障害者差別解消法「合理的配慮の提供」義務化 を受けBtoC企業において考えるべきこと - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、「障害者差別解消法」または単に「法」という)の改正法が、2024年4月1日から施行されている。

2016年4月に施行された障害者差別解消法は、その内容の一として、障害者から社会的障壁(日常・社会生活を営むうえでの障壁となる事物、制度、慣行、観念等(法2条2号))の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合に、過重な負担とならない範囲で、当該障害者の性別、年齢および障害の状態に応じ、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするよう求めている。このいわゆる「合理的配慮の提供」は、民間事業者に対しては努力義務とされるにとどまっていたが、今般、改正法において法的義務化された(法8条2項)。法的義務とはいえ違反時に罰則が科されることはないが、主務大臣からの報告徴収や助言、指導、勧告が行われる可能性があり(法12条)、民間事業者においては、風評リスクも考慮し、対応を真剣に考えなくてはならない。

合理的配慮の提供の具体例としては、図表1に示したように、聴覚障害者との意思伝達のための絵や写真のカード、タブレット端末等の利用、段差がある場所における可搬型スロープ等を用いた肢体不自由者の補助等が挙げられる(下図出典のウェブサイトのほか、内閣府ウェブサイト「合理的配慮等具体例データ集 合理的配慮サーチ」等参照)。

図表1 合理的配慮の具体例

意思を伝え合うために絵や写真のカードやタブレット端末などを使う。
段差がある場合に、スロープなどを使って補助する。
障害者から「自筆が難しいので代筆してほしい」と伝えられたとき、代筆に問題がない書類の場合は、障害者の意思を十分に確認しながら代筆する。

出典:内閣府「障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト

もとより、過重な負担とならないという意味で「合理的」な配慮を行えばよいのであり、障害者のあらゆる意向を酌まなくてはならないわけではない。例えば、温泉施設を肢体不自由者が訪れ、入浴介助を求めたとして、これを謝絶しても原則として合理的配慮の不提供には当たらない。プロでもない職員が身体介護に携わるのはリスクが高く、かかるリスクの責任を負うことを余儀なくされるのは、民間事業者にとって過重な負担となるためである(このほか、図表2参照)。

図表2 「合理的でないもの」「過重な負担があるもの」の例

「合理的配慮の提供」として障害者から求められた具体的な手段のうち、合理的ではないものや過重な負担があるものについては、その提供をお断りすることができます。

 膨大な分量の資料の全文読み上げを求められた

 筆談で十分対応できる簡潔なやり取りに手話通訳者の派遣を求められた

 必要性がないのに買物中は常に店員が同行することを求められた

 個人的な外出予定に沿うよう公共交通機関の時間変更を求められた

 否定されるとストレスで症状が悪化してしまうからと過度な要望であっても否定せずに実行することを求められた

など

出典:内閣府「障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト

ただし、注意すべきは、「もし何かあったら」という漠然としたリスクのみから、サービスの提供等を謝絶することは許されないということである。どのようなリスクが生じ、そのリスク低減のためにどのような対応ができるのか、具体的に検討する必要があるとされている(図表3参照)。

図表3 合理的配慮の提供における留意点(対話の際に避けるべき言葉)

 「先例がありません」

→ 障害者差別解消法が施行されており、先例がないことは断る理由になりません。

 「特別扱いできません」

→ 特別扱いではなく、障害のある人もない人も同じようにできる状況を整えることが目的です。

 「もし何かあったら」

→ 漠然としたリスクでは断る理由になりません。どのようなリスクが生じ、そのリスク低減のためにどのような対応ができるのか、具体的に検討する必要があります。

 「先例がありません」

→  同じ障害種別でも程度などによって適切な配慮が異なりますので、一括りにしないで検討する必要があります。

※ 全盲(視覚的な情報を全く得られない状態等)/弱視(視覚的な情報をほとんど得られない状態等)、ろう(補聴器等をつけても音声が判別できない状態等)/難聴(残存聴力を活用してある程度聞き取れる状態等)など

出典:内閣府「障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト

民間事業者においては、自社が提供するサービスに関し、障害者にとっていかなるリスクが、あるいは不便さがあるのかを改めて確認、検証し、過重な負担とならない範囲でどこまでの解決策が図れるのか、十分に検討する必要がある。かかる検討は、必ずしも障害者に限らず、種々の事情を持つ顧客へのサービスを向上させる施策の気づきとなり、ひいては顧客満足度の向上につながり得る。法的義務なので「しなければならない」、と受動的に対応するのではなく、より良いサービスを提供するための能動的な行動の契機として、今般の法改正を捉えるべきであろう。

福谷 賢典

島田法律事務所 弁護士

2003年東京大学法学部卒業。2004年弁護士登録(第一東京弁護士会)。訴訟、M&A、労働法務を中心に、企業法務部出向経験を活かし、実務的なアドバイスを行う。著作として、「障害者差別解消法の施行と金融機関の実務対応」(銀行法務21 799号4頁)ほか。