はじめに
かつては、企業がアクティビストと戦うのは、欧米を中心とする海外での構図であったが、日本の資本市場においてもアクティビズムは徐々に活発化し、毎年多くの日本企業がアクティビストと対峙する時代となっている。
また、従来は株式を保有するのみで対話を求めることすらなかった投資家から突然対話を求められ、株主提案権を行使されることや買収提案がなされることも珍しくないものとなってきている。
そして、アクティビストは適切に経営改善の要求を行い、企業価値を向上させる提言を行っているとして、むしろ機関投資家や一般株主の支持を集め、アクティビストが一定の賛同票を得る場面も増加しており、アクティビストの出現や活動に対して何らの備えも行っていない場合や企業として対応を誤った場合には、経営陣が株主から支持を失うという事態にもなりかねない。
今やアクティビストの出現は、企業の規模を問わず、どの企業に対しても起こりうるものであり、いざアクティビストと対峙することになった際に急造との誹りを受けないよう、平時から自社の経営状況や株主構成を適切に把握し、有事を見据えた十分な対策を講じておくことが極めて重要である。
以上を踏まえ本稿では、近時の動向から読み取れるアクティビストの狙いや今後の展望を概説するとともに、アクティビストと向き合う企業が講じるべき平時および有事の対策について、上下編にて述べる。
近時のアクティビストの動向と傾向
近時の事例紹介
アクティビストが対象会社に対して一定の要求を行っている事例(企業がアクティビストからターゲットにされている事例)は、日本全体で見ても増加傾向にあり、以下では、最新のアクティビストの動向の一部を紹介する。
(1) 株主提案の動向
アクティビストから対象会社に対して一定の株主提案を行う事例は増加しており注1、主な事例だけでも図表1のものが挙げられる。
また、従前のアクティビストからの要求内容は、剰余金配当や自己株式取得などの株主還元に関する株主提案が多く、現在も引き続き多くの割合を占めているものの、近時の特徴としては、ガバナンスに関する要求(社外役員に関する議案)や役員報酬に関する提案、ESGに関する提案の割合が増加している傾向にある。
図表1 アクティビストによる株主提案がなされた主要な事例
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会社名 |
アクティビスト名 |
提案内容 |
事案概要 |
① |
住友電設 |
マネックス・アクティビスト・マザーファンド |
剰余金配当 |
マネックスが住友電設に対して、株主還元を抑制する資本政策の行き過ぎを理由として、DOE(純資産配当率)6%相当の配当の支払いを求めたところ、住友電設取締役会は、十分な配当を行っていること、内部留保金については今後の事業展開のために活用すること等を述べて、当該議案に反対意見を表明し、最終的には、株主総会で当該株主提案は否決された。 |
② |
ヤマト |
サンシャインE号投資事業組合 |
・剰余金配当 ・政策保有株式売却 |
サンシャインがヤマトに対して、PBRを1倍以上にするための対応として政策保有株式を売却等したうえで、剰余金の配当を行うよう求めたところ、ヤマト取締役会は、保有の適正化に向けて継続的に見直しを行うものの、取引先との関係強化のために必要であるとして政策保有株式の売却を行わず、剰余金配当額の増加に関する議案についても反対意見を表明し、最終的には、株主総会で当該株主提案は否決された。 |
③ |
戸田建設 |
ダルトン・インベストメンツ |
自己株式取得 |
ダルトンが戸田建設に対して最大約336億円相当の自社株式の取得を求めたところ、戸田建設取締役会は、内部留保金については成長投資に優先して充当すること等を理由に、当該議案に反対意見を表明し、最終的には、株主総会で当該株主提案は否決された。 |
④ |
セブン&アイHD |
バリューアクト・キャピタル |
事業運営の改善 |
バリューアクトは、2023年4月、セブン&アイHDに対して、主力のコンビニ事業を切り出すことを目的に、役員の選任等の株主提案を行っていたところ(当該議案については、セブン&アイHD取締役会が反対意見を表明し、最終的に株主総会で否決された)、2024年には、セブン&アイHDが、スーパー事業の譲渡を検討している旨公表している。 |
⑤ |
フジテック |
オアシス |
役員選解任 |
オアシスは、フジテックが内山社長(当時)の保有する法人に対して行った貸付けや、内山家が使用するマンションをフジテックが取得したこと等について指摘を行っていたところ、2022年12月、当時の社外取締役の解任と新たに社外取締役の選任を目的として、臨時株主総会の招集を請求した。当該臨時株主総会においては、社外取締役の一部が解任され、オアシスが提案した取締役の一部が選任された(内山氏は2022年6月に取締役候補を辞退し、代表権のない会長に就いていたが、2023年3月の取締役会において会長職も解任された)。 |
⑥ |
象印マホービン |
リムジャパンイベントマスターファンド |
・剰余金配当 ・政策保有株式の売却 ・買収防衛策廃止 |
象印は、2022年2月の株主総会において、同社株の20%以上を取得しようとする株主がいる場合には、当該株主以外に新株予約権を無償で割り当てる旨の買収防衛策を導入していたところ、リムジャパンは、象印に対して、当該買収防衛策の廃止を含む株主提案を行った。これに対して、象印取締役会は、当該買収防衛策は、象印の株主の共同の利益に反する買い上がりを抑止するとともに、買い上がりが行われた場合に取締役会が代替案を提案する、または株主が当該買い上がりに応じるべきか否かを判断するために必要な情報・時間を確保することを目的であること等を理由として反対意見を表明し、最終的には、株主総会で当該株主提案は否決された。 |
⑦ |
江崎グリコ |
ダルトン・インベストメンツ |
・剰余金配当 ・自己株式取得 ・役員報酬 |
ダルトンは、江崎グリコに対し、取締役のインセンティブ付与のための譲渡制限付株式報酬制度の設計の変更議案を含む株主提案を行ったところ、江崎グリコ取締役会は、既にインセンティブのために株式報酬を導入しており、それと別にインセンティブを与えるのは現状の業績水準から乖離すること等を理由として、当該議案に反対意見を表明し、最終的には、株主総会で当該株主提案は否決された。 |
⑧ |
エスケー化研 |
AVI JAPAN OPPORTUNITY TRUST PLC |
・剰余金配当 ・自己株式取得 ・気候変動 ・役員構成 |
AVIは、エスケー化研に対して、温室効果ガスの排出量に関する開示等を行うことを定款に定めること等を求める株主提案を行ったところ、エスケー化研取締役会は、気候変動問題に関する個別のテーマを定款に定めることは適切でないとして当該株主提案に反対意見を表明し、定款変更議案は否決されたものの、エスケー化研は、気候変動に関する指標を開示する方針とした。 |
(2) 提訴請求の動向
また、株主提案にとどまらず、対象会社に対して、提訴請求を行うに至る事例も散見され具体的には、対象会社が役員等に対して任務懈怠責任を追及したり、役員等に付与した報酬等に関する手続上の瑕疵等を理由として、対象会社が役員等に対して報酬等の返還請求などを行うよう、対象会社に要求したりするケースが増加している。
図表2 提訴請求の動向
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会社名 |
アクティビスト名 |
事案概要 |
① |
クスリのアオキホールディングス |
オアシス・マネジメント |
オアシスは、クスリのアオキの約9.7%の株式を保有していたところ、クスリのアオキが同社の代表取締役社長および副社長に対して発行したストック・オプションに関し、同氏らの解任を求めた。また、当該ストック・オプションの発行によりクスリのアオキに生じた損害について、総額73億100万円の損害賠償訴訟を提起するよう提訴請求を行った。 |
② |
日本証券金融 |
ストラテジックキャピタル |
ストラテジックは、日証金が長年にわたって不適切な会計処理を行っていたため、執行役に対して過剰な業績連動報酬等が支払われていたとして、各執行役に対して支払われた過剰な報酬の返還を求めるよう提訴請求を行った。 |
(3) 大規模買付行為の動向
以上のほか、アクティビストが対象会社の買収を図り、市場内で株式を大量に買い上がる事案も増加している(大規模買付行為)。
大規模買付行為が行われる場合、対象会社の経営陣としては、当該アクティビストの事業戦略等に関する情報を入手したうえで、当該情報を踏まえて検討を行い、あるいは株主において検討する時間を確保することができなければ、大規模買付行為が対象会社の企業価値の向上に資するものであるか否かを判断することができない。
そこで、対象会社は、いわゆる“有事導入型”買収防衛策として、大規模買付行為者に対し、その名称や買付の内容を記載した意向表明書等を提出させたうえで、買付後の対象会社の株式の保有方針や事業戦略等の情報を提供するよう求め、当該情報を踏まえて、取締役会において検討を行い、仮にそれらが企業価値を毀損するものと判断された場合には、差別的な行使条件・取得条項等が付された新株予約権無償割当て等を行うことで、買付者の株式を希釈化するという方策を講じることが考えられる(なお、会社法上は、新株予約権無償割当ては取締役会決議により実行可能であるものの(会社法278条3項)、実務上は、これまでの司法判断の傾向を踏まえ、事後的に株主の意思を確認するための株主総会を開催することが一般的となっている)。
近年、当該買収防衛策の導入・発動等をめぐっては、以下のような紛争が生じている。
図表3 買収防衛策の導入・発動等をめぐる近年の紛争
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会社名 |
アクティビスト名 |
事案概要 |
① |
東京機械製作所(TKS) |
アジアインベストメントファンド(AIF) |
【最高裁令和3年11月18日決定・資料版商事法務453号94頁】 |
② |
三ツ星 |
アダージキャピタル |
【最高裁令和4年7月28日決定・資料版商事法務461号143頁】 |
シティインデックスイレブンスが日本アジアグループの株式を市場内で買い上がり、またはTOBを仕掛けた事案においては、取締役会限りで新株予約権無償割当てを実施したところ、結果として、当該新株予約権無償割当ての差止仮処分が認められたことからすると(東京高裁令和3年4月23日決定・資料版商事法務446号154頁)、裁判例上、買収防衛策としての新株予約権無償割当てを行う場合には、アクティビストによる会社の買収について株主意思確認総会を行うことが求められていると考えられている。
もっとも、株主意思確認総会により承認を行っていれば常に適法となるものではなく、その手続過程において、不当に買い上がりを行う者の権利を制限するような場合には、対抗措置が不適法とされる場合があり、特に、三ツ星事件に見られるように、アクティビスト自身が株式を買い上がるほか、アクティビストの関係者とみられる者が同時期に株式を買い集めている場合(ウルフパック戦術)、どの範囲で「アクティビスト」側と認定して対抗措置の対象者とするかについては慎重な対応が求められる。
アクティビストに狙われる企業
上記の近時の動向も踏まえると、アクティビストに狙われやすい企業は、以下のような特徴を有していると考えられる。
① 大規模な株主構成の変更が生じ、または生じるおそれのある会社
大規模な株主構成の変更が生じた場合や大規模なM&A案件を行う場合には、それらを公表したタイミングで、アクティビストから株式の買い上がりや株主提案等を受けやすくなる。
② 剰余金配当・自己株式取得による株主還元が少ない会社
剰余金配当や自己株式取得による株主に対する還元が十分になされていない場合には、アクティビストから株主提案等を受けやすくなる。
③ ROE/PBRの水準が低い会社
ROE(自己資本利益率)が低い会社は、アクティビストからすると、いわゆる“伸びしろ”がある会社であり、株主提案等を通じて収益性を改善したうえで株価を上昇させることで売買差益を得ることができ、また、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回っている会社は、資産価値に比して株価が割安であることから、アクティビストから狙われやすい傾向にある。
④ コングロマリット・ディスカウントの傾向のある会社
いわゆる“コングロマリット・ディスカウント”を抱えている会社(多角的な事業を行っている会社において、事業部門ごとの事業価値の合計に比して、当該会社の企業価値が小さい会社)については、事業部門ごとのシナジーを発揮することができていないため、アクティビストからスピンオフや事業改善に関する株主提案等を通じて、狙われやすい傾向にある。
⑤ 保有意義の小さい遊休資産・政策保有株式を保有している会社
保有している意味がない、あるいは小さい遊休資産や、政策保有株式を保有している会社は、アクティビストから当該遊休資産・政策保有株式の売却等に関する株主提案等を受けやすくなる。
⑥ ESG・サステナビリティへの取組みが十分でない会社
環境・人権デュー・デリジェンスを含むESG・サステナビリティへの取組みに関する提案も増加している傾向にあり、欧州での法制化や世界的な潮流に応じて、日本においても、今後、アクティビストからのESG・サステナビリティに関する株主提案は増加する見込みである。
アクティビスト対応における実務上のポイント
以上で述べた近時のアクティビストの動向も踏まえ、以下では、アクティビスト対応の実務上の留意点について、
① 平時
② 準有事(対象会社にとってアクティビストが顕在化し、面談依頼や書簡による要求がなされる時期
③ 有事(株主提案や反対キャンペーン、提訴請求等がなされた場合)
のフェーズごとに解説する。
平時における対応
対象会社としてアクティビストの存在自体を認識していない場合、あるいは自社の株主にアクティビストが含まれることを認識したものの、アクティビストによる株式の買い集めや面談の要望等はなされていない場合においては、以下のとおり、自社の現状や株主構造を適切に把握し、アクティビストの標的にならない環境を構築するとともに、具体的なアクションがなされた場合(有事)の対応方針を事前に検討しておくことが重要である。
(1) 自社における現状の分析
アクティビスト対応において、まず行うべきは自社の現状を的確に把握することである。
既に述べたとおり、アクティビストは、株主提案等を通じて、株主還元策や企業価値を向上する施策を講じさせ、株価の上昇による売買差益を取得することを主な目的としているため、自社の現状を分析し、アクティビストに狙われやすい企業であるか、狙われやすいとすれば、どのような指摘をなされうるのかを把握する(脆弱性分析)ことが重要である。
アクティビストが投資対象を決定するにあたって考慮する要素は多岐にわたるが、その中でも代表的な要素は株価の割安さであるため、TSR(株主総利回り)、PBR(株価純資産倍率)、PER(株価収益率)等の株価に関連する指標が同業他社と比較して劣後するなど、改善の余地がないかについては常に留意すべきである。
また、策定・開示済みの経営戦略や経営計画(遊休資産等の保有意義やコングロマリット・ディスカウントの回避、今後の事業展開等)が、第三者である投資家の目から見て、中長期的な企業価値向上に資するものとして合理的なストーリーになっているか、近時関心の高いサステナビリティ課題(気候変動、生物多様性、ビジネスと人権等)のリスクや機会の要素を盛り込んだものになっているかについては、これまでも取締役会等で議論が重ねられていると思われるが、アクティビストとの関係においても重要である。
その他、剰余金配当や自己株式取得による株主還元、スピンオフによるコングロマリット・ディスカウントの解消、政策保有株式の解消、役員構成・役員報酬等、一般的にアクティビストが問題にしやすいトピックについては、アクティビストから要求がなされる前に、施策を講じる必要がないか検証しておくとともに、万が一、株主提案がなされた場合には速やかに他の株主に対して説得的な反対意見を説明する必要があるため、施策を講じない場合にはその合理的な理由についても予め検討しておくことが望ましい。
(2) 自社の株主構造の分析および把握
アクティビストからの株主提案権の行使や、株主総会に上程する会社提案議案の否決に向けたキャンペーン活動を予測し、適時適切な対応を講じるためには、アクティビストの動向を早期に把握する必要があるが、そのためには、定期的にアクティビストまたはアクティビストに親和的な株主が自社株式を保有しているか否かのチェックを含め、自社の株主構造の把握および分析を行うことが重要であり、具体的な方法としては、以下のものが挙げられる。
● 株主名簿の確認
一般的な上場会社では、半期ごとの年2回、または四半期ごとの年4回、株主名簿を作成していることが多く、株主名簿を作成するタイミングで、アクティビストによる株式保有がないか、自社の株主構造に留意すべき変化がないかを検証することが考えられる。
また、株主名簿は任意の基準日を設定して作成することもできるため上記以上の頻度で作成することも可能である。
● 総株主通知請求
上場会社は、正当な理由がある場合、特定の時点の株主の状況を確認するために振替機関に対して総株主通知を行うよう請求することができ(社債、株式等の振替に関する法律151条8項)、これにより一定の時点におけるアクティビストを含む株主状況を確認することができる。その際、「正当な理由」は、「定款又は定款の委任に基づき株式の取扱い等に関して定められる株式取扱規程において定められた事由が生じたとき」に行うことができるとされているため注2、株主状況を確認する観点から定款または株式取扱規程等の改定を検討することも考えられる。
なお、上場会社から総株主通知請求がなされた場合、振替機関から各種口座管理機関に報告を求める際、口座管理機関の判断で総株主通知請求がなされたことを公表する場合があり、これにより上場会社が株主状況の調査を行っていることが明らかになりうることには留意が必要である。
● 情報提供制度
上場会社は、利害関係を有する者として、正当な理由があるときは、口座管理機関が定める費用を支払って、口座管理機関が備える振替口座簿に記録がされた特定の株主の保有状況等の提供を求めることができる(社債、株式等の振替に関する法律277条)注3。
なお、アクティビスト等が株式を保有しているかのチェックを行う場合の「正当な理由」としては、「株主と自称する者が株主であるかどうかを確認するために必要があるとき」、「株主が株主権の行使要件を充たしているかどうかを確認するために必要があるとき」に該当するとして請求されることが多い注4。
また、請求に対する標準処理期間は4営業日であり、大量保有報告書および変更報告書の提出よりも前に株式の保有状況を把握できる可能性がある。
● 大量保有報告書
株主は、5%を超える上場会社の株式等を取得した場合には、財務局に対して、大量保有報告書を提出しなければならず(金融商品取引法(以下「金商法」という)27条の23)、また、大量保有報告書を提出した後に、1%以上の株券等保有割合の増減があった場合には、変更報告書を提出する必要がある(金商法27条の25)。そのため、アクティビストが5%以上の自社株式を取得している場合、当該大量保有報告書を確認することでアクティビストの保有状況を確認することができるほか、その後の株式の保有状況(買い上がりの状況)等についても確認することが可能である。
上記の情報提供制度における実際の処理期間が標準処理期間を上回ることもあり、大量保有報告書および変更報告書の提出状況についても確認する意義はあると思われる。
なお、機関投資家は、保有株式の管理を行う日本カストディ銀行名義で株式を実質的に保有することが一般的であるため、株主名簿上の株主にはならず、機関投資家の(実質的な)株式保有状況を確認するには専門業者(実質株主調査会社)へ依頼せざるを得ないのが現状である。
これらにより株主については、有事に“票読み”を行い、または個別にアプローチ等を行うか否かの判断をスムーズに行うため、過去の議決権行使実績や関係性等を踏まえて、基本的に対象会社の提案に賛成すると考えられる株主、個々の提案に応じて賛否が分かれうる株主、対象会社の提案に反対すると考えられる株主を分類しておくことが重要である(与野党分析)。
また、我が国の大量保有報告制度には、欧州の一部の国にあるように大量保有報告違反があった場合に違反者の議決権を停止させる制度や、“協調して行動する”者について明確な合意が認定できなくとも“共同保有者”に含む制度は採用されていない注5結果、複数の投資家が協調的に行動し、水面下で株式を買い集め、対象会社に圧力をかける“ウルフ・パック戦術”への対応が近時大きな課題となっている。
(3) 株主エンゲージメントおよび情報発信
アクティビストが、ある会社を投資対象に選定したとしても、当初は対象会社の株式のうち少ない割合を取得することが多いことから、アクティビストが自らの目的を実現するにはアクティビスト以外の株主、特に機関投資家からの賛同を得ることが必要になる。
他方で、日本において機関投資家による株式保有割合が高くなっていることに加え、機関投資家の議決権行使の判断は年々厳格化しており、会社提案議案に対して反対票を投じることも多くなっている。
そのため、対象会社としては、機関投資家や助言機関の議決権行使方針・助言方針も確認したうえで、機関投資家をはじめとする株主とのエンゲージメントを行い、経営方針等について理解してもらい、与党株主(会社提案議案に賛成、株主提案議案に反対することが期待できる株主)を形成しておくことが重要になる。
そのようなエンゲージメントは、アクティビストから書簡による要求や株主提案がなされた、いわゆる有事に至ってから行うことも考えられるが、有事になってからエンゲージメントを開始したのでは機関投資家の信頼や支持を得られないおそれもあることから平時から継続して取り組むことが望ましい。また、自社と株主との間に情報の非対称性がある場合、資本コストが通常水準以上に上昇し、株価が割高になると一般的に認識されており、エンゲージメント等を通じて株主に対し、自社の経営戦略や経営計画について一貫性のあるメッセージを伝えることは、資本コストを低下させ、自社の企業価値を株価に適切に反映させ、ひいてはアクティビストの標的になりにくくすることにも資するものである。
なお、会社側でエンゲージメントを行う担当者については、株主の属性やテーマに応じて柔軟に判断すればよいと思われるが、コーポレートガバナンス・コード注6補充原則5-1①では、「株主の希望と面談の主な関心事項も踏まえた上で、合理的な範囲で、経営陣幹部、社外取締役を含む取締役または監査役が面談に臨むことを基本とすべきである」とされていることから、役員の出席も含め検討すべきであり、昨今では社外取締役と直接意見交換を行いたいという株主側のニーズも高まっている。特に、株主に海外投資家が多い会社においては、筆頭独立社外取締役を採用し、機関投資家とエンゲージメントを担当させることも検討に値する。
(4) 事前警告型買収防衛策の策定
一般的には、事前警告型買収防衛策は、対象会社に大規模買収行為(株券等保有割合または株券等所有割合が20%以上となる株式の取得等)を行い、または行おうとする者(大規模買付者)に対して、大規模買付者や大規模買収行為に関する情報の提供を求め、提供された情報に基づき大規模買付行為について評価・検討し、必要な場合には新株予約権の無償割当て等の対抗措置を実施する旨の手続を定めることが多い。
紙幅の都合上具体的な内容についての記載は割愛するが、買収防衛策を導入する企業数は、2008年の574社をピークとして徐々に減少し、2024年6月末時点で251社となっている注7。導入企業数が減少している背景には、機関投資家からの反対が強いことが挙げられるが、現時点でも、自社の経営や事業環境、時価総額、株価、株主構成に照らして、一般的にアクティビストの標的になりやすい状況にある場合には、事前警告型買収防衛策の導入を検討する余地はあると思われる。
* *
続く下編では、アクティビストからの面談依頼、書簡による要求がなされた場合、さらには、株式提案や買収提案等がなされた有事の場面における実務対応について解説する。
→この連載を「まとめて読む」
- 大和総研「アクティビスト投資家の近時動向」[↩]
- 日本証券業協会「総株主通知等の請求・情報提供請求における正当な理由についての解釈指針」第一の一1(5)[↩]
- 株式会社証券保管振替機構「発行会社による振替口座簿の情報提供請求に関するご案内」[↩]
- 日本証券業協会・前掲注(2)第一の1(2)(3)[↩]
- 金商法の改正に係る公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループにおいて、共同保有者の認定に係る立証の困難性の問題を解決すべく、一定の外形的事実が存在する場合には共同保有者とみなす旨の規定を拡充すべきであり、また、大量保有報告制度に違反した者が保有する株式の議決権を停止する制度についても引き続き検討を重ねていくとの方向性は示されたが、2024年5月15日に成立した改正金商法での制度改定は見送られており、今後の動向を注視する必要がある(金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」(第6回)議事録および資料参照)[↩]
- 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」(2021年6月11日)[↩]
- 大和総研「買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2024年9月版)」[↩]
森 悠樹
弁護士法人御堂筋法律事務所 パートナー弁護士
12年京都大学法学部卒業。14年京都大学法科大学院修了。15年弁護士登録。16年弁護士法人御堂筋法律事務所入所。24年弁護士法人御堂筋法律事務所パートナー。コーポレート・M&A、独占禁止法・競争法を中心に、企業法務全般を取り扱う。株主提案を受けた株主総会対応、アクティビストからの提訴請求を踏まえた対応等、アクティビスト対応に関連する案件も多数取り扱っている。
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藤岡 天斗
弁護士法人御堂筋法律事務所 アソシエイト弁護士
18年神戸大学法科大学院修了。19年弁護士登録。20年弁護士法人御堂筋法律事務所入所。争訟・紛争解決、コンプライアンス法務、ビジネスと人権に関する法務の各分野を中心に、企業法務全般を取り扱っており、特に株主総会対応・コーポレート・M&Aに関する案件を多数取り扱っている。
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