はじめに
令和5年の景表法改正により「確約手続」が導入された。
確約手続とは、景表法に違反する行為があると疑うに足りる事実がある場合において、事業者が是正措置計画(以下、「確約計画」という)を自ら策定し、消費者庁がこれを認定した場合には、当該行為について行政処分の対象とはしない制度である(景表法26条以下)。
確約手続の導入に関する景表法の改正は令和6年10月1日から施行されており、令和7年2月26日には、消費者庁が確約計画を認定した初の事案注1も公表された。
そこで、本稿では、次の仮想事例を用いて、確約手続の流れを概観する。
<仮想事例>
A株式会社(以下、「A社」という)はダイエットサプリX等の健康食品について自社のウェブサイト上で通信販売を行っている。A社は、令和6年10月1日から令和7年1月31日までの間、自社のウェブサイトにおいて「ダイエットサプリXを飲むだけで、1か月で7キロ痩せた!」との表示を行うとともに、痩せた消費者について、ダイエットサプリXを飲む前と後の写真を掲載した。しかし、実際には、その消費者はダイエットサプリXを飲んでいたものの、食事制限や運動を行った結果痩せたものであった。
上記仮想事例においては、一般消費者は「ダイエットサプリXを飲むだけで痩せる」と考えてダイエットサプリXを購入すると考えられるところ、実際には、痩身効果を得るためには、食事制限や運動を行うことが必要であることから、優良誤認表示(景表法5条1号)に該当し、措置命令や課徴金納付命令の対象となりうる。
確約手続の流れは概要以下の図表1のとおりである。
図表1 景表法の確約手続の流れ
※1 繰り返し違反、悪質重大な違反被疑行為の場合は対象外。
※2 確約手続通知を行えるのは弁明の機会の付与の通知がされるまで(景表法26条ただし書、30条ただし書)。
出典:消費者庁表示対策課「【令和6年10月1日施行】改正景品表示法の概要」4頁の図表を基に作成。
調査の開始から確約手続通知の実施まで
仮想事例における調査開始〜確約通知の実施
上記の仮想事例において、A社は消費者庁から、令和7年1月31日、ダイエットサプリXについて、飲むだけで痩せると思って購入して飲んでいるが痩せないという苦情が消費者から多数寄せられているため、「ダイエットサプリXの表示について優良誤認表示の疑いて調査を開始した」旨の通知を受けた。
この通知を受けてA社が社内調査を行ったところ、「ダイエットサプリXを飲むだけで、1か月で7キロ痩せた!」との表示に掲載された消費者は、ダイエットサプリXを飲んでいたものの、食事制限や運動を行った結果痩せたものであって、ダイエットサプリXを飲むだけで痩せたとはいえないことが判明した。また、A社の顧問弁護士に相談したところ、この表示が景表法の優良誤認表示に当たるおそれがあるとのアドバイスを受けた。
そこで、A社は、この表示が確約手続の対象となるかどうかにつき消費者庁に確認したところ、対象となりそうだとの感触を得たため、確約手続に付すことを希望する旨を消費者庁に申し出た。
消費者庁としては、この申出も踏まえ、平成7年3月31日付けで、A社に対して以下の確約手続通知(図表2参照)を行った。
図表2 確約手続通知書
※ この通知書は、独占禁止法に基づく確約手続における確約手続通知書を参考に、筆者らが作成したものであって、消費者庁からの確約手続通知書が必ずしもこのような体裁、内容になるとは限らないことに、留意されたい。
解説
(1) 調査の開始
確約手続を利用するにあたっては、消費者庁から確約手続に係る認定の申請を行うことができる旨の通知(確約手続通知)を受ける必要があるが(景表法26条)、確約手続通知は消費者庁から突然なされるものではなく、まずは、違反被疑行為についての調査が開始された旨が通知される運用となっている(パブコメ注2No.11)。
(2) 確約手続に関する相談
確約手続通知を受けた場合には、60日以内に確約計画を作成し、申請をしなければならないが(景表法27条1項)、実際に60日間で確約計画を作成することが困難な場合もありうる。
そのため、調査の開始についての通知を受けた後、事業者が確約手続の利用を希望する場合は、事業者から消費者庁に対して、確約手続に付すことを希望する旨を相談し、確約手続を利用することができそうであれば、確約計画に記載する内容についてもあらかじめ消費者庁に相談しておき、確約手続通知を受ける段階では確約計画の骨子を固めておくなど、事業者側から積極的に消費者庁に対してアプローチをすることが重要であると考えられる。
運用基準注3においても、「確約手続をより迅速に進める観点から、消費者庁が確約手続通知を行う前であっても、違反被疑行為に関して調査を受けている事業者は、いつでも、調査を受けている行為について、確約手続の対象となるかどうかを確認したり、確約手続に付すことを希望する旨を申し出たりするなど、確約手続に関して消費者庁に相談することができる」とされており(運用基準3)、消費者庁としても、確約手続に関する相談は柔軟に受け入れる姿勢があるものと考えられる。
(3) 確約手続通知の実施
上記(2)の事前相談等も踏まえ、消費者庁は、違反被疑行為について、個別具体的な事案ごとに、確約手続により問題を解決することが一般消費者による自主的かつ合理的な商品および役務の選択を確保するうえで必要があると判断するときは、確約手続通知を行うことになる(景表法26条)。この判断にあたっての判断基準および考慮要素は以下のとおりとされている(運用基準5(2))。なお、過去10年以内に行政処分の対象となっている場合や、悪質かつ重大な違反被疑行為と考えられる場合には、確約手続の対象としないこととされている(運用基準5(3))。
① 判断基準
個別具体的な事案に応じて、
・ 違反被疑行為等を迅速に是正する必要性
・ 違反被疑行為者の提案に基づいた方がより実態に即した効果的な措置となる可能性
があるかどうかなど
② 考慮要素
・ 違反被疑行為がなされるに至った経緯(景表法22条1項に基づき事業者に求められる表示等の管理上の措置(社内の体制整備等)を含む)
・ 違反被疑行為の規模および態様
・ 一般消費者に与える影響の程度
・ 確約計画において見込まれる内容その他当該事案における一切の事情
以上を踏まえて、消費者庁が確約手続通知を行う場合、同通知には、同通知を行う時点で把握している事実に基づき、違反被疑行為の概要および違反する疑いのある法令の条項等が記載される(景表法26条)。
確約計画の作成
仮想事例における確約計画の作成
A社は、以下に述べる内容を含む確約計画を作成し、平成7年5月20日に消費者庁に提出した。
(1) 違反被疑行為の取りやめ
A社は、消費者庁から、前記Ⅱ1.の調査を開始した旨の通知を受けた時点で、自社のウェブサイトにおいて「ダイエットサプリXを飲むだけで、1か月で7キロ痩せた!」との表示を直ちに取りやめ、同様の行為を行わない旨を取締役会で決議した。
(2) 一般消費者への周知徹底
A社は、違反被疑行為の一般消費者への周知の方法について、消費者庁との協議も踏まえ、自社ウェブサイトへの掲載およびA社の通信販売を利用する際に消費者が登録したメールアドレス宛ての通知により、A社は、令和6年10月1日から令和7年1月31日までの間、自社のダイエットサプリXを一般消費者に販売するにあたり、自社ウェブサイトにおいて、「ダイエットサプリXを飲むだけで、1か月で7キロ痩せた!」との表示を行うとともに、痩せた消費者について、ダイエットサプリXを飲む前と後の写真を掲載することにより、あたかも、ダイエットサプリXを飲むだけで1か月で7キロ痩せるかのように表示していたが、実際には、その消費者はダイエットサプリXを飲んでいたものの、食事制限や運動を行った結果痩せたものであった旨を周知した。
(3) 違反被疑行為および同種の行為が再び行われることを防止するための措置
A社は、再発防止措置として、以下の事項を実施することとした。
・ 役員および従業員への景表法研修の実施
・ 健康食品の表示の作成等にあたってチェックすべきリストの作成や社内規程の整備
・ 健康食品の効果についての根拠となる資料等の確認、および当該資料を事後的に確認するための必要な措置(資料の保管等)の確立
・ 健康食品の効果に関する根拠を有している開発部門と広告等を作成する営業部門との適切な情報共有体制の整備
・ 表示等を管理するための担当者等の選任
・ 不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応を行える体制の整備
(4) 履行状況の報告
A社は、上記(1)~(3)および下記(5)の履行状況を、消費者庁の求める期間、消費者庁に報告することとした。
(5) 一般消費者への被害回復
A社は、一般消費者への被害回復(ダイエットサプリXの購入代金の返金)を行うことを決定した。A社内では、被害回復の範囲について、本件の表示と無関係にダイエットサプリXを購入した消費者は、被害回復の対象にならないのではないかが議論になった。もっとも、A社の広告表示を見たことにより「ダイエットサプリXを飲むだけで痩せる」との誤った認識をしてダイエットサプリXを購入した消費者を特定すること(本件の表示と無関係にダイエットサプリXを購入した消費者を除外すること)は困難であることに鑑み、申出があった場合には、すべての購入者に対して、ダイエットサプリXの購入代金の返金を行うこととした。なお、ダイエットサプリXは自社のウェブサイトでしか販売しておらず、A社はすべての購入者のメールアドレスを把握していることから、メールにおいて、返金を行う旨を周知することとした。
解説
(1) 確約計画の様式
確約計画の様式は、確約手続府令注4において定められており、具体的には以下図表3の様式を使用する必要がある(確約手続府令4条、様式第1号)。
図表3 申請書の様式
出典:確約手続府令の様式第1号。
また、申請書には以下の資料を添付することとされている(確約手続府令4条2項)。
<申請書の添付資料>
・ 是正措置が疑いの理由となった行為およびその影響を是正するために十分なものであることを示す資料
・ 是正措置が確実に実施されると見込まれるものであることを示す資料
・ その他参考となるべき資料
(2) 是正措置として記載すべき内容
確約計画が認定されるためには、以下の要件を満たす必要がある(景表法27条3項)。
<確約計画の認定の要件>
① 是正措置が違反被疑行為およびその是正をするために十分なものであること(「措置内容の十分性」)
② 是正措置が確実に実施されると見込まれるものであること(「措置実施の確実性」)
具体的には、運用基準において、以下(a)〜(g)の要素を記載することが例示されている(運用基準6(3)イ)。なお、どのような確約措置を記載するかは個別の事案によって異なるものであり、以下の要素のすべてが記載されていることが必須となるものではない。
(a) 違反被疑行為を取りやめること
当該違反被疑行為を取りやめることは、措置内容の十分性を満たすために必要な措置の一つとされている。
違反被疑行為の是正の内容として、該当する表示等の取りやめは当然に求められるものと考えられる。
(b) 一般消費者への周知徹底
違反被疑行為の内容について一般消費者へ周知徹底することは、措置内容の十分性を満たすために必要な措置の一つとされている。
仮に違反被疑行為が措置命令に至った場合、一般には新聞による社告による一般消費者への周知が求められるところ、これと同等の対応が求められているものと考えられる。
確約計画上の是正措置として、措置命令と同様に新聞の社告による周知が必須であるとまではいえないものと考えられるが、違反被疑行為の対象となっている商品・役務の性質や、主たる一般消費者の属性等によっては、消費者庁から新聞の社告による周知が求められる可能性はある。
最終的には消費者庁の判断ではあるものの、たとえば、上記仮想事例において、自社のウェブサイトで健康食品の通信販売を行う際に、顧客のメールアドレスの登録が必須である場合、ダイエットサプリXを購入した顧客のメールアドレスは把握できていると考えられることから、当該メールアドレスに周知をすることで、基本的にはすべての顧客に周知がなされる可能性が相応にあることから、このような対応をもって周知を行い、新聞の社告は行わないことも合理的な対応といえる場合はありうる。
(c) 違反被疑行為および同種の行為が再び行われることを防止するための措置
事業者のコンプライアンス体制の整備等の措置を行うとともに、当該措置について事業者の役員および従業員に周知徹底をすることが、措置実施の確実性を満たすために必要な措置の一つとされている。なお、コンプライアンス体制の整備についての具体的な内容は、「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(平成26年内閣府告示第276号)が参考となる。
(d) 履行状況の報告
確約措置の履行状況について、被通知事業者または被通知事業者が履行状況の監視等を委託した独立した第三者(消費者庁が認める者に限る)が消費者庁に対して報告することは、措置実施の確実性を満たすために必要な措置の一つとされている。なお、ここでいう「独立した第三者」とは、当該事業者と取引関係のない弁護士等が想定されている(パブコメNo.27)。
また、報告の時期および回数は、是正措置の内容に応じて設定する必要があるとされている。
(e) 一般消費者への被害回復
たとえば、違反被疑行為に係る商品または役務を購入した一般消費者に対し、その購入額の全部または一部について返金することは、措置内容の十分性を満たすために有益であり、重要な事情として考慮することとされている。
なお、一般消費者への被害回復を行う場合は、当該措置の内容、被害回復の対象となる一般消費者が当該措置の内容を把握するための周知の方法ならびに当該措置の実施に必要な資金の額およびその調達方法が具体的に明らにされていなければならない(運用基準6(3)ア(イ))。
上記(a)~(d)については、措置内容の十分性または措置実施の確実性を満たすために「必要な措置」とされているのに対し、一般消費者への被害回復については「有益であり、重要な事情として考慮」とされているとおり、必須の措置とまではいえないこととされているが、相応に重視される要素であると考えられる。
一方で、たとえば、対象となる商品や役務に相当する金額の返金を必須とするなどした場合には、課徴金納付命令(基本的には売上金額の3%が課徴金の金額となる)を受けた方がかえって事業者の負担が軽くなるといったことも生じうることになり、確約手続の活用を阻害する一因にもなりうることから、消費者庁には柔軟な運用が期待される。
(f) 契約変更
違反被疑行為がなされるに至った要因が、事業者の既存の取引先(たとえば、アフィリエイターの管理を委託するASPや、表示の裏付けに係る調査業務を委託した調査会社等)にも存すると認められる事案において、取引先を変更し、または既存の取引先との契約内容(委託業務の内容等)を見直すことは、措置内容の十分性を満たすために有益であるとされている。
契約変更については、上記(a)~(e)のような「必要な措置」「有益であり、重要な事情として考慮」ではなく、単に「有益である」とされていることからすると、相対的に重要性はやや落ちる要素であると考えられる。
上記仮想事例においては、たとえば、健康食品の効果の実証実験を外部の会社に委託しているといった場合には、当該委託先を変更することも考えられる。
(g) 取引条件の変更
違反被疑行為が優良誤認表示に該当する疑いのある行為である事案において、被通知事業者が表示内容に合わせて取引条件を変更する場合(たとえば、被通知事業者が、サービスを一定期間内に解約した場合には例外なく代金を返金すると表示していたにもかかわらず、契約で返金を受けるための諸条件を定めていた事案において、当該契約内容を変更し返金を受ける機会を確保するような場合等)、当該取引条件の変更は、措置内容の十分性を満たすために有益であるとされている。
確約計画の認定・公表
仮想事例における確約計画の認定および公表
消費者庁は、A社の確約計画につき、措置内容の十分性および措置実施の確実性をいずれも満たすと判断し、令和7年6月30日、同確約計画を認定してその旨を公表した。当該公表においては、違反被疑行為が景表法に違反することを認定したものではない旨が記載された。
解説
措置内容の十分性および措置実施の確実性をいずれも満たすときには、確約計画が認定され、違反被疑行為は行政処分の対象から除外される。
確約計画が認定された場合には、消費者庁は、認定確約計画の概要、当該認定に係る違反被疑行為の概要、確約認定を受けた事業者名その他必要な事項を公表することになる(運用基準9)。また、公表にあたっては、景表法の規定に違反することを認定したものではないことが付記される。
このように、確約計画が認定された場合には、行政処分の対象にはならないものの、公表はなされることから、事業者のレピュテーションリスクが払しょくできるものではないことには留意が必要である。
消費者庁の調査が開始されたものの、そもそも不当表示ではない場合や、仮に不当表示であっても行政指導に留まる程度のものである場合において(なお、行政指導は、実務運用上、原則として公表の対象とはならない)、確約手続を利用したために公表され、かえってレピュテーションリスクを高める結果になることもあり得る。
確約手続を利用するかどうかは、違反被疑行為に係る表示について合理的な根拠を有しているのか否か等も勘案しながら検討をすることとなろう。
- 消費者庁「caname株式会社から申請があった確約計画の認定について」(令和7年2月26日)[↩]
- 消費者庁「不当景品類及び不当表示防止法施行規則の一部を改正する内閣府令(案)等に関する御意見の概要及び当該御意見に対する考え方」(令和6年4月18日)[↩]
- 消費者庁「確約手続に関する運用基準」(令和6年4月18日)[↩]
- 不当景品類及び不当表示防止法の規定に基づく確約手続に関する内閣府令 (令和6年内閣府令第55号)[↩]

花本 浩一郎
TMI総合法律事務所 弁護士
90年東京大学法学部卒業。93年ニューヨーク大学ロースクール修了(MCJ)。94年ニューヨーク州弁護士登録。01年までメーカー法務部勤務。07年弁護士登録。11~14年公正取引委員会審査局勤務。専門は独占禁止法、海外競争法、下請法、景品表示法ならびにこれらに関する当局対応および訴訟。主な著作『条解 独占禁止法〔第2版〕』(共著、弘文堂、2022年2月)ほか。
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安藤 庸博
TMI総合法律事務所 弁護士
08年東京大学経済学部卒業。11年早稲田大学法科大学院修了。14年消費者庁消費者安全課事故調査室。15年9月消費者庁総務課(消費者庁法令等遵守調査室、内閣府消費者基本政策室を併任)。17年金融庁監督局証券課。19年消費者庁取引対策課。20年弁護士会登録。専門は景品表示法、特定商取引法等の消費者関連法。主な著書『条解 景品表示法』(共著、弘文堂、2025年3月)ほか。
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