日本の経済安全保障法制を支える2大法制
第2回からは、経済安全保障法制に関する日本の各法制度を紹介することとし、今回は①経済安全保障推進法(経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和4年法律第43号))と②外為法(外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号))のうち投資規制について紹介する。
これらの法律は、日本の経済安全保障法制に関する主要な支援策や規制を扱っており、日本の経済安全保障法制を語るうえでは欠かせない存在である。まずはこれらの法制度の内容を理解するとともに、自社事業と関わりうる部分を整理していくことが、自社の事業戦略や、コンプライアンス・リスク対応を検討するにあたっても重要である。
経済安全保障推進法(令和8年改正も含む)
特定重要物資の指定および安定供給支援
(1) 概要
この制度は、国民の生存に必要不可欠な重要な製品や原材料などの物資を、政府が「特定重要物資」として指定したうえで、その安定供給のために、事業者による特定重要物資の供給に対する支援を行う制度である。
具体的には、まず、国⺠の⽣存に必要不可欠または国民生活・経済活動が依拠している物資で、安定供給確保が特に必要なものについては、政府が特定重要物資として指定し(経済安全保障推進法7条)、特定重要物資を所管する主務大臣は各特定重要物資に対し、事業者支援を含む安定供給確保のための施策を含む安定供給確保取組方針を作成する(同法8条)。指定された特定重要物資を製造等する事業者は、自らの安定供給確保のための供給確保計画について、当該特定重要物資の所管大臣による認定を受けることができ(同法9条1項)、認定を受ければ、安定供給確保取組方針に定める、補助金やツーステップローンなどの支援を受けることができる。
2026年5月19日時点においては、16の物資が指定され、149件の供給計画が認定されている注1)。
(2) 令和8年改正の概要
まず、特定重要物資の指定対象が広がった。従前は、製品やその原材料などの有形物のみが対象であったが、これに加えて、「特定重要物資の機能の発揮に必要不可欠な役務」も指定が可能となった(経済安全保障推進法改正法7条1項)。たとえば、海底ケーブルの敷設業務などが念頭に置かれている注2)。特定重要物資の安定供給のためには、商流における個々の製品のみならずその効用を発揮させるための役務も一体となって支援する、というサプライチェーン全体を見据えた改正といえる。
また、新たな特定重要物資として、抗菌性物質製剤の一つとしてセフトリアキソンナトリウム水和物が追加されている注3)。
さらに、安定供給確保のために主務大臣が取りうる対応に関する規定が追加された。具体的には、特定重要物資等やその原材料等(以下「特定重要物資等」という)の生産や、特定重要物資等の供給に不可欠な役務(以下「特定重要物資等供給不可欠役務」という)に係る事業について、廃止・譲渡・移転等が行われたり行われようとする場合には、当該事業の廃止等による特定重要物資等や特定重要物資不可欠役務の安定供給確保への影響を把握するために、主務大臣が民間事業者への資料・情報提供の協力要請ができる(同法改正法9条の2第1項)。また、当該影響に照らして特定重要物資等や特定重要物資不可欠役務の供給に「支障が生ずるおそれ」がある場合、主務大臣が民間事業者に対する特定重要物資等や特定重要物資等供給不可欠役務の供給確保計画の申請を促すことができる(同法改正法9条の2第2項)。さらに、既に特定重要物資等や特定重要物資不可欠役務の認定供給確保計画に関する支援を受ける事業者からも、自身の特定重要物資等の生産に必要な原材料等を提供したり役務を提供したりなどする事業者の事業の廃止・譲渡・移転等に関し、主務大臣に対し原材料等の提供等を行う事業者に対する協力を求めるよう申し出ることもできる(同法改正法11条の2)。
図表1 主務大臣からの情報収集や働きかけのイメージ

出典:経済安全保障法制に関する有識者会議第13回資料1「推進法改正に関する検討会合の要点」9頁。
改正法には主務大臣による強制権限はないものの、主務大臣がより予防的観点から、特定重要物資等の安定供給のために関与できるようになったといえよう。また、事業者側にとっても、政府支援を受けられる事業が広がったほか、認定供給事業者のサプライチェーン保全に疑義が生じた場合の政府への働きかけをしやすくなったといえるだろう。
特定社会基盤事業に係る重要設備の導入および管理委託における事前届出制度
(1) 概要
この制度は、一定の重要なインフラ役務の安定的な供給確保の観点から、かかる重要なインフラ役務に係る設備や維持管理に関し、国による事前届出・審査を行う制度である。具体的には、一定の重要なインフラ役務を「特定社会基盤事業」として法律で定め、その中で一定の基準を満たす事業者を「特定社会基盤事業者」として指定し、当該事業者による重要設備の導入・変更等について、事前届出および国による審査を求めている(経済安全保障推進法49条以下)。2026年7月1日時点では、電気、ガス、石油、水道、通信、運送、金融等を含む16の分野において、258の事業者が基幹インフラ事業者として指定されている注4)。
(2) 令和8年法改正に伴う変更点
改正法では、医療機関へのサイバー攻撃などを踏まえ注5)、特定社会基盤事業の対象に医療分野が新たに追加された(同法改正法50条1項14号)。特定社会基盤事業者の指定は未了だが、経済安全保障法制に関する有識者会議では、医療情報基盤・診療報酬審査支払機構や個別の病院等を指定することが提案されている注6)。将来的に、医療DXベンダーや個別の病院が、特定社会基盤事業者として指定される可能性があり、指定を受けた場合、重要設備の導入や重要設備の管理維持を第三者に委託する場合には事前届出の提出などが必要となる可能性がある。
加えて、特定社会基盤事業者の指定直後から届出を可能とするなど、事前届出に関する運用の改善もなされている。
重要技術育成プログラム(いわゆる「K Program」)
(1) 概要
この制度は、経済安全保障上重要になりうる先端的な技術であって、外部に不当に利用された場合に国家・国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがあるものなどを政府が「特定重要技術」と指定し、官民協議会等を通じて特定重要技術の研究開発支援や成果の適切活用を図るものである。研究開発成果を公的利用・民生利用につなげるべく、技術ごとに守秘義務を伴う情報共有も可能な指定基金協議会を設置している点にも特徴がある。2026年6月末時点において、海洋領域、宇宙・航空領域、領域横断・サイバー空間領域およびバイオ領域などの領域を対象に、科学技術振興機構(JST)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、 日本医療研究開発機構(AMED)、日本学術振興会(JSPS)、および農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)が、42の指定基金協議会を設置している注7)。
(2) 令和8年改正に伴う変更点
さまざまな技術領域で研究開発支援に強みを持つ法人による伴走支援を実現する観点から、研究開発独立行政法人その他特別の法律により設立された法人(特殊法人、認可法人等)も指定基金として指定できることとなった(同法改正法63条)。たとえば、今後は、情報通信研究機構(NICT)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)なども指定基金として指定が可能になり注8)、より多様な主体が参加できる体制になると思われる。
特許非開示制度
(1) 概要
この制度は令和8年改正における改正は特段ないが、特許出願の明細書等に、公にすることにより国家および国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい場合には、「保全指定」という手続により、出願公開、特許査定等の特許手続を留保するとともに、その間、公開を含む発明の内容の開示全般やそれと同様の結果を招くおそれのある発明の実施を原則として禁止し、かつ、特許出願の取下げによる離脱も禁止する制度である。保全指定の対象となる特定技術分野は、核技術、先端武器技術等などを含む技術が、国際特許分類を用いて政令で指定されている(経済安全保障推進法施行令12条1項各号)。
2024年度および2025年度において、保全指定された件数はいずれも0件であるが、保全指定を要するか否かを判断する保全審査自体は、2024年度において90件、2025年度において106件実施されている注9)。
その他の改正事項
さらに改正法では、次のような制度が新設された。
① 重要な海外事業の促進に関する制度
② 総合的な経済安全保障シンクタンクおよび官民協議会に関する制度
①は、日本の経済安全保障上重要な海外事業(国際的な輸送網の強靱化のための施設等の整備・運用、重要サービスの提供に用いられる施設等の整備・運用および重要技術の海外展開のための施設等の整備・運用)を特定海外事業として定め、支援するものである(経済安全保障推進法改正法85条の2以下)。特定海外事業に関する計画を事業者が作成し、主務大臣の認定を受けた場合に情報提供や支援が受けられる点(同法改正法85条の3および7)は、特定重要物資に係る支援制度とも類似している。さらにこの制度では、国際協力銀行(JBIC)による特定海外事業への貸付けや劣後出資等の支援も受けることができる(同法改正法85条の8)。この改正と併せて株式会社国際協力銀行法も改正されており、JBICによる認定特定海外事業に対する出資等の業務は他の業務と勘定を設けて整理されるなど、特定海外事業に対する政府からのより柔軟な支援を可能とする枠組みとなっている(株式会社国際協力銀行法改正法26条の2第3号)。
図表2 重要な海外事業に対するJBICによる支援概要
4.JBICによる支援(JBIC法を以下のとおり改正)
(1)JBIC法の目的規定に、認定特定海外事業の実施に必要な金融を行い、もって経済安全保障の推進に寄与することを追加。
(2)JBICは、認定特定海外事業に対する出資等の業務について、他の業務と経理を区分し、勘定を設けて整理。
(3)認定特定海外事業に対する出資等の業務は、償還確実性・収支相償の原則の適用を受けないものとした上で、JBICは認定特定海外事業に劣後出資等を供与できることとし、民間資金の動員を図る。
出典:内閣府「経済安全保障推進法※及び株式会社国際協力銀行法の一部を改正する法律案の概要」より抜粋。
②は、経済安全保障をめぐる課題が複雑化しており、外交・情報・防衛・経済・技術の各分野の専門知識を結集して対応することの重要性に鑑み、機動的に調査研究を行い、政府全体の幅広い政策要請に応える総合的な経済安全保障シンクタンク機能を創設する制度である。具体的には、政府が調査研究基本指針を定めたうえで(経済安全保障推進法改正法3条の3)、内閣総理大臣が、経済安全保障に関する総合的な調査研究を、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)などに委託しつつ行うこととなっている(同法改正法3条の4第1項および第2項)。また、経済安全保障上の情報共有や対策を官民連携して更に促進する観点から、内閣総理大臣、国の関係行政機関の⻑、事業者、学識経験者などを構成員とする官民協議会が設置されることとなった(同法改正法3条の2)。構成員から提供される情報には取扱いへの意見付保や他の構成員による配慮義務が課されるととともに(同法改正法3条の2第7項)、構成員等には国家公務員と同等の守秘義務を課され(同法改正法3条の2第9項)、企業の営業秘密やサイバーセキュリティに関する情報などの機微性の高い情報のやり取りも前提とした会議体で、官から民へのより柔軟な情報提供を行い、連携を深めることが期待されていると考えられる。
図表3 官民協議会での議題のイメージ

出典:経済安全保障法制に関する有識者会議第13回資料1「推進法改正に関する検討会合の要点」36頁。
外為法対内直接投資審査制度(令和8年改正も含む)
外為法は、対外取引を原則自由としつつ、必要最小限の管理または調整を行うことにより、対外取引の正常な発展や我が国または国際社会の平和および安全の維持を期し、国際収支の均衡および通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与することを目的としている(外為法1条)。
外為法には、支払管理、投資管理、安全保障貿易管理等のさまざまな規制が含まれているが、今回は、経済安全保障の文脈で特に重要となる制度の一つである投資管理制度を紹介する。
投資管理制度
(1) 概要
対内直接投資審査制度は、①「外国投資家」と呼ばれる者が、②「指定業種」と呼ばれる一定の業種を営む日本企業に対し、②「対内直接投資等」をはじめとする、日本企業の株式・議決権の取得などの投資行為等を行う場合、財務大臣および投資先企業が営む指定業種を所管する事業所管大臣に対し事前届出が必要となる制度である(外為法27条1項)。事前届出後、財務大臣および事業所管大臣は届出内容を審査し、国の安全等に照らし問題がある場合には、審査期間の延長や、中止・変更の勧告・命令が可能である(同法27条3項~10項)。制度の詳細は複雑であるものの、ポイントは以下のとおりである。
(a) 「外国投資家」の範囲
外国法人や、外国法令に基づき組成されたファンドのみならず、それらが株式、議決権、出資持分の50%以上を保有している内国法人、組合なども含まれる(外為法26条1項3号~5号)。そのため、日本企業であっても、外国法人による持ち株比率が50%以上である会社などは、自らを外国投資家として、対内直接投資審査制度の適用を受ける可能性がある。特に上場企業や海外企業の子会社は自らが外国投資家になりうる点に注意が必要である。
(b) 「指定業種」の範囲
現在の指定業種は、武器、航空機、原子力といった伝統的な防衛関連業種のみならず、半導体、工作機械・産業用ロボット、電子部品など経済安全保障推進法上の特定重要物資やその装置・部素材の製造業、電気、ガス、水道などの重要なインフラ関連業種に加えて、ソフトウェア業や情報処理サービス業一般も広く含まれている注10)。現在の業種の外観は図表4も参照されたい。
図表4 日本における指定業種

出典:財務省「外為法・投資審査制度アニュアルレポート(年次報告書(2025年度))7頁。
財務省の2025年度年次報告書では、同年度の事前届出件数は3,400件を超えている注11)。他国と比較しても年間届出件数が突出していることから、指定業種の範囲の合理化が課題となっているが注12)、2026年7月3日より、指定業種の見直し案などのパブリックコメントが公表されており注13)、この点は後述する。
(c) 審査対象となる行為
投資行為としてイメージしやすい、上場会社・非上場会社の一定の株式・持分の取得に加えて(上場会社については1%以上、非上場会社については1株・1持分以上の取得。外為法26条2項1号~4号)、事業目的の実質的な変更・取締役等への就任・事業の全部または一部の譲渡や 廃止等に対して行う同意(同じ法26条2項5号)や、支店の設置(同項6号)、国内法人への1年を超える一定の金銭の貸付 (残高が1億円を超える場合や負債総額の 50%を超える場合等)(同項7号)など、幅広い類型が含まれている。特に役員の就任に対して行う同意については、株主総会における外国投資家による議決権行使前に事前届出審査を完了している必要があるため、事前届出のスケジュール管理に注意が必要であるほか、同一人物が役員を重任する場合も一律届出が必要となっていることが年間事前届出の増加の原因であることが指摘されている注14)。この点も、2026年7月3日より、事前届出を要する対内直接投資等などの見直し案に関するパブリックコメントが公表されており注15)、詳細は後述する。
(d) 審査実務
近年の実務も踏まえた審査の流れは、概ね以下のようなものである。
図表5 対内直接投資審査制度の流れ

出典:経済産業省「外国投資家から投資を受ける上での留意点について(2025年5月)」を基に筆者作成。
審査期間は、事前届出の受理日から30日間が原則であり(外為法27条2項)、実務上、国の安全等に照らし問題のない事前届出は、審査期間が短縮される。審査では、審査を行う事業所管省庁などから質問票が届く場合もある。また、審査が30日を超える見込みの場合、実務的には、届出者が一旦事前届出を取り下げ、事前相談という形で審査を事実上継続する場合も少なくない。
財務省が公表する年次報告書によると、事前届出のうち約25%は5日以内に、約67%の案件については2週間(14暦日)以内に審査が完了しているとされている注16)。もっとも、これらの日数には、上記のような事前届出を一旦取り下げた場合の日数はカウントされず、国の安全等に照らし機微な案件については、30日を超えて審査が行われることもある。公表情報から伺える近年の審査事例としては、図表6のようなものもある注17)。
図表6 近年の審査事例から見る審査日数
| 案件概要 | 事前届出提出時期 | 審査完了時期 | 審査完了までに要した日数※1 |
| 株式会社 BCJ-92による株式会社ジャムコの買収 | 令和7(2025)年1月15日 但し、経済産業省からの要請により同年2月12日付で一旦届出を取り下げ、同年4月25日付で再度届出※2。 |
令和7(2025)年5月1日 | 106日 |
| YAGEO Electronics Japan 合同会社による株式会社芝浦電子の買収 | 令和7(2025)年2月6日 但し、経済産業省からの要請により同年2月28日付で一旦届出を取り下げ、同年6月2日付で再度届出※3。 |
令和7(2025)年9月2日 | 208日 |
| Walsin Technologyによる双信電機の買収 | 令和6(2024)年3月7日 但し、経済産業省からの要請により同年4月3日付で一旦届出を取り下げ、同年5月16日に再度届出※4。 |
令和6(2024)年5月21日 | 76日 |
| FK株式会社による富士ソフト株式会社買収 | 令和6(2024)年8月2日 但し、経済産業省からの要請により同年8月21日付で一旦届出を取り下げ、同年9月12日付で再度届出※5。 |
令和6(2024)年9月26日 | 55日 |
| DB Pyramid Holdings, LLCによるJTOWER買収 | 令和6(2024)年8月8日 ただし、総務省および経済産業省からの要請により、同年9月5日付で一旦届出を取り下げ、同日付で再度届出※6。 |
令和6(2024)年9月25日 | 48日 |
※1 事前届出書受理日から審査完了日までの日数を計算した。
※2 2025年4月25日付株式会社BCJ-92作成に係る公開買付届出書の訂正届出書参照。
※3 2025年9月2日付 YAGEO Electronics Japan 合同会社作成に係る公開買付届出書の訂正届出書参照。
※4 2024 年5月22日付釜屋電機株式会社作成に係る公開買付届出書の訂正届出書参照。
※5 2024年9月27日付FK株式会社作成に係る公開買付届出書の訂正届出書参照。
※6 2024年9月26日DB Pyramid Holdings, LLC作成に係る公開買付届出書の訂正届出書参照。
(2) 令和8年改正の概要
(a) 事前届出対象や審査対象の合理化
2026年7月3日よりパブリックコメント手続が行われている、対内直接投資等に関する政令等の改正案では、指定業種や事前届出の対象行為に関する見直しが行われている。
まず、指定業種の見直しについては、従前指摘されていたソフトウェア業および情報処理サービス業について、これらの業種を一律指定業種とすることは廃止された。それに代わり、経済安全保障推進法上の特定重要物資の製造等のために専ら設計されたソフトウェア業・情報処理サービス業(対内直接投資等に関する命令第3条第5項の規定に基づき財務大臣および事業所管大臣が定める業種を定める件(指定業種告示)改正案別表第一の18号および19号)や、特定社会基盤事業に係る特定需要設備等に提供されるソフトウェア業等(同15号)のほか、100万人以上の個人情報(個人情報の別は問わない。同26号)、人工知能等に関連するソフトウェア業(同27号)、クラウドサービスのサーバーや認証・アクセス制御に用いられるソフトウェア業等(同17号)など、個別の産業分野や製品などに関連するソフトウェア業等が追加されている。
また、指定業種告示は特定重要物資の追加等を踏まえた見直しも順次行われているが、改正法においても、2025年および2026年の特定重要物資の追加に伴い、重要供給確保医薬品、磁気センサー、船体等の製造業が追加されている(同6号、9号ニ、10号ニ)。
さらに、事前届出対象の見直しに関しては、役員選任議案に関する同意について(外為法26条2項5号)、従前事前届出を行った役員選任議案と同じ役員を再任する場合には、事前届出が不要とするなど(対内直接投資等に関する政令改正法3条1項20号および対内直接投資等に関する命令改正案4条10号)、事前届出対象の合理化が行われている。
(b) 間接取得に対する事前届出
従前の制度では、対内直接投資等としての株式または議決権の取得は、外国投資家による国内会社の株式等の直接取得のみが対象となっていたため、日本企業を所有する他の外国企業の買収等(いわゆる「間接取得」)により外国投資家が国内会社への間接的な支配を及ぼし、我が国の国の安全等を損なうおそれが生じるとしても、外為法対内直接投資審査制度では対処できず、一種の抜け穴となっていた。
そこで改正法では、新たに以下の行為を事前届出対象に追加している。
・ 日本企業に対し一定の投資を行っている外国法人等の株式または議決権の、直接または間接による50%以上の取得(外為法改正法26条2項9号)
・ 日本企業を直接保有する外国法人等やその親会社等の役員選任議案に関する同意であって、自らやその関係者により役員の過半数を占めることになるもの(同法改正法26条2項10号)。
図表7 間接取得のイメージ

出典:関税・外国為替等審議会第64回外国為替等分科会資料2-2「対内直接投資審査制度について」(令和7年10月31日)7頁。
(c) 国の安全等に係る措置(リスク軽減措置)の明文化
従前の実務運用においては、個別の事前届出審査において国の安全等を損なう懸念が確認された場合、当該懸念を払しょくするため、外国投資家がリスク軽減措置の遵守を応諾する場合がある。案件ごとのリスク軽減措置の内容は非公表だが、審査当局が紹介する例は以下のようなものがある注18)。
【我が国におけるリスク軽減措置の例】
・ 株主総会において、事業の譲渡や廃止など供給途絶につながる提案をしないこと
・ 秘密情報にアクセスしないこと
・ 外国政府関与のリスクがある場合
もっとも、従前の制度では、このようなリスク軽減措置に関する明確な定めがなかった。実務上は、事前に届出者と審査当局が内容を合意したうえで、届出者が届出書の「経営関与の方法」などの欄に任意に記載するなどして届出書の一部として提出しているが、その法的位置付けや、外国投資家がリスク軽減措置に違反した場合の法的効果などは不明確となっていた。
そこで、改正法では、「国の安全等に係る措置」(いわゆるリスク軽減措置)を事前届出事項として明文化し(同法改正法27条1項4号)、国の安全等に係る措置を変更する場合(具体的には、審査の結果新たに国の安全等に係る措置を記載したり、審査を踏まえて外国投資家が事前届出時に提案した国の安全等に係る措置の内容を修正するような場合が想定される)には、「修正届出」を行うことが可能となった(同法改正法27条の3ほか)。また、外国投資家が、届け出た国の安全等に係る措置に従った対応をしない場合、財務大臣および事業所管大臣が株式売却命令等を行うことができる旨も明確化された(同法改正法29条1項3号)。これにより、リスク軽減措置の外為法における法的位置付けが明確となるとともに、外国投資家がリスク軽減措置を遵守しない場合のサンクションも明確となった。
また、事前届出書に記載されるべきリスク軽減措置の類型や具体例については、今後ガイドライン等により対外的に示されることも検討されている注19)。
(d) 非外国投資家を通じた制度潜脱の防止
従前の制度では、外国投資家以外の者が外国投資家の「ために」行う対内直接投資等に相当する行為については、外国投資家以外の者を外国投資家とみなして事前届出義務を課す定めがある(外為法27条14項)。この規定は、外国投資家による制度の潜脱を目的として外国投資家以外のものをいわばダミー等として用いることによる規制の潜脱を防ぐ趣旨であるが、ここにいう「外国投資家のために行う」、とは、外国投資家の計算において行うもののみと解されており、適用範囲が限定的であった。
そこで、改正法では、外国投資家の計算において行われるもの以外も同項の適用対象となるよう、対象範囲の拡充が行われている(外為法改正法27条14項2号および3号ほか)。具体的には、外国法人等との契約等に基づき行われるものや、永続的な経済関係、親族関係、雇用関係など、外国法人等と特別な関係にある非外国投資家が行う対内直接投資等についても、外国投資家による行為とみなして対内直接投資等の制度を適用するとされている(同法改正法27条14項2号および3号、対内直接投資等に関する政令改正案3条19項各号および20項各号)。
(e) 非指定業種への投資に対する事後対応
従前の制度では、指定業種以外への投資は一定の場合に事後報告を要するのみであった(外為法55条の5)。しかし、我が国の国の安全等を損なうおそれのある業種が何であるかは我が国を取り巻く国際情勢や経済情勢等に応じて変動しうるものであり、これを踏まえ外為法においても指定業種の加除修正が行われている。これをさらに補完する観点で、投資時点において指定業種でなかった業種への投資について、事後的に新たに我が国の安全を損なうリスクが生じた場合の対処が何らなくてよいのかが議論されていた注20)。
そこで改正法では、外国投資家による非指定業種のみを営む日本企業への一定の対内直接投資等に関し、国際情勢の変化その他の事由により国の安全等に係る対内直接投資等に該当するおそれが大きい対内直接投資等に該当するなどして特に必要がある場合には、財務大臣および事業所管大臣が、当該外国投資家に対し報告の徴求や、当該報告内容を踏まえた株式売却等の勧告・命令などの対応が可能となった(同法改正法29条の2)。
なお、海外では、米国、英国、ドイツなどにおいて業種横断的審査や取引実行後の審査が認められている注21)。
(f) 審査体制の見直し(対日外国投資委員会(JFIC)の設置)
従前の制度では、審査は財務省および指定業種を所管する各事業所管省庁が行っており、審査を踏まえて中止・変更の勧告を行おうとする場合には、あらかじめ、外部専門家を構成員とする関税・外国為替等審議会の意見を聴くこととされていた(外為法27条5項)。
改正法の検討段階では、安全保障等の環境変化を踏まえ、国の安全等を損なうおそれがある投資に対して適切に対応するため、制度そのものに加えて執行面からも対内直接投資審査を高度化する枠組みの必要性が提唱され、具体的には、安全保障関連部局との連携等が問題提起されていた注22)。
この点について、自民党・日本維新の会の2025年10月20日付「連立政権合意書」では、2026年通常国会で日本版CFIUS(対日外国投資審査委員会)の創設を目指すとされていた注23)。
さらに改正法では、財務大臣および事業所管大臣は、事前届出された対内直接投資等が、中止・変更の勧告・命令の対象となる対内直接投資等に該当するかや、非指定業種に対する投資等について投資実行後に報告徴収の対象となるかについて、内閣総理大臣、外務大臣その他の関係政府機関の意見を求めなければならないとされた(同法改正法69条の4)。従前は、必要に応じて外務大臣その他の関係行政機関への長に対する資料・情報提供の求めのみが定められていたが(同法69条の3)、今般の改正では、一定の対内直接投資等などについて、政府横断的な意見聴取が義務的となった。
これを受けて、対内直接投資等などの審査等に係る関係行政機関の協力および連携を推進し、省庁横断的な体制構築を通じて対内直接投資等に係る審査等を高度化するため、対日外国投資委員会(以下「JFIC」という)が設置された注24)。
JFICは、財務省国際局長および内閣官房内閣審議官(国家安全保障局)を共同議長として、外務省経済局長、経済産業省貿易経済安全保障局長、防衛装備庁装備政策部長を主構成員とするほか、警察庁、金融庁、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、環境省の局長級が構成員となっている。これまでの対内直接投資制度における事業所管大臣に加えて、内閣官房、外務省が主構成員となっているほか、構成員として文部科学省、環境省が加わっている。さらに共同議長の判断では構成員以外の関係行政機関からも意見聴取や必要な協力を要請できることとなっている注25)。
既存の審査においても、変更・中止の勧告を行おうとする場合には関税・外国為替等審議会の意見を聴く必要があるとされているが(同法27条5項)、改正法は、これに加えて、JFICへの意見聴取も求めることとなっており、政府全体および外部専門家の双方という、より幅広い者が投資審査に関与することになるといえるだろう。
図表8 対日外国投資委員会(JFIC)について

出典:財務省「外為法・投資審査制度アニュアルレポート(年次報告書(2025年度))」22頁。
→この連載を「まとめて読む」
- 内閣府「特定重要物資の安定供給確保の取組について」。[↩]
- 経済安全保障法制に関する有識者会議第13回資料1「推進法改正に関する検討会合の要点」4頁。[↩]
- 上記追加に伴い、抗菌性物質製剤に係る取組方針が改定されており、2026年8月2日までパブリックコメントを募集していた。[↩]
- 前掲注1)、経済安全保障法制に関する有識者会議「経済安全保障の更なる推進に向けた提言」(2026年1月30日)17頁、内閣府「特定社会基盤事業者として指定された者(令和8年7月1日現在)」。[↩]
- 経済安全保障法制に関する有識者会議 基幹インフラに関する検討会合 第1回資料(2023年12月20日)7頁。[↩]
- 経済安全保障法制に関する有識者会議「経済安全保障の更なる推進に向けた提言」(2026年1月30日)Ⅳ2(2)。[↩]
- 指定基金協議会の設置状況は、内閣府のウェブサイトも参照。[↩]
- 前掲注2)29頁。[↩]
- 保全指定の件数及び保全審査の実施状況について、内閣府・特許庁「2024年度特許出願の非公開に関する制度における実施状況」、および、内閣府・特許庁「2025年度特許出願の非公開に関する制度における実施状況」。[↩]
- 指定業種については大臣告示に定められており、指定業種を定める告示として、「対内直接投資等に関する命令第三条第三項の規定に基づき財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件」および別表第1~第3。[↩]
- 財務省「外為法・投資審査制度アニュアルレポート(年次報告書(2025年度))」25頁。[↩]
- 関税・外国為替等審議会「対内直接投資審査制度等のあり方についての答申」(別紙)Ⅱ.1.(1)。[↩]
- 外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令(案)等に対する意見募集。[↩]
- 前掲注12)Ⅱ.1(1)[↩]
- 前掲注13)。[↩]
- 前掲注11)28頁。[↩]
- 尾藤正憲ほか「公開買付けにおける外国為替及び外国貿易法上の対内直接投資等に係る事前届出の事例分析(2021年から2025年上半期)」(旬刊商事法務2406号、公益社団法人商事法務研究会、2025年)も参照のうえ、筆者において作成。[↩]
- 経済産業省国際投資管理室「外国投資家から投資を受ける上での留意点について」(2025年5月)21頁(最終検索日:2025年11月17日)。[↩]
- 関税・外国為替等審議会 第69回外国為替等分科会 配布資料②(2026年6月10日)5頁。[↩]
- 前掲注12)Ⅱ.1.(4)。[↩]
- 諸外国の投資審査制度の概要については、経済産業省令和6年度重要技術管理体制強化事業投資規制対策事業(諸外国における投資規制の動向及び実態調査)調査報告書(最終検索日:2025年11月17日)も参考となるため参照されたい。[↩]
- 前掲注12)Ⅱ.3。[↩]
- 自民党・日本維新の会「連立政権合意書」(2025年10月20日)九.。[↩]
- 令和8年6月29日付関係省庁等申し合わせ「対日外国投資委員会の設置について」。[↩]
- 前掲注24)。[↩]
福冨 友美
弁護士法人大江橋法律事務所 弁護士
07年早稲田大学法学部卒業。10年早稲田大学法科大学院修了。19年Northwestern Pritzker School of Law修了(LL.M.)。20年Herbert Smith Freehills(東京オフィス)にて実務研修。22年12月~26年3月まで、経済産業省貿易経済安全保障局安全保障貿易管理課において任期付公務員として勤務。主な取扱分野は、外為法(投資管理・安全保障貿易管理)・経済安全保障推進法、M&A、コーポレートのほか、経済安全保障に関する国内外の各種規制・政策に対する助言・対応も広く行っている。
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