EU競争法・垂直的制限に関する一括適用免除規則およびガイドラインの改定 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに

欧州委員会は、2021年7月、垂直的制限に関する一括適用免除規則(欧州委員会規則(EU)No 330/2010 Vertical Block Exemption Regulation。以下、「VBER」という)およびガイドライン(Guidelines on Vertical Restraints。以下、単に「ガイドライン」という)の改定案を公表した((各改定案は、欧州委員会のウェブサイトからダウンロードすることができる。))。

EU機能条約(Treaty of the Functioning of the European Union。以下「TFEU」という)101条は、その1項において欧州市場((EU市場に加えて、欧州経済領域(European Economic Area=EEA)協定により、アイスランド、リヒテンシュタインおよびノルウェーを含めたEEA域内の市場が同じ競争法の適用対象となる(https://ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php?title=Glossary:European_Economic_Area_(EEA) 参照)。))における競争を制限等する行為を禁止する一方で、3項において一定範囲の行為を禁止の対象から除外している。
広く知られているように、TFEU 101条1項に違反した場合には、欧州委員会によって科せられる高額の制裁金およびこれに続く民事訴訟等により、企業の活動に大きな影響が生じるおそれがある。このことから、ある行為がこれに違反するのか、あるいは禁止の対象から除外されるのかをあらかじめ判断することは、欧州市場において事業を行う企業にとって極めて重要である。
TFEU 101条1項の規制対象のうち、「メーカーと販売店」といった日本企業と現地企業のよくみられる関係は「垂直的関係」と呼ばれる。そこでの合意等がTFEU 101条に違反するか否かの指標となるのが、VBERおよびガイドラインである。ある行為の市場における競争への影響の有無および程度について企業が個別具体的に評価を行うことは必ずしも容易ではないことから、実務上、多くの場面ではこれらの指標によって当該行為の是非を判断することになる。

2010年6月1日に発効した現行のVBERは、2022年5月31日にその役目を終えて失効する予定であるところ、欧州委員会は、この間にVBERの評価および改定に関する意見公募を行ったうえ、蓄積された裁判例や、近年のオンライン販売の拡大および「プラットフォーマー」と呼ばれる事業者の台頭に伴う市場環境の変化等を踏まえ、2022年6月以降の新たな指標となるべきVBERおよびガイドラインの改定案を公表するに至った。

本稿では、現行ルールの概要と改定案のポイントについて、日本企業として留意すべき点を交えつつ解説する。

現行ルールの概要

VBERは、その適用対象となる「垂直的合意(vertical agreement)」を、生産または流通網の異なる段階において事業活動を行う2以上の事業者間の合意または協調行為と定義し(VBER 1条1項(a))、ある垂直的合意の当事者それぞれの市場シェアが30%を超えず、かつ、当該合意がいわゆるハードコア制限を含まないものである場合について、一括して、TFEU 101条3項に基づき同条1項の適用が除外される旨を定めている(VBER 2条1項)。
ここでいう「ハードコア制限」とは、VBER 4条に列挙された行為をいい、たとえば再販売価格の維持行為(resale price maintenance)や、販売対象地域または販売対象顧客の厳格な制限がこれに該当する。特に後者は、日本企業が現地販売店と独占的販売店(代理店)契約を締結する場合に、当該販売店が商品を販売する地域を定めたうえ、当該販売店が割り当てられた地域外に商品を販売することを禁止する旨の条件を設定しようとするといった場面で問題となることが多い((VBERによる一括適用免除は、供給者または他の販売店に割り当てられた地域または顧客に対する能動的販売(顧客に対して能動的にアプローチをして販売を行うこと)の制限に対してのみ、および受動的販売(顧客からの要望に応じて販売を行うこと)まで制限することは、ハードコア制限に該当するものとして一括適用免除の対象外とされている(VBER 4条(b)(ⅰ))。))。

また、VBERは、ハードコア制限に該当するもの以外にも、垂直的合意に含まれる一定の制限行為が一括適用免除の対象外となる旨を定めている(VBER 5条)。たとえば、期間が無制限または5年間を超える競業避止義務(non-compete obligation)を課すような合意がこれにあたり、仮に5年以下の期間を定める場合であっても、黙示の更新により当該合意の期間が合計5年を超えうる場合には期間の制限がないものとみなされる(VBER 5条1項)。日本企業と現地販売店との契約においても、販売店による競合品の取扱いを制限するような状況は頻繁に見られるが、たとえば当該契約が一定期間ごとに自動更新される旨の条項が存在する場合は、総契約期間の上限が5年以下となるような別途の仕組みがない限り、かかる競合品の取扱制限について一括適用免除を受けることができないということになる。

上記のようなVBERの適用関係を含め、ガイドラインは、企業による判断の一助となるべく、TFEU 101条1項の適用場面や、関連市場の画定方法および市場シェアの計算方法、個別の事案における欧州委員会による分析の枠組みおよび執行の方針等、EU競争法のもとにおける垂直的合意の評価に関する基本原則を定めている。

改定案のポイント

前述のとおり、今般公表されたVBERおよびガイドラインの改定案は、現行のVBERおよびガイドラインが施行されてから10年以上にわたる実務の蓄積を反映するとともに、取引の急速なオンライン化による市場環境の変化への対応を念頭に置いたものであり、重要なルールの変更を多く含んでいるが、以下では、そのうち本稿の読者と特に関連性が高いと考えられるものを取り上げる。

二重流通

二重流通(dual distribution)」とは、商品の供給者が、販売店を通じて顧客に商品を販売するとともに、自らも直接顧客に対して商品を販売する場合をいい、ここでは、供給者と販売店はともに流通網の同じ段階(顧客に対する販売)で事業を行うため、両者は競合関係に立つこととなる。この点、現行VBERは、「競合関係にある事業者間の合意には原則として一括適用免除が及ばない」としつつも、このような二重流通の場合については、垂直的合意が小売段階における競争関係に及ぼす影響の重要性が相対的に低いことを理由に、メーカーが供給者であり、かつ、製造段階での競合関係が存在しないことを条件として、例外的に一括適用免除がなされうる旨を定めている(VBER 2条4項(a)、ガイドライン28段落)。

もっとも、オンライン販売の拡大に伴い供給者と販売店が競合関係に立つケースが増加し、さらには、オンラインマーケットプレイスにおいてはその運営事業者が販売する商品と出品者が販売する商品が競合するという事態も生じていることを受けて、欧州委員会は、二重流通に対する一括適用免除の是非について見直しを行い、VBER改定案に以下のような定めを設けている。

① 一括適用免除を受けるためには、合意の当事者の小売段階における市場シェアの合計が10%以下でなければならない(VBER改定案2条4項)。

② 合意の当事者の小売段階における市場シェアの合計が10%超・30%以下である場合、垂直的合意という側面の限りではTFEU 101条1項の適用を免れうるものの、当事者間の情報交換については、別途水平的合意に関するルールの枠組みの中で同条項の適用の有無が判断される(VBER改定案2条5項)。

③ オンライン媒介サービス(online intermediation service)を提供する事業者が自らのウェブサイトで出品者の商品と競合する商品を販売する場合、当該事業者と出品者との間の合意には一括適用免除は及ばない(VBER改定案2条7項)。

筆者が認識する限りでも、日本企業(主としてメーカー)が欧州において現地販売店を活用する傍ら、自らも直接現地顧客への販売活動を行っている例は少なからず存在し、中には自社と販売店が競合関係に立つことを自覚していないケースも見受けられる。競合者間の情報交換は、もとより極めてセンシティブな問題であって細心の注意を払うべき事柄であるが、自社と現地販売店との関係の見直しも含めて、今後一層の注意が必要となると考えられる。

オンライン販売の制限

現行VBERは、販売店による販売先の制限について能動的販売と受動的販売を区別している一方で、オンライン販売の制限がどのように取り扱われるかについては、明確に言及していない。
この点について、現行ガイドラインには一定の指針となる記載が存在するものの(ガイドライン52段落~54段落等)、昨今のオンライン販売の拡大を受けて、VBERの改定案には、購入者もしくはその顧客による(a)商品もしくはサービスの販売のための効果的なインターネットの利用または(b)効果的なオンライン広告の利用を妨げる目的を有する制限行為がハードコア制限に該当する旨等が明記された(VBER改定案1条1項(n))。
また、オンライン販売の制限に関するEU司法裁判所の近時の判決等を踏まえ、ガイドライン改定案においては、以下のような行為がハードコア制限に該当する旨の例示がなされている(ガイドライン改定案192段落)。

・ 物理的店舗または専門のスタッフによる対面販売を義務づけること

・ オンライン販売について供給者の事前承認を求めること

・ 比較サイトの利用や検索エンジンにおける有料での優先表示の利用を制限すること

他方で、販売店がオンラインで販売しようとする商品について、実店舗で販売しようとする場合と比較して供給者の販売店に対する供給価格を高額に設定すること(dual pricing)について、現行ガイドラインにおいては、オンライン販売を制限するものとしてハードコア制限に該当する旨が記載されているが(ガイドライン52段落)、改定案においては、適切な投資の促進または回収のためのものであって、各販売チャネルにかかるコストに見合ったものである限りにおいては、ハードコア制限には該当しないものとされている(ガイドライン改定案195段落)。
その他、ガイドライン改定案では、販売サイトにおいて、ある地域で通常使用されるもの以外の言語を選択可能とすることは、特定の顧客に対する能動的販売に該当し、したがってその制限自体はハードコア制限に該当しないことが規定される等(ガイドライン改定案199段落)((現行ガイドライン上、ウェブサイトによる販売そのものは受動的販売の一形態と考えられている(ガイドライン52段落)。))、オンライン販売の方法に関する制限の是非についても明確化が図られている。

独占的販売システム

現行VBERでは、販売店による特定の地域または顧客に対する能動的販売を制限することで、当該地域または顧客を対象とする独占的販売システムを敷くことが可能であるが、かかる独占的販売システムにおいて想定される販売店は1社であり、複数の販売店が存在することは想定されていなかった。
これに対し、VBER改定案においては、供給者がそのニーズに応じてより柔軟に商品の流通網を設計することができるよう、ある地域または顧客に関する独占的販売権を限られた数の2以上の販売店に対して付与すること(shared exclusivity)も可能である旨が明記された(VBER改定案1条1項(g))。ガイドライン改定案においては、独占的販売権を付与することのできる販売店の数は、対象となる地域や顧客に比例して、各販売店の投資を保護するだけの取引機会を確保するという観点から定められるべきものとされている(ガイドライン改定案102段落)。

また、VBER改定案においては、供給者は、その直接の独占的販売店のみならず、当該独占的販売店の顧客に対しても、供給者または他の販売店に対して独占的に割り当てられた地域への能動的販売を禁止することができることとされており(VBER改定案4条(b)(ⅰ))、これにより、供給者は、二次的販売のレベルに至るまで独占的販売システムによるコントロールを及ぼしうることとなる。
さらに、VBER改定案では、供給者は、独占的販売店およびその顧客による、供給者が選択的流通システムを採用している別の地域に所在する無権限の販売店に対する販売(ここでは能動的販売と受動的販売のいずれもが含まれる)を制限することも可能とされており(VBER改定案4条(b)(ⅱ))、ここでも、供給者による柔軟な流通網の設計を可能ならしめる方向でのルール変更が採用されている。

競業避止義務

前述のとおり、現行ガイドラインにおいては、無期限または5年間を超える競業避止義務を課す合意は一括適用免除の対象から除外され、当初設定された期間が5年以下であっても、黙示の更新により合意の期間が合計5年を超えうる場合には期間無期限とみなすものとされており(VBER 5条1項)、これにより、独占的販売店契約等において競合品の取扱いを禁止する条項と契約の自動更新条項を併存させることが困難となっていたが、今般のVBERおよびガイドラインの改定案においては、黙示的に合意が更新される場合の取扱いについて見直しが図られている。
すなわち、VBER改定案においては、黙示の更新により合意の期間が合計5年を超えうる場合には期間無期限とみなす旨の文言が5条1項から削除されるとともに、ガイドライン改定案には、合理的な予告期間とコストをもって、競業避止義務を含む垂直的合意について実質的に交渉し、またはこれを終了させることが可能であることにより、購入者が5年間の期間経過後に供給者を変更することができる場合には、黙示の更新により合意の期間が合計5年を超えうる場合であっても一括適用免除の対象となりうる旨の記載が追加された(ガイドライン改定案234段落)。
これによれば、契約の自動更新条項が存在する場合であっても、契約期間の満了前に一定の予告期間を置いて通知を行うことで契約の更新を拒絶することができるという一般的な契約条件のもとは、競業避止義務についてVBERによる一括適用免除が及びうることとなり、商品の供給者となる日本企業にとっては、現地販売店との契約条件をこれまでと比べて柔軟に設定することが可能となると考えられる。

結語

VBERおよびガイドラインの改定案については、現在既に意見公募手続が終了しており、今後、欧州委員会による最終化を経て、2022年6月1日に施行される予定である。
以上に見たとおり、これら改定案は日本企業にとっても重要な変更点を含むものであり、欧州市場において商品を販売する企業としては、改定スケジュールに合わせて適時に事業構造及び現地販売店との契約関係の見直しを図る必要がある((VBER改定案では、2022年5月31日の時点で現行VBERのもとで一括適用免除の要件を満たしている合意については、同年6月1日から2023年5月31日までTFEU 101条1項が適用されないという移行期間が設けられている(VBER改定案9条)。))。
本稿がそのような企業の法務担当者等の一助になれば幸いである。

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山﨑 陽平

弁護士法人御堂筋法律事務所 パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士

2008年同志社大学法学部卒業。2010年同志社大学法科大学院修了。2011年弁護士登録。2012年弁護士法人御堂筋法律事務所入所。2017年カリフォルニア大学ロサンゼルス校卒業(LL.M., Specialization in Media, Entertainment and Technology Law and Policy)、ドーダ法律事務所(オーストリア・ウィーン)勤務。2019年ニューヨーク州弁護士登録。
主な取扱分野は、M&A/コーポレート、国際取引、紛争解決、競争法、知的財産権。

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