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はじめに

米国の輸出管理のうち、商務省産業安全保障局(Bureau of Industry and Security:BIS)が担当する、米国輸出管理規制(Export Administration Regulations:EAR)に基づくデュアルユース(軍民両用)品目(民生用にも軍事用にも利用可能な品目)規制は、多くの日本企業の活動に関係する。EARは規制改正と執行の双方で動きが多く、企業には最新動向を踏まえた実務対応が求められる。
本記事では、EARに関する前提知識を確認したうえで、2025年以降の重要な改正と直近の執行事例を概観し、日本企業に求められる対応を整理する。

日本企業に対するEARの適用

EARの主な規制としては、Commerce Control List(CCL)掲載品目の一定仕向先への輸出等に許可を要する「リスト規制」や、エンティティ・リスト(Entity List:EL)、軍事エンドユーザー・リスト(Military End-User List:MEUL)、未検証リスト(Unverified List:UVL)等の掲載事業体をエンドユーザーとする輸出等に許可を要する「エンドユーザー規制」等がある。エンドユーザー規制は、エンドユーザーを実際に認識していた場合だけでなく、合理的に認識し得た(reason to know)場合も適用されるため、事前のデューデリジェンスが重要となる。

EARによる規制は、日本企業を含む非米国企業が米国外で行う取引にも広く域外適用される。まず、米国から外国に輸出されたEAR対象品目または当該品目を一定割合(デミニミス(de minimis))を超えて組み込んだ外国製品を第三国に再輸出する場合、EARの規制が及ぶ。また、米国製品を組み込んでいない場合であっても、特定の米国原産技術等を用いて米国外で製造された製品は、EARの規制対象となる(外国直接製品規則(Foreign Direct Product Rule:FDPR))。
EARに違反した場合、非米国企業であっても、高額の罰金、担当者に対する拘禁刑、取引禁止等の制裁のほか、企業名の公表によるレピュテーション毀損等の重大な結果を生じ得る

したがって、日本企業においても、EARについて、規制改正と執行の両面において、常に最新動向を確認し、適切な実務対応を講じる必要がある。

50%ルールの導入

2025年9月29日付け暫定最終規則(Interim Final Rule:IFR)によるEAR改正の結果、一部のリストの掲載事業体が直接・間接に50%以上を保有する事業体への輸出等に対し、これらのリストに基づく許可要件等を適用する「Affiliates Rule」(以下「50%ルール」という)が導入された注1)
これは、米財務省外国資産管理室(Office of Foreign Assets Control:OFAC)が所管するSDNリストに従前から適用されていた、「SDNリスト掲載者自身に加え、掲載者が50%以上の持分を直接・間接に保有する者も制裁の対象となる」とする、いわゆる「OFAC 50%ルール」に近い考え方をEARに取り込んだものである。
50%ルールは、米中通商協議の結果等を背景に、2026年11月9日まで適用が一時停止されているが、適用再開に備えた準備が必要である。

50%ルールは、

① エンティティ・リスト(EL)の掲載事業体

② 軍事エンドユーザー・リスト(MEUL)の掲載事業体

③ 特定のSDNリスト掲載事業体

のいずれか(X社とする)が、直接・間接に、ある事業体(Y社とする)の50%以上を保有する場合、Y社に対する輸出等について、X社に対する輸出等の制限を自動的に適用するものである注2)
複数のリスト掲載事業体が、直接・間接に、ある事業体の持分を所有する場合、リスト掲載事業体の保有割合の合計が50%以上であれば、当該事業体に対する輸出等も規制される。保有割合は①~③のリストで合算されることや、持分を所有する複数のリスト掲載事業体に対する規制のうち、最も厳格な規制が適用されることに留意を要する。

取引関係者がリスト掲載事業体に50%以上を所有されていると知らずに輸出等をした者も、EAR違反の責任を免れない。したがって、輸出等をする者は、取引関係者とリスト掲載事業体の所有関係について、事前にデューデリジェンスを実施する必要がある。デューデリジェンスの結果、リスト掲載事業体による所有割合が50%未満であると確認されれば、輸出等許可申請は要しない注3)。他方、デューデリジェンスの結果、リスト掲載事業体による所有割合が50%以上であることが確認された場合や、リスト掲載事業体による所有割合が不明であった場合注4)、「許可例外(License Exception)」に該当しない限り、輸出等許可申請をする義務を負う。50%ルール対応に必要なデューデリジェンスは、日本企業(特にOFAC 50%ルールへの対応が進んでいない企業)にとって大きな負担となることが想定される

主な直近の処分事例から見る執行の最新動向

Coastal事件

2026年4月13日、BISは、米国カリフォルニア州法人であるCoastal PVA Technology社(以下「Coastal社」という)に対し、170万米ドルの民事罰金を科すことで同社と和解したことを公表した。
Coastal社は、中国の第三者流通業者を通じて、ELに掲載された中国半導体ファウンドリ中芯国際集成電路製造(以下「SMIC」という)関連企業に対し、半導体製造工程で使用されるPVAブラシ等(合計約40万米ドル相当)を無許可で輸出したものと認定された。なお、Coastal社は、コンプライアンス管理体制が不十分であり、輸出許可が必要であることを知らずに輸出を実施したと認定されている。

本事例で違法に輸出されたPVAブラシ等は、EAR対象品目であるが、CCLには掲載されていない、最も規制が緩やかな品目(EAR99)であった。本事例は、EAR99品目に係る違反であっても、また、許可が必要であることを認識していなかった比較的小規模な違反であっても、事案によってはBISの執行対象となり得ることを示している。

Exyte事件

2026年1月、BISは、ドイツExyte Management AG(以下「Exyte社」という)の中国子会社Exyte Shanghai Ltd.(以下「Exyte Shanghai」という)が、EL掲載のSMIC関連企業に対するEAR99品目(半導体の製造等のために利用可能な流量計等(合計約285万米ドル相当))の国内移転を無許可で支援していたとして、Exyte社に150万米ドルの民事罰金を科す和解を公表した。

Exyte事件も、Coastal事件と同様に、コンプライアンス管理体制が不十分であり、許可が必要であることを知らずにEAR99品目を無許可で取り扱った事案である。他方、Coastal事件との違いとしては、①Exyte Shanghaiが行ったのは、輸出等ではなく中国における国内移転の支援であったこと、②米国法人ではないドイツ親会社が民事罰金を支払うこととなったことが挙げられる。

すなわち、EAR99品目を含む当局の執行は、非米国企業グループの現地子会社にも及んでおり、コンプライアンス管理が求められるのは国境を超えた輸出に限られない。日本企業においても、国境を超えた輸出に関与しない現地子会社も含めてコンプライアンス管理を徹底しなければ、グループ全体についてEAR違反による重大なリスクが生じ得るといえる。

Applied Materials事件

2026年2月11日、BISは、米国カリフォルニア州のApplied Materials Inc.(以下「AMAT」という)およびその韓国子会社Applied Materials Korea, Ltd.(以下「AMK」という)に対し、約2億5,250万米ドルの民事罰金を科す和解を公表した。これは、処分当時におけるBIS史上2番目に高額な罰金であり、罰金額の上限(取引額の2倍)が適用されている。
AMATは、BISから、あらかじめ、「イズ・インフォームド・レター」注5)を受領していたにもかかわらず、AMKを経由して、半導体製造装置のイオン注入装置合計約1億2,625万ドル相当をEL掲載事業体であるSMIC関連企業に無許可で再輸出した。

本事案において、AMATは、AMKにおける組立工程をもって「実質的変更」(substantial transformation)が生じるため、自らの製品はEARの規制対象ではないと主張したが、当該主張はBISに退けられた。これにより、組立工程の一部を米国外で行ったとしても、当然にEARの規制対象から外れるわけではないという点が、改めて確認された

なお、法令上認められた罰金額の上限(取引額の2倍)が適用された理由の一つとしては、あらかじめ、BISのイズ・インフォームド・レターによる警告を受領したにもかかわらず、あえて形式的な法解釈によってEAR違反を強行した態度の悪質性が考慮されていると考えられる。

Cadence事件

BISは、2025年7月28日、米国カリフォルニア州のCadence Design Systems, Inc.(以下「Cadence社」という)に対し、9,500万米ドルの民事罰金を科す和解を公表した。なお、Cadence社は、別途、司法省との間で4,500万米ドルの没収を含む和解をしている。
Cadence社の中国子会社Cadence Design Systems Management(Shanghai)Co., Ltd.(以下「Cadence Shanghai」という)は、中国のEL掲載事業体である国防科技大学のフロント企業に対し、無許可で半導体設計等に用いられるEDA(Electronic Design Automation)ツールを販売等したと認定された。
本事例が示したように、フロント企業を介在させた場合であっても、EAR規制を免れることはできない。上述のとおり、EL等によるエンドユーザー規制は、エンドユーザーを実際に認識していた場合だけでなく、合理的に認識し得た場合も適用されるため、各企業にはエンドユーザーを含む取引関係者のデューデリジェンスが求められる。特に50%ルールが施行されてからは、取引関係者の保有割合についてもデューデリジェンスが必要になる点に注意が必要である

Teledyne事件

BISは、2026年2月27日、米国Teledyne FLIR LLC(以下「Teledyne社」という)に対し、サーマルイメージングカメラを無許可で中国に輸出したとして、100万米ドルの民事罰金を科す旨を公表した。
本事例では、Teledyne社は、「market collaboration fee」を上乗せすることで、米国原産部品比率がデミニミスの範囲内(25%未満)に抑えられており、EARの適用対象外であると整理していたが、BISは、かかるデミニミスの計算を認めなかった。本事例は、経済的実態を伴わない処理を認めないというBISの方針を改めて示したものといえる
また、米国FLIR Systems社は米国Teledyne Technologies社によって2021年に買収されていたが、違反事由には当該買収前だけでなく買収後に生じた行為も含まれている。日本企業にとっては、海外企業を買収する際のデューデリジェンスや買収後のグループガバナンスの在り方の観点から参考になる事案といえる。

日本企業に求められる実務対応

以上のような最新動向を踏まえ、日本企業には、以下のような実務対応が求められる。

取引関係者スクリーニングの拡大

これまでも、各企業には、EAR上のエンドユーザー規制に基づき、取引関係者(直接の取引先ではないエンドユーザーを含む)にリスト掲載事業体が含まれていないかのスクリーニングが求められてきた。その際、商務省国際貿易局(International Trade Administration:ITA)が提供する「統合スクリーニングリスト(Consolidated Screening List:CSL)」が有用なツールとして活用されてきた。
50%ルールの施行後は、取引関係者の保有者についてもデューデリジェンスを行い、EL等掲載事業体の保有割合が50%未満であることを確認する必要が生じるが、CSLはそのような「自らはEL等に掲載されていないが、EL等掲載事業体に50%以上を保有されている事業体」の検索には対応していない。そのため、各企業では、CSLのみに依拠して取引関係者をスクリーニングすることはできず、50%ルールに対応した民間サービスの利用を検討すべき場合もあると思われる。

また、50%ルールを踏まえると、取引先との契約において、相手方の株主構成変動に係る通知義務、エンドユース・エンドユーザーに関する表明保証・誓約事項、再輸出禁止条項、監査権、違反時解除条項等を規定することについて検討が求められる。なお、当該検討にあたっては、いわゆるカウンター制裁との関係に留意を要する

コンプライアンス管理体制の強化

日本企業は、以下のような点に留意したうえで、EARの規制対象となり得る取引を特定し、許可申請の要否を正確に検討するために必要な体制を整備しておく必要がある。

(1) 事業部門と法務・コンプライアンス部門の役割分担

EARの確実な遵守と業務の効率性の両面から、適切な事業部門と法務・コンプライアンス部門の役割分担を決定する必要がある。たとえば、まずは事業部門において、簡易的にEARの適用対象となり得る取引であるか(米国産、米国部品の使用、米国原産技術等の使用のいずれかに該当するか等)を検討し、その内容を踏まえて、法務・コンプライアンス部門において精査することも考えられる。もっとも、取扱品目、商流、関連法域、既存の輸出管理の体制等は企業ごとに異なるため、当該企業の実態およびリスクを踏まえた、自社にとって現実的かつ実効的な体制構築を検討する必要がある

(2) デミニミスルールの算定

デミニミスルールの算定に誤りがあれば、EAR違反という重大な結果を生じ得るが、企業が採用したデミニミスルールの算定方法がBISに否定される可能性もある(5.Teledyne事件参照)。各企業においては、算定の前提となる米国原産部品を適切に把握したうえで、必要に応じて専門家の意見を確認しつつ、適切なデミニミスの算定方法を慎重に決定し、算定の合理性を示す根拠を保存する等の対応が求められる

(3) 外国子会社を含むグループ全体のコンプライアンス管理

Exyte事件では、中国子会社による中国国内での移転について、ドイツ親会社が執行対象となっている。日本企業においても、外国子会社を含むグループ全体において、国境を超えた輸出等を伴わない事業活動を含めて、EARの遵守体制を確立する必要がある

おわりに

EARの規制および執行動向は、今後も変更が続くものと考えられる。日本企業としては、必要に応じて専門家と相談しつつ、常に最新動向を確認し、EARの遵守体制を整備する必要がある。

  1. このほかにも、継続的にEL等の掲載事業体の追加や規制対象品目の拡大等が生じている。本記事では取り上げないが、各企業においては、常に最新のEL等およびCCLを確認する必要がある。[]
  2. 2026年5月15日現在、50%ルールは、UVL等には適用されていないが、今後、同ルールの適用が拡大される可能性がある。引き続き最新動向の注視を要する。[]
  3. ただし、所有割合が50%を下回る場合であっても、重要な少数株主の存在や取締役会メンバーの重複等が認められる場合、転用リスクのレッドフラグとみなされ、追加的なデューデリジェンスが求められる。[]
  4. この場合、許可申請に当たっては、デューデリジェンスの手順および所有割合を決定できなかった理由の説明が求められる。[]
  5. 事前に許可が必要であることを通知するレター。これに違反して無許可で輸出等を行った場合、EAR違反として処分対象となる。[]

藤田 将貴

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 弁護士

03年早稲田大学法学部卒業。06年京都大学法科大学院修了。07年弁護士登録(東京弁護士会)。16年カリフォルニア大学バークレー校ロースクール修了(LL.M.)。17年ニューヨーク州弁護士登録。経済安全保障・貿易管理分野(米国・英国・EUを含む)、倒産・事業再生、クロスボーダーのM&A、国際商取引を中心に企業法務全般を取り扱う。大手総合商社法務部への出向経験を有する。主要著書:Chambers Sanction 2025、「米国の経済制裁の基礎知識と実務対応のポイント」(Business Lawyers、2022)「米商務省BIS、輸出管理規則(EAR)のエンティティ・リスト等掲載事業体の関連事業体も適用対象とする新ルール導入等の規則改正、輸出管理体制を強化」(商事法務ポータル、2025)ほか多数。

佐藤 重男

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 弁護士

14年東京大学法学部卒業。15年弁護士登録(第二東京弁護士会)。23年ニューヨーク大学ロースクール修了(LL.M. in International Business Regulation, Litigation and Arbitration)。24年ニューヨーク州弁護士登録。クロスボーダー紛争・海外訴訟対応を含む国内外の紛争解決を中心にするほか、各国の個人情報・データ保護や輸出管理・経済安全保障等の分野も取り扱う。

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