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はじめに

昨今、「ESG(環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance))」という要素が企業経営にとって重要性を増すにつれて、企業に対し

  • これらの要素に関する企業の取り組み
  • これらの要素が事業活動・収益等に与える影響

についての開示を求める声も、投資家をはじめ、さまざまなステークホルダーから高まっています。
そのため、海外を中心に、ESG関連情報の開示指針の策定や開示の法制化等の取り組みが活発に行われています。日本でも、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード(以下、「改訂CGコード」といいます)において、プライム市場へ上場する企業に対しTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures))の枠組みによる気候変動関連情報の開示が求められる(改訂CGコード補充原則3-1③)等、ESG開示に関する取り組みは喫緊の課題となっています。

そこで、以下では、ESG開示の開示指針策定をめぐる動向、TCFDの概要、欧州におけるESG関連法制の動向について簡単にご説明したいと思います。

ESG開示の開示指針策定をめぐる動向の注目ポイント

日本でも、ESGに関する情報開示は既に多数の企業が実施していますが、現状、「GRI(Global Reporting Initiative)スタンダード」「国際統合報告フレームワーク」または「SASB(Sustainability Accounting Standards Board:サステナビリティ会計基準審議会)スタンダード」等、さまざまな枠組みに準拠して行われています。開示の枠組みが異なると、投資家等の利用者にとっては比較が困難であり、情報としての有用性に欠けるため、統一的な開示指針の策定が望まれているところです。
このような統一的な開示指針策定に向けた動きとして、2021年11月に開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)において、IFRS財団がサステナビリティ報告のための基準設定を行うISSB(国際サステナビリティ基準審議会)設置を発表したことは注目されます。
ISSBでは、2022年6月をめどに気候関連情報の開示基準を策定予定であり、その内容は、TCFD提言の枠組みをベースにした基準となることが想定されます。ISSBは、開示枠組みを策定する複数の機関とも統合準備を進めており、国際的な会計基準であるIFRSのように、今後、ISSBが策定する開示基準がESG開示の国際スタンダードとなる可能性を秘めているといえます。

TCFDとは何か

TCFDは、2015年12月、金融安定理事会(FSB)が気候関連情報のより良い開示促進のために設置した組織です。TCFDは、2017年6月、企業が任意で行う気候関連リスク・機会に関する情報開示のフレームワークを示す最終報告書としてTCFD提言を発表しました。
日本でも、上記でも触れたように、改訂CGコードにおいて、上場会社一般に求められるサステナビリティ開示への言及に加え、プライム市場上場会社は、「気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について…国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべき」(補充原則3-1③)との言及がなされたことから、プライム市場上場予定の会社は、TCFD提言の枠組みに沿った開示に向けて検討を進めているところと思われます。

気候関連のリスクには、大きく

① 低炭素経済への移行に関連したリスクである移行リスク
(たとえば、「温暖化ガスの排出規制」といった政策・法規制リスク)

② 気候変動に起因する物理的リスク
(たとえば、「急激に発達した台風や洪水等の異常気象」といった急性リスク)

があります。また、気候関連の機会としては、「再生エネルギーの利用」や「低炭素商品・サービスの開発」等が挙げられます。
TCFD提言では、このような気候関連のリスク・機会が企業の事業活動や収益等にどのような影響を与えるかについて開示するにあたり、開示枠組みの中核的要素として、

  • ガバナンス
  • 戦略
  • リスク管理
  • 指標と目標

の四つのテーマを挙げています。各テーマについて推奨される開示内容が示されており、企業による充実した開示を支援するため、ガイダンスを通じて推奨される開示を行うための考え方等が提供されています。
これらの推奨される開示内容は、言葉だけをみても具体的にどのような開示を行えばよいかのイメージがわきづらい点もあり、また、「シナリオ分析」といった馴染みのない取り組みも求められることから、先行する他社事例等を参考に、具体的なイメージをもって準備を進めることが肝要です。

欧州において活発な動きをみせるESG関連法制

企業に対するサステナビリティ情報開示指令(CSRD)案の公表

欧州委員会は、2021年4月、サステナビリティ情報開示に関する指令であるCSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)案を公表しました。
EUにおいては、従前から非財務情報開示指令(NFRD)により、サステナビリティ開示は要請されてきたところですが、対象企業が限定的、開示要件が曖昧、開示情報の信頼性・比較可能性が不十分等の指摘があり、NFRDを強化するものとしてCSRD案が公表されました。

CSRD案においては、すべての大企業とEU規制市場の上場企業(上場零細企業を除く)が対象とされるなど、適用企業が拡大されており、日本企業にとっても、NFRDでは適用対象外であった非上場の大企業も対象となることから、日系の現地法人が大企業に該当すれば適用対象となるため、留意が必要です。
現在、開示情報の充実に向けてサステナビリティ報告基準が策定されており、2023年1月以降に開始する会計年度よりCSRDの適用が開始されることが予定されています。

ESGデューデリジェンス

欧州各国においては、人権デューデリジェンスを中心に、ESGに関するデューデリジェンスの法制化が進んでいます。各国の法令は、

① 義務の内容

② 調査範囲

③ 対象企業

④ 法令違反の効果

等の点において、その内容はさまざまです。

このような各国の取り組みに加えて、欧州議会は、2021年3月10日、企業による人権・環境等のデューデリジェンス実施の法制化を求めるイニシアティブレポートを賛成多数で可決しました。
当該レポートでは、人権・環境等を対象に、バリューチェーンも含めた広い範囲についてのデューデリジェンスを義務づけることを目的とするコーポレート・デューデリジェンスおよびアカウンタビリティに関する指令案が提案されています。

指令案では、適用対象となる企業について、EU域外の企業であっても、域内市場で物の販売やサービス提供をしている場合、大企業やリスクの高い中小企業は適用対象とされていることから、EUにおいて事業活動を行う日本企業にも適用される可能性がある点には留意が必要です。また、直接の適用対象ではなくても、対象企業のサプライチェーンに組み込まれることにより、同様の対応をとることが要請されることも想定されます。
対象企業には、自らの事業や取引関係が引き起こしまたは助長している人権・環境・ガバナンスに対する潜在的または現実的悪影響の特定・評価を継続的に行うことが求められ、これによりリスクが特定された場合、デューデリジェンス戦略を策定・公表することが必要とされています。また、取引先についても、契約等を通じて、自社のデューデリジェンス戦略に合致した人権・環境・ガバナンスの方針を策定・実行していることを確保することが求められています。

現在、欧州委員会において法案が作成されており、2021年中には提出が見込まれていたところですが、継続して検討が行われているところであり、今後の動きが注目されます(なお、脱稿後の2022年2月23日付けで法案の公表がなされました)。

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川西 風人

のぞみ総合法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士

京都大学法学部卒。M&A、コーポレートガバナンス、ベンチャー法務等を中心に取り扱うとともに、米国ロースクールへの留学、シンガポールの法律事務所での駐在、国内大手総合商社法務部への出向等の経験を経て、海外法務も得意としている。SDGs・ESGについても、ビジネスへの影響という観点からわかりやすく解説する。
著作「M&Aの現状と企業価値算定ギャップの解消につながる手法/スタートアップが知っておくべきM&A入門(1)」(株式会社りそな銀行の運営する「りそなCollaborare」掲載(2021年12月8日))、「SDGs・ESGを踏まえたM&Aのあり方」(株式会社インテグレックスの運営する「ホットプレス」掲載(2021年4月24日))ほか。

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