メーカーによる価格指定のNGライン<講義動画付き> - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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メーカーの流通戦略と独占禁止法

市場に投入する商品を企画、製造、販売するメーカーにとって、自社の商品を

・ どのような流通ルートで

・ どのような需要者をターゲットとして

・ どの程度の価格帯で販売するのか

については、企画段階から検討する重要事項です。
一方で、実際に、商品を卸売業者や小売業者に展開するに際しては、独占禁止法の規制との関係に注意が必要となり、検討段階で大きな課題となることも少なくありません。このような場合、独占禁止法の規制で検討することになるのは、

・ 拘束条件付取引(販売方法の制限、販売先の制限等)

・ 再販売価格の拘束

といった不公正な取引方法(独占禁止法2条9項、19条)であることが多く、公正取引委員会が示している「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「流通・取引慣行ガイドライン」といいます)を参照することになります。

本稿では、「ワンポイント 独禁法コラム」の第3回として、特にメーカーから流通業者に対する価格指定について、わかりやすく紹介します。

公正取引委員会の考え方

メーカーが、商品の販売価格を指定して、流通業者に対して当該価格で販売させることは、独占禁止法では、再販売価格の拘束(独占禁止法2条9項4号)として規制されてきました。公正取引委員会は、流通・取引慣行ガイドラインにおいて、再販売価格の拘束のような流通業者の価格決定権を制限する行為については、「流通業者間の価格競争を減少・消滅させることになることから、このような行為は原則として不公正な取引方法として違法となる」としており、原則“違法”の考え方に立っていると評価されています。
このような考え方に触れると、メーカーとしては、流通業者に対して価格指定は一切できない、少なくとも価格指定は非常にリスクのある行為と認識せざるを得ないことになります。

再販売価格の拘束が原則違法と言われる背景

前述のように、公正取引委員会は再販売価格の拘束について、原則“違法”の考え方に立っていると言われるところですが、そのような公正取引委員会の考え方に、理論的な根拠はあるのでしょうか。

よく議論されることとしては、ブランド内競争とブランド間競争の関係が指摘されます。たとえば、

アウトドア用品を扱うX社(市場シェアは10%程度)が、流通業者との合意により小売販売価格を指定した。もっとも、アウトドア用品を扱う有力なメーカーとして、その他にY社やZ社が存在しており、Y社やZ社はX社よりも高い市場シェアを有している。

というケースを考えてみてください。仮に、X社が小売販売価格を指定したとしても、Y社やZ社がより安い価格を提示していれば、消費者はY社やZ社の商品に移ってしまうことになり、ブランド間の競争が存在する限りは、アウトドア用品の市場において競争上の弊害は生じないという考え方があり得ます。
しかし、逆に考えると、そのようなブランド間競争の可能性があるにもかかわらず、メーカーが価格指定を行い、小売販売業者間のブランド内競争を制限することができるというのはどういうことなのでしょうか。ブランド間競争の牽制が働いていれば、そのような価格指定を行えば、自社商品の販売量は減少し、自社商品を取り扱う小売販売業者も減少するということになりかねません。

この点については、以下のような二つの説明がなされます。

① 製品差別化が進んでいる場合で、ブランド力があったり、一定の嗜好が反映された商品であったり、継続的に使用される商品であるといった理由で、価格が高くなったとしても、当該商品を選別する消費者が存在するというケース

② ブランド間の競争が不十分である場合で、他のメーカーも追随して価格を引き上げることが予想されるといった協調的な市場になっているといったケース

すなわち、帰納的な議論になりますが、メーカーが再販売価格の拘束を行い、実際に販売業者がその価格での販売を継続できているということは、上記の①または②のいずれかまたは両方に該当し、したがって、“実際に価格維持効果が生じているケース”と推定されるということになるのです。再販売価格の拘束を原則“違法”と考える背景には、このような考え方が存在します。

なお、公取委が再販売価格の拘束として違反を認定し、排除措置命令を行ったような事例では、通常、拘束の対象となった商品について、“一般消費者からの認知度が高く、人気があり、一般消費者の中には指名買いをする者が多い”といった事情が認定されていることが多いのですが、これは、“製品差別化が進んでいること”を示している記載と理解することができるでしょう。

一蘭の確約計画の認定について

2022年5月19日に、公正取引委員会より、株式会社一蘭(以下「一蘭」といいます)について、確約計画の認定がなされたという発表がありました。
事案としては、一蘭が販売するカップ麺や乾麺について、小売業者に対して、一蘭の設定した希望小売価格から割引した価格による販売を行わないよう要請し、同意した小売業者に対してカップ麺等を販売していたものであり、カップ麺を扱う小売業者は、一蘭の要請に同意していたため、在庫処分を目的とした割引販売を行わなかった者がいたとされており、再販売価格の拘束に該当する疑いがあるとして処理されています。なお、確約計画の認定により終了した事案ですので、公正取引委員会が一蘭の行為を独占禁止法違反と認定したものではありません。
この事案では、以下の2点に触れておきたいと思います。

まず、一蘭と小売販売業者との間での合意に基づく“拘束”がなされた事案と思われる点です。再販売価格の拘束における“拘束”要件については、メーカーが価格指定を行い、それに従わない小売販売業者に対して何らかの経済的な制裁を科すという行為をもって、“拘束”と評価する事案が過去は多くありましたが、近年では、一蘭のケースのような、「合意による“拘束”」が認定されるケースが散見されます注1
このような「合意による“拘束”」の事案の場合、メーカーと小売販売業者との間で、小売販売価格についての合意がなされていることに加えて、小売販売業者間で、販売価格についての合意が成立していないか議論されることがあります。メーカーを通じて、小売販売業者間で販売価格についての意思の連絡が成立したとして、小売販売業者間の価格カルテル(不当な取引制限、独占禁止法2条6項)に該当するのではないかという疑問が生じます。
この点については、興味深い議論ではあるのですが、

・ 個々の小売販売業者において、販売価格について意思の連絡が生じたといえるほどのやり取りが存在するのか

・ 仮に意思の連絡があったとして、その外延はどこまでか

・ ブランド内競争への弊害をもって、不当な取引制限の要件である一定の取引分野における競争の実質的制限という要件を満たすのか

など、考えるべきポイントは多く、これまで、公正取引委員会は、「合意による“拘束”」の類型について、「再販売価格の拘束」として扱ってきています。

次に、カップ麺の市場において、一蘭の市場シェアは僅少であったと想定される点です。前記で指摘したように、再販売価格の拘束が原則“違法”とされるのは、そのような拘束が実効性を持って行われているのは、製品差別化が進んでいる場合やブランド間競争が不十分な市場環境にあることを推定させることが背景にあります。
報道によれば、一蘭の販売するカップ麺の価格は税込み490円であったということであり、かなり強気の価格設定になります。また、カップ麺の市場においては、大手食品メーカーも商品展開しており、また、小売販売業者の店頭で特売されていることも多く、一蘭の市場シェアは極めて限られ、また、ブランド間競争も活発であったように思われます。推測ですが、価格勝負では大手食品メーカーの商品に対抗するには難しいという状況において、人気ラーメン店というブランド力を活かし、ブランド価値を毀損しないような価格(すなわちラーメン店の経営にも悪影響が生じないように配慮した価格)を設定し、消費者が選択できる新たな商品を市場投入することが、“公正な競争を阻害する”と評価されるべきなのか、議論があってよいところと考えます。流通・取引慣行ガイドラインにおいても、「事業者による自社商品の再販売価格の拘束によって実際に競争促進効果が生じてブランド間競争が促進され、それによって当該商品の需要が増大し、消費者の利益の増進が図られ、当該競争促進効果が、再販売価格の拘束以外のより競争阻害的でない他の方法によっては生じ得ないものである場合において」は、正当な理由があるとして、例外として違法とならないことを示しています。

一方、具体的な背景は十分にわかりませんが、極めて限られた市場シェアしか有していない場合においても、ブランド力があり、製品差別化がある商品については、価格指定を行うと、公正取引委員会による介入を受ける可能性があるということを認識すべき事案であるともいえそうです。

最近のその他の話題

一蘭のような事案もある一方で、最近、大手家電メーカーが在庫リスク負担する代わりに、小売販売業者の販売価格を指定するという“指定価格”制度を導入していることが話題になっています。
この販売手法は、メーカーは小売販売業者が必要とする数量だけ商品を納入し、売れ残れば返品に応じるという制度ということですが、小売販売業者の販売価格をメーカーが決定するということであり、まさに、再販売価格の拘束に該当しそうです。しかし、流通・取引慣行ガイドラインには、次のような記載があります。

なお,次のような場合であって,事業者の直接の取引先事業者が単なる取次ぎとして機能しており,実質的にみて当該事業者が販売していると認められる場合には,当該事業者が当該取引先事業者に対して価格を指示しても,通常,違法とはならない。

[1] 委託販売の場合であって,受託者は,受託商品の保管,代金回収等についての善良な管理者としての注意義務の範囲を超えて商品が滅失・毀損した場合や商品が売れ残った場合の危険負担を負うことはないなど,当該取引が委託者の危険負担と計算において行われている場合

[2] メーカーと小売業者(又はユーザー)との間で直接価格について交渉し,納入価格が決定される取引において,卸売業者に対し,その価格で当該小売業者(又はユーザー)に納入するよう指示する場合であって,当該卸売業者が物流及び代金回収の責任を負い,その履行に対する手数料分を受け取ることとなっている場合など,実質的にみて当該メーカーが販売していると認められる場合

すなわち、小売販売業者が単なる取次ぎとして機能しており、実質的に見てメーカーが販売していると認められる場合には、メーカーが当該小売販売業者に価格を指示しても、違法な再販売価格の拘束とはならないということです。
本件報道の事例と類似する公正取引委員会の相談事例注2があり、

① 商品の売れ残りリスク

② 瑕疵、毀損のリスク

③ 代金回収不能のリスク

の3点から検討して、いずれの相談事例も独占禁止法上問題となるものではないと判断しています。商品や従前の取引の内容にもよるところと考えますが、

・ メーカー自身が在庫リスクを負う(返品をいつでも受け付ける)。

・ 商品保管上のリスクとして、小売販売業者が基本的な注意義務(善管注意義務)以上の義務を負担せず、メーカーがリスクを負う。

・ 消費者向けの商品で、即時決済されるため代金回収不能リスクが顕在化しない。

というスキームであれば、相談事例と同じ結論に至る可能性があります。

当該大手家電メーカーの取り組みは、メーカーに価格設定権を取り戻す取り組みとして注目されていますが、一方で、小売販売業者の役割はショールームでしかなくなり、セール販売という小売販売業者の重要な競争手段が奪われるということになりかねません。小売販売業者の立場からの要望も今後生じるものと思われ、このような取り組みがどこまで広がるのか、注目すべきところです。

→この連載を「まとめて読む」

[注]
  1. 公正取引委員会「コンビ株式会社に対する件」(令和元年7月24日・令和元年(措)第5号)公正取引委員会「コールマンジャパン株式会社に対する件」(平成28年6月15日・平成28年(措)第7号)など。 []
  2. 公正取引委員会「平成28年度相談事例集」事例1「令和元年度相談事例集」事例5[]

那須 秀一

きっかわ法律事務所 パートナー弁護士

2004年京都大学法学部卒業。2005年弁護士登録、2005~2007年長島・大野・常松法律事務所勤務後、きっかわ法律事務所に移籍。2011~2013年公正取引委員会事務総局審査局審査専門官(主査)。2020~2022年大阪大学法科大学院非常勤講師(「経済法2」「経済法演習」担当)。公正取引委員会での執務経験を活かし競争法の案件を専門的に取り扱っていることに加えM&A、コンプライアンス・危機管理・不祥事対応、個人情報・消費者法、コーポレート、訴訟・紛争解決など、幅広い案件を取り扱う。