決済手段と暗号資産を併せ、法律案による改正外為法では「電子決済手段等」と定義づけられている。

組織的犯罪処罰法の改正

組織的犯罪処罰法は、一定の犯罪により得た収益等(以下「犯罪収益等」という)について、その取得もしくは処分につき事実を仮装し、または犯罪収益等を隠匿する行為について、罰則を設けている(以下「犯罪収益等隠匿罪」という)。また、同法は、事情を知って犯罪収益等を収受する行為についても、罰則を設けている(以下「犯罪収益等収受罪」という)。その他、同法は、犯罪収益等に関する没収に関する規定を設けている。

組織的犯罪処罰法に関する主な改正のポイントは図表4のとおりである。

図表4 組織的犯罪処罰法改正のポイント

法定刑の厳格化

・ 犯罪収益等隠匿罪の法定刑は、「5年以下の懲もしくは300万円以下の罰金またはその併科」とされているところ、「10年以下の罰金もしくは1000万円以下の罰金またはその併科」とされる。

・ 犯罪収益等収受罪の法定刑は、「3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはその併科」とされているところ、「7年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはその併科」とされる。

犯罪収益等として没収することができる財産の拡大

犯罪収益等については、「不動産もしくは動産または金銭債権であるとき」に限りこれを没収することができるものとされていたところ、このような形態で存在するものでない場合でも、没収することができることとされる。

麻薬特例法の改正

麻薬特例法は、違法薬物の輸出入等により得た収益等(以下「薬物犯罪収益等」という)について、その取得もしくは処分につき事実を仮装し、または薬物犯罪収益等を隠匿する行為について、罰則を設けている(以下「薬物犯罪収益等隠匿罪」という)。また、同法は、事情を知って薬物犯罪収益等を収受する行為についても、罰則を設けている(以下「犯罪収益等収受罪」という)。

麻薬特例法に関する主な改正のポイントは図表5のとおりである。

図表5 麻薬取締法改正のポイント

法定刑の厳格化

・ 薬物犯罪収益等隠匿罪の法定刑は、「5年以下の懲もしくは300万円以下の罰金またはその併科」とされているところ、「10年以下の罰金もしくは500万円以下の罰金またはその併科」とされる。

・ 犯罪収益等収受罪の法定刑は、「3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはその併科」とされているところ、「7年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはその併科」とされる。

テロ資金提供処罰法の改正

テロ資金提供処罰法は、公衆または国もしくは地方公共団体もしくは外国政府等を脅迫する目的(以下「公衆等脅迫目的」という)で一定の犯罪行為を行うこと、そうした犯罪行為のために資金等を提供させること、そうした犯罪行為のために資金等を提供すること等について、罰則を設けている。

テロ資金提供処罰法に関する主な改正のポイントは図表6のとおりである。

図表6 テロ資金提供処罰法改正のポイント

法律の名称の変更

「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律」から、「公衆等脅迫目的の犯罪行為等のための資金等の提供等の処罰に関する法律」に名称が変更される。

規制対象の犯罪行為の追加

既存の犯罪行為に加え、国際的に保護される者を殺害する行為その他の一定の犯罪行為を「特定犯罪行為」と定義し、「公衆等脅迫目的」がなくとも本法による規制の対象とすることができる行為の類型を拡充する。

各処罰規定の構成要件の拡充および法定刑の引上げ

資金提供等を行った場合に罰則を科せられる対象となる行為に「特定犯罪行為」が追加され、資金提供等の行為にかかる法定刑が引き上げられる。

犯罪収益移転防止法の改正

犯罪収益移転防止法は、一定の類型の事業者を「特定事業者」と定義づけ、取引時確認や、疑わしい取引の届出を行う義務等を課している。

犯罪収益移転防止法に関する主な改正のポイントは、図表7のとおりである。

図表7 犯罪収益移転防止法改正のポイント

一定の特定事業者が行う取引時の確認事項の追加

・ 司法書士等、行政書士等、公認会計士等、および税理士等が一定の取引を行う場合に行うべき取引時の確認事項に、「取引を行う目的」「職業・事業内容」「実質的支配者の本人特定事項※1」が追加される。

・ 弁護士等※2については、日本弁護士連合会の会則により「本人特定事項の確認」に相当する措置を定める旨規定されていたところ、同会則において、「取引時確認」に相当する措置を定める旨に変更される。

一定の特定事業者に対し、疑わしい取引の届出を行う義務を課す旨の定めを新設

行政書士等、公認会計士等、および税理士等に対し、特定受任行為※3の代理等において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあるかどうか、または顧客等が当該特定受任行為の代理等に関し犯罪収益等隠匿罪もしくは薬物犯罪収益等隠匿罪に当たる行為を行っている疑いがあるかどうかを判断し、これらの疑いがあると認められる場合には、すみやかに行政庁に届け出る義務が課されることとなる。

外国為替取引及び電子決済手段の移転に関して、「支払いまたは移転先の金融機関等」に対する通知義務を追加

外国為替取引および電子決済手段の移転に係る通知事項に、「支払いまたは移転の相手方の本人特定事項」が加えられる。

外国所在暗号資産交換業者との間で、一定の契約を締結する際の確認義務に関する定めを新設

暗号資産交換業者に対し、暗号資産交換業者が外国所在暗号資産交換業者との間で暗号資産の移転を継続的にまたは反復して行うことを内容とする契約を締結する際、銀行等によるコルレス先※4に対する確認事項に相当する事項を確認する義務を課すこととされる。

暗号資産の移転に関して、移転先の暗号資産交換業者に対する通知義務に関する定めを新設

暗号資産交換業者に対し、暗号資産交換業者が他の暗号資産交換業者に対して暗号資産の移転を行う際、当該移転の依頼に係る顧客及び受取人の本人特定事項等を通知すべき義務を課すこととされる。

※1 自然人の本人特定事項とは、氏名、住居、及び生年月日をいう(現行犯罪収益移転防止法4条1項)。

※2 「司法書士等」とは「司法書士」および「司法書士法人」を、「行政書士等」とは「行政書士」および「行政書士法人」を、「公認会計士等」とは「公認会計士」および「監査法人」を、「税理士等」とは「税理士」および「税理士法人」を、「弁護士等」とは「弁護士」および「弁護士法人」を指す(現行犯罪収益移転防止法2条2項45号~49号を参照)。

※3 犯罪収益移転防止法別表2において、
① 宅地または建物の売買に関する行為または手続
② 会社の設立、合併等会社の組織、運営または管理に関する行為または手続
③ 現金、預金、有価証券その他の財産の管理または処分についての代理または代行
と定義づけられている。

※4 国際決済のために外国に所在する金融機関等との間で、電信送金の支払い、手形の取立て、信用状の取次ぎ、決済等の為替業務、資金管理等の銀行業務について委託または受託する場合における、当該外国所在の金融機関のこと。

おわりに

以上が、FATF対応法案の概要である。
犯罪収益等隠匿罪の法定刑の引上げなどは、必ずしも民間事業者に特段の影響があるものとは考えられない一方で、犯罪収益移転防止法および外為法の改正は、民間事業者に対して新たな義務を課すものであり、相応に影響のあるものとなる可能性がある。次稿では、これらの法改正に関して、民間事業者としてどのような備えをしておくことが望ましいかといった観点から、考察したい。

→この連載を「まとめて読む」

[注]
  1. FATFホームページ「Japan's measures to combat money laundering and terrorist financing」を参照。[]
  2. 財務省ホームページ「FATF(金融活動作業部会)対日相互審査報告書が公表されました」(令和3年8月30日)を参照。[]
  3. 内閣官房ホームページ「国会提出法案(第210回臨時国会)」を参照。[]

岡﨑 頌央

弁護士法人御堂筋法律事務所(東京事務所) 弁護士

2017年神戸大学大学院法学研究科実務法律専攻修了。2018年弁護士登録、2019年弁護士法人御堂筋法律事務所(大阪事務所)入所。2020年金融庁総合政策局リスク分析総括課マネーローンダリング・テロ資金供与対策企画室勤務(専門検査官等)。2022年弁護士法人御堂筋法律事務所(東京事務所)復帰。金融レギュレーション、AML/CFT/CPF対応、反社会的勢力対応等、労働関連法務、コーポレート/M&A、訴訟・紛争対応を注力分野とする。

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