はじめに
連載第3回となる今回は、外為法(外国為替及び外国貿易法)のうち安全保障貿易管理・制裁規制に加え、外国規制である米国EARやOFAC規制を紹介する。
これらの制度は、経済安全保障という概念が登場する以前から、国際的な平和および安全の維持や、国際約束の誠実な履行といった観点で、伝統的にはテロリストや制裁対象国向けに実施されてきた。加えて近年は、米中の半導体競争において先端半導体が米国の輸出管理品目として追加されるなど、経済安全保障の文脈においても活用されており、近年の改正・執行状況も踏まえた理解が重要な分野となっている。
外為法(安全保障貿易管理、制裁規制等)
安全保障貿易管理
(1) 沿革および概要
安全保障貿易管理制度は、我が国または国際社会の平和および安全の維持のために(外為法1条)、武器や軍事転用可能な貨物や技術が、我が国の安全等を脅かすおそれのある大量破壊兵器等(後述にて定義)の開発等(後述にて定義)を行っている国家やテロリスト等に渡ることを防ぐことを目的として、我が国からの貨物の輸出や役務(技術)の提供を管理する制度である。第2回で紹介した投資管理制度が外国投資家による我が国企業への投資行為を対象とするのに対し、安全保障貿易管理制度は、我が国の事業者が海外に自らの製品を輸出したり、外国企業等に対し我が国の事業者が保有する技術やサービスを提供したりする行為を対象としている。
我が国では、1949年に設置された対共産圏輸出統制委員会(Coordinating Committee for Export to Communist Area。いわゆる「ココム」)に参加して以降、外為法における、国際的な平和および安全の維持を目的とする安全保障貿易管理が始まったとされている注1)。
安全保障貿易管理には、以下のように①リスト規制と②キャッチオール規制という大きな二つの規制がある。キャッチオール規制は、リスト規制を補完するものとして、外為法では2002年4月に導入されたが、近年は改正も多い制度でもある。
図表1 安全保障貿易管理に関わる法律等の全体像

出典:令和7年度経済産業省委託事業『安全保障への輸出管理への入門』(令和7年12月時点)16頁。
(2) リスト規制
上記のとおり、安全保障貿易管理制度は、我が国のみならず国際的な平和および安全の維持がその目的であるため、制度の大枠は、国際条約や、国際輸出管理レジームと呼ばれる国家間の任意の枠組みにおいて定められている。
国際条約や国際輸出管理レジームでは、国際的な平和および安全を維持するために、大量破壊兵器等(核兵器・化学兵器・生物兵器やその運搬手段となるミサイルを指す。以下同じ)や通常兵器が、我が国および国際社会の安全等を脅かすおそれのある国家やテロリスト等、懸念活動を行うおそれのある者に渡ることを防ぐために貨物の輸出や技術の提供を管理することを目的として、武器ならびに大量破壊兵器等および通常兵器の開発・製造・使用または貯蔵(以下「開発等」という)に用いられるおそれの高い貨物を、その具体的な品目や仕様(機能やスペック)とともにリストアップしている。また、この品目には、大量破壊兵器等や武器そのものに加え、民生品であっても武器ならびに大量破壊兵器等および通常兵器の開発等に用いられるおそれの高いもの(たとえば、工作機械、一定の化学品、ろ過器、炭素繊維等)も含まれている。
我が国では、これらで挙げられた品目を、外為法に基づく輸出許可の対象品目として管理している(貨物について外為法48条1項、技術について外為法25条1項)。具体的には、輸出貿易管理令(昭和24年政令第378号。以下「輸出令」という)別表第一の1項~15項中欄に掲げる貨物、および外国為替令(昭和55年政令第260号。以下「外為令」という)別表1項~15項中欄に掲げる技術が対象となっており、各貨物および技術の具体的な仕様などが、いわゆる貨物等省令(輸出令別表第一および外為令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令(平成3年通商産業省令第49号))や、これらの運用通達に定められている(「輸出貿易管理令の運用について」輸出注意事項62第11号・62貿局第322号(S62.11.6))。
これがいわゆるリスト規制と呼ばれるものであり、リスト規制の内容は、上記国際レジームでの協議内容などを踏まえ、定期または不定期に更新されている。
図表2 リスト規制の対象品目概要
| 分類 | リスト項番 | 貨物・技術の例 | |
| 武器 | 1項 | 鉄砲、銃砲弾、爆発物、軍用車両・軍用船舶等 | |
| 大量破壊兵器等 | 原子力 | 2項 | 核燃料物質・核原料物質、原子炉、重水素、人工黒鉛等 |
| 科学兵器 | 3項 | 軍用化学製剤の原料、軍用化学製剤と同等の毒性の物質、原料、化学製剤用製造機械等 | |
| 生物兵器 | 3項の2 | 軍用細菌製剤の原料、細菌製剤用製造装置等 | |
| ミサイル | 4項 | ロケット・製造装置、無人航空機、ロケット誘導装置・試験装置・推進装置等 | |
| 通常兵器 | 5項~15項 | 先端材料(ふっ素化合物製品等)、材料加工(軸受け、数値制御工作機械等)、エレクトロニクス(集積回路等)、電子計算機、通信(伝達通信装置等)、センサー等、航法装置、海洋関連(潜水艇、船舶の部分品等)、推進装置(ガスタービンエンジン等)など | |
では、リスト記載に該当しなければ、外為法上の輸出許可は不要だろうか。
仮にリスト規制に該当しなくとも(たとえばわずかにスペックが及ばない、少し加工すればリスト貨物に該当する等)、輸出しようとする貨物や提供しようとする技術が、大量破壊兵器等の開発等または貯蔵もしくは通常兵器の開発、製造または使用に用いられるおそれがある場合に、無制限に貨物の輸出や技術の提供を認めることは、やはり我が国または国際社会の平和および安全の維持を損なうおそれがある注2)。そのため、リスト規制を補完する制度も設けられている。これはキャッチオール規制と呼ばれるものである。
(3) キャッチオール規制
キャッチオール規制は、大量破壊兵器等に関するものと通常兵器に関するもので、それぞれ規制内容が異なる。今回は大まかな枠組みを紹介したい。
(a) 大量破壊兵器キャッチオール規制の概要
リスト規制に該当しない貨物や技術であって、大量破壊兵器等の開発等に用いられるおそれのある場合には、経済産業大臣の許可が必要となる。具体的には、輸出令の別表第三に定める国(過去にはホワイト国、現在はグループA国と呼ばれる国)注3)以外の国や地域に対し、輸出令別表第一の16項の貨物を輸出したり、これらの貨物の設計、製造または使用に係る技術を提供したりする場合には、原則、輸出許可が必要であるとしている(外為法25条1項、48条1項)。
まず、対象貨物や技術の具体的内容を見てみると、輸出令別表第一の16項中欄の貨物には、関税定率法(明治43年法律第54号)別表第25類から第40類まで、第54類から第59類まで、第63類、第68類から第93類まで、または第95類に該当する貨物が含まれている。具体的には、食料や木材等、およそ大量破壊兵器等や通常兵器の開発等と関係がないと考えられる一部の品目以外は、すべて16項の対象品目となっている。
次に、具体的な規制内容を見てみると、外為法48条1項では、まず、輸出令別表第一16項の貨物をグループA国以外の国に輸出する場合は一律許可制としたうえで、輸出令において、当該貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合として経済産業省令で定める場合に該当しなければ、輸出許可を要しないとされている(輸出令4条1項3号イおよび同項4号イ)。大変分かりにくいが、要は、経済産業省令で定める、当該貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合に該当しなければ、輸出許可は必要ないとされている、ということである。
では、「核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合として経済産業省令で定めるとき」とは、具体的にどのような場合を指すのか。これについては、以下のように定められている。(輸出貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合を定める省令(平成13年経済産業省令第249号)1号~3号)。
・ その貨物の輸出に関する契約書や文書等において、当該貨物が大量破壊兵器等の開発等に用いられることなどが記録・記載されている場合(1号。いわゆる用途要件)
・ 貨物の輸出に関する契約書や文書等のうち経済産業大臣が告示で定めるものにおいて注4)、当該貨物の需要者が大量破壊兵器等の開発等を行う旨記録・記載されている場合や、当該契約書や文書等において当該貨物の需要者が核兵器等の開発等を行った旨の記録・記載などがある場合(2号および3号。いわゆる需要者要件)。
また、キャッチオール規制には、インフォーム(輸出対象となる貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがあるものとして経済産業大臣から許可の申請をすべき旨の通知)と呼ばれる制度があり、このような通知を受けた場合は、上記経済産業省令で定める場合に該当しなくとも、対象となった貨物の輸出について一律輸出許可が必要となる(輸出令第1条3項、輸出令4条2項3号イ)。
技術の提供(役務の提供)についても、基本的には貨物の輸出と同じ構造により管理されており、原則は輸出許可を必要としつつ(外為法25条1項)、その例外として、核兵器等の開発等のために利用されるおそれがある場合として経済産業大臣が告示で定める場合に該当しなければ、輸出許可が不要とされている(貿易関係貿易外取引等に関する省令(平成10年通商産業省令第8号。いわゆる「貿易外省令」)9条2項7号イ)。経済産業大臣の告示として、貿易関係貿易外取引等に関する省令9条2項7号イの規定により経済産業大臣が告示で定める提供しようとする技術が核兵器等の開発等のために利用されるおそれがある場合(平成13年経済産業省告示第759号。)第1号~第3号、ほか)が定められており、貨物の輸出の場合と同様の定めが置かれている。また、役務の提供においても、インフォーム制度がある(貿易外省令9条2項7号ロ)。
図表3 大量破壊兵器キャッチオール規制のまとめ
| 要件 | 内容 | |
| 客観要件 | 用途要件 | 大量破壊兵器等の開発等に用いられるおそれがある場合 |
| 需要者要件 |
・需要者が大量破壊兵器等の開発等を行う旨記載されている場合 ・大量破壊兵器等の開発等を行っているまたは行っていた場合 |
|
| インフォーム要件 | 経済産業大臣から輸出等の許可申請をするよう通知を受けた場合 | |
(b) 通常兵器キャッチオール規制の概要
(ⅰ)特定品目に対する制度
通常兵器キャッチオール規制は、リスト規制に該当しない貨物や技術であって、通常兵器の開発、製造または使用に用いられるおそれのある場合には、経済産業大臣の許可が必要となる制度である。貨物の種類や仕向地により規制内容が異なり、大量破壊兵器キャッチオール規制よりもやや複雑である。
まず、貨物の輸出について見ると、輸出令別表第一の16項の中でも(1)に掲げる貨物(工作機械、レーダー・航行用無線機器・無線遠隔制御機器、集積回路、航空機・宇宙飛行体・これらの部分品、航行用機器、検査用の機器であって、貨物等省令第14条の2のHSコードに該当するもの。「特定品目」と呼ばれている)は、輸出令別表第三の二の地域(いわゆる国連武器禁輸国・地域)注5)、および一般国注6)への輸出の際には、大量破壊兵器キャッチオール規制と同様に、いわゆる客観要件や需要者要件を確認する必要がある。
具体的には、外為法48条1項において、輸出令別表第一の16項をグループA国以外の国に輸出する場合は一律許可制としたうえで、輸出令において、当該貨物が輸出令別表第一の1項の中欄に掲げる貨物(核兵器等に該当するものを除く。以下「通常兵器」という)の開発、製造または使用のために用いられるおそれがある場合として経済産業省令で定めるときに該当しない場合には、輸出許可不要とされている(輸出令4条1項3号ハ)。通常兵器の開発、製造または使用のために用いられるおそれがある場合として経済産業省令で定める場合としては、具体的には以下のような場合とされている(輸出貨物が輸出令別表第一の一の項の中欄に掲げる貨物(核兵器等に該当するものを除く)の開発、製造又は使用のために用いられるおそれがある場合を定める省令の一部を改正する省令(令和7年経済産業省令第40号)1号~3号。いわゆる「おそれ省令」)。
・ その貨物の輸出に関する契約書や文書等において、当該貨物が通常兵器の開発、製造または使用に用いられることなどが記録・記載されている場合(1号。いわゆる用途要件)
・ 貨物の輸出に関する契約書や文書等のうち経済産業大臣が告示で定めるものにおいて注7)、当該貨物の需要者が、通常兵器の開発、製造または使用を行う旨記録・記載されている場合や、当該契約書や文書等において、当該貨物の需要者が通常兵器の開発、製造または使用を行った旨の記録・記載などがある場合(2号および3号。いわゆる需要者要件)。
加えて、インフォーム制度もある(輸出令4条1項3号ニ)。
(ⅱ)特定品目以外に対する制度
これに対し、特定品目以外の貨物(輸出令別表第一の16項(2)に定めるもの)は、国連武器禁輸国向けと、一般国向けで規制が異なる。
国連武器禁輸国・地域向けは、輸出令別表第一の16項(1)に定める貨物と同様、用途要件・需要者要件の確認が必要とされており(輸出令4条1項4号ハ、客観要件・用途要件については、おそれ省令1号~3号)、インフォーム制度もある(輸出令4条1項4号ニ)。
これに対し、一般国向けは、インフォーム制度のみが適用され、用途要件・需要者要件の確認は不要である。これは、輸出令4条1項4号本文において、16項(2)の貨物の輸出であって国連武器禁輸国以外の地域を仕向地として輸出しようとする場合は、イ、ロおよびニのいずれにも該当しない場合、との例外規定があり、一般国向けの輸出については、ハに定める客観要件の判断をする必要がないためである。
図表4 通常兵器キャッチオール規制の概要
| 内容 | ||||||
| 規制地域 | 国連武器禁輸国・地域 | 一般国 | グループA国 | |||
| 規制対象 | リスト規制品以外(食料、木材等除く) |
16項(1) |
16項(2) |
リスト規制品以外(食料、木材等除く) | ||
| 許可要件 | 客観要件 | 用途要件 | 通常兵器の開発等に用いられるおそれがある場合 | なし | なし | |
| 需要者要件 | 通常兵器の開発等を行っている又は行っていた場合(※通常兵器の開発等以外に用いられることが明らかなときを除く) | なし | なし | |||
| インフォーム要件 | 経済産業大臣から輸出等の許可申請をする旨通知を受けた場合 | |||||
技術の提供も、基本的に同じ枠組みである。外為法25条1項で原則輸出許可を必要とし、例外として外為令17条8項において経済産業大臣が当該取引の当事者、内容その他からみて法の目的を達成するため特に支障がないと認めて指定したものについて許可不要としたうえで、その具体的内容について、貿易外省令9条2項7号ハおよび二、および貿易関係貿易外取引等に関する省令9条2項第七号ハの規定に基づく経済産業大臣が告示で定める提供しようとする技術が輸出令別表第一の一の項の中欄に掲げる貨物(同令第4条第1項第一号イにおいて定める核兵器等に該当するものを除く)の開発、製造または使用のために利用されるおそれがある場合(平成20年経済産業省告示第187号)において定めている。
(4) 技術移転に関する官民対話スキームの新設
キャッチオール規制のうち、特に技術の提供に関して、2024年12月30日より、一定の技術を外国の非居住者に提供する場合には、外為法に基づく事前の報告義務が課されることとなっている(外為法55条の8、外為令18条の8第1項、貿易外省令10条3項、貿易関係貿易外取引等に関する省令10条3項の規定に基づく重要管理対象技術を提供することを目的とする取引を行おうとする者に報告を求める事項(令和6年経済産業省告示第178号)1号および2号)。
現在、事前の報告の対象となっている技術の概要は、図表5のとおりである(貿易関係貿易外取引等に関する省令10条3項の規定に基づく重要管理対象技術を提供することを目的とする取引を行おうとする者に報告を求める事項2号)注8)。なお、赤字部分は、2026年8月16日公布・同日施行の最新の改正部分である。輸出者・技術の提供元となる企業においては、伝統的なキャッチオール規制に加え、官民対話スキームの対象技術や対象取引に該当しないかの確認も近年は重要である。
図表5 官民対話スキームの対象となる重要管理対象技術

出典:「外為法に基づく技術管理対話スキーム(2024年12月施行)。
(5) 違反と罰則
キャッチオール規制を含む、外為法安全保障貿易管理制度に関する各種の義務に違反して貨物の輸出等を行った場合、10年以下の拘禁刑や10億円以下の罰金といった刑事罰に加え(外為法69条の6、69条の7、72条)、3年以内の貨物の輸入や技術の提供の禁止といった行政制裁(外為法25条の2、53条)に処される可能性がある。
経済制裁
(1) 支払規制
外為法16条1項は、国際約束の履行や国際平和のための国際的努力への寄与等の目的から、特定の支払を主務大臣の許可制とすることを認めている。これに基づき、制裁対象者への送金や制裁対象者からの資金受領について許可取得を義務づけ、実質的に禁止する措置が採られる。いわゆる「資産凍結措置」の主要な法的根拠である。現在、ロシア関係者、北朝鮮関係者、テロリスト等に対する資産凍結措置が実施されている。
(2) 資本取引規制
制裁対象者との預金契約、信託契約、貸付契約その他の資本取引についても、外為法21条および25条等に基づき許可制とすることができる。これにより、制裁対象者が日本の金融システムを利用して資金調達や資産運用を行うことを防止し、経済的圧力を加えることが可能となる。実務上は、支払規制と併せて資産凍結措置の一環として運用されることが多い。
(3) 輸出規制
外為法48条3項は、国際約束の履行、国際平和のための国際的努力への寄与、または10条に基づく対応措置の実施のため必要がある場合に、特定貨物や特定地域向け輸出に承認義務を課すことを認めている。ロシア向け先端技術製品や軍民両用品の輸出規制などは、この規定に基づいて実施されている。
(4) 輸入規制
外為法52条は、特定国・地域からの貨物の輸入について承認義務を課すことを認めている。たとえば、我が国の独自制裁措置である北朝鮮からの輸入禁止措置は、同条を根拠として実施されてきた。このような輸入規制は、対象国への経済的圧力を目的とする措置として位置づけられる。ロシア産原油に対するプライスキャップ規制や、北朝鮮からの貨物の輸入禁止措置などは、この規定に基づいて行われている。
(5) 制裁対象者
制裁対象者は財務省において公表されているが注9)、外為法上の制裁対象は国家や地域に限られない。国連安全保障理事会決議や日本独自の判断に基づき、政府高官、軍関係者、企業、金融機関、テロリストその他の個人・団体が指定される。これらの指定者に対しては、支払、資本取引、役務取引等の幅広い規制が科される。
(6) 違反に対する制裁
外為法の制裁規制違反に対しては、刑事罰(承認を得ない輸出入取引について5年以下の拘禁刑や1,000万円以下の罰金(69条の8第3項)ほか)や、行政制裁(最長1年間の貨物の輸出入取引や役務取引の停止命令(53条2項)ほか)が設けられている。近年では、ロシア向けに水上バイクを未承認で輸出した取引業者に対し、代表者への拘禁刑、法人への罰金などの刑事罰が科されるとともに、1年間の輸出取引等の禁止の行政処分が行われている注10)。
米国規制(EAR、OFAC)
米国の対外規制は複数の制度により構成されているが、主なものは以下のとおりである。
① 商務省産業安全保障局(Bureau of Industry and Security:BIS)が所管する輸出管理規則(EAR)
② 財務省外国資産管理室(The Office of Foreign Assets Control :OFAC)が所管する経済制裁プログラム
米国には他にも貨物・技術の移転を制限する規制(たとえば、国際武器取引規則(International Traffic in Arms Regulations:ITAR)など)があるが、今回はEARとOFACに焦点を当てて紹介する。
EAR
(1) 概要
EARは、いわゆるデュアルユース品(民生用途と軍事用途の双方に使用可能な品目)を対象とする広範な輸出管理制度であり、規制対象には、以下のように、「米国内からの輸出」に限定されず、外国における生産活動や技術利用も含まれる。
・ 米国内に所在するすべての品目
・ 米国原産の貨物、ソフトウェアおよび技術
・ 米国原産品を一定割合以上含む外国製品
・ 米国の技術またはソフトウェアを用いて製造された外国製品(いわゆる直接製品)
さらに、EARの域外適用を理解するうえで中核となる概念が、「再輸出(re-export)」である。再輸出とは、一般的には、米国から輸入した貨物を第三国に輸出する行為が思い当たるが、EARにおける再輸出は、外国から外国への貨物の移転、技術またはソースコードを外国人に提供する行為、外国間における技術移転(いわゆる「みなし再輸出(deemed reexport)」)注11)などを含む広範な概念となっている。
そのため、以下のような場合には日本企業もEARの適用対象となる。
・ 米国原産品の再輸出:米国から輸入した部品・機器・ソフトウェア等を第三国へ輸出する場合
・ デミニミス・ルール(組込み製品):外国製品に米国原産の部品・ソフトウェア等が一定割合以上含まれる場合
・ 外国直接製品規則(FDPR):米国の技術またはソフトウェアを用いて海外で製造された製品を輸出する場合
デミニミス・ルール(De Minimis rule)とは、外国製品に含まれる米国原産コンテンツの割合に応じて、当該製品がEARの規制対象となるか否かを判断する制度である。原則は以下のように整理されるが、特定の規制(例:ロシア関連規制等)では例外的にゼロ閾値となる場合もあるなど、該当性判断には注意が必要となる。
・ 通常の国向け:米国原産コンテンツが25%未満 → EAR不適用注12)
・ 制裁対象国向け:同10%未満 → EAR不適用注13)
(2) EARに係る実務対応
EARにおける実務対応の中心は、輸出(または再輸出)に際して許可が必要か否かを判断する点にあり、一般に以下のステップで行われる。
(a) 品目規制リスト(ECCN)への該当性判断
まず、対象品目が「Commerce Control List(CCL)」注14)に掲載されているかを確認し、該当する場合には輸出規制分類番号と呼ばれるECCN(Export Control Classification Number)を特定する必要がある。CCLはBISが公表しており注15)、原子力、材料加工、エレクトロニクス、コンピュータなどの10のカテゴリ(0~9)と五つの製品グループ(A~E。部品、装置、材料、ソフトウェア等)で構成されている。また、CCLにはECCNと呼ばれる分類番号が付されており、個別の規制品目を定めている。さらに、個別の品目を規制する理由はアルファベット2文字で整理されており、主な規制理由は図表6のとおりである。
図表6 規制理由の例
| アルファベット | 具体的な理由(括弧内は筆者訳) | |
| CB | Chemical & Biological Weapons(生物化学兵器への転用防止) | |
| NP | Nuclear Nonproliferation (核不拡散) | |
| NS | National Security (国家安全保障) | |
| MT | Missile Technology(ミサイル技術拡散防止) | |
| RS | Regional Stability (地域の軍事バランス維持や紛争激化防止) | |
| CC | Crime Control (犯罪の防止) | |
| AT | Anti-Terrorism(テロ防止) | |
実際にCCLを見ると、たとえば、Category 3は「Electronics」であり、このうち、“3B001”は「Equipment for the manufacturing of semiconductor devices, materials, or related equipment, as follows (see List of Items Controlled) and “specially designed” “components” and “accessories” therefor.」となっている。規制理由は、NS、RS、ATとされている注16)。
図表7 CCLの一例。ECCN 3B001の内容および規制理由

CCLでECCN番号が付されているものは、ECCN品目として原則輸出許可が必要となる。CCLに掲載されていない品目は「EAR99」と分類されるが、この場合も、後述の一般禁止事項に該当する場合には、輸出許可が必要となるため、注意を要する。
(b) 一般禁止事項への該当性判断
EARには以下の一般禁止事項が定められている注17)。ECCN品目およびEAR99に分類される品目のいずれも、一般禁止事項4~10が適用される場合には、輸出許可が必要となる。
図表8 EARに定められた一般禁止事項
| 一般禁止事項 1 | 規制品目のリストされた国への輸出および再輸出 | EAR対象品か否かや、許可要否を定める原則的なルール。 | |
| 一般禁止事項 2 | 規制される米国成分をデミニミス・ルールによる基準より多く組み込んだ外国製品目の国外からの再輸出および輸出 | ||
| 一般禁止事項 3 | 外国製の「直接製品」に関するルール | ||
| 一般禁止事項 4 | 輸出権限をはく奪された個人および企業リスト(Denied Persons List:DPL)掲載者とのEAR対象品目の取引禁止 | EAR対象品目にこれらの禁止事項が適用される場合には、リスト規制品か否かを問わず。輸出許可が必要。 | |
| 一般禁止事項 5 | 禁止された最終用途もしくは最終需要者への輸出、再輸出、または移転 | ||
| 一般禁止事項 6 | 禁輸仕向地への輸出、再輸出、および移転(たとえば、ウクライナのクリミア半島地域およびウクライナの対象地域) | ||
| 一般禁止事項 7 | 拡散行為並びに特定の軍事諜報の最終用途および最終需要者の支援禁止(米国企業・米国人の支援禁止が対象) | ||
| 一般禁止事項 8 | 特定懸念国を経由する輸出・再輸出規制 | ||
| 一般禁止事項 9 | 命令、許可例外の条件等への違反禁止 | ||
| 一般禁止事項 10 | 違反関与行為、共犯行為等の禁止 | ||
これらの該当性の判断においては、最終用途や需要者の調査が重要となる。この調査に役立つツールとして、米国商務省国際貿易局(International Trade Administration)は、「統合スクリーニングリスト(Consolidated Screening List)」を公表している注18)。このリストには、米国の国家安全保障上懸念があると判断された企業等が掲載されるリスト(Entity List)、輸出権限をはく奪された個人および企業リスト(DPL)、米国製品を軍事転用するおそれがある外国事業体を特定したリスト(Military End User(MEU)List)なども含まれており、具体的な仕向先・最終需要者(企業や個人)に懸念がないかについては、このようなツールを活用することも有効と思われる。
(c) カントリーチャートおよび許可例外の適用可否の確認
特定の仕向先・最終需要者について、上記統合スクリーニングリストで特定のリスト掲載者に該当しない場合であっても、CCLに該当するECCN品目については、仕向地(国)によっては許可が必要な場合がある。BISが作成する、規制品目と最終仕向地の組合せによって許可の要否を記載した、Country Chartでは注19)、各国を縦軸に、ECCNの規制理由を横軸に並べ、縦軸と横軸が交差する枠に「×」マークがついている場合には、輸出許可が必要となる。たとえば中国の項目を見ると、チャートに掲載されたほぼすべての品目に「×」マークがついているが、日本は、許可が必要な品目は限定的である。
図表9 Country Chartによる確認。中国および日本の場合

出典:Interactive Commerce Country Chartより抜粋(赤枠は筆者)。
「カントリーチャート」で許可が必要であることが確認されれば、許可例外が適用されない限り注20)、輸出許可が必要となる。
(3) 罰則
EARに違反した場合、行政罰および民事制裁金のリスクがあり、特に法人に対しては、最高30万米ドルまたは輸出品価額の2 倍以内の行政罰金や、Denied Persons List(DPL)掲載処分、輸出入禁止処分に加え、最高100万米ドルの刑事罰金が課せられるリスクがある注21)。最近のEAR違反としては、米国半導体製造装置(SME)メーカーであるApplied Materials(AMAT)が、SMEのイオン注入装置を韓国のApplied Materials Korea(AMK)へ組み立てのために輸出し、その後、中国の半導体最大手である中芯国際集成電路製造(SMIC)へ再輸出した件がある。この件でAMATは、BISが科す民事制裁金としては史上2番目に高い、約2億5,200万米ドルの民事制裁金を支払っている注22)。
OFAC
(1) 規制の全体像
OFAC規制は、OFACが執行する経済制裁制度の総称であり、特定の国、企業、個人等との取引を制限または禁止することにより、米国の外交政策および国家安全保障目的を実現するための枠組みである。
OFAC規制は、貨物・技術の移転を中心とするEARとは異なり、「誰と取引をしてよいか」という取引主体に着目した規制である点に特徴があり、規制対象者との間では、原則として広範囲の商取引・金融取引が禁止され得る点に留意が必要である。
また、OFAC規制は、テロ資金供与および国際テロリズム対策、人権侵害や腐敗行為への対応、核兵器等の大量破壊兵器等の拡散防止、国際的な犯罪行為(麻薬取引、サイバー攻撃等)への対抗など多様な政策目的に基づき運用されており、単一の法目的に限定されるのではなく複数の目的が並存する点も特徴だろう。
OFAC規制の主要な法的根拠として、国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act:IEEPA)、対敵通商法(Trading with the Enemy Act:TWEA)などが挙げられる。
(2) 規制の概要
OFAC規制の特徴は主に二つある。一つは、OFAC規制は、「米国人(U.S. Person)」や、「米国との接点(US nexus)」がある取引に広く適用される点である。具体的には、①米ドル建て決済(米国金融機関を経由)、②米国子会社・支店が関与する取引、③米国籍従業員が関与する取引、④米国内での活動に関する取引なども含まれる。日本企業同士の取引であっても、決済通貨に米ドルを使用した場合、その送金は米国内の金融機関を経由するため「米国との接点」が生じ、OFAC規制の対象となる。
もう一つは、いわゆる二次制裁として非米国企業に影響が及びうる点である。二次制裁は、米国との直接的な接点がない外国企業であっても、制裁対象国の特定産業に対する重要な取引、SDNリスト(後述)掲載者との継続的または大規模な取引、制裁回避行為への関与などの場合に適用される可能性がある。
(3) 主要な制裁プログラムと確認方法
(a) 対象国または地域全体に対する制裁
対象となる国または地域全体に対し、資産凍結、輸出入の禁止、当該国または地域原産の商品または役務の取引禁止、金融取引の禁止、米国原産品の輸出の禁止等を行う制裁である。現在、イラン、北朝鮮、キューバ、ウクライナの特定地域(クリミア地域、ドネツク人民共和国(自称)、ルハンスク人民共和国(自称))などが包括的制裁対象国となっており、対象国や各国への制裁プログラムは、OFACのウェブサイトから確認できる注23)。
(b) SDNリストに基づく個別の対象者(団体・個人)に対する制裁
国・地域全体に加えて、特定の個人や団体に対する制裁措置もある。OFACはこのような制裁対象者を「制裁リスト」として公表しており、最も有名なのはSDNリスト(Specially Designated Nationals and Blocked Persons List)である注24)。SDNリストに掲載された個人・企業等とは取引が原則禁止され、その資産は凍結の対象となる。また、SDNリストに直接記載されていない企業であっても、SDNリスト掲載者により50%以上の持分を保有される場合は、制裁の対象となる注25)。ここにいう持分の「保有」とは、直接的に保有する場合に限らず、間接的に保有する場合も含まれ、また、複数のSDNリスト掲載者が存在する際は、それぞれの持分が合算されるため、注意が必要である注26)。
(4) OFAC規制に違反した場合の罰則や違反事例
まず、一次制裁に違反した場合、民事制裁金、刑事罰、資産凍結、取引停止といったペナルティを受けるリスクがある。また、二次制裁は形式的には米国法違反とは評価されない場合もあるが、SDNリストに記載される、米国金融システムへのアクセスが禁止される、といった措置が科される可能性がある。
最近の違反事例として、オーストラリアの貨物輸送物流企業であるToll Holdings Limited(「Toll社」)の事例がある。Toll社は、米国の個人や法人等により所有される企業ではなく、また、米国やその領土に所在する企業でもないが、北朝鮮、イラン等の制裁対象国に関連する貨物取引を実施しており、当該取引において米ドル建て決済を利用し米国金融機関が決済に関与していたため、OFACは同社による米国制裁規制違反を認定した。結果として、Toll社は、約600万米ドル規模の制裁金を支払うこととなった注27)。
この件は、取引自体が非米国間で行われたものであっても、米ドル決済を利用したことにより結果的に米国金融機関が関与したことが、OFAC規制の適用根拠とされている。このような事例からも、決済通貨の選択自体が、OFAC規制の適用リスクを左右する要素となる点がうかがえる。
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- 安全保障貿易管理の経緯については、風木淳ほか編著『詳解外為法 貿易管理編-外国法令も踏まえた理論と実務-』7-10頁(商事法務、2022年)も参考になる。[↩]
- キャッチオール規制の概要は、経済産業省安全保障貿易管理に関するウェブサイト中の補完的輸出規制(キャッチオール規制)も参照(最終検索日:2025年11月26日)。[↩]
- アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、大韓民国、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国。[↩]
- いわゆる外国ユーザーリストと呼ばれるリストで、経済産業大臣が告示で定める輸出者が入手した文書等(平成13年経済産業省告示第760号)第2号に規定する、「輸出貿易管理令(昭和24年政令第378号)第4条第1項第3号イ若しくはハ又は第四号イ若しくはハに規定する核兵器等の開発等若しくは同令別表第1の1の項の中欄に掲げる貨物の開発等の動向に関し、経済産業省が作成した文書等」に該当するもの。[↩]
- アフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、イラク、レバノン、リビア、北朝鮮、ソマリア、南スーダン、スーダン。[↩]
- グループA国および国連武器禁輸国・地域以外のすべての国・地域を指す。[↩]
- 前掲注4)。[↩]
- 貿易関係貿易外取引等に関する省令第十条第三項の規定に基づく重要管理対象技術を提供することを目的とする取引を行おうとする者に報告を求める事項の一部を改正する件に関する意見公募手続における概要資料。[↩]
- 財務省ウェブサイト「経済制裁措置及び対象者リスト」。[↩]
- 刑事罰について、産経新聞2024年10月31日付け「露に水上バイクもエンジンも不正輸出、制裁軽視の「悪質な犯行」 貿易会社社長に猶予付き判決」。行政処分について、経済産業省ウェブサイト「外国為替及び外国貿易法に基づく行政処分(輸出禁止等)を行いました」(2025年5月9日)。[↩]
- 15 Code of Federal Regulations(C.F.R.)§734.14(Reexportの定義)。[↩]
- 15 C.F.R.§734.4(d)。[↩]
- 15 C.F.R.§734.4(c)。[↩]
- CCLについては、15 C.F.R. §774 Supplement No.1(Commerce Control List)。[↩]
- 商務省産業安全保障局(Bureau of Industry and Security:BIS)ウェブサイト「Interactive Commerce Control List」。[↩]
- 前掲注15)。[↩]
- 15 C.F.R.§736.[↩]
- 米国商務省国際貿易局(International Trade Administration) ウェブサイト「CSL SEARCH」。[↩]
- 15 C.F.R. Supplement No.1 to§738. 「Interactive Commerce Country Chart」参照。[↩]
- 15 C.F.R. §744。[↩]
- 民事制裁金や罰金等の定めについては、15 C.F.R. §764.3。また、直近の違反事例はBISのウェブサイトからも閲覧可能である。[↩]
- 当該違反事例については、JETROの海外ニュース。が分かりやすいと思われる。原文はこちら。[↩]
- Office of Foreign Assets Controlウェブサイト「Sanctions Programs and Country Information」。[↩]
- OFAC Sanctions List Serviceウェブサイト「Data Center - SDN List」。[↩]
- OFACのFAQ398。[↩]
- OFACのFAQ399。[↩]
- OFAC Settles with Toll Holdings Limited for $6,131,855 Related to Apparent Violations of Multiple Sanctions Programs(Enforcement Release: April 25, 2022).[↩]
福冨 友美
弁護士法人大江橋法律事務所 弁護士
07年早稲田大学法学部卒業。10年早稲田大学法科大学院修了。19年Northwestern Pritzker School of Law修了(LL.M.)。20年Herbert Smith Freehills(東京オフィス)にて実務研修。22年12月~26年3月まで、経済産業省貿易経済安全保障局安全保障貿易管理課において任期付公務員として勤務。主な取扱分野は、外為法(投資管理・安全保障貿易管理)・経済安全保障推進法、M&A、コーポレートのほか、経済安全保障に関する国内外の各種規制・政策に対する助言・対応も広く行っている。
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