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「コンプライアンス研修改革」とは?

本書のタイトルになっている「コンプライアンス研修改革」とは、文字どおり「コンプライアンス研修」を「改革」するというものです。

不正や不祥事が続発する中で、多くの企業において、いわゆる「コンプライアンス研修」を実施していることと思います。

しかし、その研修は果たして研修参加者に刺さっているでしょうか?

研修担当者がどんなに多くの時間と労力を注いでレジュメを作り、一生懸命講義を行ったとしても、研修参加者の頭に残り、心に響かなければ、研修を行う意味も実益もありません。本書では、「コンプライアンス研修が刺さらない」という問題意識に対し、①研修の目的・獲得目標の明確化、②研修参加者のモチベーションを向上させる研修のデザイン、③研修講師による魅力あるコンテンツの提供を三本柱とする「コンプライアンス研修改革」を提唱し、その進め方や実践例を提示しています。

このコラムでは、本書の流れに沿って、読者の皆様が自社において「コンプライアンス研修改革」を推進するために、どのような視点を持ち、何から始めればよいかをガイドします。

自社の研修の課題を掘り下げる

自社のコンプライアンス研修を改革する際に最初にやるべきことは自社の研修の課題を分析し、掘り下げることです。
コンプライアンス研修が刺さらない理由はさまざまなものが考えられますが、

① 研修の目的・獲得目標の不明確さ

② 研修参加者のモチベーションの低さ

③ 研修コンテンツの魅力不足

の三つに収斂すると考えられます。

この三つの理由を念頭に置きながら、「場当たり的にコンプライアンス研修のテーマを選んでいないか」、「研修計画を策定する際に参加者の『コンプラ疲れ』を軽視していないか」、「研修コンテンツが無味乾燥なものになっていないか」などさまざまな切り口から自社の研修を分析することで、課題が浮き彫りになってくると思います。

研修の目的・獲得目標を言語化する

コンプライアンス研修全体の「目的」、個別の研修ごとの「獲得目標」が不明確であるという課題に対しては、基本に立ち返って「何のために研修を行うのか」を考え、言語化することが解決策になり得ます。その際に何の拠り所もなく考えを巡らせるのではなく、「なぜ人は不祥事を引き起こすのか」、「なぜ人は不正に手を染めるのか」といった理論面から思考を進めることが重要です。
筆者は、コンプライアンスの存在意義は「不正・不祥事を予防し、企業や個人が危機的状況に陥るのを防ぐこと」にあり、コンプライアンス研修の目的は「不正・不祥事の発生原因のうち人の頭と心に関わる問題を解決すること」であると考えています。
不正・不祥事の予防策として、ガバナンスや内部統制に関する制度・仕組み、AI等を含む技術的なアプローチが非常に重要であることは言うまでもありません。しかし、仕組みやテクノロジーだけですべての不正・不祥事を防ぎ切ることは現実的に困難です。
コンプライアンス研修は、多種多様な不正・不祥事の発生原因の解消策になる可能性を秘めており、制度面等とともに重要な予防策たりうると考えられます。

図表1 不正・不祥事の発生原因の解消策とコンプライアンス研修の関係

刺さる研修をデザインする

研修参加者のモチベーション(≒やる気)に課題を見出した場合には、モチベーションが向上しない理由を分析し、その対策を講じる必要があります。
研修参加者のモチベーションが上がらない主な理由としては、

① 他人ごと感

② マンネリ化

③ 研修の負担感・コンプラ疲れ

が挙げられます。そして、モチベーションの問題は、研修講師の話術やコンテンツの面白さを超えて、研修全体のデザインを見直さなければ、抜本的な解決は図れません。
刺さる研修をデザインするためには、研修の企画・立案の段階から研修参加者の気持ちに想像力を働かせながら、研修計画や研修実施要項を作り込む必要があります。研修のスタイルひとつとっても、コンプライアンス研修で多く採用されているインプット型のみならず、啓発型、ケーススタディ型、ソクラテスメソッド型、グループワーク型などさまざまなものがあり、これらを獲得目標から逆算して組み合わせるなど、デザインの巧拙が研修の成否に直結します。
また、研修実施後に研修参加者からのフィードバックを検証し、次の研修の改善に活かすというPDCAサイクルを含めた大局的なデザインも重要です。

図表2 PDCAサイクルも含めた大局的なデザイン

研修講師がスキルとコンテンツを磨く

研修講師の話し方や研修資料など研修コンテンツに課題を見出した場合には、研修講師がスキルとコンテンツを磨き、研修参加者のストレスを最小化し、獲得目標の達成度を最大化できるよう努めることが重要です。研修講師は、研修の獲得目標を十分に理解したうえで、伝えたいメッセージ、研修資料、プレゼンの構成、プレゼンの仕方、言葉・表現等を自分なりに考え、魅力あるコンテンツを仕上げることが求められます。
研修講師がやるべきことを時系列でまとめると、

① 構成

② 資料作成

③ 予行演習

④ 研修本番

と整理できます。研修講師には、それぞれの場面で、

① 構成力

② 資料作成力

③ 事前準備力

④ プレゼン力

というスキルが求められます。

図表3 それぞれの場面で研修講師に求められるスキル

課題解決策を個別の研修に落とし込む

以上のとおり、「コンプライアンス研修が刺さらない」という問題意識に対しては、複層的な解決策があり、自社の課題分析を起点としてどこから着手するかを考え、実践することにより、解決の道が開けそうです。
しかし、ここまではいわば総論です。具体的に、どこから着手し、何を見直し、「コンプライアンス研修改革」のエッセンスをいかに個別の研修に落とし込み、どのような研修コンテンツに仕上げるかという各論部分は、各社の研修担当者が頭に汗をかいて練り上げ、形にする必要があります。

本書では、「実践例」として、以下の7種類の研修を取り上げ、各研修の獲得目標、位置づけ・デザイン、コンテンツのポイントを解説しています。

① インテグリティ研修 —コンプライアンスとインテグリティの二刀流

② 新法・法改正のキャッチアップ研修 —重要法令に関する最新動向の総ざらい

③ ハラスメント防止研修 —知識・意識・組織風土の全方位戦略

④ 人権研修 ―「ビジネスと人権」の時代の風を読む

⑤ 内部通報制度に関する研修 —アンラーンとリスキリング

⑥ グループ横断コンプライアンス研修 —企業グループの「距離」の問題の克服法

⑦ 不正・不祥事の再発防止策としての研修 —再起・復活の突破口

これらの研修を自社に取り入れる際のワンポイントアドバイスについては、本書で書ききれなかった点も含め、Business & Lawセミナーを実施予定ですので、ご興味のある方は是非ご視聴ください。

終わりに―本書を通じて筆者の伝えたいメッセージ

著名企業での不祥事が報道されるたびに、「自社は大丈夫だろうか」と不安に思ったり、「不正・不祥事を防ぐことなんてできない」と諦めの気持ちを抱いたりしてしまうことがあるかもしれません。

しかし、「一寸先は闇」の時代だからこそ、法務・コンプライアンス部門にできることは数多くあるのではないでしょうか?

「コンプライアンス研修改革」はその最たるものであり、あらゆる企業において、今日からでも実践することができます。悲観論に屈することなく、前向きに、建設的に、そして本気で研修改革を推進いただければと思います。

本書がそのための一助になりましたら、望外の喜びです。

コンプライアンス研修改革
—不正・不祥事予防のための理論・デザイン・スキル

坂尾 佑平 著
3,190円(税込)(中央経済社、2026)

坂尾 佑平

三浦法律事務所 パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士・公認不正検査士

11年東京大学法科大学院修了。12年弁護士登録、長島・大野・常松法律事務所入所。14年CFE(公認不正検査士)資格、15年認定コンプライアンス・オフィサー資格を取得。18年University of Pennsylvania Law School (LL.M. with Wharton Business & Law Certificate) 修了、Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr 法律事務所(ワシントンD.C.)勤務。19年ニューヨーク州弁護士登録。20年三井物産株式会社法務部出向、企業危機管理士資格を取得。21年3月より現職、同年中級食品表示診断士資格取得。危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、ESG/SDGs、紛争解決等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。

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